この素晴らしい世界にデストロイヤーを!   作:ダルメシマン

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一部 33話 マサキのマスタープラン

 夜が来た。

 そしてあいつもやってきた。

 

「昼間はワシの城で色々とやってくれたそうだな! だが貴様らのあがきもここで終わりだ! ここで死んでもらうぞ!」

 

 バラモンドの軍勢がアクセルの街の前に迫っている。中心には朽ちてボロボロになった騎士たち、アンデッドナイト。なんかみんなすごいご立腹のようだ。俺の奇襲が相当応えたのか、怒りをあらわにしている。

 そして草原を埋め尽くすように広がるのは、下級モンスターのゾンビ、スケルトンの群れだ。一匹一匹は弱いが、この数は脅威だ。

 

「ここが正念場だぞ! 今日守りきれなければ、この街は終わりだ。奴を倒すには時間が必要だ! あいつを倒す方法が思いつくまで! 持ちこたえてくれないと困るぞ!」

 

 俺は城壁に立ち、迎え撃つ冒険者に叫んだ。

 数で劣る俺達は夜戦を避け、篭城戦に持ち込むことにした。一応完成したアクセルの城壁。多少は耐えてもらわないと困る。

 

「奴らを殺し! そして新たな兵にせよ! そして次の町へ狙いを定める! いくのだ! 我が軍団よ!」

 

 デュラハンの号令の元、押し寄せるアンデッド軍団。

 

「死ねえええ!!」

「奴らを殺せええ!!」

 

 城壁に群がる奴らに向かい。

 

「させるか!」

「来るな!! これでも食らえ!」

 

 冒険者達も負けじと弓や魔法、そして用意させていた岩を投げつけて撃退していく。

 

『『『ターンアンデッド!!』』』

 

 下級のアンデッドはプリーストたちの集中砲火で消滅させられる。

 

「フン! これしきの抵抗! 数で押し切ってやるわ!」

 

 バラモンドは余裕だ。次々とゾンビたちを投入し、またも城壁にしがみ付いてくる。

 

「おい! 見ろ! 一部だけ城壁が未完成だぞ!」

「はっはっは! 馬鹿め! 人間共め! あそこから進入しろ!」

 

 城壁は完成直前だったため、まだ一部に穴が開いている。

 

「あーしまったなあ! あそこから攻められるとこまるなあ」

 

 棒読みしてオーバーリアクションで困ったようなポーズをとる。

 

「死ねええ! 人間共!」

「突撃いいいい!!!」

 

 アンデッドたちが城壁の穴から押し寄せるが。

 

「来たぞ! 全員狙え!」

「撃て! 発射!」

 

 そこにはコーディが指揮を取っている。冒険者達がバリケードを作り、押し寄せるアンデッドに十字砲火。最初に突撃した部隊は一瞬で壊滅した。

 

「バ、バラモンド様! あれは罠です! 内部ですごい抵抗を受け、向かった部隊は消滅しました」

「罠だと!? それがなんだというのだ! 抵抗する人間さえ倒せば城内に入れるのだ! 兵ならいくらでもいる! 重点的に攻撃せよ!」

 

 バラモンドは再度の突撃を命令した。

 

「行けえ! 内部に侵入しろ!」

「どんどん進めえ! 数でぶっ潰せ!」

 

 どんどん押し寄せるアンデッドたち。コーディは上手く戦ってるが、このままでは突破されるだろう。もうそろそろだ。コーディに手でサインを送った。

「了解した。マサキ! 全員退却しろ!!」

 

 コーディの部隊は、アンデッド軍から退却する。

 

「よし、ここから内部に侵入し、町人どもを皆殺しにするのだ!」

 

 いきり立つアンデッドが城壁の穴に集中した瞬間。 

 

「罠作動!」

 

 ガラガラと大地が崩れ落ち、アンデッドたちは地面の下に転がり落ちた。

 

「な、なんだ!?」

「足場が崩れて! うわあああ!」

 

 落ちたアンデッドに再度攻撃を続けるコーディ。

 

「水を注ぎ込め! 全員落ちたアンデッドを攻撃しろ!!」

 

 ダメ押しとばかりに水を流し込み、動きを封じる。次々と仕留められて行くバラモンド軍。深い穴に落ち、這い上がるのは難しい。そこに飛び道具が雨のように降り注ぐ。

 

