この素晴らしい世界にデストロイヤーを!   作:ダルメシマン

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一部 26話 一世一代の茶番劇

「そう言って、私は貴族の令嬢を攫って行ったのだよ」

 

 

 目の前の骸骨が、っていうかまだギリ残ってた肉を消し飛ばしたのは俺だが、ようやく落ち着いたリッチーはそんな事を語った。

 ……なるほど。

 

「つまり要約すると、キールさんは悪い魔法使いというよりいい魔法使いだったと」

 

 キールの話を聞き俺はこくりと頷いた。

 

「「「なんていい話なんだ!」」」

 

 仲間たちも涙を流し、彼の話に感動する。

 

 

「私は野蛮なエリス教徒と違って慈悲があります。彼らと違い、アンデッドを問答無用で消し去るなどという真似はしませんよ! キールさん、あなたの行いは決して悪いことではありません。アクア様の名の元に! きっと許されるでしょうとも!」

 

 マリンが熱心にキールの手を握り、尊敬の眼差しでリッチーを見る。

 

「愛です! 愛の物語です! 私と同じく純愛に生きたんですね! 素晴らしいです! キール!」

 

 レイ、お前はどう見ても純愛じゃないけどな。

 

「許せねえな国王の奴! 聞けば聞くほど腹が立ってくる! よし! 私も協力するぜ! 今すぐにでも引き摺り下ろして細切れにしてやろうぜ!」

 

 とアルタリア。お前仮にもこの国の貴族のクセによくそんなセリフが言えるな。普通に反逆罪だぞ。流されやすすぎだろ。

 

「いや、私と戦ったのは今の王じゃないから……別に恨みはないのだが?」

「そうか! じゃあ許してやっか」

 

 リッチーに宥められるポンコツクレイジー貴族だった。

 

 

 こうしてキールをふくめ5人で会話していると、外からゴンゴンと扉を叩く音がした。一体誰だよ? 面会謝絶だと言ったはずだが。

「おーい! マサキ? サトウ・マサキ!? 我が友よ! ベルディア騎士団、全員対アンデッド装備の鎧で、到着したのだが……? 共にキールを倒そう! というかキールはどこだ?」

 ベルディアだった。

 

「うるせえベルディア! 今重要な会議中なんだよ! 散々待たせやがって! 今更来ても遅いんだよ! もう用は無いから帰れ! その辺の冒険者のパンツでも覗いてろ!」 

 

 少しドアを開け、前に立つベルディアに怒鳴りちらした後、バタンと閉めて鍵をガチャっと閉めた。

 

 

「よし、邪魔者は消えた。話し合いを続けよう」

 

 騎士団長を締め出した後、しれっと席に戻った。

 

「そういえばお前の名前は、サトウ・マサキと言ったな!? まさかあの伝説の!? 建国の勇者サトウの末裔!?」

 

 今度はキールが俺にそんなことを言い出した。

 

「マサキ様! まさかあなた本当は勇者の一族だったのですか! 流石は私の愛しい人!」

「私の目に狂いはなかった! あなたこそアクア様と共に! 魔王を倒す選ばれし者! うん、サトウって名前だった気がしてきました! たぶん、いや絶対間違いない! 予言の名前はサトウです!」

「おいマサキ、本当か? お前本当に王の一族なのか? だったら丁度いいぜ! 今の王家をぶっ飛ばして新しい王になろうぜ! あ、そん時はダグネスを私の部下にしてくれよな!」

 

 その言葉に興奮する3人。妄信するレイに、あいかわらずいい加減なマリンの予言、そして物騒なアルタリア。特にアルタリアは俺をどうしたいんだ? 何も考えずに話すのはやめて欲しい。

 佐藤なんて日本では1、2を争うよくある名字なのだが……。おそらく俺が来るもっと昔に佐藤なんとかさんがあの女神から貰ったチートアイテムで魔王でも倒したのだろう。

 

