機械人形は救済の夢を見る   作:御供のキツネ

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2Bは可愛い。



ch-3 考える事、感じる事

2Bに色々と話し掛けて親睦を深めようとしている9Sと、短い言葉ではあるが一つ一つ丁寧に返答をしている2B。その後に続く7Sは歩きながら幾つものコンソールを展開していた。

慣れた手つきで操作しており、どうやらそれは7S自身を含めた三人のシステムをチェックしているようだった。

あれこれと確認しているが一番重要なのは論理ウィルスに感染したり潜伏されていないか、ということなのだが、何も異常は見付からなかったようで、すぐにコンソールを閉じた。

それに気付いていた2Bは、9Sが7Sと無事合流出来たことを指令部へ報告するために通信を繋いでいるのを確認してから歩く速さを落とし、7Sと並ぶ。

 

「異常は?」

 

「なかった。いや、ある方が可笑しいんだけどさ」

 

「確かにそうだね。それで7S……どうしてあんなことを言ったのか教えてもらえる?」

 

「最近、断片的だったり辿々しかったりするけど喋る個体が増えてるんだよ。で、いざとなって変に戸惑うよりは事前に見て、オレの妙な考えを知っていてもらおうかと」

 

「……それだけ?」

 

「…………ある種の賭けに近いけど、9Sをオレと同じまで持っていけば司令官も黙認するかもしれない。あれであの人はヨルハ部隊員のことを大切に思ってるから、上手くいけば……」

 

「7Sの考えていることが起こるとしても、その可能性は低いと思うけど……それに……」

 

「言われなくてもわかってる。でも、何もしなければ前と変わらない。だから可能性が低くても色々試してみないと……」

 

そう言う7Sは苛立っているようにも見えるが、次の瞬間にはいつもの様子に戻っていた。

2Bはそれを見て7Sに向けていた視線を前に戻すと、丁度9Sの通信が終わっているところだった。どうやら9Sに何かあったと悟られることを嫌ってそうしたらしい。

であれば2Bも無理に7Sとこれ以上の話をするべきではないと考えて口を噤む。どうせこの先一緒に行動するのであれば、話をする機会は幾らでもあるのだから。

思うと同時に、ふと2Bは気づく。会う前は後ろめたさがあり、心の準備も出来ていなかった。それがいつの間にか普通に会話が出来る状態になっている。7Sの奇行や奇妙で危うい考えを聞いているうちにその辺りのことは何処かへと消え去ってしまったらしい。

もしかして、そうなるように気を遣わせてしまったのだろうか。2Bがそう思って7Sを見るがいつの間にか9Sの隣に移動して肩を組んでいた。

そんな7Sを見て、自分の考えすぎかな。と思うがすぐにきっとそうに違いないと考えを改める。何故なら、7Sがチラッと2Bを振り返って小さく笑ったからだ。

7Sとは長い付き合いになっているからこそ、たったそれだけで確信へと変わり、感謝の念を抱く。ただ、それを口にはしない。きっと7Sは感謝されたくてしたのではなく、自分がそうしたいからしたのだと思うから。

 

2Bは少し足早に歩を進めて9Sを間に挟んで三人並ぶ形となった。

7Sに肩を組まれている9Sからは戸惑いを感じとることが出来るが、三人で行動が出来ることと、友人である7Sが楽しそうにしていることから満更でもなさそうだった。

 

「いやー、それにしてもまさかこの三人で行動することになるなんて思っても見なかったなぁ」

 

「そうですね。僕と7Sは同じスキャナーモデルですから同じ任務に就くようなことはあっても、一緒に行動するなんて思ってませんでした」

 

「私も、こうなるとは思ってなかった。7Sが勝手に付いて来ることはあるかもしれない、とは思っていたけどね」

 

「いやいや、これは司令官から言い渡された任務で一緒に行動しているのであって、勝手になんてそんなそんな……」

 

「んー、でも7Sなら面白そうだから、とかで付いて来たりして」

 