「フッフッフ。一日で城壁を塞ぐのは無理だったが、下に掘り進むことは出来た。レイの炸裂魔法をなめるなよ? もうあそこからの進入は無理だろう」

 

 戦闘の結果を見て満足する。

 

「バラモンド様! やはり罠でした! あの隙間はてっきり未完成だと思っていたんですが、代わりに大きな穴を掘られています! その上水を流し込まれて! 進入は不可能です!」

「くっ! おのれ人間共! 下らんまねを! もういい! 城壁を登れ!!」

 

 バラモンドは城壁の隙間からの戦闘を諦め、再度城壁を攻めることにしたようだ。

 

「今こそ新兵器の出番だ! 用意はいいな!?」

 

 敵の攻撃が挫かれたのを見て、俺は更に打撃を与えるチャンスだと見た。

 

「いいぞマサキ!」

「こっちもだ!」

 

 城壁には樽が運び込まれる。何を隠そう、これが『新兵器』だ。その効果は、すぐにわかるだろう。

「落とせ!!」

 

 城壁の上から樽を落とさせる。

 

「バラモンド様! 何か振ってきました! あれはなんでしょう?」

「なんだと思えば樽か! そんなものほおっておけ。岩や魔法の方がよほどやっかいだ!」

 

 転がり落ちる樽を無視し、攻撃を続けるアンデッド。

 

「全員狙え! 目標はあの新兵器だ!」

 

 無視された樽に狙いを付けさせ……」

 

『ファイアーボール!』『ファイアーボール!』『ファイアーボール!』

 

 魔術師達が一斉に樽目掛けて炎を発射する。すると。

 

「な、なんだ? うぎゃああああああ!!」

「ぎゃああああ!! 体が! 体が燃える!!」

 

 樽が爆発し、火花が当たりに散らばった。

 

「なんだあの樽は!?」

「なんで爆発したんだ? 新しい魔法か?」

 

 そんな大げさなものではない。ただ樽の中に調理用の油や、高濃度のアルコールを満タンにしていた。火が付けば燃え上がる、ただそれだけだ。この際に大量に業者から買い付け、兵器として利用したのだ。

 

「ぐっ! 全軍退却しろ! 一時城に撤退するぞ!」

 

 かなりの打撃を与えられ、しぶしぶ退却するアンデッド軍。落とし穴に加え、謎の爆発とあい、兵士たちが混乱していたからだ。

 

「追撃はするなよ! 相手のほうがまだまだ兵力は上だ。今襲い掛かっても撃退される!」

 

 全軍に待機命令を出す。バラモンドは兵を撤退しているが、アンデッドナイトたちが反撃に備え、殿を務めていたからだ。

 

「逃げるアンデッドはほおっておけ! 逃げ遅れた奴らを片付けるんだ! いいな!」

 

 最初の攻撃は耐え切ったものの、こちらもかなり疲弊した。追撃を出す余裕はない。

 壊れた城壁を補修したりと、やるべきことはまだまだ残っている。

 とりあえず落とし穴の方を確認すると。

 

「……死んでる。いや元々死んでるが、ピクリとも動かないな」

 

 穴に落とされたアンデッドたちの残骸が浮かんでいる。

 

「落ちたときはまだ元気に抵抗してたんだが、水を流すと急に動かなくなった。なんでだろう?」

 

 コーディも不思議そうに言った。

「……まさか水が弱点とか? アンデッドは? そういえば奇襲のときも、『クリエイトウォーター』を必死で避けてたな……」 

 

 首をかしげて、この結果が意味するものを考える。

 

「アンデッドはそんなに水が嫌いなのか? なんでだ? 体の魔力が流れ出したりするのか? まぁ理由はいい。とにかく水を浴びせればいいんだな」

 

 

 少し悩んだ後、俺はパーフェクトなプランを思いついてしまった。これが上手くいけばバラモンドは勿論、いやそれだけでなく奴の軍勢ごと一網打尽に出来る。

 ウキウキして思いついた計画を説明する。

 

「……い、いや、流石にそれは……」

「こ、この町を守るんですよね? そんな事をすればある意味敵の思い通りでは!?」

 

