恋と禁忌と古代魔法   作:ラギアz

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最終話「守られた物」

 悪魔落ちの赤い宝石を砕いた事で、結界も催眠魔法も全てが解けた。気を失っている生徒を運んで、問い詰めた所俺の『惚れ魔法』の話を聞いたのは偶然らしい。

 そこで、自分の新しい力を試してみたくなったとか。今回の騒動も、どうやら契約した悪魔に唆された結果との事。あまり信じられはしなかったが、取りあえずはそういう事になった。

 催眠魔法に掛かっていた人間は前後の記憶があやふやだったが、それでも食堂に居たり壁にのめこんでいたりしていたから混乱は免れない。

 教師まで巻き込んで質問の嵐が続いた。そこに、俺とフェオ、梓とリノは居なかったが。何より、俺たちは催眠魔法に掛かっていなかった。不自然な態度を取ったら怪しまれるので、端っこに居たのだが。

 リノはそうも行かず、苦労している様だった。流石、学年一位の秀才である。

 ロキはと言うと、催眠魔法に抵抗しようとするも魔法起動中に他の生徒にぶつかられて魔法が中断。その隙に飲み込まれたらしく、苦笑いを浮かべていた。

 本当に、梓と一緒に居て良かった。

 悪魔落ちを倒すには、普通の魔法では通じないだろう。いや、学生ならば、だが。

 そして、単なる学生が倒すには大きすぎる相手へと使った古代魔法。過去を思い出させる、星の鍵。『ディザスター』のことに付いて、梓とフェオに根掘り葉掘り聞かれたのは別の話だ。最後の梓のアシストは、半ば勘らしい。

 さて、そんなこんなで四人だけが滅茶苦茶疲れた中で、二日も経てば記憶の曖昧な皆は直ぐに復活した。学業は始まり、眠い日々が続く。

 梓とフェオとの中間試験勉強で分かったが、梓は本人のいう通り頭が良い。

 全く分からなかった分野を全て1から叩き込んでくれたおかげで、勉強の遅れていた俺でもなんとか補修地獄を免れそうだった。助かる。

 始まった日常。悪魔落ちの敗北。

 それはもう一つ、俺にとって大事な事も意味していた―――。

 

 朝目が覚めて、ベッドの上で大きく体を伸ばす。今日は休みの一日前だ。つまり、学校は普通にある。あってしまう。泣きたい。

 リノが居ない生活にも段々と慣れてきた。あの一件以来仲が良くなった梓とフェオ、三人で昼ごはんも食べている。勉強もしているしで、何だかんだ充実している毎日を送っていた。

 ……懐かしい。リノが居た時も、今みたいに朝から台所での調理音が響いていた。

 かつて日常だった音を聞いて、心が安らぐのを感じる。帰ってくるべき場所に帰ってきた。そんな感覚が俺を包み込み、長く息を吐いた。

「……って、何で音がしてんだよおおおおおおおおお!!!!」

 直後、ベッドを飛び出してばたばたと部屋のドアを開ける。階段を転がる様に降りた先にあるリビング、その奥の台所。

「あ、お、おはよう……」

 そこには、どこかバツが悪そうに立っているリノの姿。

 彼女を見た俺は固まった。今まで通り、の筈なのに、それに噛み合わない歯車みたいな感覚を覚える。

 リノは包丁とかを置き、家に置いてあった彼女専用のエプロンを取って俺の前へと歩いてくる。沈んだ表情のまま、茫然とする俺の前で突然彼女は頭を下げた。

「お墓場で、あんな事を言ってごめんなさいっ!!」

「……はっ?」

 間抜けな声が出た。

「守れなかった、とか……セベットだけが悪いんじゃないのに、酷く言ったから……」

「ああ、あれか」

 確かにあれは突き刺さった。

 でも、全くその通りの言葉だったし、何よりそのおかげで俺は星の鍵の行使に踏みでれたのだ。今となっては、全然気にしていなかった。

「いや、大丈夫。全然気にしてないから、さ。……で、今日はなして俺の家へ?」

「……えっと、ずっと来てたから……その、仲直りの意味も込めてって思って」

 そっぽを向いて小さく呟くリノ。

「いやまあ気にしてないからさ。じゃあ、仲直りって事で……お弁当とか復活するのでしょうか?」

「しようと思います、けど……ごめん、今日は多分間に合わない」

「分かった! よっしゃ! リノのご飯だああ!!」

 しゅんとするリノとは打って変わって元気な俺。ハイテンションを隠さずに、大きく飛び跳ねた。

 その様子を見て、リノはやっと笑みを浮かべる。それは、今までの日常が本当に戻ってきた合図でもあった。

 窓の外は、今日も青空が広がっている。

 活気溢れる朝の王国、その一角。今、一つの物が守られたのだった。




今回で完結です。
駆け足で、すみませんでした。それでも何とか形には出来たと思います。
打ち切りはせず、完結へと持っていきました。

短い話。ここまで読んで下さって、ありがとうございました!!
次回作も直ぐに書きますので、どうか宜しくお願いいたします!

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