この素晴らしい世界にデストロイヤーを!   作:ダルメシマン

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1話~6話は仲間集めの章です。この6話で四人パーティを完成させます。



一部 ベルディア編
一部 1話 登録手数料?


「おいおい、本気で異世界だ。え、本当に? 本当に、俺ってこれから冒険者とか?」

 

 俺は、目の前に広がる光景に、興奮で震えながらも呟いた。

 それは、これはテンプレートですからと言わんばかりの中世風の街並み。 

 いや訂正しよう。街並みというのはすこし大げさだった。見たところ人口は数百人規模。これでは街と言うより村だな。城壁もまだ作りかけのようだ。屈強な体の兄ちゃん達が土木工事を行っているのだが、人手が全然足りてない。

 

「やっぱり異世界といったら中世ヨーロッパ風と決まりでもあるのか? それにしても小さな町だな。こんな町魔王軍とかが攻めて来たら一瞬で滅ぼされそうだ。この先不安だなあ」

 

 異世界に来たと言う興奮が冷めてくると同時に冷静になって周りを見渡した。

 

 

 まだ駆け出したばかりの冒険の街、アクセルへようこそ

 

 ボロイ立て札にそう書いてあった。あの女神様が言ったとおり、この街はまだできたばかりなんだろう。人もまばらで建物も少ない。

 

「こんな小さな街に送られてもなあ。でも俺の貰ったチートは非戦闘向けだし、いきなり激戦区に送られるよりマシか。ここでコツコツ強くなって、それから他の街に向かえばいいか。魔王軍が攻めてこないことを願おう」

 

 俺がブツブツと独り言を呟いていると、この街の住民らしき人が話しかけてきた。

 

「おや、君はもしかして冒険者志望なのかい。だったらギルドはこっちだ。案内してあげよう」

 

 本当にゲームの序盤みたいだな。俺が冒険者志望であることに頷くと、その男性はすぐに冒険者ギルドという場所まで案内してくれた。

 

 

「この街はまだ出来たばかりでね。君のような冒険者志望の人は大助かりだよ。じゃあ健闘を祈ってるよ」

「ありがとうございます」

 

 わざわざ冒険者ギルドの前まで案内してくれたおじさんに礼を言う。親切な人だな。でも見ず知らずの人にここまでしてくれるなんて。よっぽど人手不足なのだろうか……?

 

 

――冒険者ギルド――

 

 

 ゲームに必ず出てくる、冒険者を仕事を斡旋したり、支援してくれたりする組織。

 現実世界ではハロワに相当する。

 ハロワに行け、と言われると身の毛がよだつ思いをしてまるで麻痺状態のように足が重くなるものだが、冒険者ギルドに行け、と言われるとむしろ身が軽く今すぐにでも仕事してみたくなる。

 いっそのこと日本もハロワという名称をやめ、冒険者ギルドという名前に変えればニートが殺到するようになるのではないか。そんなどうでもいいことを思いつく。

 

「それにしてもボロっちい建物だな」

 

 俺はその建物を見て呟いた。冒険者ギルドというゲームの要とも言える場所が、こんなボロボロでしょぼくていいのだろうか? しかし周りの家々を見るともっと酷い有様だ。冒険者ギルドの建物の方が比較的マシに見える。だったらここであってるのだろう。覚悟を決めて中に入ることにする。

 

 

 ギルドと言えば、荒れくれの冒険者が昼間っから酒を飲んで、新参者に喧嘩を売ってくるのが決まりだ。だがいざ入ってみればそれは杞憂だった。数人の冒険者がいるだけでガラガラだ。彼らも大人しそうで特に絡んでくる様子はない。

 受付は二人。

 その内一人は女性職員、もう一人は若い青年だった。その若い青年は、明らかにやる気のなさそうな仕事を舐めてるようないわゆるゆとり社員だ。欠伸をしながらめんどくさそうに椅子に座り、暇つぶしなのか机になにか落書きをしている。

 こうなると当然女性の方を選びたくなる。下心もない。フラグとか期待してない! 隠し展開とかも期待してない! ただの消去法だ! 自分に言い訳をしながら美人のいる受付へと向かった。

 

 

「はっ、えっもしかして冒険者志望の方ですか!? いらっしゃいませー。ようこそ冒険者ギルドへ!」

 

 美人の受付嬢はビクっと体を震わせ、俺を見て言った。

 

「今寝てましたよね?」

「寝てません」

 

 首を振って否定する美人の受付。ストレートの髪ときっちりとしたお堅い服からでもわかるその巨乳。真面目そうな人だと思っていたのに。この二人の受付はどっちも不真面目な子だったのか。

 

「そんなことより冒険者志望のお方ですよね。本来ならお一人登録手数料二千エリスなのですが、今このアクセルで冒険者になられる方には特別キャンペーン、八百エリスにて提供しております」

 

 巨乳の受付は誤魔化しながら話を続けた。

 

 

 登録手数料?

