この素晴らしい世界にデストロイヤーを!   作:ダルメシマン

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一部 2話 アクシズ教アークプリースト!

「おーし、ご苦労さーん! 今日はこれで上がっていいぞ! ほら、今日の日当だ」

「どうもです。お疲れっしたー!」

 

 親方の仕事の終了の声で、俺は日当を受け取ると挨拶と頭を下げる。何故こんなことになったのかと言うと。

 

 受付の美人にビンタされギルドを飛び出した後。俺はこの魔道具を使い色々試してみた。二人組みの仲よさそうな冒険者カップルがいたので眼鏡で除き、「その男は本命が他にいますよ。あなたはただの遊び相手でいつか捨てられますよ」と言ったら男女双方からリンチに合った。

 また街で井戸端会議をしているおばさんたちに、「今あなたの家に泥棒が入ろうとしてますよ」と忠告したところ、相手にされなかった上、実際に被害にあってからは俺を犯人扱いされて追い回された。

 

 

 そこで俺は一つの結論にたどり着いた。金を稼ぐならこの魔道具を使わずに普通に働こうと。幸いこの街は一手不足で城壁もまだ建設途中だ。仕事は溢れている。それに調べた結果八百エリスは大体八百円に相当するらしい。八百円程度ならすぐに稼げるだろう。そう判断して肉体労働に向かうことにしたのだった。仕事はキツくて何度もバックレようと思ったが、一日だけだからとなんとか我慢した。

 

「お前宿も何もないんだろう? だったら馬小屋で寝ることになるな。チッ運のいい奴め」

 

 親方は別れる前、不思議な事を言った。馬小屋と言うのは冒険者生活でも最低の場所じゃないのか? 運がいいとはどういう意味だろう? さっぱり意味がわからない。

 その疑問は、いざ俺が馬小屋に着いたときに理解できた。

 

「なんだここ? 馬小屋だよな? えっ?」

 

 思わず声が出る。俺が知ってる馬小屋と違う。まず壁はピカピカに磨き上げられており、馬の糞も綺麗に片付けられている。藁も見事に編まれており、普通の布団で寝るのと変わりない。下手をするとその辺の安い宿よりも快適かもしれない。

 

「どうなってんだ? ここ馬小屋だよな? 馬小屋にもスイートルームとかあるのか?」

 

 俺は気になって隣の馬小屋を覗いてみた。するとどうだろう。そっちもまたこの部屋と同じく綺麗に整理されていた。

 

「知らなかったぜ。異世界の馬小屋がこんなに素晴らしい場所だなんて。よくゲームで馬小屋で寝泊りするとかあるが、これならつい泊まりたくなる気持ちもわかるよ」

 

 俺はそう思いながら今夜はもう寝ることにした。どうして馬小屋がこんなに綺麗なのか、それは後にわかることになるのだが……。

 

 

――冒険者ギルド――

 

 

「オラッ! 登録料持ってきてやったぞ! これで満足だろ! この俺をとっとと冒険者にしやがれ!」

 

 次の日の朝一番に俺は冒険者ギルドの扉を開け、八百エリスを叩きつけて受付に行った。巨乳の女性の方は俺の顔を確認するやいなや立て札を退席中に切り替えて奥で警戒して睨みつけてくるため、やむなく男性の受付に向かった。

 

「クソ! なんで野郎なんかに頼まないといけないんだよ!」

「そりゃこっちの台詞ッスよ。可愛い冒険者の女の子なら歓迎なんですけどねえ。ハイハイじゃあやりますよ。登録登録。こっちのカードに触れてくださいよ。それで潜在能力がわかったりするから。後は……ジョブとか、クラスとか、もういいか。そこにある用紙を勝手に読んでて」

 

 ゆとり野郎。と心で俺が勝手に名づけた青年は、めんどくさそうに適当に説明した。こいつ! ぶん殴りたい! とも思ったが、すでに二人いた受付のうち片方から嫌われているため、彼まで怒らせたら俺をサポートしてくれる者が誰もいなくなるため我慢することにした。

 よし、気持ちを切り替えよう。

 ここで俺の凄まじい潜在能力が発揮されて、ギルド内が騒ぎになったりするかもしれない。まぁギルドはガラガラだけど。

 俺はゲーマー? だったがそんなに腕前が上手かったわけでもない。そもそも強ければチートなんかに頼らない。だから上級者には憧れてはいたものの、まっとうに勝負して勝てるなんて思いもしなかった。

