彼女たち三人と同居して数週間が過ぎた。美少女三人と同居生活、形的には完全なハーレム主人公を体現できたのではないかと思うのだが、やはり内面に致命的な問題を抱えているようだ。たとえばあいつ。
「服を着ろ! アルタリア!」
朝っぱらから上半身裸でゴロゴロしているアルタリアに、俺は怒鳴りつけた。彼女は少しこちらに目を向けた後。
「レイに聞いたけどよ! 男っておっぱい見ると興奮するんだってな!? ホラホラ? マサキ興奮すっか?」
そういいながら挑発的に、おっぱいを手で挟んで見せ付けながら近づいて来た。
「やかましいわこの痴女が! 毎日毎日おっぱいまるだしでウロチョロしやがって! あまりに見慣れて俺の息子も反応しなくなったわ! いいから服を着ろ!!」
そんなバカ女に再度キレる。
「本当かー? レイはロリコン以外なら男はみんなおっぱいが好きだと言ってたぞ? ってことはマサキはロリコン……」
「んだとコラあ! お前が当然のようにおっぱいブラブラやってるからだろうが! 同居生活で最初の数日はドキマギしてたよ! それは認める! 認めるよ! だがそこまで曝されると逆に萎えるわ! ラッキースケベ舐めんな! このエロボディの無駄遣いめが!!」
アルタリアは俺がいようといまいと、室内ではいつも適当な格好をしてうろついている。しかも俺に見られても「あわわわ」とか純情少女っぽく恥ずかしがって胸を隠したり、「この変態!」とかよくあるツンデレヒロインのように殴ったりもしない。なにもしてこない。マジで全く気にしてない。そんな状況が続くと流石のアルタリアのエロおっぱいも単なる日常の一部になってしまう。
「ったく、室内くらい適当な服でいいじゃねえか! めんどくせえなあ」
嫌々服を着るアルタリア。
せっかくのエロボディもこの単細胞のせいで台無しだ! ちなみにそんな無防備なアルタリアに襲い掛かるなんて真似はしない。なぜなら俺は紳士だからだ。嘘だけど。アルタリアの反撃が怖いから。これも嘘だけど。アルタリアは攻撃こそ最強だが防御は紙、不意さえ突けばどうにでもなる。
それでも俺が襲い掛からないのは家に住み着くヤンデレアンデッドが背後で目を光らせているからだ。今もじっと睨みつけている。うぅ怖。
「なんだかまるで親子か兄弟みたいですわね」
俺とアルタリアのやり取りを見て、マリンが微笑ましそうに言った。
「……親子。親子か兄弟にしか見えないなら……セーフ」
ヤンデレアンデッドもといレイがマリンの言葉を聞き、殺気を納めた。
「そういえばマサキ様はロリコンのようですね……。くっ! こうなったら若返りの薬を作るしか……」
今度はレイがそんな事を呟き始める。
「ロリコンじゃねーよ! アルタリアの言葉を真に受けんな!」
必死で言い返すが。
「そういえば私も……マサキ曰くアクア様のお姿は私よりも若めなそうなので、若返りの薬がずっと欲しかったですわ。私はよりアクア様に近い姿になりたいのです」
マリンまでそんな事を言い出す。この二人は若返りの薬とかいうどう考えてもチートアイテムを、そんな下らない理由のために欲しがっていた。
「はぁ……ハーレム主人公ってなんなんだろ? わかんなくなってきた」
彼女たち三人を見ていると頭がおかしくなりそうで、ため息をついて椅子に座った。
「では私は朝のお祈りをしますわ」
そう言ってマリンは自分の部屋に戻った。
「ああなったマリンは当分部屋から出てこないな」
マリンのお祈り……俺をこの世界に送ったあの水色の女神を信仰しているのだが、彼女の崇拝っぷりは尋常ではなかった。毎日決まった時間に体を地面に叩きつけ、飾っている小さな女神像を崇め続ける。
それは、寒い氷雨が降る夕方でも。
それは、穏やかな食後の昼下がりでも。
それは、朝起きて、爽やかな目覚めの散歩が終わった後も。
どんな時でもマリンは、毎日朝昼晩と忘れずにお祈りを続けている。
『アクア様! アクア様! この哀れな私をお救い下さい!! ああ! またこの私に天啓を! お導き下さい! 我らが水の神! アクア様!!』
ドア越しにまで叫びが聞こえる。正直今の彼女とは関わりたくない。マリンは希少なアークプリーストで、かなりの実力者だというのに誰もパーティに入れたがらないのはこのせいだ。他の二人よりは比較的話が通じるとはいえ、同レベルのヤベー奴なのは変わりない。
この前『これもアクア様の試練です!』とかなんとかいって自ら檻の中に入り、湖に潜っていったときは流石に引いた。アレに何の意味が? っていうかどうやって息継ぎしてたんだろう?