「多分親戚でもなんでもないと思う。絶対他人だよ。俺の故郷じゃよくある名前だし。たまたま偶然だろ。しかし、伝説の勇者と名字が同じか……これは使えるかもしれない。貴重なお話をありがとう」

 

 どんな情報も無駄にしないのが俺のモットーだ。とりあえず礼を言っておく。

 

「なぁ伝説のサトウの末裔が、あんな卑劣な戦い方をするのはどうかと思うんだが? もっと王家らしくしなければ先祖が泣くぞ?」

「だから無関係だって言ってるだろ! そいつは別のサトウだ! 俺とは関係ない! たまたま被っただけだからな!」 

 

 なおもしつこく勇者扱いしてくるキールに告げた。

 

 

「つまりだ、キールさん。あんたは令嬢を守るためにここにダンジョンを作ったと。だが令嬢はもういない。なるほどしかしだな、ここにダンジョンがあるとアクセルにとっては非常に困るんだ。街の真横に攻略していないダンジョンがあると危険極まりないだろう? 正直言うと邪魔なんだ」

 

 とりあえず話をまとめていく。

 

「なんだと! 私にここから出て行けと!? 私もリッチーとなったからには、黙って出て行くなんて無様な真似は出来ない! 堂々と攻略に来い! そして私を倒すことだ! そもそも私がここにダンジョンを作ったときは、アクセルなんてド田舎で人など殆ど住んでいなかったぞ!? あとから来たのはお前達の方だ!!」

 

 キールが、流石に元稀代のアークウィザードのプライドがあるのだろう。出てけといわれ、少し怒って言い返すが。

 

「話は最後まで聞いてくれ、キール。まだ続きがある。つまりだ、つまりだな。この街の奴らにはキールを撃退したと、そう思わせればそれでいいのだ。キールさんは俺の嫌がらせにうんざりして別の場所に拠点を移した。そういう筋書きにしよう。キールは逃げたと見せかけて、ダンジョンの奥に隠し部屋でも作って有意義に暮らしてくれ。それなら全て解決だ!!」

 

 俺のプランを仲間とキールに打ち明けた。

 

「い、一応ダンジョンマスターの私が……ダンジョンをそんな形にするなど……」

「ではキールさん? あなたはまだ王国を恨んでいるのか? 人間に復讐したいのか? そうならば仕方ないが。俺としても人間にあだなすリッチーを黙って見過ごすわけには……いや別にいいか。俺さえ無事なら」

 

 キールに再度尋ねる。

 

「相変わらず最低の冒険者だな、勇者の末裔よ。だがなあ……そう言われるとな、別に王国とドンパーティーしたとはいえ恨んではないなあ。むしろ私も早くお嬢様と共にあの世へと行きたいかなあ?」

 

 キールも悩みだした。

 

「申し訳ありません。私が未熟で。もし私にアクア様ほどのお力があれば。あなたもお嬢様も共に天国へとお送りできたのですが……」

 

 マリンがキールに謝っている。マリンにはアンデッドの王リッチーを浄化できるほどの力がないからだ。

 

「気にしないでくれ、心優しきプリーストよ。全てはお嬢様を守るためにリッチーとなったのだ。悔いはないよ」

 

 慰めるキールに。

 

 

「よし、もうこれで決まりだな! キール! あんたはこれから俺達と戦ってもらう! 外にまだ残ってる冒険者にもよく見えるようにな! 軽いお芝居だ! 俺達は手加減して攻撃するから、あんたも手加減してくれ。それで適当に盛り上がったところで、あんたは捨て台詞をはいてテレポートする! いいな!?」

「え、ええ? なんとも強引だなあ。まだオーケーしたわけでは」

「どの道ダンジョンは破壊されるぞ? 街の発展に邪魔だからな。令嬢との思い出の詰ったダンジョンが無残に破壊されたいか、それとも無傷で明け渡し、あんたは影で悠々自適な生活を送るか。二つに一つだぞ? それとも本当に悪い魔法使いとして、この町の罪なき人々を脅かしたいのか?」

 

 キールに選択を迫ると。

 