「あっはっは、反論出来ないな!」

 

他愛のない会話をしながら三人はレジスタンスキャンプへと向かう。道中では植物の巨大化や野生生物について話をしたり、廃墟都市の周囲には何があるのかを話しながら歩いた。

2Bに対して、9Sが色々と教えて、7Sがその補足をする。それを聞いていて2Bは、7Sは普段はあれでも任務に関してはちゃんとしているのだな、と妙な感心をしてしまった。

そしてそれを敏感に感じ取った7Sが口を開いた。

 

「2B、今普通に失礼なこと考えただろ」

 

「何のことかわからない」

 

「いや、絶対に考えたはず。具体的には、『こいつ、普段あれなのにまともに任務はこなしてるんだな。』とかそんな感じのことを!」

 

「……何のことかわからないから、言い掛かりはやめて」

 

「2B、その沈黙がどう考えても肯定になってますよ……」

 

「違う、私はそんなこと考えていないからね。きっと7Sの勘違いで、言い掛かりに違いない」

 

7Sと9Sの二人にそう言われても自分はそんなことは考えていないと主張する2B。だが思いも寄らぬ裏切りが待ち構えていた。

 

「2Bの心拍数の上昇を確認。

 推測:2Bは図星を突かれて動揺している」

 

「ポッド!?」

 

「推奨:素直な謝罪」

 

「待って!私は別に悪いことはしていない!7Sの普段があれなのが悪いのであって、私は悪くない。はず」

 

「肯定:7Sの行いに問題あり」

 

「……なんで2Bとポッドの漫才みたいなのからオレに飛び火してるの?」

 

「7Sの場合は大半が自業自得だから……それにしても……」

 

突然の裏切り、からの漫才もどきが始まったと思ったら、何故か自分に飛び火したことを疑問に思う7Sが9Sへと問うが、自業自得だと断言されてしまった。

7Sはそれに対して仕方が無いような、釈然としないような物を感じたが、9Sが更に言葉を続けているのでそれに耳を傾ける。

 

「私たちは感情を持つことを禁止されている。なんて言ってたわりには、2Bも感情豊かですよね。

 あ、でもこの場合は2Bがそうだって言うよりも7Sに影響されている。って言う方が正しいのかも」

 

「ほうほう。その根拠は?」

 

「7Sが関わると皆して普段とは違う一面が出て来ますからね」

 

「違う一面というか、素が出る、とかじゃない?」

 

「そうなると2Bの素があれってこと?何だか意外だなぁ……」

 

二人で2Bに関して話をしているが、当の2Bは自身のポッドと未だに漫才のような話を続けていた。

7Sはそれを見ながら何かを思いついたようにコンソールを展開し、二三操作して閉じる。それは隣に居る9Sにも何をしたのかわからないほど素早かったが、『7Sのことだから自分たちにとって不都合なことはしないだろう。』という考えの下に気にしないことにして、2Bとポッドの遣り取りを眺めることにした。

そして、そんな二人に見られていることに気づいた2Bが電源の切れた機械のように動きを止めて、一拍間を置いてから咳払いを一つし、少し早口で言った。

 

「こんなことをしている場合じゃなかったね。今はとにかくレジスタンスキャンプに向かわないといけないから二人とも早く行こう」

 

「2B、顔赤い」

 

「っ!」

 

7Sに指摘されて2Bが自身の顔を隠すが、その様子は9Sもしっかりと見ていた。確かに少し顔が赤かった気がする。

 

「クールで厳しい人かなって思ってましたけど、2Bにも可愛いところがあるんですね」

 

少し恥ずかしい姿を見られて、照れ隠しに早口になってしまった2B。そして顔が赤いと指摘されて、顔を見られまいと顔を隠す様を見て、9Sが素直な感想を口にする。だがそれが2Bへの追い討ちになっていることに当の9Sは気づいていない。