 俺の作戦を聞いたギルドの職員が困惑する。

 

「全てを守ろうとすれば、両方を失うことになる。俺はギルドでの人間関係と、初めて出来た彼女を庇おうとし、結果両方失った奴を見た。それで学んだのだ」

 

 こうしてギルドの職員、そして冒険者を説得する。

 

「マ、マサキ! それは駄目だろ? アウトだろ? そんなことしたら俺たちの戦う意味が……」

「今日だってあいつらを撃退したんだ! そんなことをしなくてもこのままかてるんじゃ?」

 

 冒険者もまた俺の作戦にドン引きし、文句を言うが。

 

「今回は相手が油断していたからだ! そこに付け込んだだけ! こんな小細工がいつまでも通用するわけないだろ! いつかは守りきれなくなる! だからこれでまとめてぶっ殺すんだよ!」

 

 激昂し罵声を浴びせるが。

 

「ふざけんなマサキ! お前自分が何やろうとしてるのかわかってんのか!」

「お前の事を少しでも期待した俺が馬鹿だったわ!」

「酷い! いくらなんでもひどすぎる! こんなの人の考え付くやり方じゃない! お前は悪魔だ!」

 

 俺の最高の秘策も、どうやら彼らの心には届かなかったようで。

 

「お前ら最初になんて言った! どんな手段を使ってもいいって言ったよな! だったら俺無しでバラモンド倒してみろよ! 出来るのか!」

 

 俺も負けじと、その辺の冒険者の胸倉を掴んで怒鳴りつけた。

 

「んだとコラア! お前なんかに指揮権を与えるんじゃなかった! そんな作戦認められるわけないだろ!」

「あああ!? 俺がいなけりゃアレだぞ! 今頃とっくにこの町は皆殺しになってたんだぞ! 感謝しろゴラアア!」

 

 俺は何度も何度も冒険者に言い返し。

 

「くうう……! わかった、わかったよ! 何度も聞くが他に方法はないんだな?」

「それしかないなら……、しょうがない。クッソ、こんなの絶対に無いからな。二度とごめんだからな!」

 

 色々あったが、最終的にはみんな苦渋の思いで俺の作戦に同意してくれた。

 

 

 

 

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 俺の完璧な作戦に向け、皆準備をしている。だがこの作戦には時間がかかる。それまでになんとかこの町をバラモンドから守りきらなければ。

 

「篭城するのも悪くは無いが……そればかりなのもなあ。城壁のダメージも馬鹿に出来ないし。野戦も仕掛けてみたいものだが……。ここまで兵力に差があるとただやられるだけなんだよなあ」

 

 作戦は決まったものの、実行までの時間が足りない。それをどうやって稼ぐかが最重要課題だった。 

 

「アンデッドは生命力を目掛けてやってくるんだよなあ。つまり奇襲はバレバレだということか。奇襲が上手くいけば敵兵力に打撃を与えることが出来ると思ったんだが……」

「そうですわね。アンデッドにとって生者は眩しく映るものです。いくら潜伏スキルで体を隠していても無意味なんですよ」

 

 マリンもそう答える。

 

「やっぱそうかー。だったら野戦は無理だな。奇襲できないならやっても負けるだけ……いや違う! 違うぞ! 方法はある! 今すぐ野戦の準備をするぞ! 冒険者どもを集めろ!!」

 

 俺は新しい策を思いつき、冒険者ギルドへと向かった。

 

 

 

 その夜。

 俺達冒険者部隊は、街の外の草原にて整列し、バラモンドの部隊を迎え撃った。

 

「グハハハハハ! 昨晩勝てたのはまぐれだというのがわかってないようだな! まさかワシらに野戦で挑むとは! なめられたものよ! その慢心が貴様らを滅ぼすのだ!」

 

 バラモンドのアンデッド部隊が攻めてくる。相変わらずすごい数だ。昨晩の戦いでかなり倒したはずなのだが、それでもなお冒険者を圧倒している。

 

「こんなの勝てると思うか?」

「無理だろ?」

 

 負けじと陣形を組んでみるが、正直言って勝てる気がしない。冒険者達も最初から諦めムードだ。ぼやく声が聞こえる。そもそも陣形も適当に組んでみたもので、特に訓練したわけじゃない。