 でもここは異世界だ。ゲームじゃない。もし俺に隠された才能があるなら、今までの卑怯なプレイスタイルは封印して、真面目な冒険者として生活するのも悪くはない。俺は人生をやり直す期待を込めて冒険者カードに触れた。

 

「……はい、もういいッスよ。サトーマサキさん、ですね。潜在能力はなんか、普通……っていうか平均ッスねえ。凄いですね。ステータスが見事に横並びですよ。ぶっちゃけどんな職業でもやってけるんじゃないッスか? ああ、上級職は絶対無理ですけどね」

 

 俺の真っ当な人生を送る夢は見事に打ち砕かれたようだ。よし、これからも今までどおり、ズルばっかの卑劣で外道な道を歩んでいこう。俺は心に決めた。

 

「でさあ、君。オススメの職業とかないの?」

 

 どんな職業でもやれると聞いた俺は、受付のゆとりに聞くことにした。なんでもいいと言われたら逆に迷う。

 

「ステータスにバラつきがあれば色々アドバイス出来るんスけどねえ。サトーさんはガチで横並びですからねえ。好きな職業でも選べばいいんじゃないッスか? 盗賊職やプリーストはあまりなり手がいないようですしどうですか? きっと優遇されると思いますよ?」

 

 ゆとり君はそんな価値のある情報を教えてくれた。いやゆとり君と名づけて悪かった。君は立派なギルドの受付だよ。心で訂正した。

 

「盗賊かプリーストか。そんなのより魔法使ったり騎士になったりするほうがかっこいいと思うんだけど」

「そんな冒険者なら溢れてますよ。かっこいいからこそみんなやりたがるんスよ。それよりせっかくの万能なステータスを生かしたほうが……。まあ別に止める気はないですけどね」

 

 ヤレヤレと言った風に語りかけるゆとり君。もといギルド受付。態度はちょっとイラつくが、彼の言う事にも一理ある。非戦闘用のチートを貰った俺が魔法使いや騎士になったところで大した活躍は出来ないだろう。うーむ、悩むな……。

 

「そんなに悩むんなら基本職の《冒険者》なんてどうッスか? 最弱職と呼ばれてはいますが全ての職業のスキルを覚えることが出来る万能職ですよ。ていうか器用貧乏なんですけどね。なりたい職業が決まるまでとりあえず《冒険者》で。後からジョブチェンジすればいいですし」

「……よし、じゃあ冒険者でお願いします」

 

 俺の職業は冒険者に決まった。

 ともかく、最弱なクラスに就いたらしい。

 だが、これは始まりに過ぎない。この先待ち受ける冒険に合わせて、職業も変えていけばいい。

 全てはここから始まるのだ。

 ちょっと感慨深く、俺の名前とともに、冒険者レベル1と記されたカードを手に取ると……。

 

「このスキルポイントってなに?」

 

 俺はカードにスキルポイントと書かれた欄を見て、受付の兄ちゃんに聞いた。

 

「ああスキルポイントってのはですね。クラスに就いた時に貰える、クラススキルを習得する為のポイントの事ですよ。おおサトーさん、あなた最初から5の初期ポイント貰ってますよ。よかったじゃないッスか。基本職の冒険者なら、あとは誰かに使いたいスキルを教えてもらえば、そのポイントに応じてなんでも習得することが出来ますよ。詳しい話はそこに書いてある紙を読んで」

「そういうシステムになってるのか。で、俺はとりあえず誰かから教わればいいのか。ん? なんだこれ?」

 

 

 俺は話を聞き頷いていると、冒険者カードの一覧に何か書いてあることに気がついた。習得可能スキルがある。おかしいな。目の前の受付が言った話によると、冒険者は誰かから教わらないと出ないはずだ。それなのになぜ習得可能スキルがあるのだ? もしやこれが俺に隠された真の力なのか。なんか名前もかっこいいし。

 

「よし! これだ! 習得! 『花鳥風月』!!」

 

 俺は花鳥風月を覚えた。

 5あったスキルポイントが消費され、残りスキルポイントが0になる。

 

「見せてやる俺の新たなる力! 『花鳥風月』を!」

 

 俺はスキルを覚えたことが嬉しく、早速その場で使うことにした。

 

「あっ、そのスキルは」

 

 俺の冒険者カードを見て呟く受付。驚いてるのだろうか? それもそうだ。これはどう見ても強そうなスキルだ。そして俺の手に何か。多分魔力的なものが集まっていく。そして。

 

 

 ポンッと小さな種が転がった。受付のテーブルの目の前に。えっ。なにこれ? もしかしてここから大きな花が咲いてモンスターをやっつけるとか? 花鳥風月という名前から、俺はそんな展開を予想した。

 

「宴会芸スキルですね。どこでこれを覚えたんですか? まだまだ未熟のようですが、見たのは初めてですよ。ああ凄い凄い」

 

 パチパチと拍手をする受付。

 いや待て。こいつ今なんて言った?

