この素晴らしい世界にデストロイヤーを!   作:ダルメシマン

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31話~34話は魔王幹部との戦い。まさしく第一部のクライマックス戦です。魔王幹部にマサキはどう立ち向かうか。勝利を収めることが出来るのか!? 期待してください。


一部 31話 魔王軍襲来

 すぐさま魔王軍との戦いが始まるのかと思ったが、どうやら違うらしい。俺を含めるアクセルの冒険者達は、武装しながらもギルドで待機命令が出されている。

 

「なぜ出撃しちゃ駄目なんだ?」

「魔王軍が攻めてきたんだろ?」

 

 不満を言う冒険者達。

 

「前線からの正確な情報がまだ入っていないんです! 噂では魔王軍は、この町を襲う前にアンナ卿の居城に奇襲を仕掛けたようです。今騎士団が必死でそれを食い止めているらしいのですが!」

 

 アンナ卿の居城。それはこの街を見下ろすように立てられた、現アクセルの領主であるアンナ家が住んでいる城だ。騎士団もまたそこに常駐し、アクセルを外敵から守っている。

 

「それは本当なのか?」

「だったら今すぐ騎士団の援護に行かないと!」

 

 なおさらやる気になる冒険者に。

 

「そ……それがアンナ家とも、ベルディア騎士団とも連絡が途絶えまして……今不用意に動くのは危険だと」

 

 ギルドの待ちうけが申し訳なさそうに答える。

 

「なんだと! このまま騎士団を見殺しにしろというのか!?」

「アンナ卿の身になにかあったらどうする! 領主を見殺しにする気か! 俺たちも戦わないと!」

 

 詰め寄る冒険者に。

 

「今ギルドでも協議中なんです! それに簡単に騎士団がやられるわけがありません! まず騎士団からの情報を待って、その後に冒険者は出撃せよと……」

「そんなの待ってられるか!」

「騎士団がなんだ! 俺たちだって戦える!」

「敵の情報がわからない今は危険です!」

 

 ギルド職員と冒険者が言い争っていると、扉がバンと開かれた。

 

「……騎士団は壊滅した」

 

 そこにいたのは、体中に傷を負い、よろよろと剣を杖代わりに歩く騎士。

 

「ベルディア!」

 

 その痛々しい姿を見て、俺は思わず叫んだ。

 ベルディアはここまで来るのがやっとだったのか、その場に崩れ落ちた。

 

「マリン! すぐに回復魔法を!」

「ええマサキ! 『ヒール』!」

 

 マリンの回復魔法で、傷がいえていく。ベルディアも少し力を取り戻したのか、再び立ち上がる。

 

「もう回復魔法はいい。それよりも報告が先だ。俺率いるベルディア騎士団は、魔王軍の奇襲に合い……奮戦したが敗れた……」

 

 ベルディアは自分の体の事より、騎士としての仕事を優先している。

 

「ベルディアがやられるなんて……そんな馬鹿な!? あんたは王国でも名うての騎士だろ? 一体なにが攻めてきたんだよ!?」

 

 信じられないといった顔の冒険者達。

 

「相手は魔王幹部、デュラハンのバラモンドだ。俺達は戦ったが、奴には届かなかった。なんとかアンナ卿を連れ出すだけで精一杯だった」

「バラモンド……」

「よりによってあいつが……」

 

 バラモンド、その名前を聞いただけで青ざめる人々。バラモンドとかいうのはそんなに恐れられているのか?

 

「騎士団の生き残りはお前だけなのか?」

 

 俺からもベルディアに質問をする。

 

「いや、俺以外にも少しはいる。あいつらは先に教会に向かわせた。みな重傷だ。当分は戦えないだろう。ベルディア騎士団は事実上壊滅した……。殆どの仲間が、あの卑劣なデュラハンに……」

 

 悔しそうに告げる騎士団長。

 

「マ、マサキ……頼む! 俺の変わりにあのデュラハンを倒してくれ……」

 

 騎士は最後に俺に頼みごとをした。

 

「わかったベルディア。あとは俺たちに任せてゆっくり休んでいろ。この仇は必ず取ってやる。衛生兵! 彼を医務室へ運べ!」

 

 ボロボロの大怪我を負いながらも、主君を守りぬき、そして残った力でこのギルドへ報告に来たのだろう。ベルディア、かっこいいよ。ただのエロオヤジじゃなかったんだな。お前は騎士の鏡だ。

