この素晴らしい世界にデストロイヤーを!   作:ダルメシマン

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警備会社始めました。


一部 20話 アクセル街の闇

 ――最近この街アクセルでは異変が起きていた。

 

「どうなってる! 何で俺のモンスター買取価格がこんなに安いんだ!」

「それが……あなたがたの倒したモンスターは損傷が激しくて! 商品になる場所が少なかったんです。それで最低限の買い取り価格でしか適応できなくて」

 

 ギルドの受付が冒険者に謝っている。

 

「なんだと! 俺はそんな下手な狩り方なんかしてねえぞ! いつもどおりにやった! なのになんで前よりめちゃくちゃ安いんだ!」

 

 狩りの死骸を安く買い叩かれたことで激怒する冒険者達。

 

「こっちも安すぎる! なぜだ! 俺は綺麗に仕留めたはずだぞ! あの牙はもっと高く売れるはずだ!」

「モンスターの買い取り価格がこんなに安かったら、クエストの賞金だけじゃあやってけねえよ!」

 

 他の冒険者達もギルドに苦情を言っていた。ギルドは不満を持つ冒険者のクレームでいっぱいだ。

 

 

「現在調査中です! ここ最近のこの街はおかしいんです! 私達がモンスター回収に行くと! 死体が荒らされた跡があるんです! 最初はてっきり他の野生のモンスターに食われたのかと思っていたんですが……」

「ああ、そうですよ。あまりに被害が多すぎるんです。昔から倒したモンスターの死肉を漁る獣はいますが、それにしては切り口が鮮やか過ぎるんだ。しかも爪や角とかの高く売れる部分だけ見事に剥ぎ取られている。多分犯人は人間だと思いますよ」

 

 ギルドの職員たちが今起きていることを説明する。そんな彼らを見て――。

 やっとか。このギルドの鈍い奴らも、やっと獲物を横取りするハイエナの存在に気付いたようだ。

 俺は心の中で嘲笑っていた。顔には出さないよう気をつけているが。

 

「いったいどこのどいつだ! 犯人の目星は付いてるのか!?」

「わかりません! まだ調査は始まったばかりでして。これからは見回り警備を倍にしようと話し合っていたところです。不信な人物を見たらギルドに報告してください! 今手がかりを探している最中です!」

 

 ギルド職員が冒険者に必死で答えている。それにしても遅い対応だ。この様では死肉をあさる犯人が単独犯かどうかすらわかってないようだ。

 まだまだ俺の裏家業は続けられるな。

 

「フッ」

 

 そんなあたふたするアクセルの住民達を尻目に、俺は新調した槍を眺めて満足している。長さは中くらいだ。これは死んだふりをしているモンスターを確かめるのに役に立つ。俺の戦闘スタイルからして、わざわざ接近して戦うつもりは無いから剣は必要ない。念のためナイフこそ持っているが。

 そして影の小遣い稼ぎで買った、高額な宝石の埋め込まれたアクセサリーを持ち、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「おいマサキ! てめえなにニヤニヤしてやがる! さてはお前がやったんだな!」

 

 そんな俺の様子を見て。被害者の一人が絡んでくる。

 

「んだとコラア! 私達も被害にあってんだぞ!」 

 

 アルタリアが俺の変わりに言い返す。彼女も怒っている。当然だが、俺の倒したモンスターにもハイエナ行為を平等にさせている。俺だけ無傷だとすぐに疑われる。そんな愚なことはしない。何も知らない俺のパーティもまた八咫烏の被害者だ。

 

「そ、そうか……。疑って悪かったよ。最近イライラしててつい。犯人が捕まるといいな」

 

 申し訳なさそうに謝る冒険者。にしても危ない危ない。ひょっとして顔に出てたかも。

 

「そーだよ! 私らも迷惑してるんだ! もし犯人がわかったらよう! どこのどいつかしんねえが! ぶっ殺してやる!」

「そっ、その通りだ。うん! 許せねえな! うんうん!」

 