「わかった、わかった。お前に乗った。勇者の末裔よ!? これは罠じゃないよな!? お前が外道なのは今日の戦いで嫌なくらい理解したが、流石に良心が残っていると期待するぞ」

 

 仕方なくといった風にキールは同意してくれた。

 

「安心してくれ。ここであんたを騙すメリットは何もない。俺が欲しいのはダンジョンを攻略したという結果だけだ。リッチーの強さはこちらも理解したしな。無駄な争いは避けたいんだ」

 

 こうしてキールと俺達は話し合いに同意し、お芝居でキールとバトルごっこすることに決定した。

 

 

「わかってるよなお前達も! これからキールと戦うが、それっぽく見せればいい。適当にやって後は流れでお願いします。いいな!?」

「どの道私ではキールさんを倒すことは出来ませんし……」

「炸裂魔法での演出は任せてください!」

 

 マリンとレイは頷いた。しかし一つ問題が残っていたのを思い出した。

 

「え? なに? このリッチーと一緒に王の首を取りに行くんじゃないの? えっ?」

 

 作戦が全く理解できてないアルタリアが聞き返してきた。

 

「はぁー。いいかアルタリア。キールはこれ以上罪を重ねたくない。かといって今更に人に戻ることは出来ないだろ? だから逃げた風に見せかけるの。わかるか?」

 

 ため息をつきながらアルタリアに再度説明するが。

 

「え? どういうこと? リッチーって強いんだろ? だったら遠慮なんていらねえじゃん。ムカつくやつはどんどん殺そうぜ? そういうもんじゃねえの?」

 

 駄目だな。こいつの知能じゃ無理か。戦闘に限ればそれなりに頭は回るんだがなあ。芝居とか無理かな?

 

「お前、剣振る。キールに当てない。オーケー?」

 

 必要最小限の事をカタコトで教えた。

 

「なんで?」

「意味など考えるな! お前の知能じゃわからん! もしその通りにしてくれたら! 新品の剣を買ってやるから! わかったな!?」

「本当だろうな? だったらやってやる! ええっと? 剣を当てなければいいんだな!?」

 

 ようやくアルタリアに教えることが出来た。これで準備は整った。

 

 

 

 

「では行くぞ! キール! 打ち合わせどおりに!」

「わかったぞ勇者の末裔よ! いざ!」

 

 俺たちとキールは立ち上がり、合図する。だがちょっと待って欲しい。

 

「ストップ! あの……その勇者の末裔って呼ぶのやめてくれませんかね? 王家とか魔王とかに目を付けられるとこっちもこの先困るんで」

「断る! この稀代の天才と呼ばれたキール! 名も知れぬ冒険者に破れたとなると沽券にかかわる! お嬢様にも顔向けできん! せめて相手が勇者ならば納得してくれるだろう!」

 

 彼なりのプライドがあるのだろう。しゃーない。

 

「わかったよ! 好きに呼べ! でも何度も言うが絶対赤の他人だからな! じゃあ気を取り直して、バトル再開だ!」

 

 俺とキールが頷きあった瞬間、レイが避難所のドアを炸裂魔法でぶっ壊した。

 

 

 

「なんだ!?」

「いったい何が起きた!?」

「確かマサキとキールは話し合いしていたはずだぞ!?」

 

 外で様子を伺ってた冒険者達が驚きの声をあげる。

 

 

「フハハハハハ! 愚かな魔法使い、キールめ! まんまと俺の罠に引っかかりやがって!」

 

 俺がそう高笑いを上げる。言っておくがこれは演技だからな。実際に騙したわけじゃないぞ。

 

「お、お、おのれー! 勇者の末裔め! こっこっここ小癪な真似を! よーよーよーよくもこの私に毒を盛ったなあー!?」

 

 キールさん、演技力無いなあ。めっちゃ緊張してるし。声も震えてるし。っていうかなんで最後疑問系なんだよ。

 

 あとそれ以外にも突っ込みたいところがある。

 