 

「グアッハッハッハ!! 全軍! 今度こそ冒険者どもを皆殺しにせよ! ゆけ!」

 

 バラモンドの号令と共に、アンデッド軍が襲い掛かる。

 アンデッド部隊と冒険者部隊、決着はすぐに付いた。

 冒険者の軍勢は数で負け、さらに統率力でも負けている。まともにぶつかり合う前にわき目も振らず逃げ出した。

 

「冒険者! 全員退却しろ!!」

「逃げろ! 逃げろ! あんなん勝てるわけねえだろ!!」

 

 一目散に散らばって逃げ出す冒険者達。そこに。

 

「やれ! ゆけ! 殺しつくせ! 行け!」

 

 アンデッドナイトたちが攻めてくる。

 

「一人も逃がすな! 全員殺せ! よいな!」

 

 こうして押し寄せてくるアンデッドたち。それでいい。最初から勝てるとは思わなかった。冒険者達にはあらかじめ、すぐに逃げていいと言っておいたからだ。

 アンデッドたちの注意が目の前の冒険者に釘付けになる。その瞬間を待っていたのだ。

 

「バラモンド様! 奇襲です! 謎の攻撃を受けています!」

 

 アンデッドナイトの一人が叫ぶ。

 

「馬鹿な! 何を言っている!? 我々アンデッドに奇襲など! 不可能だ! どこにいようとワシらの目から逃れることは……!?」

「ですがバラモンド様! 実際に今! 奇襲を受けています! なにも気配を感じません!」

 

 バラモンド軍の真横から、謎の軍団が現れ、アンデッドに攻撃を仕掛けている。

 

「ぎゃああああ!!」

「グハッ! そんな馬鹿な!」

 

 またもや混乱するアンデッド軍たち。

 

「今だ! 反転して攻撃開始!!」

 

 コーディが指揮をとり、逃げ出していた冒険者が引き返してアンデッドに襲い掛かる。謎の軍団の攻撃を受け、アンデッドの足が止まるのを待っていたのだ。

 謎の軍団の正体は。

 

『『クリエイト・ゴーレム!』』

 

 《クリエイター》、それはゴーレムを作り出したり、バリケードを作ることを仕事にしている集団だ。

 彼らが作り上げたゴーレム部隊が、アンデッド軍団に襲い掛かる。そう、普通の人間……いや生命体ならアンデッドにも気付いただろう。だがこっちは心無き人形、ゴーレムだ。ゴーレムの位置は捕らえられまい。

 

「な!? いったいどうなってるんだ!? どうやって我々に気付かれず!? こんな近くに!?」

「敵の正体はなんだ!? 生命力を感じないぞ!? まさか同じアンデッドだとでも言うのか!?」

 

 敵の正体がわからず、大混乱に陥る魔王軍。

 

「今だ! アンデッドを倒せ!」

『ターンアンデッド!!』『ターンアンデッド!!』『ターンアンデッド!!』

 

 浄化魔法でやられていく下級モンスターたち。

 

「お前達は下がっていろ! この俺が行く!」

 

 それまで小部隊の指揮をとっていたアンデッドナイトが、前線に突撃するが。

 

「ひゃああ!! 待ってたぜ!! 死ねええ!!」

 

 飛び出るや否やアルタリアに惨殺された。

 

「た、隊長……!?」

「隊長がやられたぞ?」

 

 混乱するゾンビやスケルトンだが。

 

「おっと、お前達の相手はごめんだぜ! あははははあはは!」

 

 上級モンスター、アンデッドナイトを始末し終えたアルタリアはすぐさまダッシュで逃げ出した。

 この混乱の中、次々とアンデッドは打ち破られていった。

 

「敵の正体がわかったぞ! ゴーレムだ! 遠くにいる集団が、ゴーレムを生成している! あっちに向かえ!」

 

 バラモンドもようやく気付き、こちらに兵を向ける。

「どうやら気付かれたようだ。クリエイター部隊、すぐさま引き上げるぞ!」

 

 俺はこの戦いに備え、千里眼、さらに読唇術スキルを持っていたため、遠くからでも敵がなにを言っているのか丸わかりだ。すぐさまクリエイターたちを撤退させた。

 やっとの事ゴーレムを破壊したアンデッドだが、すでに全員町に引き上げた後だった。

 