 完全に怒り心頭のアルタリアを見て、内心びくびくしながら同意した。こわっ。もし犯人が俺だとバレたら殺されるな。絶対に隠し通さないとやべえ。 

 内心少しびびりながら、彼女に形だけでもうんうんと頷いた。

 

 

 

 

 ――さて、俺はフードと仮面を付け、“八咫烏”としての顔でまた秘密の部下の荒れくれたちを呼び出した。ようやくギルドが本腰を上げて捜査を始めたことを知り、彼らに警告するためだ。

 

「八咫烏様! 今度は一体どんなご用件で!?」

 

 部下達が俺に質問する。

 

『お前達、いい働きぶりだ。よくやっている。おかげで街の冒険者どもは大慌てよ。だがギルドも動き出したようだ。これからはより慎重にならねばならんぞ?』

 

 荒れくれどもにそう告げる。

 

「ギルドに見つかると厄介だぞ! このままじゃあやべえぞ?」

「でもよボス、慎重にって、具体的にどうしろっていうんです?」

 

 悩む手下たちに。

 

『安心するがいい。ギルドがこの先どう動くかも確認済みだ。今からメモと地図を渡す。これを避ければ遭遇することはあるまい』

 

 俺はマッピングした地図を渡した。そこにパトロールの時間を全て記している。なぜ俺がギルドの動きを知っているか、それはこの俺も被害者代表として、ギルドの捜査の説明を受けたからだ。なにしろ“八咫烏”による被害総額はこの俺、マサキのパーティーが一番被っている。俺がそう調整したのだ。堂々と取り締まる側でギルドの会合に参加していた。

 

「おお! ボス! あんたすげえよ! なんでそんなにギルドに詳しいんだ?」

『優れたリーダーは部下に簡単に秘密を明かしたりはしないものさ』

 

 そう得意げに言った。

 

『だがいいか? これでもまだギルドや他の奴らに遭遇する可能性はある。今渡した紙の通りに動くはずだが実際は不確定なことも起きる。そこでだ、これを渡しておく』

 念には念を入れ、さらなる対策を教える。

 

「これはなんです?」

 

 液体の入ったビンをみて不思議がる荒れくれたちに。

 

『それはだな、空気に触れると延焼するポーションだ』

「わかったぜボス! 捕まりそうになったらこれをぶつけて逃げればいいんだな?」

 

 ビンについて説明すると荒れくれが勝手に納得するが。

 

『違う。そうじゃない。それは安物で大した威力はない。投げつけたところですぐに消えるだろう。だから攻撃に使うな。正しい使用方法は、モンスターの死骸に向けて使うのだ』

「な、なんでそんなことを? 意味あるんですかい?」

『いいか? ギルドの奴らはモンスターの回収が最優先だ。だがもし、その死骸が燃えていたら必死で消そうとするだろう。モンスターの死骸が燃え尽きてしまうと買い取り料は無くなってしまう。そうなれば冒険者がまた激怒するだろう。その隙に逃げるのだ。それに万が一ギルドに捕まった際、攻撃をしたとなれば罪が重くなる。だが死骸を燃やしただけなら、ギルドのモンスター駆除の手伝いをしたとすっとぼければいい』

 

 俺のやり口をより詳しく教えた。

 

「さ、さすがはボスだぜ! そこまで計算済みとはよ」

「あんたは本物の悪党だよ! 捕まった後の事のことまで考えるなんて!」

 

 俺のやり方は荒れくれどもに好意的に受け止められたようだ。

 

『これからは単独行動は慎めよ。常に見張り役を置いておけ。ギルドの犬に気をつけろ。では解散』

 

 こうして八咫烏としての裏のクエストを終えた。

 

 

 

 

 

 

 モンスター横取り事件は、今やこの街の大事件となっていた。

「マサキ! 聞いたか! 冒険者の倒したモンスターを勝手に奪う奴がいるらしいんだ! この私の仕切る街で許せねえよな! なんて卑劣な奴だ!」

 

