この素晴らしい世界に(神の右席の)祝福を!   作:stage

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あらすじにも書いた通り、お も い つ き
ですので、書きたい事を書きなぐる。
こんなアホが好き勝手やっているんだ、皆もフィアンマのSSを書こう! 早く!



プロローグ、というか全ての始まり











10月30日、

学園都市とイギリス清教。
ローマ正教とロシア成教。

───二つの勢力の争いが生み出した、第三次世界大戦は終結した。

───北極海に向かっていた大天使、ミーシャ=クロイツェフの反応は消滅。その存在を支えていた力を失い、ただのエネルギーとなって別の相位へ帰ったものと推測される。同海域で進行していた氷の融解の停止も確認された。

───同じく同海域において、生存者の反応は無し。

さらに──










◆◇◆◇



現在地の名はロシア、その内の名前も知れぬとある低い山の上。
今もなお雪が降り注ぎ、白銀の世界と化したこの場所で、二人の人間が対峙していた。

一人は、腰まで届く色の抜け落ちた銀色の髪をもち、表情の窺えぬ端整な顔だち。しかもこの厳寒の中、緑色の手術衣のみを纏った格好。

男性にも、
女性にも、

大人にも、
子供にも、

聖人にも、
罪人にも、

どれにも当てはまるようで、しかしそうではない。独特の雰囲気を放つ存在。

ソレの名は、アレイスター=クロウリーと言う。同時に、魔術師でありながらその全てを捨て、科学の道へと進んだ変わり者、そして究極の悪人とも。


もう一方の男性は、赤を基調とした服を身に着けており、瞳や髪の色も赤、
全身の至る所には擦り傷が確認でき、鍛えられていないような足にはあまり力が入っていない様で、フラフラと頼りない、そして何よりも右腕の肩より先が消失していた。

一応、その箇所を左手で押さえてはいるものの、断面からは止めどなく血が溢れ出てくる。
まさに満身創痍、このまま放っておけば、何もせずともいずれは失血によって体の機能を停止するだろう。

彼は、自身の事を"右方のフィアンマ"と名乗っていた。

彼は、世界を救える程の力を持ち、それをもってこのどうしようもなく歪んだ世界を正そうとした。
しかし、その全ては失敗に終わってしまった、奇しくも、自分と同じ右手の力を持つ者の手によって。




ツンツン頭のあの少年は、自分には無いものを沢山持っていた、
フィアンマは、血を失った事によりあまり回らない頭を働かせ、つい先程まで自分と戦闘を繰り広げていた少年の言葉を思い出す、

『世界中を救う、ね』『お前、「世界中」なんていうものを、本当にくまなく見て回った事なんてあるのか? そこでどれだけの人が笑っているのか、見た事はあるのか?』

『……テメェは怯えてたんじゃないのか』『一度も世界を救った事の無いヤツに、「世界を救える力」があるかどうかなんて分かるはずねえだろ』

『世界を「救ってやる」なんて思ってる奴に、この世界は守れない』『そんな奴に救われなければならないほど、俺達の世界は弱くなんかない』





………今、こうして思えば、彼が行動を起こした理由は『世界を救う』なんて大層な物ではなかった、『たった一人の少女を取り戻すため』、まるでRPGの勇者のような美辞で、しかしこの現実世界においてはちっぽけな理由。

あの少年の行動は結果としてこの世界を救う結果にはならなかったかもしれない。しかし、そうとはいかずとも、フィアンマに本物の『世界』の片鱗を見せるには充分だった。

大きな壁に隔たれた十字教三大宗派は手を取り合い、敵対する二つの勢力は協力し、世界中の人間の小さな善意が世に運びる悪意に打ち勝ったのだ。 そしてその様を、フィアンマの言う『世界』がいかに狭い物だったのかを、彼自身に見せつけた。

