爆風によって吹き飛ばされた7Sであったが2Bのおかげで事なきを得た。
そして2Bに抱きかかえられたまま思うことは、ジャッカスは絶対に許さない。ということだ。
何が範囲はそこまで広くない、だ。充分に広いではないか。いやそれよりもあの威力は強めにしているとかいう話ではすまないぞ。と、つらつらと考えていると頭の上から2Bの声がした。
「7S、大丈夫?」
「ん、大丈夫……ジャッカスは許さないけど」
「うん、そうだね。あれは私も許せないかな」
「だよなぁ……あ、使う前に言うの忘れてたわ。ごめん、二人とも」
「私は大丈夫。9Sは?」
「僕も大丈夫ですけど…………何で二人ともあの体勢で普通に会話できるんだろう……?」
大丈夫だと答えた9Sだが、後半の声は小さく、二人には聞こえていなかったようだ。
その体勢、というのは具体的に言うと、自身よりも少し小柄な7Sを後ろから抱き締めるようにして受け止めた2Bの胸に後頭部を預けている7S。と言った具合だ。
また、7Sを受け止めた際に姿勢を低くして衝撃を逃していた2Bは現在座り込むようにしていて、7Sは完全に2Bへと身体を預けている。
見るものによっては、恋人同士が仲睦まじく話をしているようにも見えるのだが、当然二人はそんな関係ではない。
だというのにどうしてあんな体勢で平然としているのか、9Sには理解が出来なかった。いや、自分たちがどんな体勢になっているのか気づいていないだけなのかもしれないが。
「えっと……損傷は……ないな」
「……7Sのズボン、そんなに短かった?」
「え?」
言われて7Sが自分の穿いているズボンを確認すると、明らかに短くなっていた。
どうしてだろうか、と一瞬考えてすぐに答えを出した。
「あぁ、ジャッカスの爆弾のせいか。これって自爆以外でもなるんだな」
「ジャッカスさんの爆弾、意味がわかりませんよ……って、今変なこと言いませんでした?」
「自爆って聞こえたけど……」
「いや、大分前に機械生命体に囲まれて、死なない程度に調整した自爆で吹き飛ばしたんだけど……その時に何故かズボンの丈が短くなるっていう事態が起きてさ。
だからって機械生命体を爆発させたり、普通の爆弾の爆風を受けたり、ブラックボックスを使った爆発の煽りを受けても平気だったのに……どうなってるんだろうな……」
平然と自爆したと言っているが、それを聞いて2Bは7Sの頬を摘んで引っ張って言った。
「7S、次そんなことしたら怒るよ」
「いひゃ、ひゅへにほほっへう……」
引っ張られている状態で喋る7Sだが何を言っているのかわからない。
そんな7Sの、引っ張られていない反対の頬を摘んで引っ張りながら9Sが言った。
「任務の遂行のためには自爆も選択肢の一つですけど、そんな軽々しく自爆しないでください。
それに機械生命体に囲まれたって言っても7Sのポッドとハッキングがあれば突破出来たんじゃないですか?」
「ひはいひはい。ほんはひっはふはほ!」
確かにヨルハ部隊のアンドロイドにとって任務を遂行するために自爆することもある。現に工場跡地で2Bと9Sがブラックボックス反応による敵大型兵器の殲滅をしている。
だがそれはどうしようもなかったからであって、7Sの場合はその状況を解決出来る手段があるにも関わらず死なない程度だからと自爆しているのが悪い。
二人が怒っているのはそういうことだ。決して単純に自爆したから、ということではない。
そうして怒りながら7Sの頬を引っ張ってお仕置きをしていた二人だが状況が少しずつ変わり始めた。
そんな状態の7Sの頬を引っ張ることが楽しくなったのか、2Bと9Sは摘んだり引っ張ったりと繰り返して遊び始めてしまったのだ。
普段であれば全力で抵抗する7Sだが、今回は自分が悪いのだとわかっているのでそれを甘んじて受け入れることにした。
したのだが。楽しくなって来た二人はそれをやめる気配が一向にない。
「……まひゃ、ひっはふほは?」
「7Sが何を言っているかわからない」
「そうですね。でも、きっと満足するまでやっても良いとか言ってるんじゃないかな」
「いっひぇひゃい!」
「うん、私もそんな気がする」
「でしょう?ほら2B、手が止まってますよ」
何時も二人で遊んでいる仕返しなのか、今回は完全に玩具にされてしまっている。
これはきっと反撃したとしても仕方のないことなのだが、残念ながら2Bに抱き締められる形になっているので反撃が出来ない。流石に戦闘モデルに捕まっている状態では、スキャナーモデルに出来ることはないのだ。
コンソールを操作しようにも片手は2Bに取られ、反対の手は9Sによって押さえられている。
