クリヴァンデッド   作:ネム男

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2話 『覚醒』

「ちょっと、大丈夫ですか?起きてください!」

 

「ん……」

 

 重い瞼を開ける。視界に映ったのは、綺麗な夜空と、心配そうにこちらを見ている宅配便の男の人だった。

 

「!」

 

 バッと勢いよく起き上がる。あたりを見渡すとそこは家の近くにある公園だった。よく、エリナと一緒に遊んだ公園だ。

 

 確か俺は吸血鬼に襲われて、それから……

 

「あの、大丈夫ですか?その服の汚れって血じゃ……」

 

 やばい……さすがにこれはごまかさないと……!

 

「え、あ、あぁ!トマトジュースですよ。後輩がドジっ子で、こけちゃった拍子にジュースがかかっちゃって……」

 

「そうでしか。もう暗いので早く帰ってくださいね?」

 

「ええ。すみません」

 

 宅配便の男は疑うこともなく去って行った。今この場にエリナの姿は無く、うまく逃げてくれたのか心配だ。

 

 公園にある時計で時間を確認する。時計の針は8時を指していた。あれから、1時間くらい眠っていたのか……。

 

「………」

 

 なんで、胸の傷がないんだ……?

 

 あの時、確かに俺は吸血鬼によって、胸を貫かれて、意識を手放した。死んでもおかしくないほどの致命傷だったはずなのに、触ってみるとそんな傷は綺麗さっぱり無くなっていた。

 

(そろそろ帰らないと、母さんが心配する。とりあえず、向こうに置いてきた荷物を取りに行こう……。)

 

 あれこれ考えるのは後でにしようと思い、俺は公園を後にした。

 

 帰宅中、体が物凄く気だるかった。

 

 

 ------

 

 

 翌日--

 

 昨日は色々と散々な目にあった。吸血鬼に襲われ、犬の化物にも襲われ、エリナは行方不明になり、1度命を落としたはずなのに何事もなくこうして生きている。

 

「………」

 

 パジャマから制服に着替える途中で、自分の胸元を確認する。

 

 まだあの感覚を覚えていた。吸血鬼に手刀で胸を貫かれた時の痛みと、熱さと、息苦しさがまだ頭から離れない。

 

「ゔっ……」

 

 思わず食べたばかりの朝食を吐き出しそうになる。あまり寝付けなかった所為でもあるのか、今日はあまり気分が優れない。

 

 支度をして、家を出る。エレベーターに乗り、1階まで降りて外に出る。

 

「1……2……1……2……」

 

 外で一人の少年が竹刀を持って素振りをしている。いつもの光景だ。

 

「よっ。頑張ってるな、小僧」

 

「あっ!柊兄ちゃん!」

 

 彼は隣に住んでいる小学5年生の男の子だ。いつも朝は学校行く前から剣道の素振りをしている。なんか俺に憧れて剣道を始めたとかなんとか。

 

「みてろよ!いつか柊兄ちゃんをこえて、強くなってやるからな!」

 

「おー、やってみろ。何年後になるかわからんが待ってるぞ」

 

「あー!信じてないなー!」

 

「ほら、早く行かないとお前も学校遅刻するぞ?」

 

「あっ、やべぇ!じゃあね、柊兄ちゃん!」

 

 男の子は焦った様子で、マンションに入って行った。さて、俺も早く行かないと遅刻してしまう。少し歩くスピードを早めた。

 

 学校には、なんとか遅刻せずに済んだ。いつもは着いた頃には少し疲労を感じるのに、今日は一切感じなかった。気分は悪いのに、身体の方はいつも以上に調子がいいみたいだ。

 

 

 --3時間目 体育--

 

「オーライ!オーライ!」

 

「こっちだ!」

 

 今日の体育の授業は、バスケットボール。自分的には結構好きな方のスポーツである。と言っても素人だから、あまりでしゃばるような真似はしない。少し後ろで、敵チームの1人をブロックする。

 

「月影!」

 

 すると、ボールがこちらへ渡る。味方にパスしようとするが、距離は少し遠くて難しい。とりあえずドリブルして前に進もうと試みる。

 

 敵チームの1人が進行を塞ごうとする。だけどなんだろう……。今日はやけに目が良く見える。それに、相手も遅い……?