儀式が終わるまであいつは放置しておこう。軽く飯でも食べるとするか。
がんじがらめに縛った野菜スティック――なぜかこの世界の野菜は動き回るため――を食べていると。
「いいですか、アルタリア? 男性と女性というのは男性器を女性器に入れることで子供が出来るんです!」
「そうなのか? オヤジはキャベツが運んでくるって言ってたぞ?」
「ぶっ」
レイがアルタリアに性教育をしていた。思わず噴き出す。
「全く、アルタリアは子供ですね! そんなことも知らないんですか?」
「だってよー戦い以外興味ねえし。入れたらなんなんだよ? 強くなるわけじゃあないんだろ? パワーアップもねえとかつまんねえよ」
うちのメンバーで最年長のクルセイダーは、相変わらず戦闘以外のことはからっきしだった。
「男性と女性が性行をし、そして子供が出来る! これは愛の結晶です! 私もいずれマサキ様の子を孕ませてもらう……いいえこちらから襲うつもりです!」
ゾッと寒気がすることをいうレイ。キールのダンジョンを探索した際、悪魔すら封印するという噂の魔道具を見つけて本当によかった。毎晩このヤンデレをその中にぶち込んでいる。そうしなければガチで逆レイプされた上既成事実でそのままレイルート確定だったと思う。
「レイよお? ちょっと思ったんだけどよ、つまり男の方が棒を女にぶち込むんだろ? ってことはよ? 女は痛いだけで不利じゃねえか? 入れるほうが強いに決まってるぜ」
滅茶苦茶なことを言い出すバトルバカ。なんでも勝ち負けに拘りすぎだろ。
「羨ましいなあー! 私もち○こ欲しいぜ! そしてダグネスにぶち込むんだ! これで勝つ!!」
「それは女性の役割ではないですよ……しかしそういえば聞いたことがありますね。性転換できる伝説のアイテムがあると……。いえ性転換以外にも、悪魔の間では女にち○こを生やす秘密の魔法があるとか。そうFUTANARIの魔法! 悪魔に頼めば夢が叶うかもしれませんよ?」
なにいってるんだこいつら。聞いているだけで眩暈がしてくる。
「マジか!? いいな! ち○こ欲しいぜち○こ! なあレイ、どうしたらゲットできる?」
「うーん……まず悪魔と契約しないといけないですね。そうすればち○こを生やすことが出来るかも。でもいいんですか? アルタリアって一応貴族でしょ? 貴族が悪魔と契約なんてバレたら取り潰しですよ?」
「いいんだよ! うちなんてもう殆ど潰れてるようなもんだし。たしかなんだったっけ? クリスだっけエリスだっけ? そういう名前の宗派だったけど……まいっか! ち○こが手に入るんならそんなの関係ない!」
「でも気をつけて下さい。マリンは悪魔とか絶対嫌いですからね。マリンにち○この事は秘密にしておかないと!」
ヒートアップしていく二人の会話に。
「さっきからちんこちんこうっせえええええ――――!!」
ずっと黙っていた俺だがついに怒鳴った。
「お前達……そういうのはせめて俺のいないところでしてくれないかな? 異性がいる前でしていい話じゃないぞ。萎えるとかそういう問題じゃない。普通に怖いわ。なんだこれ? 逆セクハラか?」
頭が痛くなるような話を聞き、我慢できなくなって言った。
「マサキ様、これがいわゆる女子トークというものですよ」
「どこの世界にふたなりについて語る女子トークがあるんだ!」
レイに掴みかかって肩を揺らすと。
「フッ、マサキ。ピュアな男だな。女だってそういう話はするぜ」
得意げなドヤ顔をするアルタリア。
「性知識をさっき知ったばかりのアホのクセに! よくそんなセリフがはけるな! キャベツが運んでくるんじゃなかったのかよ!」
「ボウヤ、女ってのは少し見ない間に偉くなるのさ」
「やかましいわ!」
ムカついてアルタリアに野菜スティックを投げつけるが、見事にキャッチされそのままむしゃむしゃ食べられた。
「ああ……もういい。変な話は聞きたくない。 アルタリア!ちょっと面かせ! 少し用事があるんだ! 最近暴れ足りないだろ? 付いて来い!」
これ以上変態共のトークを聞きたくなかったため、アルタリアに手招きした。
「やっとクエストに行くのか! やったぜ! 他の奴らと組むのはしっくりこねえんだよなあ!」