 

 

 それがわかればやることは一つだ。俺はすぐに準備にかかった。

 

「何をしているのです? マサキ」

 

 マリンの質問に。

 

「決まっているだろ? この街から逃げ出す準備だよ!!」

「「「「えっ」」」」

 

 その場にいる冒険者やギルド職員が、全員素っ頓狂な声をあげた。

 

「てめーマサキ! それは流石に人としてどうなんだ!?」

「ベルディアにあそこまで言っといてそれは無いだろ!?」

 

 非難轟々な人々に。

 

「俺は勝てない戦いはしない主義だ!!」

 

 はっきりと言った。

 

「マ、マサキ? そんなのかっこ悪いですわよ。ベルディアさんとの約束はどうなるんです? 仇を取るのでは?」

「別に今とは言ってない。その内チャンスが来たら取ってやるよ。それまでは逃げる!」

「おいおいマサキィ! ふざけてんじゃねえよ! 相手は魔王幹部だぜ? 幹部を殺せるチャンスなんて早々無いぞ! 今すぐ突撃に行こうぜ!」

「勝手に行けよ。瀕死のお前を担ぐのは誰かにやってもらえよ!」

「マサキ様がそう言うなら……逃げますか」

「その通りだ。逃げよう」

 

 仲間にもそれぞれ答える。

 

「戦わずに逃げ出すなんてそれでも男か!?」

「真に優れた戦士は、無益な戦いを避けるものだ」

 

 他の冒険者達がなんと言おうと、俺は戦う気は全く無かった。それよりどの町に行けば安全か、パンフレットを眺めていた。

 

「いい加減にしろ! マサキ! お前は卑劣で! クズで! 最低の男だが! どんな相手でも倒してきたその謀略だけは認めてきた! 町の問題児たちをまとめ上げ、瞬く間にこの町の頂点に立ち、この前だって遥か格上のリッチーを撃退したんだ! そんなお前が! こんな腰抜けだったとはな!」

 

 俺の首を掴んでキレたのは、この町一の剣士、コーディだ。

 

「俺はこの街で一番の冒険者パーティーだ。いや今は2位だったかな? 狩り場を壊されてからは賞金スコア1位の座をお前のパーティーに奪われている。だがそもそもだ、なぜ俺達がそれほど活躍できた? どう思う? ナンバーワンのコーディさんよ!」

 

 双剣使いのコーディに尋ねた。

 

「それは……俺やお前らのパーティーが、強いからだろ?」

「違う! 確かにお前は強い! 強いが町を守りぬくほどの強さは無い! まだまだ半端だ! 俺やコーディがこの町の冒険者として活躍できるのは、ベルディア騎士団が本当に危険なモンスターを駆除していたからだ! ベルディアは本物の騎士だ! ベルディアがいたから冒険者家業も安全だった! あいつがやられるような相手に挑むなんて……それはただの無謀だ! 死にに行くようなもんだぞ!? お前はベルディアよりも強いのか!?」

 

 何も俺はただ戦いたくないわけではない。色々と考えた結果、勝ち目は無いと判断したのだ。

 

「……ぐっ」

 

 俺の言葉に肩を落とすコーディ。

 

「た、たしかにマサキの言う通りかも……」

「ベルディアはかなりのつわものだった。その配下の騎士団も。あいつらが勝てない相手に適うはずがねえよ」

「俺たちも逃げた方がいいんじゃねえか?」

 

 また他の冒険者にも、諦めのムードが漂い始めていた。

 

「なぁコーディ! こんな腰抜けはほっておこうぜ! 俺たちだけであのデュラハンを倒そうぜ!」

「そうよ! ヘビィーの言う通りよ! 勝てるかどうかなんてわからないじゃない! やってみなくちゃ!」

「冒険者の底力を見せてやろうじゃないか! 魔王幹部なんて」

 

 コーディの仲間たちはどうやらまだ諦めてないようだ。

 

「そ、そうだな! 相手がバラモンドだろうが関係ない! 俺達はいつも負けなかった! みんなの力をあわせるんだ!」

 

 そんな主人公のようなセリフを言い、コーディたちはギルドから出発した。

 

「ケッ! 骨くらいは拾ってやるよ。とっととやられて来い」

 

