この素晴らしい世界にデストロイヤーを!   作:ダルメシマン

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一部 23話 いざキールのダンジョンへ

――地下一階――

 

「きやがったなゴブリン共! おめぇらまとめて! 私の経験値にしてやるぜ! かかって来い!」

 

 アルタリアがかってに先頭に行き、ゴブリンを筆頭とする弱いモンスターへと飛び掛っていった。

 

「やめんかアルタリア! お前は集団戦じゃあ使えないんだから! 突出するなと言っただろ! 戻って来い! この紙装甲!!」

 

 慌てて彼女を止めるが言うことを聞いてくれない。すでにゴブリンの群れに特攻した後だった。

 

「マリン! すぐにアルタリアの救助に向かってくれ! 多分ボコボコにされてると思うから!」

「はいマサキ!」

 

 アルタリア……攻撃とスピードに全ステ振りしたバーサーカークルセイダー。しかし防御は残念なほど脆い。ザコの一撃で戦闘不能になるレベルだ。

 

「連れ戻しましたよ!」

 

 案の定、ゴブリンの不意打ちを食らい倒れていたアルタリアを、マインが連れ戻した。

 

「このバカ女! だから勝手な行動は慎めといったんだ。よし、レイ! こっちに来たモンスター共を吹き飛ばせ!」

「はいマサキ様。『ファイヤーボール!』」

 

 レイの放つ炎で灰になる雑魚モンスターたち。

 

 

「助かったぜマリン! ひゃはははは! ダンジョンは狭いから、ダッシュで逃げる場所がなくてさ!」

 

 ヒールで回復してもらったアルタリアが笑いながら言った。

 

「だから入る前にも言っただろ! 脳筋! お前は前に出るなと! わかったかこのへっぽこクルセイダー!!」

 

 アルタリアに説教する。くっ。こんなことなら置いてくればよかった!

 

 

 俺達が挑んでいるのはキールという、悪い魔法使いが作ったというダンジョンだ。伝説によればキールは稀代の天才といわれたアークウィザードだったのだが、ある日貴族の令嬢に一目ぼれし、その彼女を連れ去りダンジョンの奥に監禁したそうだ。なぜ稀代の天才と言われたキールがそんな真似を仕出かしたのかは不明だが、結果国を敵に回し、何度も戦いを繰り広げてきたらしい。

 そしてその悪い魔法使いキールは今でもこのダンジョンに潜んでいる。おそらく人をやめ、リッチーとなり今でも侵入者を待ち構えているのだ。

 そのキールが今なにを考えているかは正直どうでもいい。もう過去の話だ。だがこの位置にダンジョンを構えられるとアクセルにとって非常に邪魔だ。この悪い魔法使いを排除することは住民にとって悲願だった。

 

「一応いろいろ準備はしてきたんだがなあ。アルタリアの面倒まで見ないといけないし無謀だったかな」

 

 このダンジョンがなぜ今まで野放しになっていたのか。ダンジョン自体は人間である貴族の令嬢を連れ去っただけあってあまり深くはないはずだ。だがやはり稀代のアークウィザードであっただけの事はある。様々なモンスターや罠を配置し徹底して侵入者を拒んでいる。しかも普通のダンジョンと違い、どの階に強いモンスターが出るのかわからない。

 

「《敵感知》に反応がある! レイ、あそこになにかが潜んでいる。気をつけろ。アルタリアは俺と共に《潜伏》だ! もうさっきのような真似はするなよ? マリン、アンデッド系には《潜伏》が使えない。お前に任せる」

 

 仲間に的確に指示を出していく。なぜ俺が盗賊スキルの《敵感知》《潜伏》を覚えているのかというと……これはラビッシュ様様だ。ラビッシュの正体は貴――いや偉いやつなので、彼女のツテで盗賊にスキルを教わったのだ。向こうは嫌そうだったが、ラビッシュの頼みとなれば仕方なく俺にスキルを教えてくれた。

 これで準備は万端のはずだったんだが……

 

 

「くっ! オーガーの群れだ! なんで一階にいるんだよ! ゲームバランスはどうなっている! レイ! 吹き飛ばせ!」

『ライト・オブ・セイバー!』

 

 レイがオーガ達を光の剣で引き裂く。急な上級魔法で大慌てのオーガーに。

 

「アルタリア! お前も行っていいぞ! 相手は逃げ腰だ。とどめを刺していけ! 背中から襲え!」

「おっしゃー!」

 

 アルタリアの《潜伏》が解除され、飛び出す。完全に不意打ちを食らわせ、オーガ達を駆逐していく。

 

「やれやれ、一階でこれとはな。この先が思いやられるよ」

 

 オーガたちを全滅させた後、俺達は次の階へと降りていった。

 

 

 

――地下三階――

 

「邪魔な犬コロめええええ!!」

 

 地下に降りる階段を守るように現れたのは、有名な番犬、ケルベロスだった。三つの首を前後左右に見回し、門番として出入り口を守っていた。

 

「いくら目で追えても! 体がついてくるかな! ひゃははははは!!!」

 

 アルタリアが超スピードで飛び出していく。ケルベロスは唸りを上げ、彼女に狙いを付ける。そこに。

 

『ライトニング』

 

 レイがすかさず電撃を浴びせるが、伊達に三つの首がある訳じゃない。こっちにも気付いていた。ケルベロスは素早くジャンプして攻撃をかわした。

 

「ちっ! なかなかやるな。だがな」

「隙ありだあああ!!」

 

 飛び上がったケルベロスに向かい、アルタリアが剣を振り下ろした。ドサッとケルベロスの首の一つが地面に落ちる。

 

「アルタリアのスピードは想定外だったようだな。これでケルベロスも……ん?」

 