 宴会芸スキル? ってことは戦闘で全く役に立たないってこと?

 宴会芸の癖になんて大層な技名だ。しかも俺はこの芸を習得するのに全部のポイントを使ってしまったぞ?

 そもそも何で俺がこんな技を覚えていたんだ? 俺の隠されたスキルが宴会芸だとでも言うのか?

 いや待て。思い出せ。これをどこかで見たことがあるぞ。確かニョキニョキと蔓が出てきて花が……。

 

「あの女神が最後にやってた奴か! 俺を送る直前に! 宴会芸の癖に無駄な名前付けやがって! こんなクソ技を覚えるために俺は貴重なポイントを全て消費したのか! あのクソ女神今度合ったらぶん殴ってやる!」

 

「ププッ。いやあ受付の仕事をして日は浅いんスが、最初に宴会芸スキルを覚える人なんて始めて見ましたよ。プププッ。ハッハッハハハ」

 

 憤る俺の前には、笑いをこらえる気すらない受付の青年。よし、こいつも殴るか。

 

「も、もしかしてそれは……伝説の宴会芸スキル、花鳥風月ではないですか?」

 俺が受付と取っ組み合いの喧嘩をしていると、急に後ろから女性から話しかけられた。

 

「なんだ、お前も俺を笑いに……ってお前は!!」

 

 俺は声の方へ振り向く。そして思わず声を上げてしまった。なぜかというと、目の前にいる女性は、見覚えがあったからだった。

 

「てめえ俺を送り出した駄女神じゃねえか! いい所に現れたな。宴会芸に紛らわしい名前付けやがって! 今丁度文句が言いたかったところだ!」

 

 その一度見たら忘れないであろう透き通った水色の髪、その髪と同色の透き通った水色の瞳を持つ美少女がそこにいた。よくものこのこと顔をだせたものだな。ここはひとつガツンと言ってやろう。

 

「花鳥風月! 間違いなく花鳥風月だ! やはり預言書は間違っていなかった! ああありがとうございますアクア様! この出会いに感謝します!」

 

 俺が怒りの矛先を水色少女に向けようとすると、その少女が転がった種を見てそんなことを叫び始めた。

 ……アレ? なんだこの反応?

 

 

「ちょっとまって、ええっと」

 

 俺はもう一度水色の少女の姿を確認する。透き通った水色の髪と瞳。そこはあの女神にそっくりなのだが、来ている羽衣っぽい服がちょっと違う。女神の方は無駄にキラキラと輝いていたが、この目の前の水色の女性はよく似ているが普通の生地だ。一番の違いは羽衣をマフラーのように首に巻いていること。そしてどこか子供っぽい印象もあった女神と違い、顔つきが大人びている。

 ああ、別人だコレ。

 

「ごめん、人違いだったよ。つい昨日の事なんだが、君によく似た格好をした女性に会ってね。そっちの方に用が会ったんだけど。君には関係ないんだ。ほんとすまなかったね」

 

 女神にそっくりの姿をした美少女に俺は軽く謝った。だが。

 

「アクア様に出会ったのですか! もしかしてあなたは勇者候補の一人ですね! で! どうでしたか! アクア様はどんな姿でしたか! この私とよく似ていますか!」

 

 女神そっくりの水色少女はそんなことを言いながら、なぜか俺に食いついてきた。

 

 

「アクア様? ああ俺を送った女神の名前だったな。それがどうかしましたか? ええっと、あの人の知り合いか何かで?」

「私はアクア様を崇めるアクシズ教徒のアークプリースト! 名前をマリンと申します! で、勇者様! 教えてください! アクア様はどのようなお姿をなさっておいででしたか!? 私もなんとかあのお方に近づこうと日々努力しているのですか……。間違いがあれば教えてください!」

 

 マリンと名乗ったプリーストは俺になおも食い下がってきた。どうやらこの目の前の美少女は、あえてあの女神の衣装を真似ているらしい。女神のコスプレイヤーか。どうりで間違うはずだ。

 

 

「どうですか? 私はなんとか姿だけでもアクア様に近づこうとしているのです! そのために日々努力しています。教えてください勇者様!」

 