 

 

 

 

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 ちなみに隠し通路を使った昼間の奇襲だが、勿論あれから欠かさず毎日続けている。被害を与えてテレポート。それが俺たちのやり方だった。

 次の夜がやってきた。小さな町アクセルを中々攻め滅ぼせないため、流石にイライラしているバラモンド。

 

「またもや昼に城に潜入されたようだ。この街の冒険者め! 姑息な真似をする。このお礼はたっぷりしてやろう! アンデッド軍団! 突撃!」

「とつげ――ぎゃあああああ!!」

 

 城から悠々と突撃するバラモンドの軍団は、しょっぱなからつまずいた。

 

「なにが起こった!?」

「そ、それがいきなり地面が爆発しまして……!」

「そんな馬鹿なことがあってたまるか!?」

 

 激怒するバラモンドだが。 

 

「た、大変だ! 城の前に気をつけろ! 色んなところに『爆弾岩』が配置してあるぞ!」

 

 

 爆弾岩。

 それは衝撃を与えると爆発するという、はた迷惑なモンスターだ。

 そんなモンスターには誰も近づかないが、俺は戦力差を覆すのに役立つと考え、目を付けたのだ。

「うかつに動くと爆発する!! そおっと進め…… そうっと」

 

 連日の奇襲は攻撃方法の一つに過ぎない。相手が奇襲に神経を尖らせている間に、城から町への道に爆弾岩を設置しておいた。爆弾岩は衝撃を与えると爆発する。慎重に運ぶのは苦労したが、そのかいはあった。

 

「避けて進め! 爆弾岩が無い通路を通れ! 密集するなよ!」

「侵入者と戦っている間にこんなことをしていたとは!? 冒険者の奴らめ! 油断も隙もない」

 

 大軍をつれてきたためか、爆発する岩を避けて通るのに苦労している。そんなアンデッドたちが困っている間に。 

 

「今だ! 攻撃しろ!」

 

 遠くから冒険者達が矢や魔法、遠距離攻撃を浴びせまくった。

 

「あの野郎共! ぶっ殺してやるぜ! おいどけ!」

「やめろ! こっちに来るな! 隣に爆弾岩が! ああああああ!!」

「おい! 押すな! こっちに爆弾岩が!!」

「ほああああああああああ!!」

「密集するなって行っただろ! ぎゃあああ!!」

 

 阿鼻叫喚の魔王軍。

 

「敵の陣形が崩れたぞ! はみ出した奴からぶち殺せ!」

『ターンアンデッド!』『ターンアンデッド!』

『ファイアーボール』

『ライトニング』

 

 魔法を浴びせまくるウィザード。それで誘爆していく爆弾岩たち。巻き込まれたアンデッドたちが吹き飛んでいった。

 

「あああああああああああ!!!」

 

 またしてもバラモンドの進撃を食い止めることに成功したのだった。

 

 

 

 

 

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「バ、バラモンド様……この街はおかしいですよ。兵力では圧倒しているはずなんですが……なんだか落とせる気がしません」

「一体誰が指揮を取ってるんだ? こんな卑劣な攻撃を食らったのは初めてですよ!?」

「色んな町で色んな騎士団を倒してきた俺も、こんなに戦いにくい相手は無い。とにかくまともじゃないです」

 

 いつも通り読唇術スキルでモンスターを観察していると、配下のアンデッドナイトたちがついに弱音を吐き始めたようだ。

 

「なんだと貴様ら! ワシは『焦土のバラモンド』だぞ! ワシは人間共に卑劣だの鬼畜だの言われておるが、そのワシの軍隊からそんな事を言う奴が出るとは。それでも魔王軍最悪の軍団か!?」

 

 散々な嫌がらせ、陰湿な攻撃、奇襲、罠を食らい続け、魔王軍最悪と言われているらしいバラモンドの軍勢も、流石に堪えたようだ。

 

「兵力なんぞいくらでもある! いつものように倒した敵の死体を使えばいい! それだけの事じゃないか! ゾンビメーカーを出せ!」

「あ、あの……バラモンド様。度重なる冒険者達の侵入で、ゾンビメーカーが根こそぎ浄化されてしまいまして……。もう殆ど残っていないんですが」

「なんだと! あの進入は単なる時間稼ぎにすぎんと思っていたが! 狙いはゾンビメーカーだったのか! ぐうう! おのれえええ!」

 