フィアンマは過去を懐かしむように、静かに目を閉じながら思考する。

自分を負かしたあの少年の中に確かに存在し、自分に徹底的に足りないもの。それが何なのか、彼とのやり取りでほんの少しだけ理解できた気がした。

霞の様な思考でそう思った、そう思えたフィアンマは、出血を押さえるために傷口を塞いでいた左腕を、ゆっくりと離す。

直後に、ボンッ! と、弾けるような音を立てて顕現した巨大で透明な腕が、吹き出る血によってその輪郭を表す。


『第三の腕』


自身の右腕も、"幻想殺し"も、神上としての力も失われた今、もはや自らの意志で操作することさえ敵わない。
だが、あと一回の戦闘程度なら、或いは、
 
「無駄だと思うがね」

そう考えるフィアンマを前にして、構えすらとらず余裕の態度を崩さない人間はそう言った。

実際にその通りで、端から見れば勝敗など一目瞭然だった。
フィアンマはきっと、彼を前に為す術無く敗北するだろう。
だが、本当に助けたいという思いが先行していれば、勝算なんて二の次にならなければおかしいはずだった。あの少年がそうだったように。

──踏みにじらせる訳にはいかない。
あの少年が命を懸けて救った世界を、これ以上。
例え、本物の怪物を相手取ったとしても。

フィアンマの放つ戦意が見てとれたのか、アレイスターは溜め息と共に、虚空に向かって見えない物を掴みとる様な動作を行う。
だが、フィアンマにはその行動は只のパントマイム、には到底見えなかった。
いいや、確かに"ソレ"は現実世界には存在しない、けれども、フィアンマの知覚がソレを無視する事を許さない。


『衝撃の杖』


究極の悪人であるアレイスターが純粋な敬意から師として仰ぎ、伝説にも残されている古い魔術師が持っていたとされる一本の杖。

目の前の人間の手元には以前として何も見えない、しかしソレが放つ存在感は異常で、夏の日の陽炎を杖の形に無理矢理凝り固めたようだ。その圧倒的な力に銀色の輝きすら錯覚させる。


「無駄かどうかは問題じゃなかったんだ」


静かにそう言ったフィアンマと、無言のアレイスター。
二つの影が動くのは、ほぼ同時、そして一瞬で激突。
次の一瞬でその内の片方が弾き出され、雪山のなだらかな斜面を転がり落ちて行く。

勝者は、アレイスター=クロウリー。

彼はそのまま敗者であるフィアンマに何かする訳でもなく、口の中で何事か呟いた後、視界の悪いロシアの風景に溶けるように去っていった。

対して、手も足も出ずに敗北したフィアンマは、立ち上がるどころか指一本動かす事もできず、仰向けの状態で雪の上に倒れたままだ。降り積もる吹雪によって、体がゆっくりと埋まってゆくのをうっすらとした意識で自覚しながら。








どれくらいの時が経っただろうか、不意に、フィアンマの近くで雪を踏みしめる足音が聞こえた。
雪が目に入ってしまったのか、頭がうまく働いていないのか、ぼんやりとした自分の視界に二人分の人影が映る。

誰だ、と人影に問い掛けようとしたが、自分の喉からはヒューヒューと空気が漏れるような音がするだけで、声にはならなかった。



「…………遅かったか」

と、一方の影から悔やむような声が聞いて取れる、声色からして男性、だろうか。
隣に立っていたもう片方の人影もゆっくりとこちらに近づき、フィアンマの首筋にそっと手を宛がう。

「あの化け物相手によく生き残った…………と言いたい所だけど、かなり雪に体温を奪われてるし、何より血を流しすぎてる。私達の腕をもってして、今から治療を始めたとしてもこれはもう手遅れだ、すまないね」

今度は女性の声が何かを謝っている。頭がぼんやりとしているフィアンマには会話の意図までは理解できず、どうやら、男女の二人組らしい、ということ位しか頭に入ってこなかった。

すっ、と。朦朧とするフィアンマの顔に、男性の手がアイマスクのように、目の周りを覆う形で乗せられた、想像以上に自身の体温が低かったのか、柔らかい手は温かいを通り越して熱く感じる程だった。
その手は瞼を閉じさせるように、ゆっくりと顔の表面をなぞっていく。