 勇者様か。悪くない。悪くない響きだけどまだ俺はスライム一匹倒してない雑魚だぞ? そう呼ばれるのはまだ早いと思う。もうちょっと活躍してからでも……。ちょっとはがゆい思いをしながら質問に答えてやった。

 

「ええっと、まずあの女神は羽衣をそんな風にマフラーにしてなかったね」

「ぐっ。それはわかっています。私もヒラヒラと自然に体に引っ付くようにしたかったのですが、構造の問題で仕方なく首に巻いているのです! で、他に間違いは?」

 

 まぁ確かに普通の人間が羽衣を背中につけるのは無理があるよな。仮に強引に接着剤で付けたとしても邪魔になるだけだろう。ああいう無駄な装備は神とかじゃないと出来ないよね。

 

「それと、顔つきかな? あの女神はもうちょっと子供っぽい顔だった。あなたは彼女よりも年上に見えるね。女神の年齢なんてわかんないんだけどね。これは君の顔が老け顔って言うわけじゃないよ? 賢そうで、むしろ君の方が女神っぽいと思うんだけど?」

「あああああ! ぐっ! なんていうこと! なんていうことですか! 私の顔がアクア様より! ああどこかに若返りの薬があれば! どこかにないですか!」

 

 軽くフォローを入れたつもりだったのだが、そんなことお構い無しに叫びながら頭を地面にガンガンと叩きつける水色の女性。

 うっこいつ絶対ヤバい。そんなに頭をぶつけて痛くないのか? ていうかそんな理由で若返りの薬とかいうチートアイテム欲しがるなよ。

 

「じゃあ俺はこれで」

 

 俺はその危ないコスプレ女から離れようとする。だが足をがしっと捕まれた。

 

「おっと、私としたことが取り乱してしまいました。オホホ……じゃなかったプークスクス! プークスクス! これがアクシズ教徒流の笑い方です。聞いてください勇者様! 私は預言書に導かれ、このアクセルという街に来たのです!」

 

 聞いてくださいと聞かれても腰にしがみつけられて逃げられないのだが。何コレ? 強制イベント? いいえという選択肢はないのかよ。美少女に抱き付かれるのは大歓迎だが頭がおかしいのはごめんだ。

 

 

「この預言書によると、花鳥風月使うものアクセルに舞い降りる。その時こそアクア様が地上に降臨なさり、勇者と共に魔王を倒すことになる。そう書いてあるんです! その花鳥風月を見るに! あなたこそがまさしくその予言の選ばれし勇者に違いありません!」

 

 勝手に話を続けるコスプレ女。手には預言書……といってもただの落書き帳にしか見えないのだが。

 

「ちょっとなんなのこの人! おい誰か何とかしてくれ!」

 

 俺が周囲に助けを求めると、目が合った受付くんはすぐさま退席中に札を切り替えて奥に逃げていった。

 この冒険者ギルドの奴ら、みんな嫌いだ。

 

 

「さあ選ばれし者よ! アクア様が降臨なさるまで! あなたの事はこの私マリンがお助けしましょう! ではいざ行きましょう冒険の日々へ! 悪魔殺すべし! 魔王しばくべし!」

「ちょっと何を勝手に決めて! 待って! 待ってくれって! おい!」

 

 この頭のおかしな女からは逃げ出したいのだが腕を掴まれて何も出来ない。そのまま外へ引っ張られていく。なんて力だ。こいつ本当にプリーストか? 

 

「あ、そういえば勇者様、お名前はなんと言うんですか?」

「そういうのは最初に聞くもんだろうが? 佐藤正樹だ」

 

 ふと気付いて振り向くマリンの質問に答える。

 

 

「ではこれからよろしくお願いしますねサトーマサキ様。オホホ……じゃなかったプークスクス!」

 

 笑い方をわざわざ訂正して、笑顔で俺の名前を呼ぶ水色の目と髪のマリン。そういえばあの女神もこんな笑い方してたな。合った事もないのになんでわかったのだろう? ひょっとしたら彼女の予言は本物なのかもしれない。ってことは俺が魔王を倒す勇者? それはいいな。素晴らしい。

 

 仲間が一人できました。

 




・マリン
水色の髪と瞳をしたアクシズ教のアークプリースト。
アクアへの献身ぶりは度を越えており、姿まで真似するほどである。
自分の事をアクシズ教の預言者だと思っており、その言動は他人から見ればただの痛い子である。
高いステータスを持つが、彼女の行動は他のアクシズ教徒からも疑問視されている。半分異端者扱いである。

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