恋と禁忌と古代魔法   作:ラギアz

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第十三話「気絶」

持久走を終えて、次は魔法戦闘だ。

 気分は悪く、立っているのも辛い。しかし、皆の言葉を聞く間もなく先生は授業を進め、中々保健室に行きたいと言い出せなかった。二人一組になっての魔法戦闘も直ぐに決まり、俺はフェオと戦う事になる。

 校庭に作られた幾つもの結界。その中に入り、戦うのが学校での魔法戦闘だ。

 割り当てられた番号に対応する結界に行き、並ぶ。梓は見知らぬ人と、リノはロキと戦う事になっていた。フェオが俺の体調を気にする中で、それを流しながら梓を探す。

 彼女の強さを見てみたかった。案外、直ぐに彼女は見つかる。隣の結界だった。

 どうやら梓とその相手の女子生徒は一番手らしい。良く見ると、梓の相手はリノやロキに並ばないまでも優等生に分類される女子だった。名前程度は、くらいの知名度で、男子人気もそんなに悪くなかった筈。対して梓は比にならない程の美少女。ここらでは見かけない黒髪とリノに劣らない可愛さで、男子からは注目の的だ。

 しかし、彼女は成績最底辺でもう名が知れている。中間試験をやっていないから、と言っていたし授業を1+1に例えたりもしていた。果たして、それは強がりなのか本心なのか。単純に知りたい。

「……ああ、月夜野さんか。あの人、滅茶苦茶速かったぞ」

「へえ」

 話する元気も無く、返事は雑になってしまう。だがフェオは気を悪くした様子を見せずに、ニヤニヤしながら梓の方へと視線を向けた。

「ま、お手並み拝見だな――――」

 フェオがそう言った瞬間に、隣の結界を担当していた先生が開始の合図を鳴らす。

 刹那。

 梓の手元から、突然莫大な魔力が放出。目にも止まらぬ、いやこの場合は魔力の感知が追い付かないレベルでの展開変換。声を出す間も、瞬きすらも間に合わない一瞬。次の瞬間には、魔法が完成されていた。

 それは速さを求める、光の魔法。

 魔法には幾つか主となる属性がある。炎、水、風、岩、光、闇だ。

 炎は威力、水は応用性、風は万能、岩は防御、光は速さ、闇は死角。

 その内の一つ、光の魔法。速さを突き詰める属性の魔法で生成された槍は、何よりも速かった。

 そして何よりも威力があった。

 速さを求めれば、その分威力は弱くなる。威力を求めれば、速さが無くなる。

 どの特性に、どれだけ魔力を変換するか。それが魔法の特徴の決め手だ。光は勿論、速くなるように魔力を変換し展開する。

 だから、腐っても優等生である相手の実力があればその魔法の一撃は防げただろう。

 相手が、月夜野梓で無ければ。

 例え同じ魔法でも、そこに込められる魔力の量が違えば威力も速さも変わってくる。梓の場合は、速さも威力も抜群に高かった。

 それはつまり、その魔法に消費した魔力もかなりの量だと言う事。

 魔力が足りないと、今の俺みたいにふらふらしたり眩暈……簡単に言うと、貧血の酷い時みたいな症状が出る。

 だが、少女を一撃で気絶させ、戦闘不能にしたのにも関わらず。

 月夜野梓は、全然余裕だった。笑みを浮かべて、俺を見つけたのか小さく手を振っている。圧倒的力を見せつけた上での、余裕を彼女は見せている。

「……嘘だろ……あんなん、リノさんだって難しいんじゃねえのか……」

 フェオが呆然と呟く。その思いに、完全に同意だった。

 彼女がリノに勝てる、楽勝だと言ったのは――――真実、だったのだろう。

 絶対に自分では出来ない事を簡単に見せられて、梓に目を奪われていた人たちは皆唖然とする。先生ですらも固まる中で、やがておずおずと動き出し、戦闘が回り始めた。

 どこかぎこちない雰囲気のまま、俺とフェオの番が来る。二人で結界の中に入り、先生に挨拶をしてから向かいあった。魔法戦闘がある程度得意なフェオ相手に、一回も勝ったことは無い。

「行くぜセベット! 俺の本気を、見せてやる!」

 フェオが叫び、先生が合図を出す。

 魔法戦闘、スタート。手を突き出した奴はまず魔力を放出、展開、変換をする。

「梓さんの真似だあああああああああああ!!!」

 放たれる光の槍。速さを求めて撃たれた攻撃を、全力……と言っても、今は常人の小走りレベルで回避。すかさず反撃の一手、初級中級上級と分類されいている魔法の内の一つ、中級の風魔法を放つ。

 初級、中級はもう習ったから使える。だが、上級は習っていないし使えない。使えるリノが例外なのだ。

 そして、この学校はかなりの難関校。世界でも上の方の学校であり、入学だけでまあまあ難しい。リノに勉強を叩き込まれ、成績が底辺と言えども俺は生徒。この学校に入学出来て時点で、他の学校に行けば成績は上位に入れるだろう。もっとも、ここには俺以上の人間がゴロゴロ居るが。というか、殆ど全員だ。

 優等生でも無ければ、他から見れば落ちこぼれでもない。

 中級魔法を使いこなすのだって、結構な評価に値する。放った風魔法は、フェオの回避方向へと曲がり、直撃した。

 風魔法は万能。殆どの魔法が直線移動だが、風魔法は威力と速度を犠牲に方向をある程度なら変えることの出来る強みがある。

 ……そして、俺と後一人だけが使える応用法も。

 しかしそれは使わない。使えない。右腕を大きく薙いで、更に魔力を展開、変換する。

 と、次の瞬間。頭部に今度こそ光の槍が突き刺さり、頭が後ろに大きく揺れた。どうやらあいつは、かなり威力を犠牲にしたらしい。

 だが、それは結果的に好手となり決め手となった。

「あっ……ぐあ……」

 脳を強く揺さぶられた俺は、一気に疲労と睡魔が全身に染み渡った。魔力の枯渇、持久走の疲れも相まって、頭の動きに従って後ろへと倒れていく。踏ん張る事すらも出来ずに、頭を地面に強く打ち付けた。

 そしてそこで、急に意識が闇へと落ちていく。瞼は自然に下がり、体からは力が抜けた。最後に見えたのは、結界の天井。

 聞こえたのは、フェオともう一つの声だった。


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