この素晴らしい世界にデストロイヤーを!   作:ダルメシマン

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一部 21話 秘密の行方

「ふあああーーーいい朝だ。さあ早速ギルドにでも向かうとするかな」

 

 モンスター素材横取り事件も無事収まった。上機嫌で仲間と合流し、今日の予定を決めることにした。

 

「おいマサキ! 私は未だに許せねえんだ! どこのどいつだ! 私らの倒したモンスターを勝手にパクッた奴は! 結局犯人は見つかってないんだろ?」

 

「気にするなよ。もう済んだことだ。過去の話じゃないか」

 

 事件の事で納得がいかないアルタリアをなだめる。

 

「やられたら絶対やり返すのが私のモットーだ! 絶対に見つけ出して! ぶっ殺してやるぜ!」

「別に俺たちだけを狙ったわけじゃあないよ。この街の冒険者はみんな被害を受けたんだろ? 今では警備員が見回ってくれるから盗まれることはないし。あとは彼らとギルドに任せれば良いさ」

 

 アルタリアに怒られても困る。だって犯人の首領格は俺だし。見回りの警備員こそが元実行犯だった。俺の壮大なるマッチポンプを邪魔されるわけにはいかない。ちなみに警備員達の報酬からボスとして多少上納金を受け取っている。勿論サトー・マサキ名義ではない裏口座だが。

 

「マサキらしくないですわね。やられたらやり返すのはアルタリアさんだけじゃあありません。マサキこそ絶対に報復するタイプだと思っていましたが。そもそも狩場を破壊されたときにあれほど怒っていたじゃないですか? あれはもういいんです?」

 

 マリンが不思議そうな顔で俺に突っ込んでくる。チッ、勘のいい女だ。俺の楽しい狩場を破壊された報復は、モンスターの素材を横取りすることでもうとっくに果たしている。っていうかやりすぎて罪悪感がわくくらいだ。

 

「復讐は何も生まない……。その虚しさに最近気付いたのさ。だから何もしないよ」

 

 少し遠い目で、そんな悟った言葉で誤魔化した。

 

「なにか怪しいですねえ。あなたからそんな言葉が出るなんて」

 

 疑いの眼差しを向けてくるマリン。

 

「みなさん、お止めください! マサキ様が困っているでしょう? マサキ様が復讐をしないと決めたんです! ですから私達もそれに従いましょう! そのうち犯人も見つかるはずです! そんなのより次のクエストが待っています!」

 

 レイが二人にそう注意する。

 おお、いいぞレイ。お前中々役に立つじゃないか。恋は盲目というが、そのおかげで、バカで助かったぜ。

 

「ああそうとも。今回の事件でこの街の冒険者はみんな傷ついた。だがもう最近は出てこないんだろ? だったら通常通りモンスターハントと行こうじゃないか? いつまでも昔の事に拘っていると新しいチャンスを見逃すかもしれないぞ?」

 

 レイの言葉に乗っかり、俺も二人を説得した。

 

「わかったよ。腹だたしいが、報復は後回しにしてやるぜ」

「マサキがそんな事を言うなんて。少しは真人間に近づきましたね。これも私の教えの成果でしょうか!?」

 

 納得する二人の仲間たち。仲間がチョロい奴でほんとよかった。

 

「わかりましたか? ではマサキ様の言うとおり、次の冒険に向かいますよ!」

 

 レイがみんなをまとめて改めて号令を掛けた。ふう、これでよし。めでたしめでたし。

 

「……そうですよね? 八咫烏様」

 

 最後にレイが俺にしか聞こえない小さな声で、ボソっと言った。前言撤回だ。恋は盲目? 違う! こいつはバカじゃない! 俺の正体に気付いてやがった! 

