リメイクし直します。話をまるっと変えて、一話からです。
理由としては、
・リメイク版の方が多分面白い
・新人賞に投稿するつもりなので、自身のある方にしたい
です。
身勝手ですみません。ごめんなさい。
その分誠心誠意頑張りますので、どうかよろしくお願いいたします!
その日。薄暗い部屋の中で、机の上においてある明かりを頼りに俺はペンを走らせていた。
書いているのは魔力を変換し魔法にする過程を描いた魔法式。公式化されていない、オリジナルの魔法式を書いているのだ。これが完成すれば、俺は見事自分だけの魔法を持つ事が出来る。それも、全男子の夢が詰まった様な魔法が。
今日も学校がある。日が明けるまで大体五時間、二時間は眠っておきたいと思うが作業は終わらない。手に汗を滲ませながら、その魔法式を完成させるべく俺は必死に文献を漁り書いていく。時間は刻々と過ぎて、いつしか窓からは朝の光が部屋に差し込んできた。鳥はさえずり、街には段々と人が出てくる。消しては書き、消しては書きを繰り返し、やがて。
「出来たあああああああああああああ!!!!!」
魔法式が完成した。俺の数か月に及ぶ努力の結晶が遂に今実ったのだ。
部屋で小躍りをしながら、徹夜明けでふわふわとしている体と頭はすっかり忘れていた。
……今日学校がある事を。着替えても宿題を終えても準備をしても居ない事を。
その事に気づいたのは、登校時間の五分前。残念ながら遅刻したのは、別の話だ。
―――――人は全員魔力を持っている。
その魔力を体外に放出。外に出た魔力を変換するプロセスが魔法式であり、魔力を変換した現象を魔法と言う。
教科書に載っているような一般的な魔法。
軍で使われるような強力な魔法。
そして、個人で開発するオリジナルの魔法。
大きくこの三つに分類される魔法を教わる為の学校は世界中にあり、特に有名な学校は七個あった。魔法が常識となっているこの世界では、国が総力を挙げて作り上げたオリジナル魔法を奪い合っての戦争も絶えない。
その内の一つに、とある少年は通っていた。
名前はセベット・ティーク。銀髪に黒目、彼の住む王国の一般的な容姿である。身長は174cm程度、年は15歳。全てが平均的な少年だった。
セベットは母と二人暮らし。父は世界を駆け回る遺跡発掘者。母は店を経営している。
王国で一番大きく世界中でも有名な魔法学校に入学した彼は、入学以前から研究していた魔法を今日完成させた。
いや、そこは重要ではない。
本当に大事なのは、それが原因で彼は『古代魔法』に出会ってしまうという事。
遥か昔に封印された、現代の魔法とは一線を画す魔法。廃れていった理由は、実に単純。
その『古代魔法』は、余りにも強力すぎたのである―――――。
「良いか、セベット。この世界でも屈指の名門校に入学しておきながら遅刻とは非常に情けなけない事だ。それを理解しているな? ん? 分かったら一週間図書館の清掃だ。一人でな」
「……はい」
一番最初の授業に遅刻した俺は、人通りの多い廊下で教師に説教をされていた。よりにもよって最初の授業は評判の悪い事で有名な魔法歴史の先生。入学して一か月しか経たないが、新入生の八割に嫌われるその手腕は素晴らしいと評価せざるを得ない。
やっと解放された俺は、二時間目が始まる寸前の教室へ。制服の黒いローブの裾を払い、自分の席に座る。教科書と筆記用具を用意した俺は、そのまま流れる時間を黙って過ごした。
窓の外は絵の様な青空が広がっている。
遠くに見えるのは緑の草原と流れる白い雲。活気あふれる街並みに、ひと際目立つ王城。
ここは平和でも、世界のどこかでは今も戦争が続いている。……今、魔法学の教師が話している内容はそんな感じだ。
実感は湧かず、時間は過ぎていく。
いつしか、朝のオリジナル魔法を完成させた熱気は消えていた。欠伸をかみ殺して、退屈な授業を聞き流すくらいには。
やがて時は経ち、昼休みに入った。俺は大食堂へ向かおうとして席を立つ。教室からは多少の移動距離があるものの、苦にはならない程度。席から立ちあがった瞬間に、突然肩を叩かれて俺は振り返った。
「なんだ、フェオか」
「なんだとはなんだとは。遅刻セベット君には言われたくないなあ!」
銀の短髪に茶色の瞳。がっしりとした体格は俺より一回りは大きい。フェオ・グレンという名のこいつは俺の数少ない友人の一人だ。知り合ったのは数年前。