 それを聞いて憤るのは、自称アクセルいちの大悪党ラビッシュだ。大悪党を名乗っている割には、特に悪いことはしていないのだが。むしろ良いことしかしてない気がする。この前も仲間を集めてゴミ拾いしてたし。

 

「知ってるぞラビッシュ。この俺もかなりの被害にあっててね。探っている最中だ。許せないな!」

 

 なにを隠そうその犯人はこの俺、サトー・マサキなのだが、とぼけながら彼女に同意する。

 ラビッシュと仲良くなったのは幸いだった。おかげで奴らの動きがわかる。

 

「実はな、私にはエステロイドっていう歳の離れた妹がいるんだ。妹はな、訳あってある屋敷に閉じ込められているんだ」

 

 ラビッシュに妹がいることは知っている。っていうかこの街の人間はほぼ知ってるだろう。閉じ込められている理由もだ。彼女の妹はこの街の領主である貴族が遊び半分でメイドに孕ませた子供だ。だから認知せず幽閉されているのだ。この街に来て日が浅い俺の耳にも入るくらい有名な話だった。

 

「妹はな、かわいそうなんだよ。お父様はエステロイドに会おうともしないし。その上体も弱くて外にも出れないんだ。妹のエステロイドは冒険者に憧れててな、窓で外の世界の事をずっと眺めているんだ。だから私が彼女の分まで冒険者として活躍して、その冒険譚を聞かせてあげてる。妹は姉である私の話を聞くのを楽しみにしているんだ。なんせ私はこの街最強の悪党だもんな!」

 

 なんていい話だ。さる身分出身であるラビッシュが、わざわざ冒険者としてこの街に滞在し、自ら街一の大悪党を名乗っているのはそういう理由があったのか。まぁ知ってたけどね。っていうかこの街でそれを知らないのはアルタリアぐらいじゃないか? みな暗黙の了解で気付かないふりをしている。

 ラビッシュがこの街で一番の冒険者であることはある意味事実だ。だって彼女に逆らうことは出来ない。本人は権力を使ってどうこうするタイプじゃないが、下手に傷つけでもしたら処刑されてもおかしくない。なにしろラビッシュの正体は……。

 

「そんな妹がな、最近のこの街の話を聞いて悲しがってるんだ。冒険者が一生懸命倒したモンスターを、横取りするなんて最低の奴がいるって聞いてな! 絶対許せないよな! 私もこの町を取り仕切る冒険者として! なんとしても突き止めるつもりだ!」

 すいません。その犯人……というかそいつらのボスはこの俺なんだ。俺が狩場を破壊された腹いせにちょっと町全体にお灸を据えてやるつもりが、昔のネトゲ時代を思い出してハッスルしちゃったのさ。ごめんね。

 

「ああ! なんとしても食い止めないと! 俺も協力するぜ! そうだ! ベルディアにもチクっとこう! あいつの騎士団が動き出せば悪い奴もすぐ捕まるさ!」

 

 さすがに良心が痛んできた。まぁ街の冒険者への復讐は十分に成し遂げたはずだし、そろそろこの事業も引き上げることにしよう。

 

「そうだなマサキ。私からもベルディア隊長に伝えておくよ。出来ればこの手で犯人を捕まえてやりたいんだが……。妹の笑顔を取り戻すために!」

 

 そう意気込むラビッシュだった。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 ――その後、おなじみの悪党共を呼び出した。

 

『最近仕入れた情報によると、ラビッシュだけじゃない。ベルディアも捜査に乗り出したようだ。そろそろこの商売から手を引くことにする』

「んだとボス! 相手が騎士だろうが関係ねえ! 今までどおり素材を奪ってやる!」

「怖気づいたのか! 臆病なボスだぜ!」

 

 今まであまりに上手くいったため、味を占めた部下達が言うことを聞かなくなっている。すっかり無駄に自信を付けやがって。俺が表と裏の顔を使い分け、情報を探りまわったおかげだと気付いてない。

 