 俺はコーディたちが出て行くのを見送った。

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 前線へと走っていくコーディのパーティ。それを俺は少し離れたところから見守っている。辺りには壊滅した騎士団の死体が転がっていた。

 アンデッドナイトたちが残党はいないか確かめている。

 その中心に立つ邪悪な気を放つ黒い騎士。他のアンデッドとはどう見てもレベルが違う。どうやらあいつが魔王幹部のバラモンドとか言うデュラハンのようだ。

 だがその姿に少し納得がいかなかった。

 

「ねえマリン、一つ聞くんだが。デュラハンって言わなかったか? あいつどう見ても首くっ付いてるじゃん。普通の黒い騎士にしか見えないんだが。この世界のデュラハンって首取れてないの?」

「ええ? そんなはずは無いんですけどね? 多分取れるけど手に持つのがめんどくさいから生前のままにしているとか?」

 

 俺たちのパーティは茂みからおやつを食べて見物している。

 

 

「お、お前だな! 魔王幹部のバラモンド! この俺達が来たからには進軍もここまでだ!」

「ほう? まだ息のいいのがいたようだ。ガッハッハッハ! 嬉しいぞ! この街の冒険者は腑抜けで、このワシに恐れをなして逃げ出したのかと思ったわ」

 

 コーディのパーティが立ち塞がる。それを聞き、嬉しそうなデュラハン。いやデュラハンか? だって首取れてないし。

 

「いかにも! このワシこそバラモンド! 魔王軍を率いる幹部よ! 勇敢な貴様らに、すぐに戦士としての死を与えてやろう。グウッハッハッハッハ! だがその前に名乗るがいい!」

 

 気味の悪いくぐもった声で喋るバラモンド。

 

「俺はコーディ! 双剣使いのコーディ!」

「戦士のヘヴィーだ!」

「ウィザードのブライ!」

「プリーストのエコーよ!」

 

 コーディのパーティーは一人ひとり名乗りを上げた。そんな彼らの前に、アンデッドナイトが立ち塞がるが。

 

「お前達、下がっておれ! たった四人でワシに挑むとは、見上げた根性だ。褒美にワシ一人で相手してやる! さあかかってくるがいい!」

 

 バラモンドは部下を下がらせ、一人で四人と戦うようだ。

 

「おい! 相手は一人だぜ? ひょっとして勝てるんじゃ?」

「焦るなよ……。敵はあのバラモンドだ。油断すればすぐにあの世行きだ」

「エコー、光魔法の準備はいいか? 合図と共に行くぞ」

「うん! もうやってる」

 

 コーディのパーティはジリジリと

 

「今だ!」

『ターンアンデッド!』

 

 すぐさまバラモンドに浄化魔法を浴びせる。光がバラモンドに直撃するが。

 

「グオッフォッフォッフォ! そんなもの効くかア! この鎧は神聖属性の攻撃など無効化する!」

 

 その光は鎧に吸い込まれて消え去ってしまった。

 

「くっ」

「それくらい予想してた! 怯むなエコー! この俺があの鎧を破壊してやる!」

 

 重そうなハンマーを持つ戦士、さっきヘヴィーと名乗った男がバラモンドへと走り出す。

 

「捻り潰してくれるわ!」

 

 そんなヘヴィーを捕らえるバラモンドに。

 

『ファイアーボール!』

 

 パーティーの魔術師が火の玉を打ち出した。

 

「ぐうっ!」

 

 顔を焼かれ怯むバラモンド。

 

 

「あいつら中々やるじゃないか。伊達にこの町で一位取っただけの事はあるぜ」

「見事な連携ですね。私とマサキ様にはかないませんが」

 

 影から戦闘を観察しながら言った。

 

 

「オラッ! オラアッ! どうだ!」

「ぐうっ、ぐうっ!」

 

 火の玉で隙を付かれ、その間にヘヴィーがハンマーで攻撃。バラモンドは盾でなんとか防御しているが押されている。

 

「図に乗るなよ? 冒険者風情が!」

 

 バラモンドは脚を踏ん張り、ハンマー攻撃を受け止めた。

 

「今度はこちらの番よ!」

『ライトニング!』

 

 攻勢に出ようとするバラモンドを、魔術師のブライが食い止める。

 