「………せめて、安らかな眠りを。
お休みなさい、"右方のフィアンマ"」

穏やかな声で紡がれるその言葉に促されるまま、フィアンマの意識は沈む。
まるで眠るかのように、深く、深く………



◆◇◆◇




10月30日、

学園都市とイギリス清教。
ローマ正教とロシア成教。

───二つの勢力の争いが生み出した、第三次世界大戦は終結した。

───北極海に向かっていた大天使、ミーシャ=クロイツェフの反応は消滅。その存在を支えていた力を失い、ただのエネルギーとなって別の相位へ帰ったものと推測される。同海域で進行していた氷の融解の停止も確認された。

───同じく同海域において、生存者の反応は無し。

さらに、この争いの元凶であり、ローマ正教最暗部、『神の右席』を率いていたリーダー格、"右方のフィアンマ"の死亡が確認された。
遺体は、『ベツレヘムの星』が墜落したとされる場所より数km離れた山中で発見されており、右腕は既に切断され、周辺の捜索を行ってなお発見されない事から、何者かに持ち去られたと考えられる。
彼の遺体は後日、ローマ教皇であるマタイ=リース氏によって直接葬儀が行われた。
そして、彼の遺体は聖ピエトロ大聖堂に安置される事となる。
勿論、他のローマ正教徒からの反対が多数挙げられたが、マタイ氏の強い要望によってそれが決定された。







聖ピエトロ大聖堂にある無名の墓、その下には誰が埋まっているのかも分からない、にも関わらず、その墓から花が消えることは無く。

ある時はマタイ氏が、
ある時は全身を黄色の服で包んだ奇怪な女が、
ある時はゴルフウェアのようにピッチリとした服を着た筋肉質の男が、
また、ある時はツンツン頭の東洋人らしき少年が花を添え、墓の下で眠っている誰かを弔いに来ているのを、多くのローマ正教徒が目撃する事となる。






◆◇◆◇






「えーっと、彼の名前………名前…………、えぇい面っ倒臭いわね! 実名くらい見出しに書いときなさいよ無駄な仕事増やしやがってぇ!」

ふと、癇癪をおこした子供のような声が聞こえ、フィアンマの意識が強制的に浮上する。

薄く目を開けると、雲におおわれたロシアの空にも負けない位、純白の空間が広がっている。

何とか動かせる首と視線だけを動かして右の方も確認すると、延々と続く同じような空間、しかし無限に、と言う訳でもなく、壁という形で限りがあり、反対側も同じ感じだ。


「あった! ………ってまさかこれ偽名!? いい大人が本名伏せてアナザーネームで呼び合うとか、この厨二が!」

その事からフィアンマは、上にあるものが『天井』で、ここは一つの『部屋』であると認識した。
そして音の響き具合からして、どうやらこの声の主は右でも左でもなく、自分から見て前方にいるようだ。とも同時に。

まだ少したるい体にむち打ち、フィアンマは片肘をついて上体を起こす。





そこでふと、彼は自身の身体に起こった、常識的に考えてあり得ない出来事に目を丸くする。
彼が片肘をついたのは、ほぼ反射で己の利き手、右手である。

(……どういう事だ、これは?)



肩の辺りから切断された右腕が、再生していたのだ。元通り、綺麗に。


あまりの事に、彼はしばらく言葉を失う。そして何かを確認するように、右の掌を閉じたり開いたりする、普通に動く。
左手で右の手の甲を軽く引っ掻く、普通に痛い。

では、本当にこの右腕はくっついているのか? と肩の付け根を確認しようとした時、『ぎぇっ!?』と間抜けな声が彼の耳に届く。
見れば、俗に羽衣と呼ばれるような細い布を纏わせており、控えめに言っても不思議な風貌をした少女が、こちらを見て固まっていた。多分、今までぎゃんぎゃんと騒ぎ立てていたのは彼女なのだろうが、何が原因で固まっているのだろうか?

