CIAの彼女   作:ツム

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今回の話しにはゆるーい性表現が含みます
ほんとに、ゆるいので大丈夫だと思います。


黒歴史なんて消えてくれない

―数年前―

あたしは、CIAという立場のにも関わらず失態を犯していた。

とある、麻薬組織のリーダーの人物が今夜行われるパーティーに参加するという

情報が入り、あたしはその潜入捜査をする事になった。

日本人特有の黒い髪をブロンドの髪に変えて、口元にはルージュを引いて白い肌をより

目立たせる。背中と胸元は大胆にして黒いロングドレスを纏うあたしの姿は日本人とは

思えないだろうと自分でも感心した。

インカムを左耳にしてそれを隠すように右側から髪を寄せて、うなじを見せる仕草をすれば、男共の視線はあたし一点に集中する。

 

「ハァイ、麗華、相変わらず良い身体を晒してるわね」

 

インカムから、聞えたのは同じくCIAの後輩である、本堂瑛海。

後に黒の組織の諜報任務で水無怜奈となる彼女。

所属は違うが、たまにこうして同じ任務を受け持つ事がある。

まあ、理由は、諜報任務に出ている人数が多く、

そこで、仕事を終えていたあたしにお鉢が回ってきたというのだ。

解せぬ・・・。

ほんとはこの後、自堕落生活をしてみようと思ったのに・・・。

 

まあ、あたしの情報によると、この麻薬組織はあたし達CIAの他にFBIも捜査に加わっているという話も出ている。

まあ、どうなろうと知ったこっちゃないあたしはそんな情報をこの任務に出ている

瑛海以外には言ってはいない。

 

「あら、そういう貴女だって惜しみも無く出してるじゃない?

男の目線がずっと貴女に行きっぱなしよ」

 

クスクスと笑うと、拗ねたように瑛海は返す。

 

「あ、麗華、ターゲット発見。麗華の方に進んでるわ」

 

「オーケー、皆、よろしく」

 

そう、言って会話を終了をさせた後、ターゲットがあたしに声を掛けた。

 

「失礼、お一人ですか?」

 

「いえ、友人と一緒に来たのだけれど、はぐれてしまって。」

 

しおらしく、見せると、あたしの恰好とのギャップに少し目を見開くが、

その後、下品にニヤリと口角を上げるのをあたしは見逃さなかった。

 

「それは、可哀想だ。せっかくのパーティーなのに、もし良ければ僕といかがですか」

 

あら、意外と紳士だこと。

まあ、その仮面の下にあるのはオオカミだろうけど。

表から見ると、不快感なんて一ミリも感じさせない。

それでも、裏でやっている事は犯罪。

さあ、どうしてやろうかしら?

今回は逮捕じゃない。

ターゲット確認と接触。そして、決定的な証拠。

視線を彷徨と、彼が居た。

そう、FBI捜査官赤井秀一。

漫画で見る黒のニット帽は流石に被ってはいなくて、伸ばしかけの黒い髪をオールバックにして、黒のスーツを身に纏っていた。

髪を伸ばしてるってことは、黒の組織の諜報活動の下準備?

 

なんて、彼を見つめながら考え事をしていると、不意に目線が合った。

その後、あたしの隣にいる男を見ると、少し目を見開いた様子で、何か喋っている。

・・・多分、インカムで報告してるな・・。

 

「失礼、彼女は俺の連れなんだが・・・。」

 

「!?」

 

「おや、レディを一人にしてしまった男が言う事かな?」

 

おいおい、突っ込みし放題じゃねえか。

誰がお前の連れだ。

そして、レディなんて言葉を発するんじゃありません。

もうあたしは三十路だよ。

 

「申し訳ありません。友人が見つかったので私はこれで失礼します」

 

「そういうことだ」

 

「っ!」

 

赤井秀一が殺気を飛ばすと、男は怯み、何も言わず、踵を返した。

 

「気を付けろ。あの男にも、周りの男にも、な。」

 

「ありがとう。あら、それじゃあ貴方にもかしら?」

 

フッと挑戦的な目で彼を見上げると、面白いものを見るような目でじっと見つめてくる。

 

「面白い。だが、そうだな。男なんて所詮紳士の皮を被った獣さ」

 

「ふふ、ご忠告どうも。それじゃ、失礼するわ」

 

赤井秀一から離れてインカムから漏れる彼女の笑い声に言葉を漏らす。

 

「ちょっと、笑い過ぎじゃなくて?」

 

「いや、まさか。助っ人が来るなんて、しかもFBIの、ね」

 

「流石に想定外だったわ。でも、収穫はあったわよ。

今回のターゲットに発信機と盗聴器を仕込ませる事に成功したからね。」

 

「あら、手が早いわね。それなら、外から調べられるわね。御苦労様。」

 

「まだまだ、気を抜くのは早いわよ。これから、そっちに合流するわ」

 

瑛海とその後難なく合流した後、パーティーを後にし、仕込んだ盗聴器の内容を確認する。

それから、ターゲットの動きを目途がついたところを工作部隊が逮捕に至る計画になっている。

なので、そこから先はあたしの領域外という事でお役御免する事になった。

まあ、元々局内での仕事だから、異例中の異例の事なんだけどね。

 

瑛海達にそれじゃあ、と声を掛けて一足先に帰宅。

ドレスも、化粧も落して軽く変装をする。あたしと言う人物を周りから消すために。

生憎、明日は非番だしこのまま家に帰るのもなんだかもったいないなと

考えていたら、目の前にあの男が居た。

 

「ほぅ、まさかここまで化けるとは。女とは本当に怖い生き物だな」

 

え、何こいつ。喧嘩売ってる?

