キャンプに戻り、三人は各々簡単なメンテナンスや自身の状態をスキャンして現在は休息を取っている。
砂漠地帯の機械生命体に関してアネモネに報告をしたり、簡単な補給を行ったり、2Bがスリープモードで休んでいる間に7Sと9Sが機械生命体の行う人類の模倣について話をしたりと休息を楽しんでいた。
そして当然のように休息中には様々なことが起きた。悪いことではないが、良いことというわけでもない、なんということもない出来事だが。
そしてそれは時を同じくしてバンカーでも普段とは少しばかり違うことが起こっていた。
▽
2Bがスリープモードで休んでいるとそこに近づく人影が一つ。言うまでもないが7Sである。
スリープモードとはいえ、戦闘モデルは何かあれば強制的に目を覚ますようになっている。だからなるべく2Bが起きないようにとゆっくりと忍び寄る。
そして2Bの下へと辿り着くと、起こさないようにゆっくりと丁寧にそのゴーグルを外し始めた。それは随分と手馴れた様子で、今回は初めてではないことが窺える。
また、9Sが席を外しているタイミングを見計らっての行動なので咎める者もいない。
2Bが起きないように気をつけながらゴーグルを外した7Sはポッドに指示を出してその寝顔を写真に撮る。
いや、指示は出していない。出すまでもなくポッドが勝手に写真を撮ったのだ。
7Sはそれを気にした様子はなく、外したゴーグルを邪魔にならない場所においてから暫く2Bの寝顔を見たり、コンソールを操作したりといつも通り自由に過ごしていた。
「…………7S」
「あ、起きた?」
「起きた?じゃなくて……勝手にゴーグルを外さないで欲しい」
そうしているとスリープモードから目覚めた2Bがゴーグルを外されていることに気づき、その犯人を姿を見るまでもなく言い当てた。
名前を呼ばれた7Sは悪びれもなく返事をするが、2Bはそれに対して少し呆れ気味にそう続けた。
2Bは身体を起こして辺りを確認するとそこに9Sの姿はなかった。
「9Sは?」
「外でバンカーと、ってよりも21Oと通信中。定期連絡みたいなもんだろ」
「そっか……それで、私のゴーグルは何処」
「そこに置いてある。いやぁ、2Bの素顔とか久々に見たよ」
コンソールを消してから2Bのゴーグルが何処にあるか指差し、7Sは言った。
「別に、特別見て楽しいものではないと思う。
それよりもポッド。どうして起こしてくれなかったの?」
「回答:7Sの行動に悪意はなく、危害を加えるものではなかった」
「回答:当随行支援ユニットは7Sの行動を支援するものであり、妨害するものではない」
何故、そう2Bに聞かれてポッドたちはそう答えた。
悪意のある物ではないので放置した。支援はするが妨害はしない。そんな答えに2Bは、それならば何故ゴーグルを外したのか、そう7Sに目で問いかける。
その意図を察した7Sはなんてことはないように答えた。
「特別な理由はないけど、たまにはゴーグルを外した姿が見たかったってだけだな。
今度は9Sがスリープモードの時にでもゴーグル取り外してやろうかな、とか思ってるし」
「そう……なら私だけが外すのは不公平」
7Sの答えを聞いて2Bは、7Sのゴーグルへと手を伸ばす。特に抵抗することのない7Sのゴーグルを外した2Bが7Sを見ると、楽しそうに笑いながら目を閉じていた。
ゴーグルは外しても良いが目は見せない。とでも言うことだろうか。
「7S、目を開けて」
「嫌だ」
「7S、目を開けて、瞳を見せて」
「いーやーだー」
「……力づくが良いならそれでもいいけど」
「それは怖い。まったく、2Bは仕方が無いなぁ」
言ってから7Sが目を開くと、金色の瞳が姿を覗かせた。
ヨルハ部隊は青系統の瞳の色が多いが、7Sはそれらとは違って綺麗な金色の瞳をしている。
「満足した?」
「…………本当に、綺麗な色」
「ヨルハ部隊の中では変わった色だけどな。それに綺麗だって言うなら2Bの瞳もそうだと思うけど?」
聞くものによっては口説いているような台詞を平然と口にする7Sだが、当然口説いてなどいない。
ただ単純に、そう思ったから口にしているだけだ。
そしてこの言葉を2Bは何度も聞いている。
こうして7Sが勝手にゴーグルを取って、自分も7Sのゴーグルを取る。そして瞳の色の話をする。これは二人にとっては良くある話なのだ。