フィアンマは、顎に手をやり、眼前の少女を深く観察する。
目の前の彼女は今でこそ鳩が豆鉄砲を喰らったような表情をしているが、その状態からでも本来ならば整っているだろうと抵抗無く思わせるほどの、まさしく人間離れした容姿。
後頭部より少し上の辺りで結っており、それでも腰のやや下近くまで伸びた髪は水色。
淡く、それでいて透きとおるよう。
そんな事がある筈が無いのに、それはまるで向こう側の景色が見えると錯覚しそうな程綺麗な青で、それと同色の瞳もまた、フィアンマが今まで見てきたどんな色より強烈な印象を与える。 

それを踏まえた上で、彼はこう感じた、

美しい、と。

しかしそれは少女の容姿などを褒める、と言うよりは、総合的に見て"芸術的な価値を下した"、と言った方が正しいように思えるが。

元々、十字教徒という立場もあってか、彼は生まれてから一度も異性に興味を待った事がない。一度も、だ。
もし、絶世の美女とフィアンマを一つ屋根の下に放り込み、そのまま放置したとしても何か問題が起こる事はない、断言できる。
何故なら、彼は一日中、聖書を片手に暇を潰し、夜になればそれなりに儀礼を済ませてとっとと睡眠に入るだろうから。
理性を押さえるために、だとか、気にならないように敢えて、だとかでは無い。本当に、心の底から興味がないのだろう。
なので、一般的には可愛いと分類される少女に可愛いと見とれる訳でもなく、彼が少女に抱く感情は、完成された美術品を愛でる時の物に近い。

そんなフィアンマの心情を知るよしもなく、目の前の少女はわなわなと震える指でこちらを指し、それに負けないくらい震える声で、

「いいっ、一体、何時から起きてたの…………? 今の、見てた? 聞いてた?」

嘘をついても仕方がない。
と、フィアンマは正直に、

「さっきから」

「具体的な数字を言いなさいよ!? 私は貴方がどの時点で目を覚ましてたかって聞いて………………コホン、」

ヒステリーを起こしたが如く喚きまくっていた少女は一瞬だけ、何かを思い出したような間を開けたあと、咳払いを一つ行い、

「フィアンマさん、で合ってますよね? ようこそ死後の世界へ、私の名はアクア、と申します。この場限りのお付き合いでしょうが、以後お見知りおきを」

シャラーン、今の彼女を効果音で表すとこんな感じか。

ファーストクラスの客を出迎えるキャビンアテンダントのような姿勢で深々と頭を下げるアクアと名乗る少女。
先程とは打って変わり、驚くほどの豹変ぶりだ。

が、ぶっちゃけフィアンマには不自然に見えて仕方がなかった。何故か、それはさっきまでのヒステリックモードの彼女を知っているからだと思う。あれだけ喚き散らしておいて、今さら取り繕ったって不自然に決まっている。

しかし、彼はそれについては深く触れなかった、それよりも興味が強く向く単語をアクアとの会話の中で見つけたから。

フィアンマは、路上に出店している胡散臭い占い師を嘲るような口調で、

「『死後の世界』? この場所がか? つまりなんだ、お前は俺様が死んだって言うのか?」

「ええ、フィアンマさん、貴方はつい先程亡くなりました。ずいぶんと短い一生でしたが、とにもかくにもこれで終わりです。」

その言葉を聞き、ショックで膝から崩れ落ちるかと思った。

『貴方は死にました』、普通の人間で普段のフィアンマならば、そんな事を言われても『くだらない』と一蹴し鼻で笑い飛ばすだろう。しかし、今の彼には心当たりが存分にある。
右腕の切断、アレイスターとの交戦、ロシアでの切り裂くような冷気、
そのいずれか、あるいは全てが、フィアンマを死に至らしめるに十分な要因だった。なので、今の彼は『自身の死』という事柄を頭ごなしには否定しきれない。それどころか、頭の片隅ではむしろ彼女の言葉を肯定していたりする。

自分の中で否定したかった事を無理矢理自覚させられ、ショックすぎるカミングアウトを受けたフィアンマは、視界がぐにゃりと歪むような錯覚を覚える。それは、自分が死んだと言われた事による精神的なダメージが大きいからか、死後の世界と言う非現実的な表現に脳が処理落ちを起こしているのか、彼には分かりかねるが恐らく両方だろう。
 
