NARUTO-カルタ外伝- 転生者の独擅舞台《チーターライフ》 作:新名蝦夷守
ではつづきです。
リンを連れ去った岩隠れの忍びを追い、俺は土地勘のない森林を奥へ奥へと進んでいく。
同じような景色が続く森は戻る道が分からなくなりそうだ。それに木々が生い茂っている場所では方角、方向感覚も失いそうな恐怖感もある。
だけど、リンのことを考えたら一刻も早く見つけて助けてやらないと。という一心で一歩、また一歩と歩みを進めていく。
それはカカシと別れてから、しばらく経ったころだった。
敵の居場所を掴んだのは。
「やっと・・・見つけたっ!」
俺の心臓がリンを助けなければという使命感と自分より格上の敵と戦わなければならないという死と隣り合わせという状況から来る緊張感からバクバクと高鳴る。
その音が嫌に大きく聞こえる。
そしてそれが余計に俺を焦らせる。
落ち着け、うちはオビト!
いま、俺がやらねば誰がやるんだっ!!
誰がリンのことを助けてやれるんだッ!!
・・・よし。
「行くぞっ!」
「何処へだ?小僧」
後ろから唐突に声がしたかと思えば、敵が姿を現していた。
いつの間にッ!?
俺は反射的に一番使い慣れた術を発動させる。
《火遁・豪火球の術》
俺の口から放たれた豪火の玉は敵がいた場所を真っ赤な炎で燃え上がらせる。
が、今度はそのせいで敵を見失う。
自分から見て豪火球が敵の壁となり、敵の動向が読めなくなってしまうのだ。
そこで更に畳み掛けるようにして術を発動させる。
《火遁・白狐の術》
豪火球から一部が分離して、白い炎が狐をモデルに形成し、敵を追尾する。
その白狐が向かった先は・・・後ろッ!
無造作に、反射的に数枚の手裏剣を振り向きざまに投げつける。
キッキンッ!と、金属がぶつかる音が2回連続で聞こえる。
俺はその音を確認するよりも前に足にチャクラを集中させて、高くジャンプをする。
弾かれたか・・・。
でも次こそはっ!
《火遁・鳳仙花爪紅》
俺の投げた手裏剣に火遁・鳳仙火が纏い、殺傷能力が高く数の攻撃範囲の高い術を放つ。
木々に当たるものもあり、多少の森林火災となりそうだがとりあえずそれは後回しだ。
それから俺は地球の重力に従って、地面へと降り立つ。
「・・・やったか?」
後から思えばそれが俗に言うフラグというやつだったんだろう。それも死亡フラグっていう最悪のフラグだ。
「その程度でか?」
その言葉が耳に届いたと同時に左太腿が急に熱くなった。
「無駄な抵抗はよせ。貴様が情報を喋れば、あの女は解放してやる。お前も命までは取らないでやろう」
ドクドクと血が左太腿から流れ出る。土遁の術で確か、高速の弾丸を打ち出すような術があったような気がする。
たぶん俺の左太腿を貫いたのはそれだろう。
「木ノ葉の忍びは絶対に仲間を売らねぇ。覚えとけッ!」
そう言って、精一杯の強がりを見せる俺だが、内心は正直ビビっている。
俺、ここで死ぬのかな。なんて冷静に考えてなんかいられない。
うぅ・・・怖えぇよ。
「ほう。小僧の癖して大した覚悟だ・・・死ねッ」
ダンッ!と、地面を蹴り俺に走り向かってくる敵の動きが遅く見える。
実際にはそんなこと、ありえないのに。
そんなことなんざ、起こり得るはずがないのに。
もちろん、敵の動きが遅く見えたからといって、逆に俺が早く動けることなんか一切なく。むしろ、一歩も動けなかった。
身体が恐怖で固まっていた。
脇差と言えそうなサイズの刀を振りかぶり俺に向けて振り下ろそうとしている敵がもう、目の前に迫っていた。
し、死ぬッ!!
目を瞑ってその瞬間の恐怖から意識を背けた。
いままでの出来事が走馬燈のように・・・。
しかし、いつまで経っても来るはずの衝撃が来ない。走馬燈もない。
・・・。あれ?
もしかして、知らない間にもう殺されたのか?
恐る恐る目を開けると同時に呻き声が近くで聞こえる。
「・・・っ!?カカシ!!」
蹲って辛そうな呻き声を上げていたのは、喧嘩別れをしてこの場にいないはずのカカシだった。
そして、俺を殺そうとしていた岩隠れの忍びはカカシの前に倒れ伏していた。
「お前!あんだけ拘ってた任務はどうしたんだっ!?」
「終わらせたよ・・・作戦は成功だ。後はリンを連れて帰るだけだ」
「そ、そうか・・・」
俺ひとりで突っ走ってきたのに結局最後は与えられた任務をキッチリこなしてきたカカシに助けられて・・・ダサい。
以前の俺だったら、ちっぽけなプライドやら対抗心やら嫉妬心で絶対に言えなかったであろうセリフ。
「正直、やばかった。カカシ、助けてくれてありが・・・」
しかしそれをきちんと言い終えることが俺はできなかった。
「カカシ・・・お前、それっ!」
包帯でぐるぐる巻きにされている右目とは反対側の左目に刀で付けられたであろう縦一本の鋭利な切り傷。
「あぁ。今ので完全にやられた。俺はもう、何も見えない・・・」
だが、と続ける。
「俺には耳も鼻もある。ボケっとすんな!あと泣いてんじゃないぞ、オビト。リンを助けに行くぞ!」
見えてない癖に、俺が泣いてることなんか分かるか。
これはただゴミが目に入っただけ。
・・・くそっ。
俺が最初からリンのことを守れていれば。
俺が最初からカカシの命令を聞いていれば。
俺が最初から独り突っ走って敵と戦わずに、カカシと連携して敵と戦っていれば。
俺がもっとしっかりしておけば。
もっと、強ければ。
自分を守れるだけの強さがあれば。
他人をも守れるだけの強さがあれば。
リンも攫われることもなく、カカシも両目を犠牲にすることなんかなかったのに。
俺の・・・せいだ。全部。
なにが、俺がやらねば誰がやる。だ。
そんなヒーローぶって。
結局、何も守れてないじゃないか。
結局、いままで通り守られてるだけじゃないか。
ちくしょう・・・。ちくしょう・・・。
でも、次こそ・・・今度こそッ!
「俺がやんねーと。誰がリンのことを助けるってんだッ!!」
手に爪が突き刺さり、皮膚が破れ血が滲む。
そして、俺の見える世界が変わっていた・・・。