この素晴らしい世界にデストロイヤーを!   作:ダルメシマン

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一部 37話 誤った裁き

 ここはアクセルの裁判所。勿論例外なく水害でボロボロになっている。

 

「被告人! ベルディアを前へ!」

 

 裁判が始まった。この世界での裁判はシンプルだ。検察官が証拠を集め、弁護人がそれに反論する。裁判官が有罪と判断すれば、それで実刑。

 そして告発人の席があるのだが、そこには誰もいない。本来ならアンナ家の当主がそこに立つはずだったが、彼は病気で動けない。まともに話が出来る状況ではないようだ。

 そもそもアンナ卿がベルディアの事を告発したかどうかすら定かではない。病床の元領主はそれどころじゃないだろう。彼が病気で寝込んでいる間に、国によって勝手に反逆者に仕立て上げられたベルディア。

 こんな裁判は不当だ。街の誰もがそう思っていた。ベルディアは反逆どころか、今まで街を守ってくれた優秀な騎士だ。

 しかしベルディアの部下は魔王軍のせいでほぼ全滅し、また守っていたアンナ家まで崩壊した今、彼の弁護を出来る人間は限られていた。

 俺はベルディアの友人として、なんとしても彼の無実を勝ち取るつもりだ。

 裁判では魔道具の使用は禁止されている。久々にメガネを外しておく。

 そう意気込んで弁護台に向かっていると。

 

「おいおい! 聞いたぞ騎士のおっさん! 王に反逆しようとしたらしいじゃないか! そんな面白そうなことに、なんでこの私を誘ってくれなかったんだ!」

「オラアアアアア!!」

 

 脳筋クソ女に飛び蹴りを噛ませた。

 

「しゃべんなああああ!! てめえはしゃべんなあああ!」

 

 アルタリアの胸倉を掴んで怒鳴りつけた。

 

「裁判が終わるまで黙っててくれないかな。もし黙っててくれたら、G級レベルのクエストに連れてってやるからさ。誰も見たことのないモンスターがお前を待ってるぞ」

 

 アルタリアを引き寄せて、小声で喋る。

 

「本当か!? G級クエスト!? 名前だけですげえのが伝わってくるぜ! 本当だな!! 本当に連れてってくれんだな!」

 

 目をキラキラさせて聞いてくるアルタリア。

 

「ああ約束だ」

「だったら黙っててやる」

 

 彼女にそう頷く。っていうか自分で言うのもなんだが、G級クエストってなんだよ。あるわけないだろそんなもん。

 

 

「これは国家の横暴だ! ベルディアさんは誰よりもこの町のために戦ってくれた!」

「反逆をしようしてただって!? 証拠はあるのか!? 証拠は!?」

 

 街の人間達が怒鳴る。彼らはベルディアがそんなことをしないことをわかっているからだ。バラモンドとの戦いでも敗れたとはいえ命がけで頑張ってくれた。その勇姿を誰もが目撃していたのだ。

 

「静粛に! 裁判中は私語を慎むように! この街での使用は初めてだが、ここで嘘をついてもこの魔道具ですぐに分かる。それを肝に銘じ、発言するように。では、検察官は前へ! 」

 

 ざわめく民衆に注意した後、裁判長は宣言をし、同時にサナーが立ち上がった。

 

「では、起訴状を読ませていただきます。……被告人ベルディアは、魔王幹部バラモンドの襲来時、彼に立ち向かうと見せかけ部下、そして城の住民を見殺しにし、君主を始末させ、あわよくば自分が次の領主になろうとした。また最後の戦いではバラモンドを殺したと見せかけて逃がそうとした。現在、彼の目論見どおり、アンナ家は領主の座を追われ、入院生活を余儀なくされています」

 

 よくもまぁこんなでたらめを言ってくれるものだ。あのバラモンドというデュラハンは性格的にも俺ほどじゃないがクズだ。あんなのと取引なんて出来るわけないだろ。それにしてもどうしてこの女調査員は、これほどベルディアを敵視するのだろう? このおっさん、俺の知らないところで恨みとか買ってたりしたのか?