「私のは、少しくすんでいるから」
「オレは好きな色なんだけど……それに9Sも同じ色でお揃いなんだよな」
「そう。羨ましい?」
「相当に。二人と同じ色が良かったんだけど、無い物強請りはしないつもり」
その話もいつも同じ着地点に落ち着く。7Sとしては2Bと9Sのような色でお揃いにしたかったが、そうはいかない。
それにしても7Sは本当にどれだけ2Bと9Sのことが好きなのだろうか。
今までもそうだが、言葉の端々に2Bと9Sへの好意が見て取れる。当然それは恋愛感情としてではなく、大好きな友達に向けるような親愛からなるものだ。
「そっか。でも私は7Sのその瞳が好きだからそのままでいて欲しい。
きっと、9Sもそう思ってくれるよ」
「…………そうだな、きっと、そう思ってくれるよな……」
9Sも7Sの金色の瞳を好きだとそのままでいて欲しいと思う。そう言った2Bは過去に想いを馳せているようで、それに気づいている7Sは小さく肯定の言葉を口にするのだった。
▽
9Sがアネモネから使っても良いと言われている部屋に戻ると7Sの姿はなく、2Bだけがベッドに腰かけていた。
「2B、起きていたんですね」
「少し前に」
「そうですか。ところで7Sは?」
「知り合いが戻って来てるから会いに行くって」
「知り合い、ですか……7Sは顔が広いですね……」
「7Sのことだから、この辺りには他にも変わった知り合いがいそうだね」
「うーん……7Sの場合はアンドロイドじゃなくて機械生命体の知り合いとかがいても可笑しくないような気もしてくるなぁ……」
苦笑を浮かべながら言った9Sだが、自分で言っておきながらふと気付く。
むしろ7Sのあの態度や発言を考えれば、いても可笑しくないのではなく、いなければ可笑しい。
「7Sなら普通にありそうだから困る……」
「まぁ、7Sだからいるんでしょうけどね。
ところで2B」
「何?」
「割りと僕たちはこんな感じですけど、あれは言わないんですか?」
「あれ?」
「私たちは感情を持つことを禁止されている」
「………………大丈夫。私は感情を持っていない」
三人揃ってもはやヨルハ部隊の規律を破っているがそれはもう良いのか。という意味と、2Bは意外と感情豊かな人だよな。という想いを込めて言った。
すると2B長い沈黙の後でそんなことを口にする。どう考えてもそんなことはあり得ない。
ヨルハ部隊の規律だからなのか、自分は感情を持っていないと言い張るのは無理がある。
「流石にそれは無理があると思いますよ?」
「本当に私は感情を持っていない。何故なら感情を持つことは禁止されているから」
「2Bは強情だなぁ……あ、それならこんなことしても怒りませんよね」
9Sは2Bに近づくとその頬を摘んだ。少し前に7Sにしていたことなのだが、それとはまた違う柔らかさだ。9Sはそう思った。
「わふぁひははんひょうほほっへひひゃい」
「何言ってるかわかりませんよ」
「回答:2Bは、私は感情を持っていない。と発言している」
「それじゃ、もうちょっとこう……」
ポッドが何を言っているのか教えてくれたのでそれならばと9Sは更に2Bの頬を摘んだり引っ張ったり軽く揉んでみたりと遊び始める。
2Bは特に抵抗することなく、というよりも感情を持っていないと言い、怒ってないことになっているので特に抵抗することが出来ないでいた。
そんな2Bの事情を理解している9Sは何処かのスキャナーモデルのように好き勝手に2Bの頬で遊んでいる。
「7Sのときも楽しかったけど、2Bも同じくらい楽しいかも……」
「ほほっへはいひゃいへほ、ははひへ」
「回答:2Bは、怒ってはいないけど、放して。と発言している」
「はーい、わかりました」
あまりやりすぎるのは良くないと思っていた9Sが手を放すと、素早い動きで今度は2Bが9Sの頬を摘んだ。
そのまま9Sにやられたことをやり返す2Bの手を掴んで、それを阻止しようと9Sが頑張るが、戦闘モデルの2Bが相手では力負けしてしまい、結局良いように遊ばれてしまう。
「つーひー、ははひへふらひゃい」
「回答:9Sは、2B、放してください。と発言している」
「怒ってはいないけど、やられた以上はやり返さないといけないから」
「ひょへ、ほほっへまふほへ」
「回答:9Sは、それ、怒ってますよね。と発言している」