2Bは自身の顔が熱くなる感覚を覚えた。9Sはこうしたことを素直に口にするタイプで、下手をすると更に追い討ちが来るかもしれない。

2Bは、『普段なら何か言ってくる7Sが黙っているのが奇妙ではあるが、これ以上何か言われる前にどうにかしなければ。』と思い、こう言った。

 

「い、良いから早く行こう。私たちは任務の最中なんだから」

 

照れてしまいまともな取り繕い方が出来なかった。

自身ではちゃんと取り繕えたと思いながら、これ以上赤くなっている顔を見られまいと二人よりも先を歩く2Bを見て9Sは2Bって実は可愛い人なのではないか、という感想を抱いた。

そして、その隣では何故か誇らしげにしているように見えるポッドを撫でている7Sの姿があった。何故そんなことをしているのか、誰も見ていないので疑問には思われなかったが、7Sはとても満足そうだったとだけ言っておこう。

 

 

 

 

レジスタンスキャンプに到着する頃には2Bの赤くなっていた顔も熱が引き、内心はどうあれ見た目はいつもと変わらない2Bに戻っていた。

その隣には2Bとはもっと仲良くなれそうだ、とこれからに想いを馳せている9Sと上機嫌でポッドを掲げている7Sがいる。傍から見ると7Sだけ何かが可笑しい。

だが2Bと9Sはそんな7Sの姿に既に慣れてしまっているし、キャンプに駐屯しているレジスタンスにとってももはや見慣れた物なので誰も何も言わない。

ある意味で全員可笑しくなっているのだが、それを指摘するような存在はいない。居るとすればそれは2Bと9Sのポッドくらいなのだが、7Sのポッドと情報共有を済ませた結果これが7Sの普通であると判断して特に反応をしていなかった。

この光景をホワイトが見たならば深いため息の一つでもついただろうが、幸いにもホワイトの知る由はなかった。当然、幸いなのは7Sではなくホワイトの胃である。

 

「さて、まずはアネモネに挨拶だな」

 

「アネモネ?」

 

「レジスタンスのリーダーだよ。補給や休息は此処ですることになるからちゃんと挨拶しておかないとな」

 

7Sは道すがらすれ違うレジスタンスに軽く挨拶をしながら二人をアネモネのいる場所まで案内する。

案内と言っても特に道に迷うような複雑さがあるわけではなく、広場の奥の方に立っているアネモネの場所まで引き連れているだけなのだが。

 

「アネモネ、この二人が2Bと9S。司令官から連絡はあっただろ?」

 

「二号……いや、違うか……」

 

「二号?」

 

「あぁ、すまない。昔の知り合いに似ていてね。

 わたしの名前はアネモネ。この辺りのアンドロイドレジスタンスのリーダーを務めさせてもらっている」

 

2Bを見て思わずと言ったように呟いたアネモネだったが、すぐに別人だと悟り謝罪と自己紹介を済ませる。

2Bと9Sはその二号というのが誰なのか疑問に思いつつも、簡単な自己紹介をしてから幾つか話を始める。

 

「ヨルハの司令官とは知り合いでね。君たちの話は聞いているよ。

 この辺りの情報については私よりも他の連中の方が詳しいだろうから気になることがあるなら聞いてみると良い」

 

「そうですか……わかりました。ありがとうございます」

 

「あぁ、それと……もし手が空いているなら仲間たちの手伝いをしてやってくれないか?

 私たちも君たちの手助けはするわけだから、持ちつ持たれつというやつだ」

 

「手伝い、ですか?では手が空くようなら協力しますよ」

 

「とはいえ、まだ何処を調査するかも決まってないから今から手伝いでも良いんじゃない?