二、三歩よろめきながら片手で頭を抱えるフィアンマを一瞥し、アクアは困ったように苦笑しながら、いつの間にか手元に出現しているテキストの様なものを読み上げる。

「死因は著しい体温の低下と失血による衰弱死、これまた現代人にしては珍しい死に方ねー、雪山登山中に熊にでも襲われたの?」

アクアがそう借問するも、当のフィアンマは首を下に傾けてぶつぶつと何かを呟いており、聞こえてないように見えた。
その様子を見た彼女は、はぁ、とため息をつき、

「あによ、せっかく女神様が場を和ませようとしてんだから、反応ぐらい示しなさいよ。ったく、厨二はこれだから………」

そんな軽い罵倒にも無反応で、フィアンマは相変わらず何かを呟き続ける。
流石の女神様もここまでガチな反応はあまり対処しなれていないのか、人差し指を立ててやや強引に本題の方を切り出す。

「あー、先にも述べた通り、フィアンマさんは死にました………ので、今から貴方に与えられる選択肢は二つです。」

答えを返さないフィアンマを無視し、アクアは説明を続ける、

「一つ目は、貴方が元居た世界に人間として生まれ変わり、新たな人生を歩むか。」

一つ目の選択肢を提示された瞬間、フィアンマはおもむろに顔を上げる。
そのまま一言も発せず、ツカツカとアクアの元へと早足で歩み寄り、ガシィッ! 彼女の肩を両手で勢いよくつかむ。
そして結構強めにぐらぐらと揺らしながら、

「元居た世界!? 俺様は帰れるのかっ? 帰れるんだな!?」

「いや、ちょ、話は最後まで聞きなさ…………ホント止めて、酔ってきた酔ってきた、マジで酔ってきたからその手離してぇ」

そう言われてハッ、と気付いたフィアンマは肩から手を離し、一言謝罪を挟んでから続きを促す。
しばらくクラクラと目を回していた彼女だが、少したって正気を取り戻し、アクアはコホン、と咳払いを挟んで話を続ける、

「ただ、これにはちょっと問題があって………。
生まれ変わるって言ったじゃない? つまり、貴方の記憶やら何やらは丸ごと失われて赤ちゃんからやり直す、って事になるのよ、一連の反応を見てた限り、貴方はそれで納得しないでしょう?」

確かに、フィアンマは人生をやり直したい訳ではなく、ただ元の世界に戻りたいだけなのだ。つまり、これでは彼の願いに答えらないだろう。

フィアンマは、サンタクロースが存在しないと悟った子供のような表情をし、期待半分、諦め半分と言った声で、

「………もう一つは?」

「もう一つは、大人しく天国的な所に行って、お爺ちゃんみたいな暮らしをするか」

フィアンマは、その『お爺ちゃんみたいな暮らし』とやらが具体的にどんなものか知らないが、とにかく元の世界には帰れないと言うところだろう。

最悪だ、もう自分にはまともな選択肢が残されていない。

決して揺らぐ事の無い、現実という名の絶望に打ちのめされたフィアンマに対してアクアから、もう一つの、そして最後の選択が提示される。

「……でもね、希望が無い訳じゃ無いのよ? 

──貴方、ゲームでRPGとかした事ある?」

フィアンマは、思考するために1拍の間を置いて、

「する訳無いだろう、馬鹿が。俺様は仮にも十字教徒だぞ? そんなもんやるヒマも、やろうとも思った事すらない。分かったらさっさと女神とやらの職務を全うしろクソ野郎」

「ねえ、なんで私がこんなに責められてるの? ちょっと確認とっただけよね? 希望が有るって言ってるのに何で半ばヤケクソ気味なの? 人の話を聞かないバカなの?」

言うだけ言うとフィアンマは、涙目で言い返してくるアクアを無視してその場に寝転がる。

人が死に追い込まれたとき、真っ先に現出する感情は憤怒か諦めだと言われている。死後であるこの事例に当て嵌めても良い物か不明だが、
彼は後者、自分が死んだ事を認め、受け入れる。それは正真正銘『諦め』と呼ばれるものだった。