『私達は十分に稼いだ。人間引き時が肝心だ。騎士団を敵に回せば勝ち目はない。他の儲かる手を考えよう』

「やめたきゃ勝手にしろよ! 八咫烏! こんなボロい商売が他にあると思うか? あんたが協力しなくても! 別のところで商品を卸せばいいだけだ! まだまだ続けるぞ!」

「そうだ! 俺達は止められねえ! もっとだ。この街中のモンスターを奪いつくすまではな! はっはっはっは!」

 

 さすがは金の事しか興味ない人間のクズたちだ。クズの中のクズを厳選しただけの事はある。簡単に言うことは聞かないか。このまま説得しても無意味だろう。

 口で言ってもわからないようなら……仕方ない。実力行使あるのみだな。

 

『まぁいいだろう。少し様子を見てやる。そのまま続けるといい』

 

 そういい残して彼らの元から去った。少しお灸を据えてやるとするか。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「俺の名はサトー・マサキ! お前達だな! 他人の奪ったモンスターを勝手に横取りしているのは! 許さないぞ!」

 

 俺は配下のハイエナたちが、俺の渡した計画書通りにモンスターの死骸を剥ぎ取ってる現場に向かい、今度ローブなしで顔を出して姿を見せた。

 

「ハッハッハ、誰かと思えば! 要注意人物のマサキじゃねえか! だがな、お前がこの街の大悪党だった時代はもう終わったんだ! 今は新しいボスがいる! そう俺達のバックには“八咫烏”が付いてるんだぜ?」

 

 荒くれがそんなことを言って来る。知ってるわ。その八咫烏がこの俺だよ。

 

「八咫烏が何者かは知らないが! お前達の悪事もここで終わりだ!」

 

 俺はすっとぼけながら、槍を構えてハイエナに叫ぶ。

 

「おい! 相手はあのマサキだぞ? やれるのか?」

「大丈夫だ! 奴は一人だ! あいつのおっかねえ仲間がいない! あいつだけならやれる!」

 

 ハイエナ達は俺に剣を向けてくる。正体を知らないとはいえ、ボスに向かって刃を向けるとはいい度胸じゃないか。だがこれでいい。そうこなくてはな。そのためにわざわざ仲間を置いてソロで来たんだ。

 

「ずいぶんと舐められた者だな。この俺自信が戦えないとでも? 『バインド』」

 

 バインドを不意打ちさせ、ハイエナの一人を拘束する。

 

「よくもやりやがったな! ぶっ殺してやる!」

 

 襲い掛かってくる荒くれ、もとい俺の秘密の部下達。

 

「死ねっ」

「ぐっ!」

 

 槍でなんとか凌いでいるものの、数で負けている。しかし劣勢な理由はそれだけじゃない。俺は慎重に戦わなくてはならないのだ。

 

「『クリエイトアース』『ウィンドブレス』!」

 

 レイには不発だった目潰しコンボを浴びせる。

 

「ぐう! 目が……!」

 

 怯んだ隙に。

 

「食らえ!」

 

 槍を振り回す。だが慎重に相手に当たらないように軌道を反らす。

 

「どこを狙ってる!」

 

 攻撃が当たらなくて笑みを浮かべる悪党に対し。

 

『ティンダー』

「ぎゃああああ!」

 

 軽く手から炎を出し、腕を炙ってやった。

 

「アツッ! テメエふざけた真似を……」

「気をつけろ! なにをしてくるかわからんぞ!」

 

 少し火傷をしてイラつく悪党共。そして警戒する。もうそろそろいいだろう。茶番は終わりにしよう。

 

「そろそろ本番と行こうか。おーい! ラビッシュ! ここだ! 悪党を見つけたぞ!」

 

 大声で叫び、ラビッシュを呼ぶ。さらにあらかじめ用意していた狼煙を上げる魔道具を発動させ、自分の位置を周辺に知らせた。

 

「なってめえ!」

 

 援軍が現れると聞き、青ざめるハイエナたち。

 

