悪魔落ち。
それこそが、俺の背負う罪の元であり。
俺と死んだ姉を繋ぐ、いや繋いでしまった存在だ。
……そういえば、そろそろ父と姉の命日だ。後数日。
最近は問題だらけだが、しっかりと墓参りには行こう。この王国から少しだけ離れている所にある墓は父と姉以外にも人が眠っているため、手入れは行き届いている。リノも去年までずっと来てくれたが、果たして今年はどうなのだろうか。
そう考えている内に、朝学活のチャイムが鳴りそうになる。慌てて教室に入ると同時に鳴ったチャイムに焦りつつも滑り込みセーフ、今日も授業は始まった。
……昼食時にリノが俺へと弁当を渡した事で、男子共は一気に諦める事となる。
再度始まる日常、いつも通りの光景。リノは女友達と話しているが、俺はと言うとフェオと珍しく昼食を俺たちと食べているロキに事情を話していた。
ロキは普段優等生という事もあって委員会にしっかりと入っている。
最近は中間試験の魔法戦闘でのメンバーや対戦先を決める等の仕事で忙しく、昼食も委員会の部屋で取っていた。しかし、今日は珍しく手が空いたらしい。
「……ひとまずは、チャンス到来って事かな?」
「そうだろうな。セベット、頑張れよ!」
フェオの声援に頷くも、あいつが俺に好意的では無いのが嫌でも分かってしまう。
可能性を捨てきれない逆転魔法。いや、そもそも俺の『惚れ魔法』が間違っているかもしれないのだ。
二人の前では元気が良いように取り繕っても、内心は疑心暗鬼に陥っていた。どれだけ今までリノを心の支えにして来たかが身に染みる。一人の朝ごはんも夕ご飯も、寂しい物だとは知らなかった。
リノが居てくれたから。あの日言った、「リノが居なくなったら死ぬんじゃないかな」という言葉は、しっかり的を捉えていたのだろう。
一日目は普通のお弁当だが、二日目からは段々と具材が少なくなり簡素に粗末になっていく。作られている身で、しかもリノの男子除けと言う側面もあって文句は言えない。休日の一日前、四日目に至ってはパンにハムだけ。流石に同情され、フェオから肉を大量に貰った。……リノの作るごはんに比べれば、物足りない。
さて、そうしている内に休日の前夜。宿題を急いで終わらせながら、明日の墓参りの準備をする。太陽が昇るか昇らないかの時に家を出て、王国の中を殆ど横断。反対側の門から城壁の外に出て、少し歩けば墓地に着く。
更にその奥へと進み、大きな木の根元に二つ隣り合って佇むのが姉と父の墓だ。
家族全員で行きたかったのだが、母は明日も仕事が入ってしまっているらしい。商店の店長は忙しいな、と思いながらホットミルクを口に含む。
そろそろ中間試験で、宿題だけでは勉強が足りない。
下の中くらいの成績では補修地獄は免れないだろう。それはちょっと嫌すぎるので、今から勉強を始めなければ。普段はリノが教えてくれるが、勿論もう無理だ。と言う事で勉強をするため、持ち帰ってきた魔法学の教科書を広げる。
魔法学とはそのままで、魔法を学ぶ学問だ。
魔法式や魔力の効率的な展開、変換方法。オリジナル魔法の組み合わせから、魔法戦闘もここに分類される。魔法での禁忌もここに入る。
魔法歴史とは、これまでの星屑の鍵を持っている人や国家、それらの間に起きた戦争などを学ぶ。歴史の、魔法バージョン。ここはある程度得意分野だ。座学だし。
魔法戦闘が絶望的に弱い俺は筆記の方で点数を稼がなければならない。
その為に範囲を思い出しながら教科書を捲って行くうちに、一つの魔法が目に付いた。
魔法解除魔法『ディスペル』。
……もう一度脳内で反復する。”魔法解除魔法”『ディスペル』。
一拍。二拍。三拍。間が空いて、思わず椅子を蹴り上げて立ち上がった。
「これだああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!!!」
そうだ、それだ。
魔法解除魔法でリノに掛けられているであろう『惚れ魔法』を解除すれば、万事解決じゃないか!!
革命だ。気づいた俺は、直ぐに魔法式を暗記するために魔力を動かし続ける。展開、変換、起動までの時間を短く、込める魔力は最大に。一つの魔法だけに集中して三時間、魔法解除魔法に必要な魔力は少ないとは言え魔力が底を付き、ベッドに倒れこむ。
精神的な疲れというべきか。ぐったりと重たく怠い体を動かして、布団を頭から被る。 今日はもう勉強は出来ないだろうし、疲れた。明日も早いし、もう寝たほうが良いだろう。
……そうだな、うん。
中間試験の勉強、明日から本気出す。
心の中でそう決めてから、目を閉じる。ふかふかのベッドに沈み込むように、直ぐに意識は闇へ包まれた。
翌朝、少しだけ寝坊しながらも道具を持って家を出る。鍵をしっかりと閉めて、目指すは花屋だ。
王国の朝は早い。太陽が見えるくらいから始まる民衆の生活。
休日なのに活気あふれる大通りを、買った花を持ってひたすらに走る。途中で立ち止まり、露店で朝食を購入。歩きながらもさもさと食べて、ゴミはポケットに突っ込んだ。
いつもならリノとここを歩いているのだが、今日は居ない。
「……ちょっと!」
黙って、少し俯いて歩く。『ディスペル』の魔法式を思い浮かべながら、「ねえ!」テストで確実に出る「聞いてんの!?」メテオもしっかりと復習。
ああ、こんな事なら魔法学の教科書を持って来れば良かった。
苦手教科は、どうやっても苦手なままなのだ……。
「セベット!!」
「おおうっっ!?」
突然、耳元で叫ばれて飛び跳ねる。変な声が思わず出てしまったが、それよりも声の主に対して俺は驚いていた。
「……さっきから無視ばっか。少しは返事したら?」
「何でリノさんが居るのでしょうか!?」
明らかにイライラしているリノ・クェーサー。
彼女は例年通りの持ち物を持って、俺の真横に立っていた。