この素晴らしい世界にデストロイヤーを!   作:ダルメシマン

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二部 11話 紅き魔力のテスト

 寝不足でふらふらしながら歩いているとリビングで女達の話し声が聞こえた。

 

「見てくださいれいれいさん。この人形に見覚えがありませんか? これはですね、マサキに近づいた女の人の髪の毛を入れて、いつも呪いを込めてたものの一つですわ。思い出しません?」

 

 マリンが気持ち悪い人形をれいれいに手渡そうとしている。

 

「なにをしているんだマリン!」

「なにって? レイさんに昔の記憶を思い出さそうと……」

「そんなことしなくていい! やめろ!」

 

 慌てて呪いの人形を取り上げた。

 

「無理に記憶を思い出させなくていい! っていうか今の方が絶対いい! せっかく完成した美少女なんだ! 余計なことはするな! れいれいには過去なんて必要ない! あるのは幸せな未来だけだ!」

 

 せっかく手にした美少女を台無しにされてたまるか! 大声でマリンを怒鳴りつける。

 

「言い切りましたわこの男!」

「はあ? 昔のレイに戻ったら俺は泣くぞ! 今のれいれいの方が百万倍いいからな! 余計な事をする奴はゆるさねえ!」

 

 マリンに反論する。

 

「全く呆れましたね。あなたには失望しましたわ。何度目か忘れましたけど。ねえアルタリアさん、何かいい方法ありませんか? れいれいさんの記憶を思い出させるような」

「レイがやったら絶対怒る事ならあったぞ! やってみる」

 

 するとアルタリアは急に俺に抱きつき。

 

「どうだマサキ。おっぱい触り放題だぞ。うれしいか?」

「なにやってんのお前!」

 

 身長の高いアルタリアが、俺の頭を押さえつけておっぱいの位置に持ってきて、そのまま無理やりぱふぱふしてくる。

 

「放せ! お前今自分がなにやってるかわかってんの? ただの痴女だぞ? おい放せビッチ!」

 

 うれしい。この状況はとても嬉しいんだが、俺にはれいれいが……。れいれいの心を裏切るわけには。それにこのバカ女は特に意味とか考えてなさそうだし! 期待するだけ無駄だ。

 

「ア、アルタリアさんはマサキ様の事がすきなんですか?」

 

 泣き出しそうな顔をするれいれい。

 

「ちっすまなかったな。こうすれば昔のお前なら絶対襲い掛かってきたからよ。でも安心しろよ。セックスはお前がやればいいから」

 

 アルタリアは俺の事を突き飛ばしたあと、申し訳なさそうにれいれいに謝り、そんな事を言った。俺の扱い酷くないか?

 

「せ……せ……」

 

 顔を真っ赤にしてあたふたするれいれい。

 

「ちょっとなに照れてんだよ! お前が私に教えたんじゃないか? やっぱ違うのか? 子供はキャベツが運んでくるのか?」

「わ、私が教えたんですか? 一体過去の私ってどんな人だったんでしょう?」

 

 混乱しているれいれい。うん。アルタリアに性教育したのはレイだったからな。まさかこんな形で帰ってくるとは夢にも思うまい。

 

 

「れいれい、そろそろ時間だ。いくぞ!」

「は、はいマサキさん」

 

 うるさい女二人を置いといて、出発の準備をする俺たち。

 

「デートですか?」

「ひゅーひゅー」

「ちげーよ! これから博士んところでテストだよ! れいれいは改造人間のプロトタイプだぞ? これからお披露目に行くんだ!」

 

 ニヤニヤしながら聞いてくるマリン。くそっ、人事だと思って!楽しんでやがる。

 こうしてれいれいを連れて、俺はノイズにあるコンクリート状の建物へと入っていった。

 

「来たかい? じゃあこれから改造人間のテストを行うよ」

 

 博士の元に向かうと、少し離れたところに見物人が集まっていた。

 

「あの人たちは?」

「ああ、あれはね。改造人間の候補者たちだよ。募集をかけてみたらね、思ったより多く集まってね。とりあえず今日は見物という事で来てもらったんだ」

「ちゃんと記憶が消えるって言ったのか?」

「言ったんだけどねえ……?」

 

 改造人間になりたいという物好きがこんなにいるのか。この国は大丈夫なのか?