明るく元気で、ある程度友達はいる。そんなフェオと授業の内容を話しながら大食堂へ。フェオは適当に定食を頼んで席へと向かい、何も持たない俺と定食を持ったフェオは席に座る。フォークで肉を口へ運ぶと、にやにやとフェオは俺へと尋ねてきた。
「で? 何で遅刻したんだ?」
「……オリジナルの魔法を完成させて、ハイテンションになってた。それが理由だよ」
「オリジナルゥ? 全く、またお前は『じゃがいもの皮を一瞬で剥く魔法』みたいなのを開発したのか?」
「あれは忘れろ。ふふふ、今回のは凄いぞ?」
俺は自信満々に告げる。
「何と! 今回俺が開発したのは『惚れ魔法』だ!」
『惚れ魔法』。
その名の通り、魔法に当たった人物が魔法の使用者を好きになる魔法だ。
今まで数々の変態、もとい研究者が挑戦してきた『惚れ魔法』だが、どれもヤンデレになったり寧ろ嫌われたりと欠陥が多かった。
俺の魔法はそれら全てを混ぜ合わせた結果。文献を漁ったりするのもかなり骨が折れた。
まだ試してないけど。
「ほ、『惚れ魔法』ってお前……。誰も成功させた人は居ないんだぜ? それに、何でお前そんなのを作ったんだよ?」
「……お前も知ってると思うけどさ」
「ん?」
「ほらその、俺には幼馴染が居るじゃないですか」
「ああ、絶対にお前とは釣り合ってない嫁な」
「嫁じゃねえし! というか向こうが優秀すぎるだけですー、俺は至って平均的な人ですうー!」
フェオが昼食を食べているのに対し、俺が食べていない理由は単純。お弁当を待っているのだ。
大食堂の席は、入学して一か月間俺とフェオが座っている席。
定位置になりつつあるここへ、昼休みには必ず……。
「おっ、来たんじゃないか嫁さん。お弁当持ってるぞ」
「嫁じゃねえし!!」
そう、俺の分のお弁当を作ってくれる幼馴染が来てくれるのだ。
名前はリノ・クェーサー。
金髪ロングストレートの碧眼。端正な顔立ちに華やかな雰囲気、文句の付けようがない美少女だ。
成績は学年トップを独走。魔法戦闘でも屈指の強さを誇り、人当たりは良くいつも周りには友達が大勢溢れている。自分に厳しく人に優しい優等生。そんな彼女は無論学年で一番人気の人物であり、全男子の注目の的だ。
そんな彼女は俺と古くから付き合いがあり、今に至る。お弁当を作ってくれだしたのは数年前だ。
リノは俺達の席に来ると、俺の隣に座った。お弁当を俺に渡すと、
「はいこれ。今日は委員会で朝迎えに行って上げられなくてごめんなさい。……それでも遅刻はどうかと思うけど」
「仰る通りです……。迎えに来てくれてありがとな」
「良いのよそれくらい。大体ねえ、あんたお母さんがずっと忙しいからって怠けすぎなのよ! 少しは自炊しなさい!」
「うっ……。スクランブルエッグとトーストなら作れるぞ! 肉だって焼けるぞ!」
「ムニエルの作り方は?」
「粉付けて焼く」
「……うんまあ、違うとは言いがたいけど……。少しは勉強しなさいよ」
呆れたように、弁当を開けながら呟くリノ。
それを聞き、俺は確かにと頷いた。
「リノが誰かのお嫁さんとか彼女になったら、俺死ぬかもなあ……餓死か栄養失調で」
「カッコ悪!? ……いや、別に、寧ろ健康になるんじゃない? ずっと一緒に居るんだから……」
「いやいや、リノとずっと一緒に居るとかお前とカップルにならなきゃじゃん。リノはもっとイケメンと付き合うだろー?」
あっはっはと笑う俺に、リノは無言で鋭いグーパンチを入れる。わき腹を抑えて呻く俺を気にしないで、彼女は弁当を食べ始めた。
「こんな奴を幼馴染に持つと、大変ですなあ」
「まったくね。友人でも大変なんじゃない?」
「はっはっは。ノーコメントで」
「フェオォ!?」
突如裏切った友人へと叫ぶも、フェオは何も言わずに違う話題を持ち上げた。
そのまま昼休みは終わり、五、六時間目に入る。
「……星屑の鍵。これは遥か昔に封印された12の古代魔法を扱うための道具だ。世界にある12国の王が一つずつ持っているのは、常識だと思う―――」
先生の教科書をなぞる発言を退屈に聞き流す。
授業だとか何だとかよりも、今俺は人生の一大決心をしているのだ。
「古代魔法とは強力すぎて封印された魔法だ―――皆も知っていると思う―――」
古代魔法とかどうでも良い。聞きたくもない。