「俺はただの時間稼ぎさ。ラビッシュにな、この狼煙を見たら駆けつける様に言っておいたのさ。どうする? このまま続けるか?」

 俺は距離を取り、悪党共に尋ねた。ここまでは順調だ。

 

「ぐっやっべえよ! このままじゃあおしまいだ!」

「どうしよう? もう潔く降伏するか?」

「ちょっと素材を盗んだだけさ。素直に白状すればすぐに牢屋から出れるだろ」

 

 急に弱気になり、ヒソヒソと話し合いを始めるならず者達。

 この馬鹿ども! 降伏だと!? なにを言い出してやがる! 確かにラビッシュを呼んだが、ここに来るまでまだまだかかる。逃げる時間は十分あるのに! なんて諦めの早い奴らだ! 昨夜のあの勢いはどこに言ったんだ!

 

「そ、そうだぜ! 俺なんて『バインド』で拘束されて動けねえし……」

 

 最初に拘束した男もそんな情けないことを言い出した。それただのロープだぞ! 刃物でちょいとやったらすぐに切れるぞ。

 

「この大馬鹿どもがあ!!」

「ヒイッ!」

 

 俺は激怒し、拘束された荒くれに槍を振り下ろす。

 

「って? あれ?」

 

 槍の先端でロープの結び目を切り裂いた。

 

「馬鹿め! 自由になったぞ! へたくそめ!」

「よし、とっととおさらばしようぜ!」

 

 イラッとくる。わざとやったんだよカス。っていうか早く逃げろ!

 

「くっしまった! 腕が滑って……。このままじゃあ逃げられる……。ラビッシュが来るまでこいつらを引き止めないといけないのに!」

 

 口ではそんな事をいい、残念がるふりをする。いいから早く逃げてくれ! 頼むから! 茶番はもううんざりなんだ。ボロが出たら非常にまずい。

 

「待て! 相手はラビッシュだ! 話せばわかってくれるかもしれない。八咫烏の事を大人しく話せば……」

「そうだ! あんな胡散臭い奴隠しておく必要はないだろう!」

 

 なんだと……! お前ら! ボスを……もといこの俺を売る気か!

 

「そもそもあいつは顔も見たことないし」

「一応ボスって呼んでやってるが、最近知り合ったばっかだしな、恩とかねえし」

 

 集まってそんな事を話し始めた。どうやらボスに見切りを付ける気だ。

 

「……このクズ共め」

 

 そんな彼らを見て俺はボソッと呟く。

 もういい。この臆病者達の言動に俺も我慢の限界だ。こうなったらもう!

 

「お前ら全員! この場で殺してやる! 降伏なんて認めん! 死ね!」

 

 俺は激怒し、槍を振り回してその場のチンピラどもに襲い掛かる。

 

「うわあああああ!」

「待て! 大人しくする! 投降するから」

「うるさい死ね!」

 

 命乞いをする影の部下たちに容赦なく言い放った。

 

「マサキは狂ってる! やべえぞ!」

「やっぱりこいつはこいつでガチの悪党だ! 急げ!」

 

 ここまでやってようやくその場から逃げ出してくれた。世話のかかる部下どもだ。

 

「ふう、クズ共が! 本当に覚えとけよ!」

 

 なんとか計画通りに向かった。俺は悪党共から攻撃されたため潔白を晴らすことが出来る。奴らもこれ以上は横取り行為はやめるだろう。一石二鳥だ。しかしあいつらは思った以上にカスだった。危うく台無しになるところだったぞ。危うい橋だった。

 そしてようやく誰もいなくなったとき。

 

「マサキ! 無事か! 悪党を見たというのは本当か!?」

 

 ラビッシュとその付き人たちが急いでやってきた。

 

「ああ。そいつらと戦ったんだが……。すまない。逃げられてしまった……。俺の力が足りないばかりに……」

 

 そう申し訳なさそうなふりをする。本当はあえて逃がしたのだ。っていうか最初からちゃんと逃げろあいつら! 後で焼きを入れてやる!