 

「改造人間になったらどんな魔法も撃ち放題って本当ですか?」

「親からニートの穀潰しは、国のために改造されて来いと言われました!」

「目からビームは出ますか!? ビームは!」

「伝説の魔法を撃ちたい! 撃ちたい! 撃ちまくりたい!」

 

 口々にぎゃーぎゃー叫ぶ候補者達を見て。

 

「大丈夫かこいつら?」

 

 再度この国の将来が不安になってぼやいた。

 

「じゃあ簡単なテストね。あそこにあるのが測定器。そこ目掛けて得意魔法を撃つだけの簡単な仕事だから。思いっきりやっていいよ」

 

 博士が今回の実験の説明をした。俺とれいれいは頷く。れいれいが得意な魔法を撃てばいいだけか。

 

「あ、あのマサキさん。どの魔法を撃てばいいと思います?」

 

 れいれいが恐る恐る聞いてきた。彼女の冒険者カードを見るとレベル1まで戻っている。覚えていた魔法も消えてる。だがスキルポイントも大量に戻っている。改造された事で一度能力がリセットされたんだろうか。

 アレか、強くてニューゲームみたいなもんか。名前もれいれいに変わっている。

 改造前に使えてた魔法は取りなおすことが可能のようで、習得可能スキルの中から『炸裂魔法』を選択し、れいれいに返した。

 

「これだな。ためしに撃ってみろ」

「では思いっきりいきます」 

 

 れいれいが魔力を集中させると、空気が張り詰める。

 

「ち、力が漲ってきます! こんなの知らない! いけます! 今ならなんでも倒せます!」

 

 れいれいの目が紅く光りだす。と同時に紅いスパークがバチバチと彼女の体から発せられる。なんだ? 今のれいれい、少し怖いぞ?

 

『炸裂魔法』

 

 彼女の手から放たれた魔法が、測定器に物凄い勢いで叩きつけられ、大爆発を起こした。

 

「はぁ、はぁ、……はあ」

「大丈夫かれいれい!」

 

 一度に大量の魔力を放出して、ふらついているれいれいをガシっと支えた。

 

「大丈夫です。魔力を一度に使いすぎてびっくりしただけです」

 

 すぐに自分の足で立ち上がるれいれい。体にまとっていた赤い電撃も消えていた。

 

「なんだ!? 地震か!?」

 

 何も知らない周辺住民が驚いて騒ぐ。

 測定器は粉々に吹き飛び、それどころか後ろの壁まで貫通して実験会場に大穴が開いた。

 

「測定不能! 測定不能です!」

「計器が壊れるなんて……それどころか建物まで壊れるとは。次からテストは外でやったほうがいいな」

 

 研究者たちもその力に騒いでいる。 

 改めてれいれいの魔法の結果を見ると。

 

「炸裂魔法ってこんな威力だったか? まるであの時キールが放った、爆発魔法みたいだったぞ?」

 

 彼女が仲間でよかった。消し飛んだ機械をみて少しゾッとする。

 

「やった! やったぞ! テストは大成功だ! 俺って凄くね? これは文句ナシで魔王軍を倒せる新兵器だろう。協力ありがとよ! 研究員としての俺の地位は安泰だわ!」

 

 博士も大はしゃぎでガッツポーズをしていた。

 

「す、すごい! かっこいい!」

「私もあんな魔法が撃てるようになるんですよね?」

「その紅い眼は改造された証ですか?」

 