 

 ドリブルしながら、最小限の動きで、ブロックしてくる敵メンバーを抜き去る。

 

「なっ!?はやっ……」

 

 そしてゴールへと高く飛び、ボールをリングに入れた。

 

「ナイッシュー!月影。お前ジャンプ力すげぇな」

 

「あ、いや、まぁ……」

 

 ……どうして今日は俺の身体はこんなにも調子が良いのだろう。

 

 試合終了1分前。敵チームの1人でバスケ部の奴が迫ってくる。俺はゴールさせまいと、そいつの前に立つ。

 

「へっ……」

 

 バスケ部のやつが素早いドリブルで抜こうとする。いつもならあっさり抜かれてしまうところだが、今日は調子がいい。

 

 相手の動きが遅く見える。タイミングを見計らって、俺は相手が持っていたボールを弾いた。

 

「なにっ!?」

 

 もう時間が無い。即座にボールを引き寄せて、遠く離れたところからシュートを打つ体制に移る。

 

(……いける……)

 

 高くジャンプして、シュートを放つ。ボールは高く上がり、自分のチームのリングに見事入った。

 

「おおおお!?」

 

 周りから驚きの声があがる。

 

「月影ぇ!お前どうしたんだよ!?すげぇやん、今の!」

 

「今日のお前、なんか調子いいな!」

 

「さっすが月影!よっ、副主将!」

 

「是非バスケ部に!」

 

 わからない。人間、調子がいい日というのはここまで動けるのか?今まで生きてきた中で、初めての経験だった。

 

 ------

 

 今日1日の授業が終わり、放課後が始まる。部活生は部活へ、用事も何もない人達は下校の時間だ。

 

「柊夜。今日は行くだろう?部活に」

 

 主将の優花に部活へ行くかどうかを聞かれる。俺は荷物をまとめながら、「おう」と一言で返事をする。

 

「じゃあ早く行こう。今日のお前は体の調子がいいらしいからな。剣道でもどんな動きをしてくれるか期待してるぞ?」

 

 優花はイタズラじみた笑顔で言う。そうたいして変わらないと思うんですけどねぇ……。

 

 

 

 p.m.19:30

 

 今日も1日の稽古が終わり、今は優花と一緒に帰宅している。

 

「それにしても、今日の柊夜は凄かったな。柊夜の運動神経はそこまで良かったか?」

 

「さあ?俺にもよくわかんないや。こんな日もあるんじゃないか?」

 

「そうだな。今日のバスケの試合。私も見たかったな」

 

「残念だったな。俺今日ブザービート決めたんだぜ」

 

「ふふっ、さすがだな」

 

 今日にあった出来事など、他愛のない話をする。普段はおとなしい優花でも、この時間はよく笑顔になって話している。こうしてみると、改めて美人だなぁと思ってしまう。

 

「ん?どうした柊夜。私の顔になにか付いているか?」

 

「いや、なんでもないよ」

 

「そうか。……あ、じゃあ私、こっちだから」

 

「おう、またな」

 

「うん。また明日」

 

 途中の十字路で俺と優花は別れる。ここまで来ると家はもうすぐで着く頃だ。

 

「………」

 

 エリナは無事だろうか……。

 

 今日はそのことが頭から離れなかった。あれからどうなったのか。エリナはちゃんとあいつらから逃げているのだろうか。また会える日は来るのだろうかと考えていた。

 

 

 

 

 すると、近くで大きな爆発音がした。

 

 

 爆発がした方向を見上げると、黒い煙が上がっていた。煙の場所は家から随分近い。火事でもあっているのかと思い、家まで走って行った。

 

 

 

 

 

 しかし、俺は家に着いた瞬間、絶句した。

 

 

 

 燃えているのは、俺が住んでいるマンションだった。

 

 