「怒ってない」
「いひゃ、へっはいひほほっへまふ」
「回答:9Sは―――」
「怒ってない」
ポッドが何かを言う前に怒っていないと言って尚も9Sに仕返しをしている2B。
9Sは自分が先に仕掛けたことなので、それを仕方が無いとして受け止めているが9Sの私見では2Bが段々と楽しくなってきているように見えるので開放されるまで暫く掛かりそうだった。
だが、こうして互いに遠慮がなくなって来ているならと思うことがあるのでやめてもらうことにした。
「ひょっほははひへほらっへいいへふは?」
「回答:9Sは、ちょっと放してもらって良いですか?と発言している」
「ん……わかった」
意外なことに2Bは素直に9Sを開放した。
「ありがとうございます。それで、ですね。
僕と親しい人は、僕のことをナインズって呼ぶんですよ」
「……うん、それがどうかしたの」
「だから、こうしてお互いに遠慮もなくなって来てますから2Bもそろそろどうですか?」
「どうですかって言われても……」
「もう、鈍感だなぁ……2Bも僕のことをそろそろナインズって呼んでみませんか。っていうことですよ」
親しい人はそう呼ぶ。つまりは、9Sにとって自分の親しい相手の証明のようなものなのだ。
だからこそ2Bにもナインズと呼んで欲しい。そう思って提案しているのだが、2Bの反応はあまり芳しくない。
「……ダメですか?」
「…………今はまだ良いかな」
「そうですか……」
2Bの返事を聞いて少し落ち込む9S。まだそこまで親しくはなっていない、ということだろうか。
「7Sが……」
「はい?」
「7Sがそう呼び始めたら私も呼ぶ、かもしれない」
「本当ですか?嘘だったら怒りますからね」
「うん、約束する」
その言葉を聞いて喜ぶ9S。きっと7Sならすぐに呼んでくれると思ったからだ。
約束ですよ、と嬉しそうに言う9Sを見ながら2Bが何を思ったのか、それを知るものはその場には誰もいなかった。
尚、後日7Sに対してナインズと呼んで欲しいと9Sが言うと、2Bが呼び始めたらオレも呼ぶよ。という返答をされた。
もしかして2Bは7Sがそう言うことをわかっていてあんな約束をしたのではないか、と拗ねることになるのだが、それはまた別の話である。
▽
「何をしておる」
「釣り」
「……その奇妙な箱でか」
「そうそう。こう、魚が来たらポッドがバシッと捕まえてくれるんだ」
「そうか……それで、まだ釣れぬのか?」
「静かに!魚が逃げるだろ!」
「……すまぬ」
▽
21Oは非常に困っていた。というよりも困惑していた。
いつも真面目に仕事をしている隣のオペレーター、11Oの様子が先ほどから可笑しいのだ。
真面目に仕事をしているかと思えば、コンソールを開いて何かの画像を見ては緩みきった顔で幸せそうに笑い、はっと気がつくと真面目な顔に戻って仕事をする。以下無限ループ。
はっきり言うと気持ち悪い。それに本来ヨルハ部隊員は感情を持つことを禁止されているのだ。あんな表情をするようなことは本来有り得ないのだ。
「11O、何をしているのですか」
耐え切れなくなった21Oが話しかけると、待ってましたと言わんばかりに11Oが食いついてきた。
「あ、気になる?気になるよね?もう、それなら仕方ないから特別に見せてあげるけど……」
「いえ、そうではなくて何をしているのかと……」
「ほら見て!うちの弟とその友達の微笑ましい写真!」
バーンッ!と突き出されるようにして見せられたのは、2Bと9Sが7Sの頬を摘んで遊んでいる写真だった。
「何ですかそれは」
「7Sは問題児なんて言われてて、友達が出来るか心配だったけどこの写真を見るとちゃんと友達が出来たみたいで安心したよ。でも私もあの子のほっぺたむにむにしたいなぁ……」
「いえ、ですから……」
「通信でほっぺたむにむにして良い?って聞いたらダメって言われちゃったけど今度帰ってきたらお姉ちゃん特権でむにむにさせてもらうんだぁ……」
「いや、聞いてください」
「あ、21Oちゃんは確か9Sくんのオペレーターだったよね?どうかな、9Sくんって素直で良い子だなぁ、って思ってたんだけど21Oちゃんはどう思う?」
「あの、話を聞いてはいただけませんか。それと21Oちゃんと呼ぶのはやめてください」