「あ、あの……? キールさん? 少し聞きたいんだけど、リッチーって毒効くの?」

 小声でこっそり話しかけると。

「えっ? ああ効かないなー」

 

「…………」

「…………」

 

 少し間が開く。どうすんだこの空気。

 

 

 

「炸裂魔法!」

 

 レイがその辺を爆破させる。いいぞよくやった。これで少し間が持つ。

 砂埃の中でキールとコソコソと会話する。

 

「毒はないだろ毒は。あんた自分がリッチーだということを忘れてるだろ? 状態異常無効なんだろ?」

 

「す、すまん。つい。こ、これからは上手くやるから……ままままま任せてくれ」

 

 正直不安しかない。そろそろ埃も晴れてくる。

 

 

 

――仕切りなおしてフェイズ2

 

「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ、勇者の末裔よ! よくも私を罠にかけたな! おいしい水といいながら聖水を5リットルも飲ませおって……!」

 

 いや気付けよ。5リットルもなに飲まされてるんだよ。それじゃあただの馬鹿じゃん。

 

「アンデッドの最高位であるリッチーには、聖水と言ってもそれくらい飲まされなければ効果が……ないのだ!」

 

 今度は自分で解説を始めるキール。しらねーよ。

 これ以上このおっさんに喋らせるとボロが出そうだな。派手なバトルで誤魔化すしかない!

 

「グダグダうるせーーー!! ここで終わりだキール! お前はよく戦った! だがこの俺の前に滅びるがいい!」

 

 やけくそで槍を構え、キールに突撃した。

 

「ふ、ふ、ふ……来たな勇者の末裔よ! だがこの私に! ただの槍など通じないぞ!? 聖なる力を宿した武器で! このかりそめの体を撃ち破らなければな! そのあとプリーストによって浄化魔法を食らわせるのだ。さあ来い!」

 

 自分の倒し方をわざわざ説明してくれるキール。もう正直黙ってて欲しい。

 

「なぁ? あいつはなに言ってんだ?」

「本当に戦う気あるのか?」

 

 ギャラリー共がキールの様子を見て首を傾げだす。奴がここまで大根役者だったとは想定外だ。

「炸裂魔法!」

 

 レイがその辺を爆破させる。また砂煙で周りから身を隠す。

 

「なあ、キールさん。お願いだからもう何も喋らないでくれ」

 

 小声でキールに告げる。

 

「なんだと!? 私だって必死なんだぞ?」

「これが芝居だとばれたら意味ないんだから。やられる振りだけでいいから。それ以上期待しないから。頼む」

 

 またしてもコソコソ会話した後。

 

 

 

――仕切りなおしてフェイズ3

 

「死ね死ね死ねー!! キール死ねーーー!!」

 

 もう力技で乗り切ることにした。槍でキールに突きまくる。

 

「ちょっと! いたっ! いたっ! 聞いてないぞ?」

「うるせー! こんなんでリッチーが死ぬわけないだろ? 少し我慢しろ!」

 

 キールに怒鳴りつけて戦闘再開。もうどうにでもなれ! 後で何とか誤魔化せばいい!

「マサキ! 手を貸すぞ!」

 

 全身をフルプレートの鎧で包んだ騎士が、俺の元に駆けつける。

 ベルディアだ。

 普段なら頼もしい騎士だが、正直今は話がややこしくなりそうだからどっかいってて欲しい。

 

「ありがたいがベルディア! こいつの始末は俺たちで付ける! 手を出さないでくれ!」

 

 ベルディアの加勢を断るが。

 

「なんだと!? マサキ正気か? 相手はアンデッドの王リッチーだぞ? 普通の武器で傷つくものか! 俺のは安心しろ! きちんと教会から加護を受けてもらったのだ!」

 

 とベルディア。用意周到なのはありがたいけど、今は勘弁して欲しい。

 

「いいからどっかいけ! キールはこの俺が倒す! 経験値はやらないぞこのハイエナが!」

「ちょ! やめ! マサキ!? なぜ俺を攻撃するのだ!? 相手は悪い魔法使いキールだ! 俺じゃなくてキールを狙え! 王の敵を倒すんだ!」

 