「イヤほんと、こっちとしても話くらいは聞いてくれないと困るのよマジで。だから、ね? 可能性ぐらいは信じてみても良いんじゃない?」

「………………」

もはや自身の口では語らなかったが、フィアンマがアクアに向けた視線は言外に『話せ』と言っている、少なくとも彼女にはそう見えた。

まだ言葉を介する意思がある事に安心したのか、彼女は歌でも歌い出しそうな雰囲気で説明をし始める、

「今から私が話すのは、貴方が居たのとは違う。非現実的でゲームみたいな世界、言うなればモンスターが存在して、それを使役する魔王が居て、魔法があって、世界を救う勇者サマって人種もいるのよ。
で、そんな世界だからかしらね、大抵の人間が病気や事故よりも、モンスターに殺される事のが多いの。」

フィアンマは話の途中で、ほぼ無意識の内にピクリと眉を動かす、彼が『世界を救う』という単語に若干の反応を示すも、アクアは全く気付く様子もなく、

「そしたらココみたいな場所に連れてかれるんだけど、そのモンスターに殺された人間ってのは、まあ、当然怖い思いをして死んでいったのよね。だから『あんな死に方するのはもうヤダー』って怖がっちゃってね? 大半の人が"平穏な人生"を望む訳。でも、その世界に転生をしたがる人がいないんじゃ、赤ちゃんは産まれない、つまり慢性的に人が足りなくなってその世界が滅んじゃうのよ。それなら、元の世界に転生し直したくないって人がいるんなら、ハングリーさに欠けた他の世界から送れば良いんじゃないかって話しになってね?」

そこまで聞き、フィアンマは何故自分にこの話がされたのか、そして話のオチまで見えてきた、

「でも、どうせ送るなら平和な世界から、それも若くて未練タラタラのまま死んでいった人を、記憶や肉体なんかはそのまま送ってあげようって事になったの。それも、生まれ変わってもすぐ死んじゃうんじゃ何の解決にもなってないから、その人の望む特典を一つだけ付与してから、ね」

「それで?」

はた、と声に反応したアクアが目線を下に向けると、天井を真正面に見据える形で仰向けになったフィアンマが、眼球だけを動かして彼女に視線を送る、

「それで、って?」

「だから、よしんば俺様がその世界に行ったとして、それで一体何になる? 『元の世界に戻りたい』という俺様のニーズに丸っきり応えられていないじゃないか」

ああ、と納得したように両の手を打ち鳴らすアクア。
それを怪訝そうに眉をひそめながら見るフィアンマ。

彼が何かと質問する前に、
ちっちっちっ、とメトロノームを連想させる動きで指を振りながら、彼女は小学生が間違った方法で数式を解こうとするのを咎める中学生の様な雰囲気で、

「人の話は最後まで聞く物よ? じゃないと、大切な情報を聴き逃す羽目になる。これは滅多にない女神様からの忠告、有り難く受け取りなさい」

余りにも上からの物言いに舌打ちをしつつも、自分に非があることを認め。大人しく押し黙ったフィアンマを目にして満足したのか、程なくしてアクアは説明を続ける、

「それでね、もしもあちらの世界で魔王を討ち取り、世界を救った暁には、その偉業に見あった贈り物が神々から渡される事になってるの。」

アクアは、焦らすように数秒の間をおいた後、

「たった一つだけ、何でも願いを叶えてくれるの。それを使えば、元いた世界に戻る、何て事も夢じゃないけど?」
 

ガバッ!



いや、正確に表すなら、ビュンッ! と言った方が正しい気がする、それ程の速度でフィアンマは立ち上がる。
まるで、軌跡に虹でも描きそうな勢いで立ち上がったフィアンマは、スタスタとアクアの元まで歩み寄ると、

「どうした? 俺様を送るのなら早くしろ、こちらとしては一秒たりとも無駄にしたくはないのでな。」

「(変わり身はっや)」

それでもアクアは何も言わない。面倒な仕事が減り、楽が出来ることに越したことはないからだ。フィアンマが黙って転生を希望すると言うのなら、彼女からは何も言うことがない。