 ケルベロスは一つの首を落とされたにも関わらず、全く怯みもせず残った二つの首でそのままアルタリアに襲い掛かった。

 

「あぶね!」

 

 慌ててかわすアルタリア。

 

「おかしいぞ? いくらモンスターといえ……。体の一部を落とされたのにまるで気にしてない。どういうことだ……?」

 

 俺は安全な位置から、じっくりとケルベロスの体を観察すると。体に継ぎはぎの跡が……。

 

「マリン! あいつはゾンビだ! ケルベロスのゾンビ! おそらくダンジョンマスターが、殺されてはその死体を再利用しているんだろう! マリン! お前の出番だ!」

「ゾンビですね! お任せください! 『ターンアンデッド!』」

 

 ケルベロスゾンビは最後の雄たけびをあげ、マリンの浄化魔法によってその場から崩れ落ちた。

 

「ずるいぜマリン。そいつは私の獲物だったのによお!」

「ずるいも何もない! これは遊びじゃないんだぞ!? 命がけなんだ! それに最初にアンデッドはマリンが倒すって決めてたじゃないか! これでいいんだよ!」

 

 悔しがるアルタリアに怒る俺。そもそも狭いダンジョンの中じゃあ普段のように自由に動けない。特にヒットアンドアウェイに特化したアルタリアは危険な目に合いやすい。少しでも防御力があればなあ。もっとやりやすいんだけど。

 

 

 

――地下四階――

 

 

 足元にはマリンが瞬殺したアンデッドやグレムリンの死骸。まあそれはどうでもいいとして。

 

「全員逃げろ! 逃げるぞ!!! 退避―――!」

 

 俺達はダッシュでミノタウロスの群れから逃げ出していた。一匹や二匹ならまだしも、この数を相手にするのは無理だ。そういえば前草原でミノタウロスと出くわしたっけ。ここから逃げだしたのだろうか?

 

「『ファイヤーボール!』『ファイヤーボール!』」

 

 追いかけて来るミノタウロスに対し、レイが炎の球を連射しているが、多勢に無勢だ。

 

「よっしゃ! 私の出番!」

「そんなのはない! いいから逃げろ! この状況でお前がなんの役に立つんだよ!」

 

 同じく逃げているアルタリアが楽しそうに言うが怒鳴り返した。一匹が相手なら、ここがどこにでも逃げれる草原なら、アルタリアが活躍できるだろうが、ダンジョン内ではどうしようもない。

 

「大変ですわマサキ! 確かこの先は行き止まりでした!!」

 

 マリンがヤバイと言った声で叫ぶ。

 

「そうだった! マップによればそうだ。クソッ、このままじゃあ追いつかれて終わりだ。緊急用のアイテムを使う暇もない!」

 

 すぐ真後ろにまで迫っているミノタウロスの群れ。どうする? このままじゃあ本当におしまいだ……。なにか考えろ! 考えろマサキ!

 

「そうだ! レイ! 炸裂魔法の準備をしろ!」

 

 起死回生の一手を思いつき、レイに告げた。

 

「ええ……? マサキ様? そんな事をすればダンジョンがどこか崩れてしまうかも? 下手をすれば生き埋めに……!」

「いいから詠唱開始! 俺を信じろ! いいからやれ!!」

 

 了承したという顔で詠唱を始めるレイ。それでいい。

 

「よし、全員こっちに向かえ! 走るぞ!」

「ですがそっちも行き止まりですよ! 小さな部屋があるだけです」

「いいから!」

 

 反論するマリンを無視し、小部屋に逃げ込む俺達。アルタリアが扉を蹴飛ばし室内へと逃げ込む。よし、このままこのまま。

 室内に飛び込むが、すぐに後ろにはミノタウロスの群れが迫っている。扉はアルタリアが破壊したため防ぐものなど何もない。出入り自由だ。

 

「マサキ様! 詠唱完了! いつでも炸裂魔法が撃てます! ですがどうすれば?」

 

 疑問を浮かべながら聞いてくるレイに。

 

「今だ! 発射! 目標は扉の上! 天井を崩して出入り口を封鎖しろ!

『わかりました! 炸裂魔法!』 

 

 レイが炸裂魔法を唱える。その一撃で瓦礫がミノタウロスに降り注ぐ。ミノタウロスが生き埋めになり、さらに瓦礫がバリケードにもなった。

 

「オラア!」

 

 先行していて身を逃れたミノタウロスの一匹に、すかさずアルタリアが襲い掛かり、首をはねた。とりあえずはこれで安心だ。

 

 

「これでよし、と。ヤレヤレ、さすが難攻不落のダンジョンなだけはある。長年放置されていた理由がわかったよ。それにしてもなんて酷いダンジョンだ。作った奴は相当の鬼畜だな」

 

 やっと安全地帯に付き、ため息をつく。

 

「でもマサキ! これからどうするんですか!? このままじゃあ私たちもこの部屋から出られないですよ?」

「それには及ばない。ちゃんと『テレポート』のスクロールを準備している。ほら」

 

 マリンの質問に、魔法のこもった巻物をみせて答えた。

 

「さすがは私の運命の人マサキ様! いつでも準備万端ですね!」

「これぐらいはやって当然だよ。だがこのダンジョン……作ったのはキールといったな。この俺を本気にさせたな! どんな手を使ってでもこのダンジョンを攻略し、奴を退治してやる! 必ずな! 覚えてろよ!」

 

 今回はダンジョン攻略に失敗したが、俺は次の一手を考え込んでいた。このふざけたダンジョンを作り上げた奴に後悔させてやる手を……。

 

 




キールの登場は次回になりそうです。

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