 それに先に手を貸しておけばこの先の協力を仰ぐのが楽に出来るだろうし、やっておいて損はないと思うぞ」

 

アネモネに『レジスタンスのメンバーに手を貸してやってほしい。』と、そう言われて9Sが二つ返事で了承の意を示すと、7Sがどうせなら今から手伝いをしようと言い出した。

言っていることは正論で、特に反論する必要も無いと判断したのか、9Sは少しだけ考える素振りをしてから答えた。

 

「それもそうですね……2Bはそれで良いですか?」

 

「私もそれで構わない。それで、誰に手を貸せば良いの?」

 

「助かるよ。それじゃ、今は確か武器屋と道具屋が困ったことがあると言っていたからその二人の手伝いを頼もうか」

 

「あの二人か……2Bと9Sには少し難しいかもしれないなぁ」

 

「ん?いや、二人とも少し持って来て欲しい物があるという程度だったと思うんだが……」

 

「いや……うん、そうだな。やってみればわかるか」

 

一人で納得したようにそう言って7Sはアネモネに一声掛けてから歩き始めた。

難しいかもしれない、と言われた理由がわからないまま、2Bと9Sは同じようにアネモネに一言断りを入れてから7Sの後を追った。

7Sの後ろをついて歩き、武器屋と道具屋のレジスタンスから依頼を受けたが、どちらも『足りないものを取ってきて欲しい。』という程度の物だった。

そしてそれは廃墟都市の中で簡単に手に入る物であり、『これの何処が難しいのだろうか。』そう2Bと9Sが疑問に思っていると、7Sはポッドに声を掛けて、手に入るであろう場所をマップ上にマークさせていた。

 

「さて……オレが手を出しても良いけど、これは二人にやってもらおうかな。何事も経験ってことでさ」

 

「7S、それは自分が楽をしたいから言っている。なんてことはないよね?」

 

「ないない。これが中々難しい話だから二人にやってもらいたいってだけ。というわけで、頑張っておいで!」

 

「あ、ちょっと7S!何処に行くんですか!?」

 

言いたいことを言ってから7Sは廃墟都市へと駆け出し、近くにいた白いシカに乗ると何処かへと消えていってしまった。

もはや9Sの静止の声など関係ないとばかりの華麗な逃走であり、気づけば2Bと9Sの二人だけが取り残されていた。

 

「はぁ……7Sはどうしてこう唐突に奇行に走るんだろう……」

 

「7Sの行動は、考えるだけ時間の無駄。でも、難しい依頼じゃなくて難しい話って言うのが少し気になるかな……」

 

「難しい話、ですか……とりあえず、頼まれたものを探して来ましょうか」

 

「そうしようか。7Sの言ってたことは後からでも考えれば良いからね」

 

7Sについては一旦置いておくこととし、二人はマップ上にマークが付けられているのでそれを目標にして歩き始めた。

近くに居る機械生命体は7S曰く無害な存在らしいが、一応警戒は怠らない二人。だが、本当に襲ってくる様子はない。ポッドに確認を取ってみても敵性反応はない。

今まで機械生命体と出会えば戦って壊すのが当たり前だった二人にとっては、この廃墟都市の機械生命体たちは異常の一言に尽きる。

何故このようなことになっているのか、もしかするとそれも自分たちが調査すべきことなのかもしれない。そう考えながら二人は目的地へと進んでいくのであった。

 

 

 

 

2Bと9Sが無事頼まれていた物を入手し、武器屋と道具屋にそれぞれ渡すと、少しだけそれぞれの内心を聞くことが出来た。

そしてそのことについて考えていると、7Sがレジスタンスの男に肩を貸しながらキャンプへと入ってきた。

驚いている二人を尻目に、7Sはその男を別のレジスタンスに任せて二人の下へと歩いてきた。

 

「お疲れ、二人とも。依頼は無事達成出来たかな?」

 

「出来たけど。7S、さっきの人は?」

 

「砂漠地帯に行く途中でちょっとね。知り合いから通信が入ったから様子を見に行ったら、思いのほか大変な状況になってたけど、何とか助けることが出来て良かったよ」

 

「もしかして、だから私たちに任せて一人で……」

 

「考えすぎ考えすぎ。爆走してたら通信が来たってだけ」

 