「私ね、思うんだ。きっと9Sくんにも可愛い弟の素質があるって!」
21Oの言葉を聞いているのに聞いてくれない。そんな11Oに話しかけたのは間違いだったか。そう思う21Oであった。
しかし、そんな11Oの言葉の中で引っかかる言葉があった。
それは、9Sにも可愛い弟の素質がある。という言葉である。
21Oは家族に対して憧れを抱いている。そして家族の中には兄弟姉妹という関係がある。
11Oの言葉が真実であるならば、9Sは弟にするに最適なような気がした。
そんな気がした瞬間、21Oにはわからなかったが、21Oの中で何か枷のような物が外れたのだった。
その結果がどうなったかは今は明かさないこととしよう。
ただ、言えることがあるとすれば、暴走する姉を持つと苦労するのはその弟である。ということだ。
▽
「釣れぬではないか」
「そうぽんぽん釣れるもんじゃないしなぁ……」
「うむ……確かにそう容易く釣れるものではないか。良いか、釣りと言うのは騒がず、焦らず、確実にだな……」
「静かに!魚が逃げるだろ!」
「……すまぬ」
▽
9Sは2Bと別れてキャンプ内を歩いていると、見慣れないアンドロイドの姿を見つけた。
道具屋の隣の空いていたスペースに座っているその二人は見た目が非常に似ている。
その二人を見ていると、その一人と目が合った。
「ん?どうかしたのか?」
「いえ……」
「もしかして、私たちが珍しかったのかしら」
「はい。この辺りでは見かけない姿だったので……」
「まぁ、私たちみたいなのはもうほとんどいないからな……」
納得したように話すそのアンドロイドは事実この辺りでは見たことがない。いや、9Sにとっては初めて見るアンドロイドだった。
「私の名前はデボル。よろしくな」
「私の名前はポポル。よろしくね」
「あ、僕は9Sです。よろしくお願いします」
「スキャナーモデルだったか?7Sとほとんど同じ外見だな」
「はい、7Sと僕は同じスキャナーモデルですから、ほとんど同じ外見なんですよ。
まぁ、流石に性格に関しては違いますけど……」
どうやらこの二人は7Sとは知り合いらしい。
変わった知り合い、という程ではないがやはり7Sには自分たちの知らない知り合いがまだまだいそうだ。
9Sは内心でそう思いながら特に急ぎの用事などはないので二人との会話に興じることにした。
「ところでお二人は7Sと知り合いなんですね」
「ん、まぁ……」
「知り合い、っていうのもあるけど、ちょっとお世話になってね」
「お世話に?」
言い淀んだデボルの言葉を引きついてポポルがそう口にした。
困ったような、それでいて何処か嬉しそうに小さく笑っている姿を見てその内容が気になってしまった。
「前に此処で少し問題が起きてね。その時に彼が私たちを庇ってくれたのよ」
「何て言えば良いのか……色々と立場上大変だったんだけど、あいつのおかげで大分楽になったんだ」
「……それって詳しく聞かない方が良いですよね」
「あまり口にして楽しいことではないのは確かね……」
「悪いな……」
「あ、いえ……でも、その割には嬉しそうにも見えましたけど……?」
「……そうね。事実、嬉しかったから……」
「ま、気になるなら私たちともう少し仲良くなってからにしてくれ。流石に7Sの知り合いだからってぺらぺら喋ることじゃないからな」
あまり口にして楽しいことではない。となると不穏な気配を感じてしまうが、それでもあの7Sが関わっているのならそう悪い結果にはなっていないのだろう。
それに二人は楽になった。とも言っているので、本当にもう少し仲良くなれば教えてくれるのだろう。
ただ、それでも7Sには気になることがあった。
「でも……7Sは誰彼構わずそうやって庇ったりするような人じゃないはず……」
そう、7Sは2Bや9Sへの態度を見ているとお節介なお人よしのようにも思えるが、本当はそんなことはない。
見ず知らずの誰かのために危険に飛び込むようなことを率先してするような性格ではないのだ。
「確かに……でもあいつ、その辺のことを聞いたら昔お世話になったから。とか言うんだよ」
「私たちは初めて彼に会ったのにね」
「あぁ。だからもしかしたら同型の誰かと勘違いしてるのかもしれなかったんだけど……」
「だけど?」
「その後、あいつはデボル&ポポル型を見たのは初めて。とも言ってたんだよな……」