 

「レイさんレイさん? ちょっと話があるんだけど? あ、お前達は待機しててね。二人きりで重要なお話があるんだ。とってもプライベートなことなんで。悪いな」

 

 青ざめた顔をしてレイを連れ出した。

 

 

 

「なんですかマサキ様! ついに愛の告白!? プロポーズですか!? 私はいつでも準備は出来ていますよ?」

「そんなわけないだろ! レイ! いやレイさん? 八咫烏について知っていることを全て話せ!」

 

 頬を赤らめるレイの肩を揺さぶりながら尋問する。ヤバイ。よりによってこの女に弱みを握られるわけには……。

 

「私が八咫烏様について知っていることですか。そうですねえ。マサキ様の裏の顔だと言う事しか……」

「ノオオオオーーーー!!」

 

 俺はショックで叫んだ。やっぱバレてる! クソッなんでだ! 俺の行動にどこか変な所あったか? いやあ結構あったな。なぜバレないか自分でも不思議なくらいだったわ。

 

「…………な……なんのことやら?」

 

 なんとか精一杯声を絞り出してとぼけるが。

 

「ちなみにフードと仮面の隠し場所は……」

「はいすいません。俺がやりました」

 

 ガクッと肩を落とし、レイに白状した。

 

「な……なぜわかった?」

「マサキ様の事なら何でもお見通しですよ。でも疑問に思ったのはアレですね。マサキ様は最近よく頭を撫でてくれます。私は嬉しかったんですが、普段のマサキ様なら嫌がるはずです。そこで何か隠し事があると思ったんでこっそりつけてみました! そしたら!」

 

 くっ!

 罪悪感から普段より優しくしていたのが仇になったのか……。なんてことだ! 俺のパーフェクトな計画がこんな所で露呈するとは。俺ももう終わりか?

 いやまだだ。バレたのはレイだけだ。秘密を知られた場合の対処法は二つ。そいつを消すか、仲間に加えるかだ。まだ終わってない!

 頭を切り替えて、彼女に言った。

 

「内緒だぞ! マリンとアルタリアにも言うなよ。マリンは正義感が強い。そして、アルタリアは馬鹿すぎる。口を滑らしたら大変だ」

 

 こちらに引き込んでやる! もうそれしかない!

 

「内緒にするのはいいですけど……。その代わりといってはなんですが、正式に私と婚約するというのはどうでしょう? 私は別にいいんですよ? 犯罪者として追われる生活も受け入れますし。どうです? マサキ様?」

 

 早速脅してきやがった。さすがは最悪のメンヘラ女だ。そう来ると思った。隙さえ見せればどうにかして既成事実を作ろうとする。そしてそれに負ければ俺は地雷女との一生という地獄を味わう羽目になる。

 

「まぁ待て。レイ。お前を秘密の右腕に任命してやる。俺の裏での顔を知るのはお前だけだ。どうだ? お前にしか出来ない仕事をやろう。そう、これは二人だけの秘密だ」

 

 レイの脅しは置いといて、別の方向に軌道修正する。これならどうだ。

 

「二人だけ! なんて魅惑的な響き! いいですね!」

「そうだろう? レイ。俺とお前でこの街の裏社会を支配するのだ!」

 

 よし食いついてきた。このままなし崩し的に闇に引き入れよう。

 

「で、もし私がマサキ様、ではなく八咫烏様の右腕になれば、いったいどんな仕事をすればいいんですか?」

「そうだな。お前が行動すれば目立ちすぎる。だから動くのは最後のときだ。俺の切り札的な存在にする。よし、お前は八咫烏の女殺し屋だ。裏切り者を粛清する。それがお前の役目だ」

 

 この前の時は、部下のあまりの忠誠心の低さに驚き、危うく台無しになるところだった。後で脅したが、部下達にはもっとボスに恐怖と畏怖を持ってくれないと困る。

 

「女殺し屋ですか。悪くない響きですね。いいでしょう! それで八咫烏様、誰を消せばいいんですか? この前愚かにもあなたを売ろうとしたあいつですか? 今すぐにでも消しに行きますが?」

 

 思ったよりもあっさり食いつくレイ。っていうか今度は逆に食いつきすぎだ。こいつ俺が殺せって言ったら躊躇なくやりそうだな。危ねえよ。あとアルタリアもやりそう。あいつの方は口が軽そうだから裏家業は無理だが。

 

「待て、待つんだ。あいつはあの後反省したからいい。そんな簡単に部下を殺したら組織が弱体化する。今はいい。待機してくれ。今は殺し屋だが、また事業が増えるにつれやって欲しい仕事は見つかる。また指示を出すからら勝手な行動はしないでくれ。このことはくれぐれも外に漏らすなよ?」

「わかりました。では今は何もしないでおきましょう。勿論秘密にします。この私が運命の人の事を話すわけがないじゃないですか。マサキ様がやることは、たとえそれが一般に犯罪と呼ばれていようと、全て肯定されるのです。愛するあなたの事はいつも正しいのです。地獄の果てまでもお供しますよ」