それよりも、俺は今日。
「リノに告白するっっ!!」
「今更かよ!!」
授業が終わり、各々が委員会や帰宅、個人での活動に向かう中。
俺とフェオ、そしてもう一人の友人であるロキは静かな廊下で話していた。
叫びに突っ込んできたフェオはあからさまにやれやれと首を振り、身長の高くイケメンの部類に入るロキも困ったように口を開く。
「……僕も、今更だと思ったなあ。もう少し早くて良いと思ったんだけど」
「ほら見ろよ! 成績優秀、文武両道のイケメン様もこう言ってるんだぞ!」
「や、やめてよ!」
フェオとロキと一緒に歩いている理由。それはこいつらが、俺の図書館清掃を手伝ってくれるからだ。
ありがたい。今度何か奢ろう。
「何でだよ……俺、リノに惚れられてすらいないぞ?」
「ああ……馬鹿がここにいる」
「ちょっと、鈍感すぎないかい!?」
頭を押さえて天を仰ぐフェオ、驚きに叫ぶロキ。
「……あのなあ、俺は鈍感じゃない。でも、リノは好きなんだ。……だから、俺は『惚れ魔法』を開発したんだぜ?」
「……」
「……」
「ちょっ、どうして黙る!? ロキもフェオもどうして憐みの目を向けるんだ!?」
「「『惚れ魔法』に作ってる暇あったんならもっと早く告白しろよ!!」」
シンクロする二人の声。
「……お、おう。はい。すみませんでした……」
「はあ。もうダメだこいつ。で? リノさんは呼び出してんのか?」
「勿論。図書館清掃の途中、五時頃に体育館裏」
「……で、誘った時の反応はどうだったかな?」
「すっげえ顔赤くしてた。……怒ってたんだろうなあ……」
ロキとフェオが真顔で言葉を無視した。お前らから話しかけてきたんだろうに。
取りあえず、『惚れ魔法』でリノの好感度をマックスにする。そこで告白して、結ばれる。
……魔法に頼るのは嫌だけど。
……守りたい人には、いつでも守れる場所に居て欲しいんだ。
そして、行く時間になった。
「がんばれよ!」
「これ、僕からの些細な魔法。……成功させなよ」
フェオの声援、ロキの魔法を受けて、俺は図書館を出た。
焦る気持ちに乗って、走る。廊下を駆け抜けて下駄箱で靴を履き替えて、体育館裏へと駆けつけた。
夕暮れの空。涼しい初夏の風。たなびく雲の下で、リノは金髪を揺らして佇んでいた。
呼吸を落ち着けて、一歩踏み出す。ゆっくり、ゆっくりとリノの近くへと向かう。俺に気づいた彼女は、照れくさそうに視線をそらした。
俺とリノの距離はお互いに手を伸ばせば届きそうなくらい。高鳴る鼓動が、やけに煩かった。
「……何よ、こんな所に呼び出して」
リノが呟く。
一切目を合わせようともしない彼女へと、俺はしっかり視線を向けた。
そして、右手から魔力を放出し、魔法式の通りに変換、展開する。
やがて起動する魔法。鮮やかな桃色の光に、リノは驚いたようだった。しかし避けれずに、『惚れ魔法』はヒットする。輝く魔法陣が渦巻き、リノを包み込んだ。
さあ。
俺のオリジナル魔法は成功しているのか、していないのか。元々好感度は0から100で言えば0なんだ。無茶くらい、してやろう!!
……魔法の光が消え去り、身を守っているリノがそこに居た。彼女はゆっくりと体を起こすと、何故自分がこんな格好をしていたのかと体を見渡している。
そう。『惚れ魔法』にかけられた人は、感情を操られたショックで前後の記憶を無くす。と言っても、3秒程度だから『惚れ魔法』にかけられた事を忘れる程度だ。
「……俺が、お前をこんな所に呼び出したのは、」
意を決す。
フェオの応援、ロキのかけてくれた後押しの魔法を思い出して、俺は告げた。
「リノ! ずっと好きだった、俺と付き合ってください!!」
叫び声にも近い形で、高らかに声は響いた。
呆気に取られているリノ。彼女はすぐ後に、顔色を変えて――――
「嫌よ。私、あなた嫌いだもの」
そう、言った。
暫く、何を言われたのか分からなかった。今まで積み重ねてきた年月が全て破壊された……その思いだけが、俺の心中で渦巻いているだけだった。
嫌われていた。
フェオとロキの言葉で、俺は浮かれていただけだったんだ。
これが現実。……『惚れ魔法』は、意味をなさなかった。俺の半年も、無駄だった。
崖下に突き落とされた気分。リノは俺を冷たい瞳で見て。
「じゃ。もう二度と、私に関わらないで」
そのまま、去っていった。