手は使えないし画面は見えない。力で振り払おうにも戦闘モデルが相手では無理。どうやって反撃しろと言うのだろうか。
尚、当初は2Bと7Sの体勢に関して少しばかり疑問を抱いていた9Sだが、弄りやすい体勢なのでこれはこれで良いかな。と思うようになっていた。
何としても反撃、もしくは脱出しなければ。そう7Sが思っていると、どうやら11Oから通信が入ったようでポッドが勝手に通信を開始した。
「11Oから7Sへ、定期連絡……にはまだ早いけど通信です」
「ほっほ、ひゅうひんひっへ」
「…………うちの弟が可愛い……!!」
「ははひふひゃい。ひゅーひー、ひゃひんへふ、ははひへ」
2Bと9Sに弄られている7Sを見た11Oが何やら感極まったように言っている。が、それは置いておくとして、7Sは二人に手を離すように言った。
「仕方ない……9S、残念だけど放してあげよう」
「はーい。通信が入ったなら仕方ありませんからね」
「二人とも、後で覚えてろよ……!」
「そんなことより!バンカーに戻って来たらお姉ちゃんもほっぺたむにむにしても良いよね?」
「嫌でーす。で、定期連絡って言われても……いや、これは後で良いか」
「ん?何かあったの?」
「定期連絡でするよりも、調査報告ってことで正式に送るから後で良いんだよ」
「そっか……あ、正式に調査報告として出すなら変なこと書いたらダメだからね。
例えば7Sの私的な見解とか、他の人には何のことかわからないんだから」
「わかってる。それにオレはあくまでも同行してるけど旧世界の文献の捜索とマップ作成が本来の任務だからな。
報告するのは9Sに任せるよ。9Sならオレと違って余計なことは書かないだろうし」
言ってから7Sは9Sを見る。
9Sは、そういえば確かに7Sはあくまでも同行して本来の任務を遂行する。となっているだけで、調査に関しては任務の内に入っていない。
それに7Sに先ほどの機械生命体の報告をさせると必ず変態と呼びそうなので今回はちゃんと自分で報告しよう。そう思う9Sであった。
いや、2Bに任せても良いのかも知れないが、戦闘で頑張ってくれたのだ。ならばスキャナーモデルであり、そうした報告にも慣れている自分がしっかりと報告をしておかなければ。そんな使命感にも似た何かに燃えてもいる。
「そっか……なら良いんだけど……少し聞いても良いかな?」
「まだ何かあるの?」
「えっとね……2Bさんと密着してることについて、ちょっと説明をしてもらおうかなーって」
「え、何処か可笑しいかこれ?」
「別に可笑しくないと思うけど……」
11Oには弟のように見ている7Sと2Bが密着していることが気になるようでそう問うが、当事者である二人は可笑しいことでもあるのか、と本気で言っているようだった。
それを聞いて11Oはどう考えても可笑しい。そう思った。
「可笑しくはないかもしれませんけど、そろそろ離れても良いんじゃありませんか?
7Sで遊ぶのも一旦終わりみたいですし」
「あぁ、7Sのほっぺたで遊ぶ為だったんだね。お姉ちゃんはてっきり……」
「てっきり、何さ。いや、どうでも良いけど。2B、離して」
「わかった。立てる?」
「大丈夫。吹き飛ばされただけで特に損傷もないからな」
11Oに言われてお互いに離れる2Bと7Sではあるが、本当に二人にとってあの距離はそう問題視するほどのものではないらしい。
「7S、お姉ちゃんに2Bさんとの関係について言っておかないといけないことってない?」
「ないけど……2Bは何かある?」
「ない。でもこんなことを思って、それを言葉にしても良いのなら……7Sは私にとって、とても大切な仲間。そう思っているよ」
「……うん、そう言ってくれるならそうなんだろうな。とても大切な仲間か……」
2Bにとても大切な仲間だと言われた7Sは特に何も思っていない。という風に装っているが、姉として接して来た11Oにはわかる。とても喜んでいると。
でも、こういう場合は2Bのような女性に仲間だと言われれば恋愛的に脈なしのようにも思える。ならばそこは残念がるべきではないか。そう11Oは思った。
だがそれで良いのだ。7Sにとって2Bは大切な仲間で、失いたくない大事な友人なのだから。
それを知らない11Oにとっては不思議で仕方ないとしても、7Sにとっては2Bのその言葉は自分のことを大切な仲間だと思ってくれていることが嬉しかった。
そんな良い雰囲気の二人と疑問符を浮かべる一人を見ながら9Sは一つ確信を得る。
7Sにとって2Bはかけがえの無い存在であるという確信を。そして、何故かはわからないが7Sが自身に向けてくる信頼や好意はそうして2Bに向けているものと同じであると。