 

 

 本来なら二千エリスのところを八百エリスで。そう聞くと得に聞こえるのだが、そもそも俺はお金なんて持ってない。エリスというのが単位だと言うことくらいわかるのだが、八百エリスというのがどれほど価値なのかもわからない。あの女神も手数料くらい渡してくれよ。

 

 

「あ、あの今お金持ってなくて! 冒険者になってから後払いというのはダメですかね?」

 

 困った俺は受付の人に訴えるが、黙って首を振る受付。

 

 

「おい、いきなりつまづいたぞ! どうする? 考えろ。考えるんだ俺。俺以外にも多くの転生者が送り込まれたはずだ。そいつらだって俺と同じ一文無しだったはずだ。皆はこの危機をどう乗り越えたんだ?」

 

 いったん受付から離れ、苦悩する俺。得点のカタログを思い出せ。そういえば《魔剣グラム》ってのがあったな。あの武器は使えばどんなものでもさっくりと切れるとあった。もし俺がアレを持ってたら……その辺のモンスターを適当に倒し、その腕前を見て手数料なんてすぐに貰える、もしくは免除されると思う。

 

「ちくしょう! 非戦闘系のチートにこんな落とし穴が!」

 

 俺は自分のチート、《バニルアイ》を見てがっくりする。いや待て。諦めるのは早いぞ佐藤正樹よ。この魔道具も使いようによっては金を稼ぐことが出来る筈だ。考えろ! 考えろ!

 

 俺は何かを決心して立ち上がり、再び受付の下へ向かった。

 

「あ、あの。さすがに八百エリスも払えない人に冒険者登録をさせるわけには……」

「そのことなら問題ないです。実は俺はね、目にした相手を見通すことが出来るんだ。それであなたの事を占ってあげよう。代金はいらない。その代わりに登録料を免除してもらうと言うのはどうです?」

「そ、その困ります! そんなことを言われても! 占いなんて結構ですから!」

 

 嫌がる巨乳の受付嬢。そりゃあ当然の反応だろう。俺だって見ず知らずの男にいきなり占ってやると言われたら同じ反応をするだろう。だが、俺のこの眼鏡は本物なのだ。断片的で不完全ながらも、相手の事を見通すことが出来る。ってカタログに書いてあったんだ。

 

 

「ほほう。なるほど。君は本当ならこんな辺境に来たくはなかった。こんなド田舎だと出会いも少ないだろう。恋人がいなくて婚期を逃すことを恐れている。でも君は立派な胸を持っているじゃないか。そんな窮屈な服は止めて、もっと露出高めの服に着替えることをオススメしよう。そうすればその色香に引かれて男共がヒョイヒョイ集まってくる。さあ胸を張って――」

 

 そこまで言ったところで受付嬢にビンタされた。くっ失敗だ! 不審者を見るような目で俺をみる美人。人間は本当の事を言われると怒るって言うのを忘れてた。この眼鏡から余りにスラスラと単語が浮かんでくるからついそのまま言ってしまった。この眼鏡は本物だ。だけど俺がやったことはどうみてもセクハラだ。いきなり美人受付とのフラグをへし折ってしまった様だ。休憩中と書いた立て札を置き、奥へ引っ込んでいく巨乳美人。なんてもったいないことを!

 

「あーやっちゃったー! やっちゃった! でもこれで! この魔道具の力が本物だと確信できた! 今回は失敗したが、必ず手数料をゲットして戻ってきてやるからな! 待ってろよ受付!!」

 

 俺はそう捨て台詞をはいてギルドから飛び出した。

 

 




・サトーマサキ
主人公。サトウカズマさんとは名字が同じだけで全くの他人。親戚でもなんでもない。
伝説の勇者サトウとも別人。
わかりやすくするためにサトーと表記する。
カズマさんがクズならマサキは普通に犯罪者一歩手前である。
勝つためにはルールすら無視する、他ゲーマーや開発者から見れば頭の痛い存在。
人としての一線を越えることには何のためらいも無い。そんな良心はほぼ残ってない。

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