「お前またやったのか? 勝手に人様のパーティーに潜りこむなって言っただろ! ただでさえ低い俺の人気が下がるだろ!」
一日一殺をモットー、いや一日に数匹は殺さないと気がすまないアルタリアは、家に篭るのは我慢できないようで、勝手にモンスターを狩りに行く。別に行くこと自体はいいのだが、他人のパーティーを追跡して大物だけ掠め取るという行動をよく仕出かす。
それで他の冒険者から嫌われている。しかも俺が怒られる。いや、こんな奴を制御するのは無理だろ。何度言っても止めないし。
「クエストなら私も行きますよ」
「いやいい。レイ、お前は店番をしといてくれ。クエストじゃない。別の用事だ」
いそいそと準備をするレイに告げた。
「ああ? クエストじゃねえの!? だったらつまんねえよ! 素振りでもしたほうがマシだぜ!」
「安心しろアルタリア。クエストではないが、お前のその破壊力がいる。十分暴れられるぞ?」
「じゃあ行く!」
暴れられると聞いて即答する脳筋。相変わらずぶれないな。
「アルタリアが行くのに私が留守番……? 私では駄目なのですかマサキ様? どうしてです? 私にも出来ます! なんなら今すぐモンスターの首をここに並べて持ってきましょうか?」
「そうじゃない、レイ。今回の仕事は簡単でな。俺の最も頼りになる仲間、アークウィザードが出る幕じゃない。それにこの家は大事な収入源だ。その守りを任せたい」
店番と告げられ、興奮して魔力を高めるレイを落ち着かせる。
「今なんて言いました? 最も頼りになる仲間? もう一度言ってください!」
「じゃ、レイ。留守番は任せたぞ。行くぞアルタリア」
レイのお願いをスルーし、アルタリアと共に出かけた。
俺はこのサトー商会での儲け、更に裏でやってる八咫烏としての事業をあわせれば、それなりの大金を手に入れていた。だが金を持っているだけでは意味がない。金には使い方がある。それを実行することに決めた。
「いいかアルタリア。金の力は確かに強い。だが持っているだけでは真の力とはいえん。お前も貴族のはしくれ。いずれアレクセイ家を継ぐなら、権力の使い方を教えてやる」
「んあ? つまりなにがいいたいんだ?」
せっかくの演説も、低知力のアルタリアには難しかったようだ。
「…………。合法的に暴れさせてやるから来い!」
「それなら簡単だ!」
二人で町を歩いていく。みな俺たちの姿を見ると黙って道を開け、子供は影に隠れる。それが俺の日常だ。もういいかげん慣れた。いや慣れたがやっぱりなんか傷つくな。そんなに嫌われることしたかな? したなあ。
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「この店だな」
俺たちは目的地にたどり着いた。
「なんだここ? 寂れた店だな? マサキ、一体ここに何の用があるんだ?」
商店街の中にある、不味そうな料理店を目にしてアルタリアが尋ねる。
「すぐにわかる」
俺がそう答えると、すぐさま店主が飛び出してきた。
「こ、これはマサキさん! この度は一体何の用で?」
店主のおっさんが俺にもみ手をしながら近づいてくる。
「わかっているだろう? 借金の催促だ。とっくに期限は切れているんだが?」
そう、俺は手にした大金を使い、金貸しを始めた。金は使わなければ意味がない。どう使えば最も権力を手に出来るか考えた結果、金貸しという答えにたどり着いた。名付けてサトー・ファイナンス! そのままだけど。
「い、いやサトーマサキさん? もう少し、いやあと数日だけ待ってください! 借りた金は利子もつけて必ず返しますんで! もうすぐ金が手に入る予定なんです」
土下座をする店主だが。
「その返す手というのは……博打のことかな? ご主人、あんたはうちから金を借りといて、毎日毎日賭博場に行っては負けを繰り返しているね」
「な、なんのことかな? わかりませんな」
そう聞くと、目を反らすおっさん。
「ほう? しらばっくれるのか。俺の情報網を甘く見るなよ? 一山当てればうちの借金も今までの負けも全部返せると思ってるようだが。それは甘いな」
ちなみに、このおっさんが賭場に出入りしているのをなぜ知っているか?