 ベルディアに槍を振り下ろしてけん制する。うん、これ後でどうやって説明しよう。グダグダだ過ぎるぞもう。

 

 

「そこの騎士の言うとおりだぜ! モタモタしてんじゃねえよ! オッラーーー覚悟しろキール! ぶっ殺してやるぜ!」

 

 そんな俺とベルディアのやり取りを見て焦れてきたのか、アルタリアがキール目掛けて飛び出していった。

 

「おめーは悪い魔法使いなんだろ? だったらここでぶちのめしてやるぜ!」

 

 殺気を込めてキールに襲い掛かる。

 

「な、なんという演技力だ……。本当にやられそうだ。やるな女騎士!?」

 

 アルタリアの気迫に感心するキール。

 すまんキール。

 たぶんアルタリアは作戦わかってない。

 きっとベルディアが倒せって言ったからその気になったんだろう。本気で殺しに行ってる。

 

「オラア! 死ね死ねキール!!」

 

 アルタリアの剣が次々とキールに振り下ろされる。

「ちょ! ちょっと! なんて威力だ! っていうか痛いわ! 骨が壊れそうだ!? 少しは手加減してくれんか? ちょ今絶対折れたぞ!」

 

 キールは約束を守っているため防戦一方だ。そこへ振り下ろされるアルタリアの思い一撃。キールの体がきしんで音を立てる。

 さっきまで一緒に王を倒すとか言ってたクセに。容赦なくキールを殺しに行くアルタリア。戦えれば何でもいいのか? バトルバカにもほどがあるだろ。

 話が違うぞ! っというふうな目でこっちを見つめてくるキール。うん、すまん。アルタリアに芝居とか無理だったわ。こいつは置いて来れば良かった。

 

 

『バインド』

 

 俺はアルタリア目掛けて捕縛スキルを作動させた。

 

「ぐうっ! なにをするマサキ!」

 

 文句を言うバカは無視して。

 

「おのれキール! かっては貴族令嬢を攫い! 今度は貴族令嬢を盾にするとは! 中々の悪い魔法使いではないか!!」

「「「えっ!?」」」

 

 俺の言葉にキールを含む全員が声をあげた。

 

「いや、どうみてもアルタリアを狙ってたよな?」

「マサキがアルタリアを止めたようにしか見えなかった」

 

 疑問の声をあげるギャラリーに。

 

「えええ? 貴族令嬢? こいつが? えっ!?」

 

 キールは別の事に驚いていた。俺は睨みつけて合図を送ると、ようやくキールは頷き。

 

「そっそそう! 私は悪い魔法使いキール! 貴族令嬢を盾にする、したぞ! どうだ、悪いだろう?」

 

 アドリブ下手だなこのおっさん。

 どうしよう。このままだと絶対疑われる。なんだよこのアホみたいな戦い。マジで困ったぞ。

 

 

「そろそろ私の出番ですね」

 

 俺が頭を抱えて困っていると、マリンがスッと前に立った。

 

「キール……哀れにも人の理を曲げ、リッチーに身を落とした悲劇の魔法使いよ。だが安心しなさい。アクア様は全てお許しになるでしょう」

 

 プリーストらしいことを述べながら、最前線に立った。

 

「せめて最後は安らかにお眠りください。では参ります。魂の鎮魂歌を!『セイクリッド・レクイエム』」

 

 マリンがゴミ(女神の杖に似せた棒っきれ)をマイクのように持ちポーズを付ける。なんだ? なにを始めるんだ?

 

 

 

 

 タイトル:アクア様に捧げる歌

 作詞、作曲:マリン

 

 アクア様はすごいー! マジですごい!! かっこいいし愛嬌もあるZE!!

 神の中の神! 神々の頂点に立つ女神! パット神エリスなんかぶっとばせーイエー! ホゥ! ホゥ!

 魔王なんて三秒でしばける! アンデッドは全て浄化! エリス教徒も跪け!