「こ、こやつ、またしてもワシの邪魔を!」

 

 体に電撃を食らい、激怒するバラモンド。

 

「どうした! 俺達を倒すんじゃなかったのか!?」

 

 ヘヴィーが再び攻撃を続ける。

 

「おのれ雑魚共め! うっとおしい! ぬっ、そういえばあの剣士はどこに行った?」

 

 バラモンドはコーディの姿がいないのに気付いた。

 

「ここだ! バラモンド!」

 

 戦闘の最中、仲間たちに気を取られている隙に背後に回りこんだコーディ。

 

「バラモンド! 覚悟!!」

 

 コーディの二つの剣が振り下ろされる。

 

「クックック。そうか、そこにいたか」

「なにっ!」

 

 バラモンドの首が180度回転し、真後ろにいたコーディの姿を捉える。それと同じく剣を持った右腕もぐにゃりとありえない動きをし、背後から潜む剣士を斬りおとした。

 

「ううっ!」

「コーディ!」

 

 傷を負う仲間を見て気がそれる他の三人。

 

「ま、まだやれる。それより攻撃を続けるんだ!」

 

 斬激を受けながらもコーディは立ち上がり、仲間に活を入れる。

 

「おいおいおい、やっぱあいつデュラハンだわ。なんか首がすごい回転したもん。あんなん繋がってたら無理だわ」

「ずっりいなあ。あんなのありかよ。死角ないじゃん」

 

 バラモンドの首が回転するのを見て、俺達は驚きの声をあげた。

 

 

「ブライ! エコー! お前達は離れて攻撃するんだ!」

「ああ」

「わかってる」

 

 ウィザードとプリーストは距離を取ったが。

 

「グアッハッハッハ! 少しは楽しめたぞ冒険者どもめ。だがそろそろワシの取って置きを見せてやろう。遊びは終わりだ」

 

 意にも返さず、笑いながらバラモンドは告げた。

 

「ワシはデュラハンとしてこの世に生まれ変わった。ご覧の通り首が取れる。だがその時考えたのだ。首が取れても生きていられるなら他の部分もどうか。色々試してみたのだ。そしてこれが答えだ!」

「グハッ!」

 

 遠くに離れていたはずの、ウィザードのブライがその場に倒れた。

 

「馬鹿な! 何が起きた!?」

 

 驚くコーディに。

 

「あ、ああ……手が!?」

 

 バラモンドの腕は、まるでロケットパンチのように取れ、ブライのお腹に剣を突き刺した。

 

「グハハハハハ! どうだ!? 面白いだろう? 次は貴様の番だ!」

 

 千切れた腕はすぐに元の場所に戻った。そして次の獲物にヘヴィーを狙う。

 

「ワシに挑んだことを後悔するがいい!」

 

 剣の一振りでヘヴィーは吹き飛ばされた。

 

「ヘヴィー!」

「貴様もだ!」

 

 今度は左腕が飛び出し、プリーストのエコーが盾でぶん殴られる。

 ジオングみたいな奴だな。

 

「くっ!」

「貴様で最後のようだな?」

 

 あっという間に三人がやられ、残るはすでに傷を受けたコーディだけだった。

 

「少し遊んでみれば調子にのりおって。まぁいいその代償は今ここで果たされるのだ。死ぬがいい!」

「やはり無謀だったのか……くっそう!!」

 

 悔しそうに叫ぶコーディ。その頭上に剣が振り下ろされる。

 

「ハロー! こんにちは! 流石は魔王幹部なだけはありますね! 見事な腕前でした。いやあご立派。はっきり言ってこのコーディとかいう男には嫌気が差してましてねえ。スカっとしました。あはは」

 

 その直前に俺は茂みから飛び出し、バラモンドの所へと向かった。

 

「そこに潜んでいたのは気付いていた。お前も殺してやろうか?」

 

 殺気を向けるデュラハンに。

 

「いやあ勘弁してくださいよ。この俺はあなたと戦うつもりなんてありませんよ。あはは。むしろあなたに協力しに来たんですよ。バラモンド様の実力ならこの町なんて簡単に滅ぼせますって。でも俺だけは見逃してくださいませんか?」

 

 ニコニコと笑顔で魔王幹部に近寄る。

 