 れいれいの実力を見た改造人間候補たちも興奮して、彼女を質問攻めにしていた。

 そんな彼らに、れいれいは丁寧に答える。

 

「こ、この眼は生まれつきだそうです」

 

「俺も同じ紅い眼がいい! だってかっこいいし!」

「私も赤がいい! あの紅く光る眼! 痺れたわ!」

「バーコードは外せないな! ナンバーを入れてくれ!」

「じゃあナンバーは俺が一番だ!」

「私よ!」

「違う俺だ!」

「なにおう!」

「じゃあ私はラッキーセブンで!」

 

 改造人間候補の人間が揉めあっている。

 

「ありがとう佐藤君! おかげでテストは大成功! そしてこの先俺の出世も間違いなし! あのクソ女同僚め! おもいしったか! 次は上司としてセクハラとパワハラのコンビネーションで泣かしてやるからな! 君と出会えてよかったようひゃひゃひゃひゃ! それじゃあまた! 次は彼らを改造し終えたら報告するよ!」

 

 上機嫌の博士はその場で高そうな酒を開けて飲みながら言った。

 

「帰るか……」

 

 れいれいと一緒に、いつもの公務員宿舎に帰宅した。

 

 

 

「大事な話がある、れいれい」

 

 家に帰ったあと、テーブルでれいれいに真剣な目で語りかけた。

 

「昨日はあと一歩手前まで行ったくせにあれなんだけど、やっぱり、俺達はそういう関係になるのはやめたほうがいいと思うんだ」

 

 そう、考えていた言葉を吐き出した。

 

「私の事が……嫌いなんです?」

「嫌いじゃない。嫌いなわけあるか! 今のお前の事が嫌いなんていう男はおかしい! ゲイかB専くらいだろ! でも、俺はれいれいのためを思って言っているんだ」

 

 絶望したような顔をする少女の手を握り、反論する。嫌いなわけあるか。嫌いだったらとっくに犯してる。どうでもいい女だったらこんな事を言わない。そう、れいれい、いやレイにはずっと世話になってきた。あの日、カエルの群れの中で出会ったときからずっと。

 

「俺は、君が思っているような人間じゃない。嘘つきで、下種で、アクセルではお尋ね者の犯罪者さ。君は間違っている。本当の幸せがあるはずだ」

 

 涙をこぼすれいれいに、話を続けていく。

 

「私の……マサキさんへの思いがこの嘘だというんですか!?」

「嘘? そうさ、お前の純粋な心を利用したんだ。俺は最低の男だからな。そうやって騙したのさ。だけど今のれいれいなら、きっといい人が、本当の運命の人が見つかるはずだ」

 

 普通仲間の記憶が無くなったなら、なんとしても取り戻そうとするはず。だというのに俺は、今の方がいいという理由でマリンたちを妨害している。これは最低だ。

 いや元々俺は最低の人間だったが……数少ない仲間にまで下劣な手段を使うのはダメだろう。今更なにきれいごと言ってんの? って話だけど。

 こんな手で美少女を手に入れるのは……フェアじゃない。

 れいれいは俺の事をなにも覚えていない。何も知らないんだ。何も知らない少女を無理やり手にするなんて最低だ。普段ならそれは俺にとって褒め言葉だったはずなんだが。今回だけは……。

 

「私はいらないってことなんです? 昔の私とは違うから! 今の私ではマサキさんのお役に立てませんか?」

 

 頬に涙を流しながら、必死にすがりつくれいれい。

 

「違う! そんなことはない! そうじゃないんだ! れいれいは一度記憶をなくした。だけど俺の事は好きなんだろ? でもそれは記憶を無くす前、レイがそう思ってたからだ。過去に引っ張られているだけなんだ。もう一度初めからやり直そう。れいれいは今の俺を見て、それでも本当に俺が本当に好きかどうか判断しなおしてくれ。今度は自分の意思で!」

「……自分の意思?」

 