 

「いやマサキ。君はよくやったよ。ゆっくり休め。後は私たちに任せてくれ」

 

 謝る俺をまっすぐな瞳で元気付けるラビッシュ。止めてくれ。そんな目で見るな! ほんの僅かに残った良心が痛むから! 頼む!

 

「気をつけろよ。敵は一人じゃないぞ。複数人でモンスターを漁ってた!」

 

 彼女から目を反らしながら犯人の情報を渡した。

 

 

 

 

 

 ――その夜すぐさま荒れくれどもに緊急収集をかけた。

 

『だから言っただろう? これ以上の商売は危険だと?』

 

 俺はマスクとローブを付け、八咫烏として部下達の前に姿を現す。

 

「す、すまねえボス。あんたの言うとおりだった。マサキの野郎、俺達の事をついにかぎ付けやがった」

 

 そりゃ当然だ。だって俺マサキだもん。お前達がどこに向かうか指示したのは俺だし。見つけられて当然だわ。

 

『無事逃げられて何よりだ。マサキはその内にかたをつける。それよりも、貴様らには言いたいことがある! 『バインド』』

 

 一人を拘束スキルで捕まえ、さらにそのロープの反対先をあらかじめ天井につなげておいたので、そのまま逆さづりにする。

 

「ぼ、ボス! なにを……?」

『話は聞いたぞ? 貴様ら、この私をラビッシュに売ろうとしたらしいじゃないか?』

「な、何でそれを……? 違う! そんな事やってない!」

 

 とぼける愚かな部下に。

『この私の情報網を甘く見るなよ? お前達がなにをしているのか全てお見通しだ! 嘘をつくな。私を差し出せば自分の罪が軽くなると思ったのか?』

 

 懐からナイフを首元に近づけて脅す。万が一のためこいつらに正体を明かしてはいないが、簡単に裏切られるのは困る。

 

『この街の大悪党はラビッシュでも無い! マサキでもない! この私だ! 逆らうものは許さん! よく覚えておけ』

「ぼ、ボス! 今度は二度とこんな真似はしません!」

『お前達は元々、この町のあぶれ者だ! 貴様らがどこで野たれ死のうが、住民は何も気にしない。仮にお前をモンスターに襲われたように見せかけて殺しても、警察は動かないだろう。それをよく思い出せ。私もそんな最終手段は、できれば、取りたくない。わかるな?』

「ヒイッ」

 

 これで少しは懲りただろうか。俺もそんな真似――殺人なんてしたくはない。だが裏社会で事業をする以上、いずれはこの問題に突き当たるだろう。舐められれば終わりだ。飴と鞭を使い分けねば。まぁしかし、なにも殺さなくてもいいか。あらぬ噂を流し、社会的に完全に抹殺する方法もある。

 

「フン! 今回は許してやろう。だが次はないぞ。よく覚えておくんだな」

 

 ナイフでロープを切り裂き、逆さ吊りの男を開放してやった。

 

「ハァ、ハァ、八咫烏様! すいませんでした!」

『謝るのはお前だけか?』

 

 これだけでは満足せず、他の荒れくれにも目線をやると。

 

「あなたに逆らいません!」

「そうですとも! これからもよろしくお願いしますよ!」

『わかればいいのだ。わかれば。二度と私の命令に逆らうな。ではこれよりハイエナ行為は慎むのだ。いいな!』

 

 改めてハイエナ作戦の中止命令を下した。もう異を唱えるものはいないだろう。

 

「で、ボス? これから俺達はどうすれば?」

「ここで解散ですか? あんたには稼がせてもらったし……このことを喋る気はありませんよ! 本当です!」

「用済みになったから口封じに処刑なんて事はありませんよね?」

 

 怯えながら聞いてくる部下。

 

『案ずるな。一つの行動が終われば、新しい風が吹くことになる。今回の事件でギルドの……いやこの街全ての住民達に警戒心を植えつけることに成功した。まぁ見ていろ、すぐに次の仕事が見つかることになる』

 

 邪悪な笑みを浮かべながらその場を後にした。

 