「フン、冒険者の恥さらしが。貴様もすぐに殺してやるわ」 

「きっさまああ! マサキ! お前なんて事を言うんだ! お前のようなクズは見たことが無い! 絶対に許さないからな!」

「黙れ! 負け犬が! 雑魚のクセにしゃべんな! すいませんねえ。話の続きと行きましょう」

 

 怒るコーディを罵倒してバラモンドに話し続ける。

 

「ホラ見てください! これはほんの贈り物です。バラモンド様のために用意した、素晴らしいアイテムの数々です。これはほんの一部。どうです? 俺を生かしておけばこの町中の財宝のありかを教えますよ?」

 

 俺は宝箱を差し出しご機嫌を取る。中には黄金に輝く剣や光る首飾りが入っていた。

 

「ほう? なるほど。貴様中々面白いではないか。ただ殺すのは惜しいな」

「でしょう?」

 

 バラモンドの関心を引くことに成功したようだ。

 

「マ、マサキ! お前は! お前という奴はぜったいに……!」

 

 怒りでプルプル震えているコーディ。

 

「バラモンド様、ではこの俺が飛び切りの芸をお見せしましょう。いやこれ本当に滅多に見られない貴重な芸ですよ。では行きます! 『花鳥風月』」

 

 花鳥風月――それは俺がこの世界で最初に手にしたスキル。クソみたいにポイントを食うくせにただの宴会芸。間違うことなくハズレスキル。ハズレスキルなのだが、まさかこんな所で役に立つときが来るとは……。

 

「見てください! こちらの扇子から……おおっとお水が出ます。そしてこちらの扇子からも……」

「おお、見事だな。曲芸師として魔王の城に連れ帰ってやっても……」

 

 俺の水芸に感心しているバラモンド。フッ、密かに練習していたかいがあったぜ。せっかく取ったスキルだから一応やっててよかった。

 

「うりゃ!」

 

 俺はその扇子から出る水を、バラモンドへとぶっかけた。

 

「グハッ」

 

 この一瞬が勝負だ!

 

「レイ! やれっ!」

『炸裂魔法!!』

 

 俺の合図と共に地面が爆発する。バラモンドが衝撃で転倒した。

 

『炸裂魔法! 炸裂魔法!』

 

 さらに連射するレイ。周りを取り囲んでいたアンデッドナイトたちも飛ばされる。

 

『ターンアンデッド!』

 

 襲い掛かるアンデッドたちをけん制するマリン。

 

「アルタリア! 怪我人の回収はすんだな!?」

「ああ、いいぞ! 二人担いでる!」

 

 マリンの筋力強化で一時的にパワーアップしたアルタリアは、エコーとブライを持ち上げて素早く逃げた。

 

「コーディ! 走れるか!? 命が惜しけりゃ走るぞ!?」

「えっ!? ええ? ああ? ええ!?」

 

 未だに何が起きたかわからないコーディ。

 

「いいから逃げるぞ! 嫌ならここに置いて行くからな!」

 

 コーディの肩を持ち、走って逃げ出す。残ったヘヴィーも、筋肉強化したマリンが担いで運んでいる。

 

 

「おのれえええええ! あいつらを逃がすな!」

 

 嵌められたことに気付いたバラモンドが激怒し、部下に命令する。

 

「させません! 『ライト・オブ・セイバー』

 

 邪魔をしようとするアンデッドたちの道を、レイが切り裂いて行く。こうして俺達はコーディたちの救助に成功したのだった。

 

 

 

 

 

 

 ……。

 …………。

 命がけでバラモンドから逃げ出し、ギルドへと戻ってきた俺たち。

 

「なぁコーディさん、言うべき言葉があるんじゃないのか? 魔王幹部の手から救ってくれた命の恩人に?」

「…………。俺は本気でお前が裏切ったのかと……」

 

 そんなコーディの顔をじーっと睨み続けていると、根負けしたのか。

 

「ありがとうございます! 助けてくれてありがとうございます!」

 

 コーディは嫌そうな顔をしながらも、渋々お礼を言った。

 

「ごめんなさいは? 散々罵倒してくれちゃってまぁ」

「ごめんなさい! マサキのおかげで助かりました! ありがとうございます!」

 

 反ギレしながらお礼を叫んだ。

 