 また首を傾げるれいれいに。

 

「そうだ。れいれいが俺の行動を観察して、運命の人に相応しいかどうか考えるんだ。それでもいいなら、正式に付き合おう。結論を急ぐのはやめて、時間をかけていこうじゃないか」

 

 記憶が無い少女を好きにするのではなく、自分の意思で、俺たちの元に留まってくれるか決めて欲しい。

 

「だ、だったら一緒にいてもいいですか?」

「そ、それは勿論。れいれいは最高のアークウィザードだからな。戦闘では頼りにしてる。いや戦闘以外も、料理は美味しいし申し分ナシさ。俺は幸せだよ。これからよろしく頼むよ、れいれい。まずは新しい仲間として、冒険を始めなおそう! 新しい思い出を作っていこう! 付き合ったりするのはその後でいい」

 

 一生懸命作った笑顔で、れいれいに返事をした。

 

「わかりました。マサキさん、私これからも頑張ります! でもマサキさんがどんな人だって、きっと今よりもっと好きになるに決まってます! 私は改造されたあと、何も覚えてないのに一目でマサキさんのことを素晴らしい方だと思ったんです。それは今でも代わりません! 私、マサキさんのことをもっと知りたいです! そして次こそ心からマサキさんの事が好きだと胸を張って言います!」

 

 涙を拭き、自信満々な笑顔を浮かべるれいれい。どうやら納得してくれたようだ。

 

「付いて来れないと思ったら、俺のパーティーを抜けてもいいんだからな。それは間違いじゃないはずさ」

「そんなことは絶対無いです! どこまでも付いていきますから!」

 

 れいれいにそう言い返した。正直言ってれいれいを手放したくなんてない。無いが自分が外道なのも理解している。そこで拒絶されたなら……止めることなんてできない。

 

「意外だったな。鬼畜外道のマサキらしくないぜ」

「もしこのまま行っても、同意の上だからとめる権利はないと思ってたのですが……マサキもたまには人の心があったりするんですね。よく我慢しました。これもアクア様のおかげでしょうか」

 

 アルタリアは意外そうな顔で、マリンは感心した顔で見る。

 

「これでよかったんだ。レイならまだしも、あの純粋なれいれいにこの俺のような下劣な男は似合わないさ」

 

 そうぼやく。

 もったいなかったなあ。少し後悔するが自分を納得させた。

 なにかもやもやした思いを胸にしまいながらも、俺の判断は間違ってないと自分に言い聞かせる。仲間なら当然だ。俺もたまには正しいこともしていいだろう。

 それから部屋の中でうろうろしていると、あっという間に夜になった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 コンコン、とドアをノックする音がした。れいれいだな。もうすっかりドアをノックするようになった。っていうかそれが普通なんだが。勝手に忍び込んだりドアを蹴飛ばすやつに慣れたのがおかしい。

 

「れいれいです」

「そうか、入っていいよ」

 

 れいれいを俺の部屋へと誘う。

 

「あの……少し考えたのですがやっぱりあなたが運命の人だと思うんです。他の人なんて考えられません!」 

 

 れいれいは入ってくるなり宣言し、俺の元へと駆け寄ってきた。

 

「い、いやだから、それはもう少し時間がたってみないとわからないかもしれないじゃん。うん、ゆっくりと進めていこう?」

「マ、マサキさんは私じゃダメですか? 可愛くないですか?」

「そんなことないよ! 十分可愛いよ。俺にはもったいないぐらい!」

 

 魅力的なれいれいの体を見て、首を振って彼女を肯定する。自分よりも一回りもふた周りも小さな彼女の体は、とても愛らしい。守ってあげたくなる。

 

「いくら時間をかけても結果は同じだと思うんです! 私はずっとマサキさんを愛しています!」

「いや、時間ってのは大事だと思うよ? だから少し待って見よう? な」

 

 俺達はさっきと同じことを繰り返す。記憶が失っても強引なところは代わってないのかな。アレ? 少し寒気がする。風邪でも引いたかな?