「あ、向こうに行くなら特典を一つ決めて貰わないと。着の身着のままじゃ流石にきついでしょ?」

「必要ない。俺様はこの身一つで十分だ」

『だから決まりだっつってんでしょーが』と言う言葉をアクアは、すんでの所で飲み込む。
長年にわたり死者を導き(正しい方向にかは不明)、エリート女神(あくまで自称)となった彼女には経験で分かる。

こういう手合いは、多分何を言ってもこちらの言葉を聞かないだろう。
説得をしようにも時間がかかるし、何よりもそこまでする義理が彼女には無い。なので、

「OK了解分かったわ、じゃあその魔方陣の中央に立って。ああ違う違う、もうちょい右、うん完璧。そこから動かないでねー」

もうどうとでもなれ、と彼女は場所についての指示を出す。
アクアはフィアンマを所定の位置に誘導させた後、彼にお決まりの文句を言おうと──


「………ちょっと待て」


した所でふと、フィアンマがアクアを片手で制止する。
アクアは若干気だるさが混ざりだした声で、

「何? 今さらキャンセルなんて聞かないけど」

「そうではない。俺様は今から『異世界』に行くのだろう? その世界の言葉はどう習得する、字は読めるのか? それとも元いた世界と同じか?」

「勿論違うわよー。でも、そこら辺の心配は要らないわ、私達神々の親切サポートによって一瞬で理解できるし。まあ、運が悪けりゃ頭がパーになるかもしんないけど、構わないわよね?」

「勿論」

常識のある一般人なら『ちょっと待て今なんつった!?』と呼び止める様な内容だったが、今のフィアンマはひたすら急かす。本気で余裕がないと見える。


「その他に質問は?」

「無い」

アクアはその言葉を聞き遂げると、ニッコリと微笑み、

「さあ、勇者よ! 願わくば、数多の勇者候補の中から、あなたが魔王を打ち倒すことを祈っています。……さあ、旅立ちなさい!」

次の瞬間には、フィアンマは明るい光に包まれ見えなくなり、光が消えた後にはフィアンマの姿は確認出来なかった。











◆◇◆◇













「ふぅ~~……」


それを認識したアクアは、思わず安堵の溜め息を漏らす。
そのまま彼女はどかり、と椅子に座り、ダラけきった姿勢のままうすしお味のスナック菓子を開封し、ばりぼりと口に運ぶ。

「(にしても変わった奴だったわね…………、明らかに日本人じゃなかったし。『粗相が無いように』とも言われたケド、それほどの重鎮にも見えなかったし)」

アクアは思考と菓子を食うために動かす右手を止めずに、左手に書類のようなものを出現させる。
それは、フィアンマの全てが書かれたテキスト。
彼の出生から死亡理由まで、それこそ彼の人生がすべて詰まっていると言っても過言ではないこの書類の束、それをアクアは扇子のように上下させながら、

「(あんな事を言ってはいたけれど、ルールは守らなきゃね)」

と、そんなことを考えながら、彼女は紙束を適当にめくり、ここだと思った所で指を止める。
そして目を瞑ると、文字の中から無造作に一ヶ所を指し、それをフィアンマの特典として定める、

「あー? 何コレ? 字面だけじゃよくわかんないわね。ま、とりあえず送っときゃいいか」


選んだものが彼の役に立つかなんてどうでも良い。彼はその身一つでいいと言っていたし、アクアとしても彼の事なんて知ったこっちゃ無かった。楽さえできればそれで良いのだ、

そんな堕落の権化の様な彼女は、心底めんどくさそうな手付きと表情でスケジュール表に目を移す。

「次の相手は、何々………? 『佐藤和真』、ふーん、何処にでもいる平凡なニートって感じね。死因は…………ブッフォ!」

書類に目を通していたアクアは、『死因』の項目でなぜか吹き出す。
そこには名前と共に、こう書かれていた。



 

『トラックに轢かれたと勘違いしてショック死』と、
















    
















──これは、享楽的で怠惰な青年と、世界を救おうとした青年。


それだけでは済まない、最悪の騒乱…………!!












































































































Q、一話目から長ぇよ!

A、すいません、詰め込みすぎました






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