 

「では、これより証拠の提出を行います。さあ証人をここへ!」

 

 サナーの合図で現れたのは、この街では見かけない女騎士たちだった。そういえば女騎士って、あのダグネス嬢以外見たことないな。ベルディアの騎士団は男ばっかりだし、なんか新鮮だな。

 なんで彼女たちが証人として選ばれたんだろう? 首をかしげてベルディアを見ると、彼は非常にまずいといった顔をしていた。

 サナーに呼ばれた女騎士たちは、順番に証言を述べていった。

  

「ベルディアさんは……訓練の最中によく体を触って来ました。最初は気のせいかと思ったんですが、あまりに毎日のように触ってくるため耐えられなくなり、泣く泣く転属届けを出しました!」

「男の騎士がみな鎧に身を包む中、なぜか私だけスカートで来いと言われました。しかもミニスカで。そのまま素振りをしろと言われました。あれは今思ってもセクハラだと思います。

「つーか、ぶっちゃけると着替えも覗いてきたし、マジないっすわ。名うての騎士と一緒に働けると期待してたんですけど、マジ幻滅っていうかー」

 

 おい。

 俺はベルディアのほうを睨みつけると、彼はばつが悪そうに下を見つめた。

 話を聞くと、彼女たちはみんな、一度はベルディアの騎士団に配属されたものの、ベルディアのセクハラに耐えかねて逃げ出したらしい。なるほど、女騎士を見かけないわけだ。

 

「ベルディアのセクハラは検察上層部では有名でした。ですが彼の働きに免じて不問としてきました。しかし主君への反逆罪が明らかになった今、こちらの罪も償ってもらうつもりです!」

 

 サナーの言葉に、その場の人々は静まり返った。

 

「異議あり!」

 

 静まり返った裁判所で、俺は片手を挙げて声を張り上げた。

 

「弁護人の陳述の時間はまだです。発言がある場合は許可を求めて許可を求めて発言するように。まあ今回だけは大目に見ましょう。発言をどうぞ」

 

 裁判長に促され、俺は頷いた。っていうか異議ありって言っちゃ駄目なの? あのゲーム詐欺だよ。それはおいといて話すことにした。

 

「話は聞かせて貰ったが、どうやら彼女たちの言葉は本当のようだ! そこはまぁいいだろう。ベルディアが部下にセクハラしてるのは確かみたいだな。だがそれがどうした!? 俺はベルディアがセクハラの罪で捕まろうが知ったこっちゃないが、今回の罪状は反逆罪だ! 変態騎士がやらかしたことは軽犯罪で裁かれるはずだ! 反逆罪の適応は、どう考えてもそれを逸脱している!」

 

 俺ははっきりと言った。

 

「ま、待て……あれはあくまで訓練の一環で……そういった邪な気持ちは無い」

 

 ベルディアが言い訳をするが。

 ――チリーン

 無常にも鐘はなる。しょうがないやつだ。

 

「誰しもエロい心はある! だがそれだけで反逆罪にはならないはずだ! そうだろ?」

 

 俺の熱弁に。

 

「いいぞ! マサキ!」

「お前の言うとおりだ! ベルディアがスケベだったとしても、それはそれだ!」

「彼は今まで街を守ってくれた立派な騎士だ!」

 

 街の住民達も俺の言葉に同意してくれる。

 

「静粛に! 静粛に!」

 

 ざわめく裁判所で、小槌を鳴らす裁判長。

 

「おいおい検察官さんよお! もしベルディアが反逆を企てていたのなら! この程度の証言は当てにならないぞ? 他に証拠はあるのか? 証拠は?」

 

 サナーに言い返すが、彼女は冷静な表情を崩すことはない。

 

「弁護人の発言には一理あります。彼の言うとおり、被告人に軽犯罪は適応できたとしても、反逆罪の適応には根拠が薄すぎます。では検察官。反論をどうぞ」

 

「もちろんあります。先ほどの証言は、ベルディアという人物の本性を説明するために呼んだものです。反逆罪の証拠は他にありますとも。今用意しましょう」

 

 自慢げに言い返してきた。

 

 

「これが街や城中で見つかった魔道カメラです。いたるところに隠されていました」

 

 このおっさん。やってくれたよ。ベルディアを睨みつけると、彼は目を合わせる前に首を振ってあさっての方向を見た。

 机には大量のカメラが並べられていた。

 