 怒るバラモンドは唸りを上げている。そしてふと目線に入った部下をみて気付いた。

 

「おい貴様! なぜただのスケルトンの貴様がこの小隊の指揮を取っている!? アンデッドナイトはどうした!?」

「そ、それがっすねー。隊長は戦闘の最中にいなくなってですね。あとでバラバラになって発見されました。仕方なくおいらが変わりに指揮を……」

 

 申し訳なさそうに答えるスケルトン。

 

「相手は指揮官を狙って攻撃しているみたいです。いくら兵力で圧倒していても、このままだと雑魚しか残りませんよ」

「ゾンビメーカーを倒されて兵の補充は不可能、指揮するアンデッドナイトは戦闘中に殺される。このままだとヤバイですよ。退却した方がいいのでは!?」

「おのーれええ!!」

 

 八つ当たりでスケルトンを破壊するバラモンド。

 

「このワシが撤退だと? ワシを誰だと思っておる! 『焦土のバラモンド』だぞ!! このワシが通った後は何一つ残らない! 恐怖の象徴ともいえるこのワシが! こんな出来たばかりの小さな街を落とせなくて撤退だと!? そんな馬鹿な話があってたまるか!? 魔王軍どころか、世界中の笑いものになるわ!!」

 

 戦いで敗北続きのせいか、ついにマジギレするバラモンド。

 

「今回は相手が悪いですよ。間違いありません、敵はバラモンド様を凌ぐ鬼畜外道です! 落とし穴といい、ゴーレムといい、爆弾岩といい、やってることが滅茶苦茶ですよ! 次はどんな手で来るのか……怖くて眠れませんよ! アンデッドですけど」 

 

 弱音を吐くアンデッドナイトに、胸倉を掴みあげて睨みつけ。

 

「ワシはなんだ! 言ってみろ!」

「しょ……『焦土のバラモンド』様です。恐怖の象徴……魔王軍最悪の将……」

 

 震えながら答える配下。彼を落とし、バラモンドは続ける。

 

「そうだ! このワシはこんなところでやられるわけにはいかんのだ! これまでの戦いで失敗してきたのは! 下級のアンデッドを連れているからだ! 雑魚共が混乱するとワシらまで巻き込まれる。明日の戦いは、アンデッドナイトのみで行くぞ! 明日こそ決戦のときだ! よいな!」

 

 俺は、そんな彼らの様子を盗み聞きしていた。

 ようやく敗因に気付いたようだ。奴の言うとおり、俺達はゾンビやスケルトンを混乱させ、その隙にアンデッドナイトも始末していた。様々な戦術を使ったが、基本はこれだ。

 

「どうやらついに来るか…? これからが真の戦いだ」

 

 アンデッドナイトは強敵だ。みなが対光属性吸収の鎧をつけているため浄化魔法が通用しない。不意さえ付けば倒せても、正面から戦えば苦戦を強いられる。

 偵察をやめ、色々考えながら街へと帰ると。

 

「マ、マサキ様……」

「レイか、どうした?」

 

 ふらふらになったレイが駆けつけてきた。彼女はここ最近の戦闘に参加していない。俺の完璧な計画のため、そっちを手伝ってもらっていた。

 

「完成しました。マサキ様。ついにアレが完成しました。これでいつでも、あの憎きデュラハンを倒すことが出来ます」

「いいタイミングだ。レイ。よくやったな。ちょうど敵も全力でかかってくるそうだ。これでようやく、ベルディアとの約束が果たせそうだ。決戦は明日になる。お前は休め」

 

 レイの頭をなでて言った。彼女は俺の計画のため、寝る間も惜しんで働いていたのだった。今日くらいは、彼女に優しくしてもいい。疲れが限界だったのか、その場で眠りこけるレイ。

 

「お前もなあ、よくやったよ。性格さえまともならなあ」

 

 レイを背負い、ギルドへと歩き出す。

 この戦い、より外道な方が勝つだろう。

 それならばこの俺は、負ける気がまったくしなかった。

 


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