どうやら7Sは7Sで何事かに巻き込まれていたらしい。それはあくまでも二人に依頼を任せた後のことであり、『危険である可能性があることに二人を巻き込まないためにそうした。』ということではないと否定する。

それが本当なのか嘘なのか、判断が出来なかったがとりあえずは7Sの質問に答えることにした。

 

「依頼は無事に達成出来ました。でも……」

 

「……本当に、私たちには少し難しい話だったよ」

 

「だと思った。二人はどう思った?自分の足を直さない理由と武器を取り扱うからこその苦悩。

 自分自身の証明と、仲間を死地へと追い遣っているのではないか、なんて考え。難しい話だっただろうな」

 

それだけ言うとくるりと二人に背を向けて、歩き始めた7S。それを何も言わずに追う2Bと9Sはそのことについて考えているようだった。

キャンプを出て少し歩き、水が川のように流れている光景が見える場所で瓦礫に腰掛けて7Sは口を開いた。

 

「レジスタンスたちは、俺たちと違って義体を使って行動していないアンドロイドもいるからさ。使えなくなったら換装するのが当たり前なんだ。でもそれを続けるといつかオリジナルの部位はなくなる。

 そうなったら自身を証明する物って何なんだろうな。自分の体?記憶?あるかもわからない魂?」

 

「僕は……僕は、記憶だと思います……」

 

「記憶が自身の証明か。確かにオレたちヨルハ部隊のアンドロイドは個体データのアップロードで記憶を引き継いでいける。だから記憶が自身の証明ってのも納得だ。

 なら、個体データのアップロードが間に合わずに死んだ場合、記憶は以前のアップロード時まで戻るわけだ。それは果たして自分自身って言える?自分にとってはそうだとしても、失った記憶の時間を共に過ごした友人や仲間にとってはどうだろうか」

 

「それは……」

 

普段のふざけたような様子は一切なく、二人へと顔を向けることなく遠くを見つめながらそう口にする7Sは、9Sが口を噤んだのを理解して更に続ける。

9Sの隣で、顔色を曇らせて辛そうにしている2Bに気づかないフリをしながら。

 

「自身の証明なんて、簡単に出来ることじゃないんだ。記憶も、身体も、魂も、きっとそれらが一つでも欠ければ自身の証明は難しくなる。

 って、こんな風に偉そうに言ってるけど、オレも何が自身を証明する物なのかわかってないんだけど」

 

そうして7Sは肩を竦めてはいるが、2Bと9Sにとっては自身の証明だなんてことは考えたこともなかった。

当然だ、そんなことを考える機会も理由もなかったのだから。

 

「それじゃ、2Bにはこっちを答えてもらおうか。

 武器を扱うことで仲間を死地に追い遣る。そのせいで死ななくても良い仲間が死んでしまったかもしれない。本当にそう思う?」

 

「…………私は、違うと思う。

 そんな風に思うことも理解出来るけど、あの人がそうして武器を用意しているからこそ皆は機械生命体と戦える。そのおかげで生き残っている人もいるはずだから……」

 

「戦うための道具がなければ一方的に殺されていたかもしれない。ってのはあるからそれも納得だ。

 でも、武器がなければ戦いに出ることもなかった。って考えるのがあの人なんだよ。武器があるから生き残れるけど、武器があるから死んでしまう。きっと短い時間だとそんな悩みは出て来ないんだろうけど」

 

そうした7Sの言葉に2Bも9Sも考え込んでしまう。その様子を少しだけ振り返って確認した7Sは小さく笑った。

これは悩む姿を馬鹿にしたのだとか、そういうことではない。ちゃんと自分の言葉を聞いて、自分なりに色々と考えてくれているのが嬉しかったからだ。

7Sが廃墟都市周辺のアンドロイドや機械生命体たちを観察して思ったことは、他の地域よりもその在り方や考え方が多様であるということだ。

そうした多様な考え方などに触れて、自身も多くのことを考え、感じ、体験することは、生きる上で重要なことなのだと、旧世界の人類は考えていたという。それらは人を豊かにするのだと。