だからこそ9Sの胸の内には大きな疑問が残る。どうして7Sはそうした感情を自分に対して向けているのか、そしてそうした感情を向けられている2Bが嬉しそうな反面、何処となく辛そうにしているのか。
だがそれを深く考える時間はなかった。
「そう……ならお姉ちゃんは何も言わないけど……」
「もう用はないな?なら通信切るぞー」
「あ!そうだまだほっぺたをぷにぷにして良いって返事もらってない!」
「はい、シャットダウーン」
気の抜けるようなことを言いながら7Sは11Oとの通信を切った。
「さて……それじゃ進もうか。オレだから問題なかったけど、多分2Bと9Sだと通信環境が悪いからもう少し先に進まないとあの機械生命体のこと、報告出来ないんじゃないか?」
「……確かにそうですね……わかりました。進みましょう」
「二人とも、疲れが残ってるから無理はしないで」
「それは2Bと9Sには当てはまるけどオレはまだまだ元気だから大丈夫。9Sは辛くなったらすぐに言うんだぞ」
「……前から思ってたけど絶対に二人とも僕のことを子供か弟扱いしてる……」
わからないと疑問に思ったことを考えようにも、この二人が一緒だとそんな暇はなさそうだ。
だっていつの間にか7Sと2Bのペースに流されてしまうのだから。
そう思った9Sであったが、それ自体は嫌な気分ではなかった。自分の知らないことを二人が知っていることは気がかりではあるが、二人とも自分に対して悪意を向けていたりはしない。
それどころかまるで弟に対するように接してくることが少しだけくすぐったくて、そして何故だか嬉しかった。
だから、今はわからなくても良いかな。なんて思ってしまうのだ。
▽
あの後、バンカーへと通信を繋いだ9Sが謎の機械生命体についての報告をした。
すぐに情報が来ることはないだろうが、それでももしかするとバンカーのメインサーバーの中には何かあの機械生命体に繋がりそうな情報があるかもしれない。
とりあえずはそれを待たなくてはならないわけだが、ではこれからどうするか。その話になった際に7Sが言った。
「ジャッカスは許さない」
「うん。ならジャッカスのところに行こう」
「まぁ……言ってたことと全く違う爆弾を渡されればそうなりますよね……」
「オレには問い詰める権利があるからな」
ということでジャッカスの下へと向かった三人。
冗談などではなく、結構本気で怒っている7Sと2Bに続く9Sは、ジャッカスさんが殺されるようなことにはなりませんように。と祈りながら、流石にそこまではしないとも思っていた。
それにあのジャッカスさんはなんだかんだで有耶無耶にするか煙に巻くような、そんな人だろうな。という気もしていた。
「ジャッカス!」
「ん、おぉ!7Sじゃないか!私の渡した爆弾はどうだった?」
「範囲可笑しい威力可笑しい。そんな感じだったけど、弁明はある?」
「ふっふっふ……実は渡す爆弾を間違えてしまってね。でもその様子だと渡してしまった爆弾も中々良い出来だったようじゃないか!いやぁ、良いデータが取れたと感謝するよ!」
「そういうことじゃない。下手をすると7Sが大怪我をするか、死んでいた」
「それに関しては申し訳なかった。ところで……7S、どうしてズボンが短くなっているんだい?
あれかな?旧世界の文献にあった、足を晒してセクシーさを演出するとかなんとか」
「お前の作った爆弾の爆風で吹っ飛んだんだよ!!」
「おや……私の爆弾にそんな効果が?ならもう一回使ってみてくれないかな。
それで本当に衣服の一部が吹き飛ぶのかどうか……ほら、丁度君と同じスキャナーモデルの彼がいることだしさ」
「9Sを巻き込むな!ハッキングしてやろうか!?」
どうにもジャッカスはマッドな気質があるらしく、衣服の一部が吹き飛んだと聞いてそれなら早速データを取ろうと9Sに目を付けた。
すぐに7Sがその視線を遮り、2Bが9Sの前に立ちはだかるという実は打ち合わせでもしていたのではないかと思う連携でそれを阻止しにかかる2Bと7S。
そんな二人の様子を見て、やっぱり自分は子供扱いされているような気がする。そう9Sは思った。何故ならば二人とも過保護な一面があるからだ。
「ふむ、それは残念だ……私としては是非データを取りたかったんだが……
いや、今回は諦めよう。でももし協力してくれる気になったら声をかけてくれたまえ。取りたいデータは幾らでもあるからね!」
良い笑顔で言い切ったジャッカスを見て、これは何を言っても意味がない。そう悟った7Sはため息を零した。
そんな二人の様子を苦笑しながら見ている9Sと未だに9Sを守るように立っている2B。そんな二人に向き直って7Sは言った。
「はぁ……ジャッカスはもう良いから一回キャンプに戻ろう。