 

 相変わらずさらっと怖いことをいう女だ。本当に恐ろしいのは彼女が本心でそれを言ってることだろう。きっと俺が王家に反乱を起こすといっても全く躊躇せずやるだろう。なんて危険な女だ。こいつの愛は重すぎる、そして鋭すぎる。

 危ういバランスだがなんとか制御しなければ、軽はずみな行為で俺自身を破滅に追い込んでしまうかも知れない。慎重に扱わないとまずい。

 

「そういえばマサキ様、あの事件ではどれくらい稼いでいるんですか?」

「フッ、実はだなレイ。あの荒れくれたちに払う給料と、アレクセイ家への場所代が思いのほか大きくてな、思ったほどは儲かってないんだ。ネトゲマネーでは巨額な富を成し遂げたこの俺も、やはり実際に動くと勝手が違うなあ」

 

 新しい闇の仲間の質問に答えた。そう、思ったほどは儲からなかったのだ。っていうか場所代と人件費が痛すぎる。ネトゲでは場所代は勿論いらないし、全部一人で素材回収をして、後はオフラインにするだけだったから人を雇う必要もなかった。生身の体だと色々入用になることが今回の件でよく理解した。

 

「偉大なる八咫烏様の利益を奪うなんて許しがたいですね。今すぐにでも口減らしをして回収しますか?」

「やめろ! かってなことはしなくていい」

 

 短絡的なレイをたしなめる。隣で殺気を放つのはやめて欲しい。

 

「いいかレイ、悪党には悪のルールがある。いくら悪人といっても信頼関係を築くのは重要だ。約束を守らなければ付いてくれる人間はいない。力だけでは人は従わない。それでは他の強者が出れば終わりだ。彼らの利益がなくてはな。勿論力も必要だが、力と金、双方が揃わないとならない。だからこそ部下にはちゃんといい思いをさせてやらないとな。それがいいボスの条件だ」

「わかりました。申し訳ありません。出すぎた真似をするところでした」

 

 すぐに俺の話を聞き、しゅんとするレイ。

 

「確かに横取りで得た利益は少なかったが、これで荒れくれとの繋がりが出来た。そして彼らは今真っ当な仕事で金を稼いでいる。その内のいくらかは俺の元へ入る。一見すると少ない金額だが、継続すればそれなりの金となる。この先も別の儲け話が浮かぶかもしれない。その際に動かせる駒がなくてはな。わかったな? 何事も積み重ねが大事だ。正しいことも、悪しきこともだ」

 

 レイの頭をポンと叩きながら、俺なりの悪の理論を説明した。伊達に1421回も垢バンを受けてない。ネトゲ時代、悪質なプレイヤー同士で結託し、どうすればより悪事が上手くいくか相談したものだ。

 

「なるほど。御見それしました。そこまで考えが及ばず、恥ずかしい限りです」

「それでいい。お前に用があるときはこの俺が直接命令を下す。それまではいつも通り振舞うんだ。くれぐれもあの二人……マリンとアルタリアには知られてはならんぞ?」

 

 レイの頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、二人の中での話は付いた。

 

 

 

「話は終わったよ。待たせたな! さあギルドに向かってレッツゴー! クエストが俺を呼んでる!」

 

 レイを口止め兼仲間に引き入れることを成功させ、作った笑顔で待たせていたマリンとアルタリアと合流した。

 

「あら、今日は仲がよろしいんですね? いつもならそれだけ近づくと肘でけん制してたのに」

 

 レイとべったりして歩く姿を見て、マリンが首をかしげた。

 

「え? そうだっけ? なに言ってんだ? いつも通りさ。ハハハ」

 

 慌ててレイを引き剥がそうと肘でつっつくが、この女め。頑として離れるのを拒否している。目にはバラすぞ? と書いてある。くそう。

 

「マリン? 何度も言いますがマサキ様は私のものですからね! いくら付き合いが長いあなたでもそれだけは譲りませんよ?」

 レイがそうドヤ顔で、俺の腕を絡みつかせながら言った。そんなに密着すると胸が、胸が……こいつにはなかったな。なんか骨が当たって硬いんだが。悲しいくらい柔らかさがない。

 

