あの後、7Sがキャンプに戻ると丁度釣りを終えたデボルと、景色を眺めるのを切り上げた9Sの二人と鉢合わせることとなった。
「あれ、珍しい組み合わせだな」
「お前に言われて釣りをしてたらキャンプから出てきたんだ。暇みたいだったから、前に言われたように景色でも眺めてみたらどうだ?って言って、さっきまで私が釣りをしてる隣で景色を眺めてたんだ」
「今までのんびりと景色を見ることはありませんでしたけど、悪くなかったですよ」
「あぁ、そういうことか。いやさ、景色を眺めるって結構大切だったりするからやれば良いのにって思っててさ。
その反応なら時間を見つけてはゆっくりと景色を眺めることの良さをわかってくれたようで何よりだ」
「はい、最近は時間の確保も出来ますから今度は2Bを誘ってみます」
「なら私はポポルだな。今は森の方には行けないけど、行けるようになったらそっちに誘ってみるかな」
「森……商業施設跡の向こう側だっけ?」
「今はシャッターが下りてるのと、機械生命体の反応が多くて安易に近づけないけどな」
「それなら次はその森の方の調査に行ってみませんか?僕たちなら機械生命体はどうにか出来そうですし、シャッターは……とりあえず、見てから考えましょう」
三人で歩きながら会話をしていると、商業施設跡の先にある森についての話になった。
7Sは機械生命体の数と優先順位の関係で単独での調査は後回しにしていた場所だ。それと、デボルが言ったようにシャッターが下りているので進むことが出来ない、という理由もある。
それでも、司令部からの次の指令が出るまでは地上の調査をしなければならない。ならば森の方面を調べるというのは悪い選択肢ではない。
「そうしてみるか。とりあえずは商業施設跡地の先を目指そう」
「わかりました。2Bにもちゃんと話さないと、ですね」
「お前らが森の方に行くってんなら、そのうち私とポポルも見に行けそうだな。
まぁ、何があるかわからないから充分に気をつけろよ」
「わかってる。そっちも行けるようになったら気をつけて進めよ」
そんな話をしながらキャンプへと入り、7Sと9Sはデボルと別れると自分たちに与えられている部屋へと戻った。
部屋に入るともう6Oとの通信は終わったらしい2Bが砂漠のバラを両手の上に乗せて色々な角度からそれを眺めていた。
二人には気づいていないようで、少しの間眺めていた2Bはそれを降ろすと満足しているようにも見えた。
「2B、そっちは終わった?」
「二人とも、戻ったんだね」
「はい。2Bはもう終わったみたいですけど、どうしますか。すぐに出ますか?」
「オレはそれでも良いけど、二人は?」
「私は行ける」
「僕も大丈夫です」
「よし、なら行こう。まずはあの子の様子を見ないといけないからパスカルの村だな」
三人はキャンプを出発することにして、部屋を出た。
そしてパスカルの村に向かう、というところで2Bがアネモネの所へ行って部屋には誰も入れないように、とか大事な物を保管しているから何かあったら怒るとか、そんな話をしていたのは余談である。
そしてその様子を見ながら7Sと9Sがほっこりしていたり、ポッドたちがその様子を録画していたのも、完全に余談である。
▽
三人がキャンプを出てからパスカルの村まで最短距離で進んでいたのだが、その途中の道が廃墟都市の中央付近が陥没した影響によって完全に途絶えていた。
途絶えていた、とは言っても瓦礫などで通れないということではなく、単純に地面の陥没、崩落によって崖のようになっているだけなので三人はそれを飛び越えて進む。
そのままパスカルの村へと向かっている途中で7Sが口を開いた。
「そういえば二人は遊園地廃墟にどうやって向かったんだ?
そこは道が封鎖されてたはずだけど」
「下水道を通って行ったんですよ。ほら、すぐそこに入った所にある下水道に……って」
「あれは、遊園地廃墟の機械生命体?」
「あのピエロみたいなのは確かにあそこの機械生命体だな」
遊園地廃墟に続く下水道の近くにはピエロのようにも見える機械生命体が立っていた。
どうしたのだろうか、と2Bと9Sが思っている間に7Sがそれに近づいて声を掛けていた。
「どうしたんだ?」
「こんにちわ!アンドロイドの方ですよね?