「貴重な魔道カメラを! 個人がこれだけ所有しているなんておかしい! 間違いなく何か企んでいたに違いありません! きっとアンナ卿や町の住民の弱みを握り、この街を乗っ取ろうとしてたのでしょう!」

 

 それはベルディアじゃなくて俺の野望だよ。心の中でつっこんだ。

 

 

「いくら街や領主を守る騎士と言っても、これだけの数の魔道カメラを個人で所有していたのは不可解だ。検察官の言い分には一理ある。これでは反逆を疑われていても仕方がない。被告人はどうしてこのような魔道カメラを、それもいたるところに設置していたのか。その説明をする必要がある」

 

 裁判長がなるほど、といったふうに首を振った。

 

「そ……それはだな! 我ら騎士団はこの街を守る使命がある。だがそんな俺達でもいつも街にいることは出来ない。見ないところで何か小さな悪を見過ごすことがあるかもしれない! だから監視用に設置し、悪い奴らがいないかチェックを……」

 

 必死で弁明するベルディアだが。

 ――チリーン

 

「……ちょっとした出来心だったんです。ちょっとスカートの中とか、着替えとか覗きたくて。つい……」

 

 これまでは尊敬する騎士だったというのに、その一言がきっかけで、女性陣から汚物を見るような目で見られるベルディア。

 仕方ない、助け舟を出してやるか。あの魔道カメラには、思いっきり心当たりがるし。

 

「それは俺がベルディアに渡したんです」

 

 正直に話すことにした。

 

「ほう、弁護人サトー・マサキ。なぜこんなものをあなたは持っていたのですか? 答え次第ではあなたも反逆に加担したと見なしますよ」

「それは……俺のパーティーの……レイって言う女から取り上げたのを、そのままベルディアに渡しました」

 

 裁判官が頷き、次の証言を促す。

 

「そうですか。確かにあなたの仲間に、レイと言う名のアークウィザードがいます。ではレイさん。なぜ魔道カメラをこんなに持っていたのか、理由を教えてください」

 

 レイのターンになった。

 

「無論! 親愛にて全知全能なるマサキ様を観察するためです! マサキ様のあんな顔やこんな顔を魔道カメラで撮影し! 私の家宝にするのです! どんなお姿も見逃さないように屋敷中に魔道カメラを設置したのですが! マサキ様に見つかって回収されてしまいました! でも私は諦めていませんよ? また新しいカメラを買い、マサキ様の全てを覗くつもりです!」

 

 レイは全く悪びれも無く言った。

 やっぱこいつキモい。気持ち悪いわ。屋敷に戻ったらもう一度カメラは無いかチェックしないとな。いつもいつも変な所に隠してやがるからな。この油断できない女は。

 

「レイさん、あなたはマサキさんと同じ家で生活しているそうですね。ならば堂々と写真を撮ればいいじゃないですか? こんなストーカー紛いの事をして、隠し撮りする理由が見当たりませんが。なぜです?」

 

 裁判官の質問に、レイはいつもの邪悪な笑みを浮かべながら。

 

「なぜ!? 愚問ですね! あなたはなんと愚かなんでしょう? マサキ様はいずれこの世界の王となるべきお方! どんなときも決して目が離せません! マサキ様を見るだけで私は最高に興奮するのです! 魔王家も! この王国も! いずれはマサキ様の物となるのです! あなた達も覚悟をしてください! 逆らうものはあの魔王幹部のように無様に敗れるでしょう! 全てはマサキ様の元に跪くのです。クックック、ヒヒヒハハハハ!!」

『バインド』

 

 暴走するヤンデレお化けをバインドスキルで拘束した。

 

「今は神聖な裁判中です! 魔法の使用は禁止! そんなの常識でしょうが!」

 

 俺はバインドを使ったことで、裁判長にしこたま怒られた。

 

「あの……? これは事実上の宣戦布告と受け取っていいでしょうか? つまりサトー・マサキさん、いやマサキは、国家転覆を企んでいたと?」

 

 ぺこぺこ裁判長に謝っていると、サナーが疑いの眼差しで睨んできた。

 レイが堂々と演説をしている間も、全く魔道具は鳴らなかったからだ。

 

「この女は頭がおかしい事で有名でしてね。全部妄想のでたらめですよ」

 ――チリーン

 

「少しは……ちょっと心の奥で思ったかも? 俺も王様になりたいなー! 俺の国が欲しいなって」

 