 

「あら?何処かでお会いしたかしら?生憎記憶力は良い方でね、こんなイケメンに会っていたら、忘れはしないんだけど・・・」

 

完璧に変装していないとはいえ、古雅麗華の人物とは被らせないほどの変装はしたはずなのに、いとも簡単にしかも一回しか会っていない彼なのに。

 

「俺も記憶力は良い方でね。さっきのパーティーに居た『レディ』では無いのか?」

 

ニヒルな笑い方に身長的に見下す形になっている赤井秀一に少しばかりの殺気を覚えたのは仕方ない。

 

「・・・・何の用かしら?」

 

「いや、ちょうど俺も仕事が終わってね。今日はこのまま帰ろうかと歩いていたら、

目の前にお前さんが目に入ってな」

 

「別に気に止めなくても良いじゃない?そこら辺の女と変わらないでしょう?」

 

皮肉たっぷりに言い返すと、彼は面白そうにクツクツと笑う。

 

「言っただろう?“男なんて所詮紳士の皮を被った獣”だと」

 

漫画の通り気障な奴だ・・・。

 

「あら、じゃあ、あたしをそこら辺の狼さんに攫われる前にナイト役を買って出てくれるの?」

 

「良いだろう。それにこれも何かの縁だ。この近くに俺の行きつけのバーがあるんだ。

一緒にどうだ?」

 

「それは、良いわね。帰りは送り狼になりそうだけど」

 

なんてニヤリと笑って挑戦的な目で言うと、上等だと目が物語っていた。

それからは、まあ、早い早い。

 

お互いに本名は止めておこう。と提案したあたしに、彼は少しばかり不服そうだったが、

承諾してくれた。

それから、久し振りにベロンベロンに酔っぱらった二人は適当にホテルに泊まって

一夜を共にしてしまった。

酔っぱらっても記憶が全部呼び起してくれる。

朝、起きた時にわずかに情事の雰囲気とその証拠だとばかりの身体のだるさに腰の痛み。

隣は余裕の表情で煙草を吸う『秀君』の姿。

お互いに、名前も歳も職業も教えていない。

そんなあたしたちが一線を越えてしまった。

思わず、頭を抱えるあたしに横から愉快そうに笑う彼。

 

「なんだ、後悔しているのか?麗」

 

その無駄に色香を漂った声で耳元を囁くのは反則だ。

 

「別に・・。それに一夜限りだしもう会う事も無いでしょう?

それなら、良い思い出になったわ。こんな良い男と寝られて、ね」

 

負けじと、あたしは彼の唇から煙草を抜いて自分の口へと運ぶ。

予想外の行動に驚いたのか目を丸くする。

それから、新しい煙草を出して、あたしの手首を引く。

そのまま流されるように彼に近寄って、されるままシガーキスをする。

お互いに煙草を吸い合って、不意に彼が近づいたと思ったら視界を遮られた。

 

苦い。なんて思っていたら、キスを繰り返されてる。

段々と深くなっていくそれに昨日の出来事が脳内に遮る。

負けじと返していくと、彼に煙草を抜き取られ、火を消された。

・・・火事になったら笑えないものね。

何度か、繰り返されるキスも終盤を迎え、名残惜しそうにお互いの唇を離す。

お互いを繋ぐ糸も、プツリと途切れた。

 

「そうだな。でも。もしまた再開出来た時に今度こそ麗の本名を聞くとしよう。」

 

「それは良いわね。いつか、まだあたしたちを繋ぐ何かがその時までに残っていればの

話だけれど。」

 

三歳差というほんの少しの大人の余裕を見せたくて、妖艶に笑って、彼を挑発する。

そして、その挑発にノって来る彼もまだ、若いなと心の中で苦笑を零す。

こんなおばさんに何が良いのだろうと考えると同時にまあ、一種の社交辞令かと冷静に

判断するあたしの思考はやっぱり、可愛げがない。

 

「言ったな。必ず、見つけてみせる」

 

表情の硬い彼だが、目の奥には隠しようない野望がちらつきを隠そうとしない。

 

「ふふ。待っているわ、ボウヤ」

 

そう言って、睡眠薬を口に含ませて、彼に口移しをして流し込ます。

 

「!!」

 

「さあ、まだ、今日は始まったばかりよ。ボウヤは休みなさい。

あたしを見つけるのはそれからよ」

 

あたしの言葉を聞いたと同時に目を伏せた彼の額にキスを落して、

 

「この世界に生れて、貴方に会うなんてね。赤井秀一・・・シルバーブレッド」

 

あたしの独り言は、誰にも届かないまま。

落ちて行った。

 




ここまで、読んでくださった人、ありがとうございます。
次回も、よんでください!!
それでは!!

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