 

 

――それからこのアクセルの街では。

 

「聞いてくれマサキ! お前が襲われた事件の後に、お父様……じゃなくて領主に報告したら! 今後はギルドの警備をさらに増やすことに決まったんだ。これでもうあんな奴らを野放しにはさせないよ!」

 

 ラビッシュがこの俺に報告してくれた。どうやらパトロールをさらに増やすようだ。またベルディアの騎士団もそれに参加するらしい。

 

「それはよかった。これでもう獲物の横取りに悩まされることはないな」

 

 俺も納得して頷いた。彼女の働きかけで警備兵が増えたためか、最近はモンスター横取り事件は収まったのだった。

 本当は犯罪組織のボスである俺が中止させただけなのだが。

 

「これからはギルドでも警備兵を募集するようになってね! 防衛費の予算が増えたおかげで雇う余裕が出来たんだ。見張るだけだから給料は冒険者よりは安いけどね、でもあんなハイエナ行為を防ぐために必要な存在なんだ」

 

 そう、警察と騎士団だけでは横取り行為を防げないと判断したこの街のギルドは、一般人をリクルートして警備員として雇うことになったのだ。

 

「それは心強いな。これで犯罪もなくなるだろう」

 

 彼女に同意していると、その雇われた警備員が近くを通りかかった。

 

「おおいい所に! マサキ、紹介するよ! 彼らは新しく街の警備をすると買って出てくれた……たしか名前は」

 

 ラビッシュがその警備員たちを見て教えてくれる。

 

「おはようございますラビッシュさん! これから見張りに参りますぜ!」

「そう、街の平和は、この俺達、“八咫烏組”に任せてくれ!」

「どんな悪事もしょっ引いて見せるぜ! ガハハハハハ」

「頼りにしてるよ! 君たち!」

 

 ラビッシュに挨拶する警備員たち。彼らの顔を見て笑みを隠し切れない。なぜなら彼らこそが俺の影のしもべたち、そもそも今回の騒ぎを起こした張本人たちだからだ。

 

「フッ」

 

 八咫烏の一味は外道行為から足を洗い、全うな警備会社として再出発したのだった。

 俺はここ最近の事件の後、警備の増強が来ると睨んでいた。そこで俺は大胆にも部下達にその面接に向かうように命令したのだ。結果として警備員の人材を欲しがっているギルドに、モンスターの横取り行為をしていた犯人達を就職させることに成功した。これでもう二度と倒したモンスターが奪われることはないだろう。何しろ彼らが犯人だったからだ。

 この街であぶれていたならず者たちには職が見つかり、あんな行為をしなくて済む。モンスターが奪われることで困っていたギルドも万歳だ。俺の個人的な復讐も果たせ、みんなハッピー。ハッピーエンドだろう。やったことは正真正銘のマッチポンプだが、見事成功を収めたのだった。

 

「八咫烏だかなんだか知らないが、ちゃんと俺の倒したモンスターも守ってくれよ?」

「ああ? なんだとマサキ!? テメエのは知ったことか!?」

 

 いつも通りすっとぼけつつ彼らに頼み込む。八咫烏の一味も俺がボスだということは知らない。全てを知っているのはこの俺だけだ。嫌そうな顔をする八咫烏組の警備員達。

 

「まぁ仕事だからな! 一応守ってやるぜ! だがいつまでもお前ごときが偉そうに出来ると思うなよ? 少し問題のある女共を従えてるくらいで! これからは八咫烏の時代だぜ」

 

 そう得意げに言い返す八咫烏の部下達。その八咫烏=俺だということに全く気付いてない。この反応に満足した。

 

「それでいい。俺は別に名を売りたいわけじゃないしな。お仕事頑張ってくれ。こっちも安心してクエストが出来るよ」

 

 新しく出来た警備会社に軽く手を振り、俺は自分の仲間たちとクエストへ向かった。秘密は完全に守られたようだ。

 さあ、次はなにをしようか……?

