恋と禁忌と古代魔法   作:ラギアz

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第十九話「相対」

 梓が口に出して、俺たちは頷く。警戒を緩めず、悠々と歩く二人の後ろを男子はまた追っていく。

 ……敵は、悪魔落ち。その可能性が高い今、俺は何をすべきなのか。

 リノと梓、フェオすらも超える力を持つだろう禁忌の力。迎え撃てるのは古代魔法。

 それはもう、俺が実証している。

 12個の古代魔法をそれぞれ封印した、世界12ヵ国が持つ星屑の鍵。……それが無ければ、封印された古代魔法を扱う事は出来ない。学校でも一番最初に習うし、親からも良く聞く常識だ。

 胸に下げた黄金の鍵をそっと握りしめる。

 これをずっと持っていて、使わない事が背負うべき罪と贖罪。

 (でも、あの時。あいつを守れなかった事こそが罪ならば、もう一度――――)

 そう思って、唇を密かに噛みしめた瞬間。突如、前に居た三人が立ち止まり呼吸を詰まらせる。ぶつかる寸前で止まると、皆の視線に従って俺も首を横に向けた。

「成程。静かだったのは、こういう事だったんだね」

 梓の冷静な意見……声音は高くなっているが、そうなるのも無理は無い。

 立ち止まったのは、食堂の前。校庭から食堂の窓越しに見える景色は、人がぎゅうぎゅうに居る場面だった。所せましと食堂に至る所に詰められている人間。皆、左手に黒い炎を燃やしている。机の上や下、椅子に積み重なる生徒。上級生も中には居た。

 今、東洋の戦争に上級生でも優秀な人たちは行っている。世界的なこの学校からは、ある程度そういう事は日常茶飯事だ。

 だから、上級生が倒れて居ても不思議は無い。リノと梓が別格なだけである。

 恐らくは催眠魔法で、警戒をする人間とここで人払い扱いされた人間とで分けられたのだろう。

 ……理屈では分かっていても、異常な光景。

 このおかげであまり人と会わなかった。ここまで来れた。俺たちの助けにはなっているのだが、それでも嫌な感覚はあった。

「行こう。ここに居ても、無駄だしさ」

 切っ掛けを作る梓。堰を切ったように、一気に走り始める。

 一目散に目指すは体育館。食堂を迂回し、校舎に入る。必要最低限の教師を残して、校長や力を持つ先生も東洋へ出払ってしまっていた。途中、左手に炎を燃やす教師を見つけるも見つからないように駆け抜け。

 やがて着く、体育館。鉄製の重い扉は、しっかりと閉じられている。

「……うし! 開けるぞ!」

 気合を入れて、フェオが一歩前に出た。拳と手のひらを打ち付けて、がっしりと取っ手を掴む。その後ろで静かに魔法の準備をする梓とリノ。俺も左手に家の鍵や他の鍵をまとめた紐を握った。右手で炎の中級魔法を発動寸前まで展開、変換する。

 準備が整ったのを確認したフェオは、ぐぐぐ……と腕に力を込める。

 重苦しい音を響かせながら、鉄の扉はゆっくりと開く。僅かな隙間に目を凝らし、中を伺うもあまり見えない。

「……おらあっっ!!」

 フェオが声を上げて、扉を一気に開けた。ダガアン! と扉は開かれて、壁に当たって少し戻ってくる。

 その一連の流れは、一秒にも満たない。

 

 されど、一秒未満だった。

 

 刹那、開いた扉の奥から黒い炎の塊が飛来した。それをすかさず『メテオ』で相殺するリノ。そして、牽制代わりに中へと『カノン』と呼ばれる青白いレーザーを放つ梓。

 攻防が、一瞬の合間に繰り広げられる。反応も何も全てが遅れて、やっと魔法を発動した。

 体育館の中へと飛ぶ炎。青白いレーザーの軌道をなぞり、それは中に居た何かへと衝突。……しかし、ダメージは無いようだった。その何かは首を振るだけで、普通に立っている。

「避けて!」

 ブウン、と背後に生成される魔法陣。体育館へと飛び込み、直ぐに横へとダイブ。

 魔法陣から放たれた黒い魔砲が入口を消し去ったのは、一瞬後の出来事だった。

「はあっ……はあっ……」

 全員が束の間のやりとりに呼吸を乱す。崩れた入り口から差す光に当てられた何か。

 その姿は、禍々しいの一言だった。

 体は人間だが、所々から黒い炎が揺らめき上っている。目は赤黒く染まり充血していて、頬には謎の紋様。頭部からは黒い二本の角が生えていて、背中には大きな二対の翼。

 黒い、悪魔。そう表現するのが相応しいその姿かたち。

「……参ったなあ。まさか、こんな大物だなんてね……」

 呆然と、呟かれる。言葉が、出ない。

 予想は確信に。確信は、現実に。

 

 目の前に立つその姿は、正しく悪魔落ちの物だった。


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