疲れただろうし、一旦休まないと……それと出来ればメンテナンスとスキャンをしておかないとな」
「それもそうですね……補給も済ませたいですし……」
「うん。それに砂漠地帯の機械生命体はある程度倒したことをアネモネに報告しないといけない」
「よし、それじゃ行こう。あ、9Sは」
「大丈夫です」
「でも、もし疲れているなら」
「大丈夫ですって。二人とも僕のことを子供扱いしすぎじゃありません?」
二人が何を言いたいのか察した9Sは、それを言葉にされる前に大丈夫だと答えた。
その答えを聞いて、それでも心配そうにしている二人に対して流石に子供扱いが過ぎるのではないか、そう思って9Sが問いただす。
「いや、だって……どう考えてもスキャナーモデルの戦うような相手じゃないのと戦ったわけだし……」
「それに私の援護で無理をさせたかもしれないから……」
「どれだけ僕のことを貧弱だと思ってるんですか」
「そういうことじゃないんだけど、単純に心配になる」
「7Sなら普段から多少の無茶はするから大丈夫だってわかるけど、9Sはそういった無茶はしないからどうしても……」
「あぁ……確かに7Sは無茶ばかりですからね……
いや、だからって心配しすぎです。僕だってヨルハ部隊の一員ですからあのくらい大丈夫ですよ」
どうにも純粋に心配していたらしい二人に対してそう言った9Sではあるが、それでもやはり二人は心配らしい。
2Bは初めて会ったときはこんな風に自分を心配するような人とは思えなかったし、7Sに関してはもっと放任主義に近かったような気もする。
だというのに二人揃った途端に過保護になっているのは何故だろうか。そう疑問に思いながらも言葉を続ける。
「僕たちは誰が上で誰が下なんてない仲間ですよね?心配してくれるのは有り難いですけど、もっと対等に扱ってください」
「……まぁ、そうか。9Sも男の子だもんな。心配されてばっかりの守られる立場なんて嫌か」
「そっか……わかった。次からは気をつけるよ」
「なんとなく妙な勘違いされてる気もしますが……お願いしますよ」
ひとまず納得してくれたなら良いか。と思い9Sはそう言ったが、内心ではまた過保護に心配されるのだろうな。という確信に近い予感があった。
嫌ではないが、行き過ぎるとよろしくない。その辺りを理解してもらいたい物だ。
「いやぁ……君たちは仲が良いな。仲の良い友達も仲間も、こんな時世では貴重だから大切にするんだよ」
「言われなくても大事にしてる。当然だろ?」
「うん、君ならそうだな。私が言うまでもなかったか」
「そういうこと。よし、それじゃキャンプに戻ろう」
「わかった。9S、戻ったらスキャンと軽いメンテナンスをよろしくね」
「わかりました。スキャンもメンテナンスも、僕に任せてください」
7Sがそう言って歩き始めると2Bと9Sがそれに続く。
歩き始めてすぐに7Sは足を止めて、二人が追いつくのを待ち、9Sを挟むようにして2Bと7Sが並ぶ。
そうして三人で歩く姿を見送るジャッカスは一人楽しそうに笑っていた。
いつ死んでしまってもおかしくない状況で、ああして楽しそうに仲間と語らえる時間は貴重なものだ。
それを三人は理解しているのか、していないのかはわからないが、充分に謳歌している。
ならばいつ別れが来ても大丈夫だろう。一緒に過ごした思い出があれば、きっと前を向いて生きていけるから。
いや、もしかするとあの三人ならそう簡単に別れなんてものは来ないかもしれない。だって、自分の知っている彼は諦めが悪い上に悪運も強く、妙な知恵も回る。
別れの時が近づいたら、それを跳ね除けるくらいはしそうだ。
しかし、そうなるとやはり楽しくて仕方が無い。こうして想像するだけで楽しいのだからきっと時折でも様子を見ることが出来ればもっと楽しいだろう。
ならば今度は私から会いに行ってみるのも悪くない。爆弾を手土産に会いに行けばデータも取れそうだ。
ジャッカスはそう思って既に小さくなっている三人の姿をもう一度だけ見て、微かに見える三人の様子と自分の考えに納得したように大きく頷いて、手土産にする爆弾はどんなものが良いか考えるのであった。
どう見てもいちゃついてるのに本人たちにその自覚がない。とか結構好き。
恋愛感情ではなく、お互いにとってかけがえの無い友人。って関係だと更に好き。
ところで11Oってどう呼ぶのが良いんですかね。
ゲーム初めの11Bは「イレブン」ですけど21Oは「トゥーワン」なんですよね。
だから「イレブンオー」なのか「ワンワンオー」なのか……
「ワンワンオー」なら犬耳をつけたお姉ちゃんキャラがワンチャン……?
提案:定期的なメンテナンス、及びにウィルス感染の早期発見の為のスキャン。