「そ、そういえばあの宝はなんだ!? あんなアイテムを魔王軍の手に渡してよかったのか!?」

「ああ、あれのこと? アレはね、俺が一生懸命作った偽造品で、何の価値も無いぞ?」

 

 あの偽物を馬鹿な貴族にでも売りつけようとしたのに、もったいないことしたなあ。

 

「なんでそんなものを作ったんだよ!」

「う、うるさいなあ! 助けてやったんだから固いこと言うなよ! 詮索はやめ、な!?」

 

 慌てて質問を打ち切った。

 

「これでわかったろ? 俺たちにあいつの相手は無理だ。とっとと逃げるが勝ち。住民避難までの時間稼ぎくらいならやってやってもいいけどさ」

 

 俺は冒険者ギルドで言った。

 ベルディア騎士団は壊滅し、コーディたちも敗れた。この結果を見て冒険者たちの表情が暗くなっていった。

 どんよりとした空気の中、ある冒険者が。

 

「おいマサキ! お前はあのキールすら打ち破ったじゃねえか! 格としてはリッチーの方がデュラハンより上だ! もう一度街の人間が一丸となれば! あんな奴ら……」

「キールとは状況が違いすぎる。相手は一人だった。それに追い出すだけでよかった。今回は敵は軍勢を引き連れている上に、この街を潰す気満々だろう? 嫌がらせですむ相手じゃないんだぞ!?」

 

 俺の答えを聞き、肩を落とした。

 次第にギルドは静まり返っていく。

 

「なあ、この街が発展すれば、初心者にとってレベル上げに最適の場所になる予定だったんだよなあ。ようやく城壁が完成するって時に……」

「魔王もそれに気付いたんだろう。だから軍隊を差し向けた。しかもよりによってあのバラモンドとはなあ」

 

 残念そうな顔をする冒険者達。

 

「これでおわりなのか!? この街はおしまいなのか!? そんなのって!」

「残念だが……。もし王都から援軍を呼んだとしても、その前にこの街はボロボロにされるだろう」

 

 どうやらこの街は滅びる運命のようだ。人生はいつも不条理なもの。俺もいい資金源だったこの町を失うのは悲しいが、命には代えられない。また新しい事業を考えないと。 

 

「マサキ! お前は勝つためなら手段を選ばないだろう!? なにか思いつかないのか! この町を救う方法が!」

「そうだ! お前なら! 過程が最悪だと思うけど! 最後には勝利を収めてくれるはず!」

「マーサーキー!」

「マサキかっこいい! イケメン!」

 

 くっ!

 普段俺の事を散々嫌っといて、こんなときだけ頼りやがって。っていうかそんなの出来たらとっくにやってるわ! 俺をなんだと思ってる!

 

「俺からも頼む。さっきは本気で裏切られたのかと思った。まさか魔王幹部の目の前で命乞いをするとはね。だけど演技とはいえそこまでやれるから、俺達は助かったんだ。頼むよ。何か方法があるはずだ」

 

 ズタボロにされたコーディまでそんなことを。

 

「俺たちも協力するぜ! お前の言うとおり何でもやるからさ! あのふざけたデュラハンをぶったおそうぜ!」

 

 冒険者ギルドの全員が、なぜかこの俺の指示を求めている。この町一の嫌われ者の俺を。

 

 

「本当になんでもしていいのか? どんなことをしても? 俺のやることに文句を言わない?」

 

 ギルドの冒険者に再度質問する。

 

「い……いえサトー・マサキさん? 常識の範囲内でお願いしますよ?」

「あまりに汚い手を手伝えって言われたら……さすがになあ」

「じゃあ逃げるわ」

 

 街脱走の準備を再開すると。

 

「いや冗談だ! なんだってやるさ!」 

「多少の犠牲には目をつぶっていいんじゃないか?」

「魔王幹部が倒せるなら、多少良心が痛もうが関係ない!」

「そうだそうだ! あの外道を倒すにはこっちも外道にならないといけないんだ!」

 

 冒険者の心が一つになった。

 

「しょうがねえなあー! やるだけやってみるけど、もし無理だとわかったら俺は全力で逃げるからな! そうなっても恨むなよ! わかったな!」

 

 こうして俺の指揮下の元、対魔王幹部バラモンドへの戦いが切って落とされたのだった。

 




 コーディたちのパーティの名前には、実は元ネタがあります。わかる人はすぐわかると思います。

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