 消防車の姿はなく、周りには昨日見たものとほぼ同じ、魔物達がゾロゾロといた。

 

 

「……なん……で……」

 

 

 近くのサイレンが鳴って、警告放送が流れる。

 

『魔物が出現しました。一般市民の人達は直ちに避難してください。繰り返します---』

 

 俺はその場から動けなかった。

 

 今日は、やけに身体の調子がいいだけじゃなく、目もよく見える。

 

 俺は見えてしまっているのだ。犬の魔物に捕食されている人達が。

 

 その悲惨な光景を遠くからでも見えてしまっている。

 

「ゔっ……おぇぇ」

 

 思わず吐き気がこみ上げて、我慢できずに嘔吐してしまった。

 

 こんなことしてる場合じゃない。早く逃げないと……

 

 

「はい、こんばんはー!人間君」

 

 すると、上空から1人の男が降りてきた。

 

 チャラい服装でロックな髪型に、肌は青白く、悪魔のような翼が生えていて、そのニヤけた口から牙が見える。

 

 

 運悪く、吸血鬼に狙われてしまった。

 

 

「君、変わってるねぇー!ほかの人間達とは違う匂いがする」

 

「は……?」

 

 吸血鬼は少し疑った表情をする。

 

「なんでだろうねぇー……君からエリナお嬢の匂いがするんだよなぁ」

 

「!!」

 

 今こいつは、エリナと言った。この吸血鬼は、エリナの事を知っている!?

 

「今、エリナって……」

 

「あれぇー?なんでお前がエリナお嬢のことについて知っているんだぁ?」

 

「お前ら、エリナに何かしたのか……?」

 

「あ?なんだその目は」

 

 瞬間。吸血鬼の蹴りがとんでくる。俺は咄嗟に両腕を交差させて防いだ。それでも、吹っ飛ばされてしまい、腕に激痛が走る。

 

「……へぇ、いいん反応してんじゃん」

 

 痛みで両腕に力が入らず、起き上がれない。

 

「くそ……」

 

「人間のくせに生意気なんだよてめぇ。俺を誰だと思ってる」

 

 吸血鬼が倒れている俺に紫色の槍の刃先を向ける。

 

 マンションの方はさらに炎が増し、徐々に広がっていった。

 

「あーあ、見ろよ。もうあいつら、あそこに住んでいた人間の半分は食い散らかしてるぜ。相当腹すいてたんだろうな」

 

 吸血鬼はヘラヘラしながら、マンションの住人が食い荒らされていく様子を眺めている。

 

 そんな様子を見て、俺はそいつへの殺意が湧き始めた。

 

 

「……なんで、こんなことをするんだ」

 

「あ?決まってるだろ」

 

 

 俺がつぶやくと、吸血鬼はゲスな笑みでこう答えた。

 

 

「楽しいからに決まってるだろぉ!?人間達を殺戮するのが、楽しいからだぁ!見ろよ!あの絶望に浸った死に顔!死にたくないともがいても犬達に食われていくあの泣き顔!たまらねぇぜぇ!ヒャハハハハハハハハ!!」

 

 

 吸血鬼がある場所を指して笑っている。

 

 

 そこは、俺の母親が既に食われていて、顔しか無い状態と、隣に住んでいた男の子が、犬の魔物に食われていく様子だった。

 

「…………」

 

 

 どうしてお前らは、そうやって人を殺す……?

 

 どうしてお前らは、楽しそうに人を殺す……?

 

 どうしてお前らは、俺の大切な人達を奪う……?

 

 どうしてお前らは、俺の大切なものを奪おうとする……

 

 

 

 ………許さねぇ……

 

 

 

「……許さねぇ」

 

 

「!!」

 

 吸血鬼が即座に柊夜から距離をとる。柊夜は起き上がって、吸血鬼を紅い目で、鋭く睨んでいた。

 

「まさか……お前……」

 

 

 柊夜の右手には、いつの間にか黒鳶色の刀が握られていた。

 

 

「お前らを……殺す……」

 

 

 

 

 

 


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