 

「ま、マサキさま? マサキさんはもっと胸の大きな人が好きなんですか? 私ではだめでしょうか?」

 

 れいれいは自分の胸元を確認しながら、ボタンを外して残念そうに呟く。っていうかそれ以上開けたらダメだ。中身が見えちゃう!?

 

「そ、そんなことはないから! 胸の大きさなんて女性の魅力の一部だから! だからそんなに気にしなくていいよ! ボタンそれ以上開けないで! 見えちゃうよ?」

 

 必死で彼女の胸を隠すと、その時胸に手が触れてしまう。心臓の音が激しくなっているが俺の手にも伝わってくる。

 

「ご、ごめん!」

 

 慌てて放そうとすると、その手がつかまれる。

 

「ね、ねえ聞いてください! 私の心臓、こんなにバクバクしてます! こんなになるのはマサキ様だけですよ? 私も触っていいですか?」

「う、うん。聞こえる。凄い音だね。俺もドキドキしてきたよ」

 

 緊張して答える。今の状況はなんだろう。可愛げな美少女に胸を押し当てられるなんて……こんなのDTには荷が重過ぎる。こんな事されたら誰だって我慢できない。我慢できないよ。れいれいの熱い息が俺の手に吐きかかる。相手も興奮している事がわかる。これはDTだってわかる。

 さっきまで時間をかけて好きになろうと思ってたけど、そんなこと言ってられないよ! 目の前には俺の事が大好きな美少女。そんな子と胸を乳繰り合うなんて。もうダメ! 理性が限界! さっきまでの発言は全部なかったことにしたくなる。いやそうしよう。

 これはもう一線こえちゃうよ! こうなったら俺はもう、れいれいと共に18禁のほうに移動してこの続きをやるしか!?

 よし、やるか。もういいわ。やっちゃえ。いけいけ。俺は頑張った。理性をなんとか保とうと、真人間としてやれるだけのことはやった。だからこのまま始めてもセーフだ。

 決して都合のいい女をオナホ代わりとかそういうのじゃない。一生懸命説得し、それでも付いてきてくれたんだから仕方なかった。不可抗力じゃない。強姦じゃない。同意の上だからセーフだ!

 なんども自分に言い訳し、続きを始めようとれいれいをぐっと引き寄せる。お父さん、お母さん、俺のDTもついに卒業です。世界は変わったけど、今日男になります! 生んでくれてありがとう! 

 れいれいの服を無理やり脱がそうとし、ボタンに手をかけると……。

 

 あれっ?

 なぜだ? こんな羨ましい状況なのに、俺の息子が全く反応してない。下半身が動いてくれない。それどころか小さく縮こまっている。どうしてだろうか? 俺はホモじゃないし、EDでもない。なのになぜ俺の下半身は本能的に怯えているんだ? 背筋がぞくってするのはなんでだ?

 少し首をかしげて……この状況下で考えられることは……ことは……。

 ことは…………!?

 

「ま、まさかお前――」

「遅い! 『ボトムレス・スワンプ』」

 

 突如俺の真下に泥沼が発生し、足元をすくわれて身動きが取れなくなった。

 

「バレてしまっては仕方ないですね。残念ですよ。私は合意の上での方がよかったんですがね」

 

 れいれいが俺の元へ迫ってくる。あの馴染み深い、フラフラしながら幽霊のような動きで。

 

「もう逃げられませんよマサキ様。これからじっくり良い事をしようではありませんか?」

「あ……ああああ……!?」

 

 レイはそう言って俺の頭をぐっと押さえつけ……。

 

「むぐ!」

「んん!」

 

 何かが俺の唇に触れる。いや触れるだけじゃない。痛い。歯があたってるよ! それに段々と意識が遠くなって……。

 