であれば2Bと9Sにもそうした新たな経験や今までに無い考えなどを通じてより豊かになってほしいと、7Sはそう考えていた。だから、今回の依頼は丁度良かったのだ。

 

「さて、色々と考えてくれてるみたいだけど今日はこれくらいにしておこうか。

 慣れないことを考えると疲れるし、また後日ってことで一つ」

 

「そう、ですね……7Sっていつもこんなことを考えたりしてるんですか?」

 

「全然!普段は文献読んで何これ楽しそう!とかの方が圧倒的に多いかな。まぁ、たまにはこういうことも考えるようにはなったけど」

 

「考えるようになった、となると廃墟都市に来てからのこと?」

 

「そう、此処に来てから。此処では色々と今までと違うものが多いからそんな風になったってわけ」

 

軽い口調で言うと7Sは瓦礫から立ち上がり、二人を振り返った。

 

「ほら、少し前に色んなことを考えて、とかなんとか言っただろ?良い機会だからちょっと考えてもらったってことだよ。二人ともしっかりと考えてくれてお兄さん嬉しい!」

 

「お兄さんって……確かにロールアウトの時期を考えるとそういう考え方も出来るかもしれませんけど……7Sがお兄さんはないかな」

 

「……私よりも身長が低いお兄さん」

 

言ってからふふっと小さく笑う2Bだったが、笑うことの出来ないスキャナーモデルが二名ほど存在する。

7Sと9Sは同じスキャナーモデルである。当然、同じS型とはいえ性能に違いはある。だが、見た目は同じだ。つまり、二人とも身長は同じ数値であり、2Bよりも小さいことになる。

 

「おい2B!よりによって身長を引き合いに出すのは許されないぞ!戦闘モデルとスキャナーモデルで身長とか比べるのはなしだろ!」

 

「そうですよ2B!戦闘モデルはそういう設計なんですから僕たちが2Bよりも小さいのは仕方ないことなんです!」

 

そんなわけで、二人とも身長を引き合いに出されては黙ってはいられなかった。

 

「あ……ごめん、9S。そういえば9Sも7Sと身長が同じだったね……」

 

「同じスキャナーモデルだから当然です!」

 

「なんで謝る相手は9Sだけなんだよ!可笑しいだろ!!」

 

9Sに対して謝る2Bに噛み付くのは、当然7Sである。

そして謝罪をされたからとそれなら良いです。とはならない9Sもだ。

 

「2B、僕だって仕方ないとはいえ身長を気にしてたりするんです。次はありませんからね?」

 

とはいえ、相手が2Bならそうした注意で済ませるのが9Sらしいといえば9Sらしい。のかもしれない。

 

「うん、次からは気をつける」

 

その言葉を素直に受け止める2B。

9Sは少し拗ねているようにも見えるが、『仕方ないですね。』と言わんばかりに息を吐いたのでもう良いのだろう。

その様子を見て2Bがついつい9Sの頭を撫でてしまうが、9Sは突然のことに驚いてから照れ臭そうにそっぽを向いてしまった。

それは身長を気にしていることも相まって子供のように見えてしまったのは2Bだけの秘密である。

尚、そんな二人の視界の外では静かになった7Sがまたもやポッドを掲げているが、二人には見えていないので何も言いようがなかった。

身長のことを言われて怒っていたことなど忘れたようにポッドを掲げて楽しそうにしている姿を二人が見たならば、必ず何があったのか聞いたのだろうけれど。




この作品に登場する2Bは原作よりも感情が豊かです。
どっかのスキャナーモデルのせいで、感情が豊かです。

7Sは褒めて伸ばすタイプです。ポッドが相手でも褒めます。

疑問:作品で7S及び9Sのアレをアレするにはどうしたら良いのか。割と本気で。

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