「いいですか二人とも? 私とマサキ様はさっきついに正式に恋人となりました。手出しは許しませんよ?」

「おい、何を勝手に……?」

 

 そんなメンヘラを黙らせようとするが、赤い瞳でギロっと睨まれると何も言い返せない。こいつに悪事がバレたのはやっぱり痛い。なんとかして主導権を取り戻さないと。

 

「あっはっは、おめでとうマサキ、レイ。まぁ私はなんもいわねえぜ。モンスターが殺せるなら仲間がくっ付こうがどうでもいい!」

「そ、そうですか。挙式は是非アクシズ教会で。私が仲人を務めます。アクア様の名において!」

 

 勝手に祝福しだす二人。くっそう。お前らも一応見た目だけはいいんだ。ポジション的にはハーレム要因だろ?

 主人公が取られたらもっと悔しがれよ! 物分りが良いにもほどがあるぞ! じゃない、早く誤解を解かないと。変に気を使われメンヘラルートになるのは断固拒否せねば。

 

「お前達少し勘違いしているぞ。俺とレイは少し発展したが……。まだほんの少しだ。そうだな、友達以上恋人未満といったところだな? 恋人にはまだなってないぞ?」

 

 そう、そうだ。友達以上の関係にはなった。それは確かだ。だってヤバイ裏家業を手伝わせるんだから。普通に恋人より難易度が高い気がするがその辺は深く考えないようにしよう。

 

「友達以上恋人未満……? それはどんな関係になるんでしょうか? 私はどう気を使えば?」

 

 マリンが律儀に聞いてくる。そうだな、どう答えよう?

 

「それはだな、友達としては勿論、それ以外での……まぁちょっと二人でお互いを信頼しあい、一緒に仕事をする仲さ!」

 

 仕事といっても闇の仕事なんだが。まぁ間違ってはない。俺は嘘は付いていない。正しいことだけを言った。

 

「おいそれってよう、今までの冒険者のパーティーとどう違うんだ?」

 

 アルタリアが首を傾けながら聞いてくる。

 

「そ、そうだな……。基本的には変わらないな。命を預けあい、共に仕事をこなす。おお今までと一緒だな。ということで今までどおり接してくれて構わないから」

 

 アルタリアに説明していると、結局は今と同じだということに気付いた。それでよしとしよう。恨めしそうにレイが睨みつけてくるが、スルーだ。

 

「なんだ、一緒かよ。まぁそのほうが楽で良いぜ。ハッハッハッハ!」

 

 サンキューアルタリア。お前のその単純さで、メンヘラルートは阻止できたぞ! よくやった!

 

「話が違いますよ! マサキ様!」

 

 俺の腕を凄い握力で握り締めてくるレイ。このゴキブリ女はこの手で天井にしがみ付けるんだからかなり痛い。

 

「レイ、二人には内緒だと言っただろ? いつも通りにするんだ。ばれたらどうする?」

 

 耳元に小声で警告する。

 

「くっそうでした。恋人にならないとバラすぞって言いたいです。でもそうすると二人だけの秘密が明らかになってしまう……。くうっ、考えましたねマサキ様。恋人を取るか……二人きりの特別を取るか……くうっ!」

 

 相反する問題の狭間で悶えるレイ。やはり仲間に引き込むのは成功だったな。

 

「わかったようだな。俺の正体を明かせば、俺はこの街から出ないとならない。そうなればお前の恋人にもなれないな。残念だが。この街からもお前からも全力で逃げ出させてもらう。でも黙っていてくれるなら……少なくとも特別な関係でいられる。そのうち恋人にもなれるかもしれないぞ?」

 

 悩む彼女に少し肩を押す。これでもう十分だろう。

 

「ううっ! 流石です。実質選択肢を一つにするとは、そこまで言われたら私は黙っておくしかないじゃないですか。でもそれでこそ私の運命のお方です! フフッ」

 

 俺の言葉に悔しがりながら、でも満足そうな微笑を浮かべレイは理解してくれた。よし、これで主導権をこっちが握ることに成功した。これで本当に、いつも通りだ。

 

「じゃあとっととギルドに向かうぞ! 全くギルドに向かうだけで何でこんなに疲れるんだ。やれやれ」

 

 俺ってやれやれ系主人公に向いてるのかな? と思いながらようやくギルドの扉を開けた。

 

 


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