 ――チリーン

 

「いいじゃないですか! 少しくらい野望があっても! 夢を持つことすらいけないのかよ! いつかこの俺が世界の王になる! そんな妄想……いや具体的な方法を考えたり! 考えるだけだ! 実行はしてないし! それならいいじゃん!」

 

 やっと鐘は鳴らなくなった。

 

「俺はこの変態女から取り上げた魔道カメラを、せめて治安に役立ててくればいいと思い、ベルディア団長に渡しました!」

 

 ――チリーン

 

「わかってました! このエロいおっさんならどうせそんなことに使うだろうと知ってました! 知ってて渡しました!」

 

 うるさいなこの鐘は。はっきり言って邪魔だわ。

 

「エロいおっさんだと! マサキ! 貴様俺の事をそんな目で見てたのか!?」

「エロいおっさんじゃなければなんなんだ! 言ってみろよ! このアホ騎士!」

 

 ベルディアと口論を始めると。

 

「静粛に! 静粛に! 弁護人! 被告と喧嘩しないで下さい!」

 

 また裁判長に怒られた。

 

「アクシズ教の……アークプリーストのマリンさん。あなたもサトー・マサキの仲間ですよね? 彼は本当に王国と戦うつもりだったと?」

 アクシズ教、という部分で少し顔を引きつらせながらも、サナーはマリンに聞く。

 

「やらないと思いますわ。私もマサキとの付き合いは長いですけど、彼ならそんな表だった行動は起こさないと断言できますね。やるなら誰もが想像できないような手段を使い、もっと陰湿な手で国を乗っ取るでしょう。堂々と国に喧嘩を売るような真似はしませんわ」

 

 なぁマリン、それ全然擁護になってないんだが。

 

「アレクセイ・バーネス・アルタリアさん! あなたもまた、サトー・マサキの仲間の一人ですね? あなたからも一言、マサキという人物について教えてください!」

 

 最後にアルタリアのターンだ。正直この女もなに言い出すかわからないから怖い。

 

「……」

 

 アルタリアは答えない。

 

「アルタリアさん? 何か一言お願いします!」

「……」

 

 調査員兼検察官のサナーの質問を堂々と無視するアルタリア。

 

「あなた、黙秘すれば問題ないと思っていませんよね? そんなことをしても、無実の証拠にはなりませんよ? アルタリアさん、いかがです?」

「……私は何も言わないぞ! だって黙ってたらマサキがG級クエストに連れてってくれると約束してくれたもん! だから喋らない!」

 

 正直に答えるアルタリア。クソッ! なんて融通の利かない女だ! このままじゃ疑いは深まるばかり。

 裁判官の心象は悪くなる一方だ。

 

 

「サトー・マサキさん。バラモンド戦の調査の際、あなたについても色々と調べさせてもらいました。そういえばあなたの名字は、建国の勇者と同じですね。また『サトー商会』なるものを経営しているとも。あなたまさか勇者の名を騙り、国家転覆を企んでいるのでは?」

「違う! 勇者とやらは『サトウ』だろ? 俺は『サトー』。似ているが違う! 間違えるな! 発音が似てるからっていちいちいちゃもんをつけてくるのは困りますなあ」

 

 クソ女に反論する。

 俺がわざわざサトー表記にしたのはこういう理由があった。王家の名を騙る不届き者扱いされた際には、これで誤魔化そうと思っていたのだ。

 

「『サトー商会』は、王家の敵であるキールのことを、英雄視する噂を流していました。これもまた国家に対する反逆行為と思っていいのでは?」

 

 裁判の雲行きが変わった気がする。

 最初はベルディアの裁判だったはずなんだが、だんだん矛先が俺のほうに向いてないか? 俺は弁護人のはずなのに、気分は被告人なんだが。

 そう思っていると、別の検察官が現れ、裁判長に耳打ちした。

 

「裁判は中止! 一時休止とする! 新たな情報が入った! 続きは明日とする! 一時解散!」

 

 小槌が振り下ろされ、裁判長は一方的に裁判を打ち切った。

 大人しく退室していく検察官達。

 

「助かったのか?」

 

 ベルディアが呟く。

 裁判長は一体何を聞いたんだろう? 何か嫌な予感がする。そしてすぐにそれは的中したのだった。

 


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