「ゲホッ、ゲホッ! はぁ、はぁ。どこの世界に首を絞めながらキスする奴がいるんだ! 殺す気か!?」

「ぐふふ、これがファーストキッス! ああなんて甘美な味でしょう!」

「思いっきり唇を噛みやがって! 血が出てるんだが! それ血の味だぞ!」

 

 口についたレイのよだれと血を拭きながら言い返すが、だめだ。こいつ聞いてない。目を紅く光らせながら、いや目だけじゃなく体中から赤いスパークを散らしながらのしかかってくる。あの御馴染みの、心臓が止まるような恐ろしい微笑を浮かべながら。

 

「いつの間に……いつから記憶が戻った!?」

「ふふふふふ、いいでしょう。教えてあげます。マサキ様にもう一度最初からやり直そうと言われて落ち込んだ私は、干しっぱなしだった洗濯物に気付いて入れていたんです。するとそこにマサキ様のパンツが……それを見て脳内に閃光が走りました。全てを思い出したんです。私が何者なのか。そう、マサキ様の運命の人だということをね!」

 

 れいれいの告白に鳥肌が立ち。

  

「うわっ! キモッ! 相変わらずキモッ!」 

「でもマサキ様って本当に優しいですよね。記憶の無い私を無理やり手篭めにすることも出来たのに。あんなに気を使って下さって。自分の意思で判断して欲しいなんて……! 私今でも思い出すと感動します。胸がきゅんきゅんします! やっぱりマサキ様は運命の人。私の目に狂いはなかった。マサキ様大好きです。ああ食べたい! もう我慢できない! こっちから強引でも食べてもらいますよ。ぐひひひっひひひ」

 

 涙を拭きながら不気味な笑顔で頷くれいれい。戻ってきた。あのメンヘラ女が帰ってきた。愛を囁かれているのに寒気しかしないこの状況。完全に復活しやがって。

 なんてこった。

 

「恋人同士の甘いキスを終えたことですし、次は子作りといきますか。順序がありますからね。さあ行きましょう! 実は私今パンツ穿いてないんですよ。っていうかノーブラノーパンなんですよ。興奮しますか? ねえマサキ様! ヒヒヒヒヒ」

「興奮しねーよ! っていうか怖いよ! まじ怖い! 放して! HANASE!」

 

 もう駄目だ。今度こそ終わりだ……俺は覚悟を決めて目をつむると。

 

「ああーーーーーーー!!」

 

 絶体絶命の俺を前に、急に大声を上げるれいれい。いやレイか。

 

「そういえばアルタリアめ。よくも私の記憶が無い間パシリにしましたね! 思い出したら腹が立ってきた! 今からカチコミに行って来ます! 運がよかったですねマサキ様。ではこの続きは後日と参りましょうか」

 

 れいれいは窓から飛び出して言った。ここって一階じゃなかったよな。ゴキブリのように這いまわって移動していくれいれい。相変わらずの握力と背筋だ。

 

「助かったのか……? いやいや、今日だけだ。次は死ぬ」

 

 またあの悪夢のような日々が始まるのか……。まずいぞ、れいれいは改造された事でパワーアップしている。ほぼ無尽蔵なあの魔力。今まで見たいに逃げ切れるのか……?

 ……今度こそもうおしまいかもしれない。

 

「ちくしょおおおおおーーーー!!」

 

 なんとか泥沼から這い上がって叫んだ。

 




 最初にれいれいを紅魔族にするにあたり、原作の設定を見直しました。
 すると紅魔族になると記憶が消えるとあって驚き、あれこれじゃあレイとバイバイすることになるじゃんともう一度プロットを見直しました。
 すると私の脳裏に、一回正統派美少女にして、戻せばギャグっぽくなるんじゃないかな? と悪魔の囁きが聞こえてきたんです。
 そうすることにしました。期待を裏切ってごめんねマサキ。悪魔がやれって言ったんだから仕方ないですね。

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