答えは簡単だ。その賭場を仕切ってるのは俺だからだ。正体は隠しているが。
「い、いいや。今度こそ勝てるんです! ですからお願いします! もう少し取り立ては待ってください。お願い――」
「もういいご主人。あなたからは期待していない。借金の担保になっている、この店をいただく」
最終通告をつげ、契約書を見せ付けた。
「その店がないと……私には生きる当てが……」
「何を言うご主人。元々こんな寂れた店、まともに営業もしてなかっただろう? そうでなければうちに金を借りることもなかった。誰かの元で真面目に働くんだな。今度はギャンブルなんかに頼るんじゃないぞ。アルタリア!」
すがりつくおっさんを無視してアルタリアに話しかける。
「んあ? なんだマサキ?」
「この店を破壊しろ。徹底的にやれ。『サトー・ファイナンス』を、この俺をなめるとどうなるか教えてやる。ぶっ壊せ!」
アルタリアに命じた。
「え? いいのか? 人んちぶっ壊すのは犯罪じゃねえか? ドアならつい破壊しちゃうことはあったけどよ?」
ためらうアルタリアに。
「問題ない。この店はたった今から俺のものになった。俺のものをどうしようが勝手だ。やっていい。ただ、隣は俺のじゃないから、巻き込むなよ」
「本当? 本当だな? だったら思いっきりやってやる! ひゃっはーー!! 一度人んちを思いっきり壊してみたかったんだ! オラアア!!!」
クレイジーな女剣士は、躊躇なく店を壊し始めた。
「な、なんでこんなことを! やめてください! なにも壊すことは!?」
「これは見せしめだ。俺が街の嫌われ者だから、金くらいごねれば何とかなると思ってたな? これはその答えだ。そして他の奴らへの警告だ。金はきちんと返せ。俺が言いたいのはそれだけだ」
アルタリアが次々と店を粉々にしていった。最近まともにクエストにいってなかったからか、あいつも色々と溜まってたようだ。
「オラオラオラー! オラア!!」
「ひええ……」
「アレはアルタリアじゃないか! 止めなくていいのか!?」
「なんてことだ! マサキ! よせ!」
一つの店が粉砕されていくのを、怯えてみている街の住民達。
「はぁ、はぁ! いっぱい暴れてスカっとしたぜ! マサキ! 他に壊していい家はないのか!?」
家を無残に破壊し、やりきった顔で笑顔を浮かべるバーサーカーが尋ねる。
「今のところはそこだけだ」
「なんだ! つまんねえ!」
つまんなそうな顔をするアルタリアに。
「今のところはな。まだな。そのうちまた出てくるかもな」
邪悪な笑みを浮かべて答えた。
その場に崩れ落ちる店主、それから俺に恐怖の眼差しを浮かべる住民たちを見て、満足し引き返すことにした。
「今回の目的は終わった。帰るとしよう。これでこの先、俺に逆らうとどうなるか、よく心に刻んだはずだ」
俺に借金をしているのはこのおっさんだけではない。商店街の他の店も金額に違いこそあれど貸している店舗は多い。
このおっさんはあまりに悪質だったから制裁をしたのだが、これで他の者への示しが付く。
「では帰るか。レイとマリンが待っている」
ご機嫌でアルタリアと帰路に着いた。
「この世界の暮らしも悪くないな。収入はあるし、危険なクエストに行かなくても利子だけで食っていける。気楽なもんだ」
「ああ? そんなのつまんねえよ! 戦いがしてえんだ! 私は」
駄々をこねるアルタリア。
「たまには行ってやるよ。だから安心しな。それにやるならすごいモンスターを倒そう。お前達の力と、この俺の策略が合わさればどんな奴だって敵じゃないさ」
「おう!」
この世界に飛ばされ、しかも頭がおかしい奴ばかりとパーティーを組まされた。最初はどうなるかと思ったが、今ではすっかりなじんだ気がする。このままこの街の名士として生きるのもいい。商売次第では更に勢力を拡大できるかも。この世界も中々いい世界じゃないか。
そう思っている矢先。
『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で集まってくださいっっ!』
街中に緊急のアナウンスが響き渡った。
『緊急! 緊急! 全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で冒険者ギルドに集まってください! 魔王軍の襲来です!」
俺は思い出した。俺を送り込んだ頭の悪そうな女神が言っていたことを。
『今、ある世界でちょっとマズイ事になってるのよね――』
そう、この世界では魔王がいて、魔王軍の侵攻で人間達はピンチで――
この世界で死んだ人達は生まれ変わるのを拒否するくらい魔王軍を怖がってて――
生まれ変わりを希望するものは、特別なチート能力を特典として渡してくれる――
それが意味することを。
「魔王軍だって? どうしてこんな辺鄙な場所に!?」
「もうすぐ城壁が完成するって言うのに! なんでこのタイミングで!」
「ここは魔王城から離れているから安全じゃなかったのかよ!」
混乱する人々に、慌ててギルドへと向かう冒険者たち。
彼らの姿をみて理解した。
俺は所詮この街で粋がっていただけだ。あまりに上手くいったので慢心していた。
安全な生活なんて、魔王を倒さない限り訪れない。
「魔王軍か。どうやら戦いを避けては通れない様だな」
仲間たちと合流し、ギルドへと急いだ。
やっと次回、魔王軍との戦いです。
マサキ、アクセルの街、ベルディア、今まで登場したキャラクター全てを巻き込んだ戦いを始めます。