恋と禁忌と古代魔法   作:ラギアz

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第二十一話「罪と贖罪」

 ……それは、古くの記憶。

 燃え盛る炎の中で、黒い翼と角を生やした姉が、俺の父を殺した。

 しかし、父は最後の最後で自身も悪魔落ちになり、魔法を起動。それを見ていた俺とリノ、母親は父の魔法を見届け、その産物を受け取った。

 託されたのは、黄金の鍵。名前を、星の鍵。

「……っっ!!」

 息を吸い込んで、鍵を魔法陣の中心に差し込み、捻る。

 そして、輝きが爆ぜた。黄金の光粒が吹き荒れて、俺の体を中心に渦巻いている。

 星の鍵は父から最後に託された物であり、姉を殺した力。その力を使わないのが贖罪だった。

 でも、もうそんな事は言っていられない。あの時と同じ、悪魔落ちと相対する状況。後ろには大事な人。抗わなければ、死んでしまう。……俺だけじゃなくて、皆も。

 ならば、やらなければならない。

 例えこの状況で俺の罪が増えたとしても、それで皆を助けられるとしたら。

 甘んじて、罪を受け入れよう。

「セベット……何で、何でそれを使っちゃったの……!?」

 あの日の事を知っているリノは呆然と呟いた。

 背負う罪も、今までの贖罪の”つもり”も、全てを知っている彼女は言った。

 彼女に、逆転魔法が掛かっているとかはもうどうでも良い。いや、寧ろ掛かっているからこその本音だとしたら、墓場での出来事は本心だったのだ。ならば、その本音に、今答える。何も守れない人間が、何かを守るために。

「何も守れない人殺し……それが、俺だ」

 やがて。

「贖罪さえも、つもりだった」

 黄金の光は、鍵を持つ右手に集中する。

 悪魔落ちが危機感を覚えたのか、無数の魔法を放つもそれらは魔法陣に防がれ、届かない。鍵を捻った所から爆ぜた光は、やがて閃光となって世界を塗りつくす。

「それを今、あの時と同じ状況で、変える―――」

 リノを守れなかった。姉を殺した。……俺は、何一つ守れなかった。救えなかった。

 それが罪。

 世界を塗り替えた光が、右腕に凝縮した。光が腕に突き刺さり、魔力が荒れ狂いながら輝く何かを生成していく。

 12個の魔法陣が、鍵へと戻っていく。その鍵を左手に移し、右手を大きく開いた。

「何も守れなかった。だから今、皆を守る!」

 そして、強く握りしめた。

 

「それが俺の背負うべき罪であり、贖罪だ!!」

 

 右手の肘から先。そこにあった光が全て散り散りになり、露見するのは黄金の手甲。

 金の甲殻は光を反射し煌めく。一つながりのそれは至る所に魔法陣が描かれていて、白いラインが三本、手の甲から肘へと通っていた。

 魔法陣が消えた今を好機と見てか、悪魔落ちが黒い魔砲を撃つ。圧倒的威力。俺では防げないであろう威力のそれを前に、迷いなく駆け出した。金色の甲殻に覆われた右手を魔法に当てる―――すると、その魔法は消え去った。

 いや、消えた訳ではない。正しく言うのならば、

 吸収した、と言った所だろうか。

 白い三本のラインが、魔法と同色の黒に染まる。驚きに固まる悪魔落ちへと右手を向けて、叫んだ。

「放て、『ディザスター』!!」

 金色の甲殻の名前は、『ディザスター』。

 古代魔法の、一つ目だ。

 言葉と同時に、『ディザスター』から悪魔落ちの撃った物と同じ魔法が放出された。自身の魔法を目の当たりにし、急いで奴は相殺する。

 星の鍵。悪魔落ちとなった父が、自身の命を引き換えに作り上げた形見。

 その内容は、12個の古代魔法を全て内包しているというとてつもない物だった。

 『ディザスター』は、一個目。因みにだが、俺は古代魔法をこれしか使えない。他のものは、難易度が高すぎて使えないのだ。

 効果は、魔法を吸収して扱うと言う物。近接でも遠距離でも使えるが、一種類の魔法しか吸収できない。魔法のストックは、無理だ。一種類の魔法なら何千個も吸収できるが。

 『メテオ』を吸収している時は、『カノン』を吸収できないと言う事。

 勿論、自分で起動した魔法も使う事が出来る。握りしめた右拳を、俺は力一杯に振り抜いた。

「ガァア!!」

 至近距離、悪魔落ちの咆哮。同時に迎撃用の、全魔力を込められた魔法が放たれる。

 しかし、それは俺の思うつぼ。『ディザスター』に吸収された魔法は当たる事は無く、頬骨をしっかりと金色の手甲『ディザスター』が穿った。

 刹那、放出される悪魔落ち全魔力の黒い砲撃。

 悪魔落ちは、心臓部分にある赤い宝石を壊せば倒すことが出来る。頬骨を砕かれて地面に崩れ落ちた悪魔落ちへと、俺は拳を振り上げた。

「『メテオ』」

 そして、拳へと魔法が吸い込まれる。響いた梓の声、『ディザスター』に加わった凄まじい魔力。

 ひしひしとそれを感じながら―――拳を、一閃。

 赤い宝石へと、『メテオ』を纏った『ディザスター』が叩き込まれた。ミシミシ! と亀裂が走り、手ごたえと同時にそれは砕け散った。




もしかしたら、後一話二話で完結です。

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