「だから昔お世話になった、ってことについて聞こうとしたらそんなことは言ってない。って言うのよ」
「はぁ……何だか、妙な話ですね……」
本当に妙な話だ。昔の話をしながらも初めて会ったと言い、そのことについて聞けば言っていないと言う。
もしかしたら記憶領域に何か問題があったのかもしれない。
現在は自己メンテナンスなどで問題があったとしても解決しているだろうから確認は取れないが、多分そういうことなのだろう。
「まぁ、記憶領域に何かあったんだろうから気にしてないけどな」
それはデボルとポポルも同じ考えらしい。
ならばこれ以上考える意味はない。9Sはそう考えてこれ以上の思考は切り上げた。
「まぁ、何にしろ、だ」
「私たちは基本的にはキャンプで変わった物を扱ったりしてるから興味があったら時間があるときにでも見に来てね」
「あぁ、でもたまに外に出て色々やってるからいないときもあるけど、その時は悪いな」
「いえ、そういうことなら仕方ありませんよ」
どうやら道具屋のようなこともしているらしい。
今度時間があるときにでも見に来て欲しいということだったので、また今度尋ねてみよう。そう思う9Sだった。
それにしても、デボル&ポポル型というのは聞いたことがない。やはり7Sは顔が広いんだな。と感心しながら二人と別れてまた歩き始めるのだった。
▽
「今度は騒がず静かにしておるぞ。なんといっても喋ると魚が逃げてしまうからな!
我とて今以上に学び成長す―――」
「静かに!魚が逃げるだろ!」
「……すまぬ」
「…………よし!メダカが釣れた!」
「メダカ、か……もっと大物は狙わぬのか?」
「此処だと大したのは釣れないからなぁ……で、気になってたんだけど、何でこんなところにいるの?」
「うむ……何か探し物をしておったのだが……」
「……それが何か思い出せない?」
「そうなのだ……何か、思い出すきっかけにでもなればと釣りを見ておったが……」
「思い出せなかった、と。少し辺りを見て回るのも良いんじゃない?」
「そうだな……では、そうするか」
「もし何を探してるのか思い出したら教えてくれよ。もしかしたら力に成れるかも、だからな」
「うむ、その時は頼るとしよう。ではな、またいずれ会おう」
「ん、また」
▽
「疑問:先ほどから7Sは一人で喋っていた。システムに異常が発生しているのではないか」
「え?いや、さっきそこにいただろ?」
「否定:7Sが当随行支援機を釣りの道具に使い始めた頃から7Sは一人であり、周囲には誰もいなかった」
ポッドは一人で喋り続けていた7Sへと疑問を投げかけた。だがそれに対して7Sは一人ではなかったと言う。
だがポッドは周囲に誰かがいるのかとスキャンを行っていたのだが、全く反応がなかった。
だからこそ、7Sが一人で喋り続けていたと判断したのだが、どうにも可笑しい。
「え、ポッドにはオレが一人に映ったのか?」
「肯定:証拠となる映像データを提示」
ポッドが見せるのは7Sが一人で釣りをしている映像であり、その映像の中で7Sは一人で喋っていた。
「……まさか、あれは幽霊……!」
幽霊という存在は旧世界の文献で知っていたがまさか自分が遭遇するとは思ってもいなかった7Sは興奮気味にそう口にした。
尚、7Sは割りとそういったモノの存在を信じるタイプである。というか、そういうモノが存在した方が面白いのではないか、と思うタイプだ。
「否定:そのような非科学的な存在はありえない」
「いや、オレには見えてポッドには見えなかったなら可能性はあるぞ?」
言いながら7Sはメダカを水の中に逃がすと、つい先ほどまで会話をしていた相手が去って行った方を見る。
だがそこには既に何もおらず、何かがいたという気配もない。
しかし確かに先ほどまで会話をしていた相手がいたのだ。
もう何処かに行ってしまったようだが、それならばそれで良いと思い、7Sはキャンプへと戻るために歩き始めた。
だが、幽霊だとしても一つ気になることがあった。
「でも……
日常回を挟みつつストーリーを進めるスタイル。
サブクエストは取り上げるものと、取り上げずに裏でクリアしてるものがある感じですね。
日常回の度にもしかしたら友情出演枠がある、かもしれない。
釣りの会話、大好きです。
報告:司令官より7Sへ、新たな命令。