 その名は ア! クア! ア! ク! ア! アクア様! ああアクア様 アクア様!

 この世界に君臨する遥かなお方!! アクアブローは岩をも砕く! シャアアアアーーー(シャウト)

 オラオラオラオラオラ! アクシズ教徒のお通りだ! アクア様の降臨だ! モンスター共震え上がるがいい!

 このお方をどなたと心得る!? 台詞「ま、まさかあの神の中の神アクア様!?」 そうアクア様だよーチェケラ!

 おーおーおおおおーーー! ああーーーアクアさまーーー! 今アクシズ教徒になればポイント2倍デー♪

 

 

 

 

「うるせええーーーーーーーー!!!!」

 

 なんて酷い歌だ。音程は滅茶苦茶だし。ロック調かと思えばラップパートがあったり、とにかく音楽として酷い。歌詞もゴミ以下だ。頭がおかしくなりそうだ。

 

 

「やかましいいいい!!!」

「ぎゃああああ! やめろー!! 鼓膜が破れる!!」

 

 マリン以外のその場にいるもの全てが苦しんでのた打ち回る。

 

 

「うぎゃあーーーーーーーーーー!!!」

 

 どうやらリッチーのキールにも効いてるようで頭を抱えている。

 

「き、貴様ら……やはり罠だったのか!? 私をこの歌で倒すつもり――」 

 

 怒ったキールが周りを見渡すと。

 

「そ、そうでもないようだな? にしても酷い音だ! 骨が割れる!」

 

 他の人間も苦しんでいる姿を見て、罠じゃないと理解してくれたようだ。

 

 

 

「鎧に共鳴して! 死ぬ! 死ぬ死ぬ死ぬ! ひああああああああああああああ!!!!」

 

 ベルディアは人一倍苦しそうだ。

 

 

「マサキ様! やばいですよこの歌! なんだか振動で脳が溶けていくような気がします!」

「ああわかってる! だがもうこの際仕方ない! 絶えろ! キールが出て行くまで一緒に耐えるんだ!」

 

 レイと手を取り合って必死で歯を食いしばる。ちなみにアルタリアは口から泡を吹いて気絶していた。

 マリンがこんなに音痴だったとは……いや、あれは音痴なのか? リッチーだろうが人間だろうが関係なく効果ある歌とかもはや大量殺戮兵器だ。

 俺はキールの目を見る。もういいだろ? と。十分戦っただろう?

 キールも、わかった、もうそろそろ逃げる、と。目で合図を返してくれた。

 

「食らえ!」

 

 俺はその辺にあった石をなんとか拾い、マリン目掛けて投げつけた。

 

「いたっ! なにをするのですかマサキ。まだ歌の途中ですよ!」

「うるさい! うるさい! うるさい! 二度と歌うな! この騒音公害!」

 

 マリンの口を塞ぎ地面に押し倒した。まだ頭がキンキンする。

 

 

 

「はぁ、はぁはぁはぁはぁ……よくやってくれたな勇者の末裔よ! お見事だ! うっ吐きそう。もうこんな所にはいられない! さらばだ! 悪い魔法使いキールは! ゲホッ。ここから立ち去ってやる!」

 

 キールは本気で苦しそうな顔で最後に告げて、消えた。おそらくテレポートか何か使ったのだろう。

 

 

「か……勝ったぞ! この俺! マサキがキールを撃退したぞ! うっ、気持ち悪。こっちも吐きそう。はぁ、はぁ。どうだ! うっ」

 

 俺は勝利宣言をし、無事キールを撃退することに成功した。

 被害は大きかった。リッチーを追い出したのだから犠牲はつきものだ。

 幸い死者は出なかった。やはりキールは気を使ってくれていたようだ。でも負傷者の内訳は、前半の塹壕戦より後半のマリンの歌にやられたのが殆どだった。

 

「マリン……恐ろしい子……」

 

 俺も限界でバタっとその場に崩れ落ちた。勝者無き戦いはここで終わった。

 

 


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