 …………。

 ……。

 

 

 というか本来ならこの辺で悪事がばれて酷い目に合ったりするのが普通じゃね? 

 でも、言い出すタイミングはとっくに過ぎてしまった。今はもうシャレじゃあすまない。

 どいつもこいつもすっかり騙されやがって。

 もはや俺って完全な悪党じゃねえか。

 ゲームでやってたことをそのまま現実に当てはめたらやっべーぞコレ。

 そもそも昔俺はゲームとはいえなんてことをやってたんだ。超がつく詐欺師だぞ。

 もはや今更引き返せない。一度やってしまったあとは深みにはまっていくだけだ。

 このまま悪の道を進むしか残ってない。

 

「覚悟は、出来てるぞ!」

 

 最低にして外道のこの俺の第二の人生はまだまだこれからだ。

 




キャラクター対応リストを作りました。

主人公(冒険者)
・佐藤和真(サトウカズマ)
ゲスイ行動が多いが、基本的にはお人好しの善人。
武器はちゅんちゅん丸という日本刀風の剣。
幸運が異様に高く、狙撃やスティールが効果的。
得意スキル:スティール
・佐藤正樹(サトーマサキ)
ギリギリ良心らしきものはあるらしいが、基本的には悪人。
武器は中サイズの槍。あとナイフ。メガネをしている。
ステータスはバランスこそいいが、器用貧乏なため真っ当に戦う気はない。
得意スキル:バインド
年齢:20歳

アークプリースト
・アクア
女神でありながら、お調子者で能天気のトラブルメーカー。
アークプリーストとしては神クラスの能力を持つ。
宴会芸はまさに神の領域
・マリン
熱心なアクシズ教徒だが、性格はいたって真面目。働き者。アクア様の事を崇拝している。
たまに予言と称して、なりふり構わず意味のわからない行動を仕出かすが、それ以外はまとも。
パーティーの良心であり、悪の道をつっきるマサキを止めるストッパーでもある。
能力は劣化アクア。だが宴会芸は使えない。人間なため水の自動浄化能力もない
パンツははいている。
年齢:20前後

アークウィザード
・めぐみん
パーティーのロリ枠。中二病で眼帯をつけている。
特技は爆裂魔法。爆裂魔法に強いこだわりを持ち、それ以外の魔法は使えない。
一日一回の使用が限度だが凄まじい威力を誇る。
・レイ
パーティーのメンヘラ枠。長髪で赤い眼を隠している。まだ紅魔族でないため光らない。
特技は炸裂魔法。魔法自体に特に拘りはないため他の魔法も色々取得する。便利だと思えば初級魔法も分け隔てなく使いこなす。
彼女が執着するのは愛である。邪魔をするものは誰であろうと牙を向く。
ロリ体系で顔もよく見れば美人なのだが、夜に四速歩行でゴキブリのように動き回る彼女からは恐怖しか感じない。
年齢:17歳

クルセイダー
・ダクネス
金髪碧眼の巨乳。腹筋が割れているが少女趣味な所もある。
スキルポイントの大半を防御系スキルに割り振っており、世界トップクラスの防御力を持つ。
ドMな性癖を持つが比較的常識人。
実は貴族であり、フルネームはダスティネス・フォード・ララティーナ。
・アルタリア
オレンジ色の髪と碧眼で、巨乳。腹筋は勿論割れている。
女らしさの欠片もない。殺すことを何より楽しみにしているドS。
スキルポイントの大半を攻撃、スピードに割り振っている。
クルセイダーでありながら防御を全く考えてないため異様に打たれ弱い。
ゴブリンや冒険者の一撃で戦闘不能になるくらい。
物事を勝つか負けるかの単純思考で判断するため、頭が非常に悪い。
スピードを少しでも高めるため、鎧はスカスカで自分の体重もかなり軽い。
実は貴族だが隠しているわけではなく、誰にも信じてもらえないだけである。
フルネームはアレクセイ・バーネス・アルタリア
貴族でありながら金髪ではないのは理由がある。
年齢:22歳前後

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