世界は愛に満ちていますよね?」
「何を話しかけてるんですか……でも、愛ですか……」
「……どうなんだろうね。そもそも、愛の定義もよくわからない」
「愛に満ちていますよね?」
「んー……満ちてると良いな。きっと、その方が良い世界だ。
機械生命体が憎い、アンドロイドが憎い、自分以外の全てが憎い。そんな憎悪にまみれた世界よりは、そっちの方が良いと思うから」
少し考えてからそう答えた7Sの言葉を聞いて、機械生命体はこう続けた。
「私たちはもっと自分たちの喜びを表現すべきだと思いませんか?」
「あ、それは思う。楽しいなら楽しい、嬉しいなら嬉しい。そういうのはもっとちゃんと表現しないと」
「7Sはそうですよね……で、2Bはその辺、どう思います?」
2Bに問いかける9Sの声には、感情を持つことを禁止されていると口にすることがある2Bをからかうような響きがあった。
それに対して2Bは少しだけむっとしたような声で答えた。
「感情を持つことを禁止されている。そう言っても7Sと9Sは聞かないから、表現したいなら表現すると良いと思う」
「9Sの聞き方のせいで2Bが少し拗ねただろ」
「拗ねてない」
「拗ねてますよね。2Bってば、わかりやすいなぁ」
「拗ねてないって」
拗ねてしまった2Bに二人がそう言っているのをじっと見つめていた機械生命体は更に続ける。
「それでは……この世界をもっとより良くする為に、少し手伝っていただけませんか?」
「オレは良いけど、二人は?」
「……7Sにそういうことを一人でやらせると面倒なことになるから私も手伝うよ」
「あのキカイレンジャーみたいに、変なことになっても困りますからね……」
「よし、なら三人で手伝おう」
拗ねていた2Bではあるが、7Sを放っておくと厄介なことになるというか面倒なことになりそうだと判断して自身も手伝うことを伝えた。
それに同意するように9Sも手伝うことに同意すると、7Sが三人とも手伝うことを機械生命体に伝えた。
「本当に……世界が愛で繋がる……そんな夢見がちなことを信じているのですか?」
その声には疑念よりも、不安が色濃く映っていた。
だがそれを聞いても7Sたちは変わらない様子でこう答えた。
「信じても良いだろ。淡々と生き続けるよりも、そうやって夢を見て、その夢の為に行動する方が有意義だろ?
まぁ、オレたちは基本は任務優先だから夢の為に行動ってのは言うほど簡単じゃないけどさ」
「そうだね。もしそんな世界になれば、きっと私は……」
「戦い続けるより、そんな世界になって好きなことが出来るようになってくれた方が僕は嬉しいです」
9Sも思ったままを口にしていたが、2Bだけ少し様子が違っていた。
辛そうにも見えるし、苦しそうにも見えた。ただそれもすぐに消えて、普段通りを装った為に気づけた者はいない。
いや、7Sだけは気づいているようだったが何も言わなかった。
「そうですか……貴方たちなら信じることが出来そうです。
実は、私たち機械生命体の中にも、戦いを嫌う者たちが沢山います」
「知ってる。パスカルの村にいるのは全員がそうだし……他にもいたって可笑しくはないからな」
「理解のある方で嬉しいです。
私は、そんな仲間を集めてパレードをすることにしたのです。それは、友好を分かち合う、愛のパレード。
しかし、私たちのような平和活動を嫌う者たちも沢山います。
どうか……私たちのパレードが成功するよう、守ってくださいませんか?」
それを聞いて7Sは納得したように頷き、2Bと9Sはそういう機械生命体もいるのかと少しばかり驚き、そのパレードが成功したからと言って他の機械生命体が戦うことをやめるわけがないと思った。
それでも、その言葉には切実な願いが込められているような気がして、断るようなことは出来なかった。
「わかった、手を貸そう」
「……手伝うって、言ったからね」
「少し思うこともありますけど……やりましょう」
「ご協力、感謝します!」
三人の答えを聞いて、嬉しそうにそう言った。
自分たちだけでは不安だったのだろう。
「それでは、私たちの仲間がパレードを行っている間、護衛していただけると嬉しいです!」
「護衛なら近づけないようにしないと……」
「7Sはいつも通りで。私は近づいて来たのから斬る」
「なら僕は7Sの撃ち漏らしの処理ですね」
それぞれがどう動くか決めたのを見計らって、機械生命体が元気よくパレードの開始を告げた。
「それでは……レッツ!友好!」
その掛け声と同時に待機していたらしい同型の風船を持った機械生命体たちが現れて、一列に並ぶと歩き始めた。
三人はその一団の傍を同じように歩いて、護衛としての役目を果たす為に周囲を警戒し始める。
「ニクシミを捨てよう!!」
「タタカイをやめよう!!」
「タノシク生きよう!!」
「アイをマキ散らそう!!」
「ヨロコビを分かち合おう!!」
全員で大きな声を出しながら進む一団。
その進路には先ほどまではいなかった敵性反応を持った機械生命体たちがいた。
それに気づいた7Sがポッドによる射撃を行い、先手を打つ。すぐに2Bと9Sもポッドに命令して射撃を行いながら近づいて来た機械生命体から斬り捨てていく。
最初は順調に処理も出来ており、護衛と言ってもそう苦労するものではないのかと三人は思っていた。
だがレジスタンスキャンプ前へと着く頃にはその認識は変わっていた。
パレードはレジスタンスキャンプ前の開けた場所を回ることになっていたのだが、そこに大量の機械生命体たちが待ち構えており、更に増援までやってきたのだ。
「ポッド、射撃をフルオートで続けて。
同型の機械生命体が多いからハッキングした方が早い」
「警告:7Sが無防備になり、敵機械生命体の攻撃を受ける可能性がある。7Sは本来戦闘する為の存在ではなく、一撃で致命的な損傷を負う可能性が高い」
「だからってこのままやっててもパレードの一団は壊滅するだろ。珍しい型がいるわけじゃないんだ、すぐに済ませる」
「了解。但し、危険が迫った場合は即時回避行動を推奨」
「わかってる」
7Sがハッキングによって数体の機械生命体を爆破しようとするが、それに気づいたのか周囲の機械生命体たちはパレードの一団を狙うのではなく標的を7Sに変えた。
それをすぐに理解した2Bはポッドの射撃対象を7Sへと接近する機械生命体に変えてから、自身は近くの機械生命体を斬り捨てる。
順調に数を減らすことが出来ている。そう思ってもすぐに増援がやってくる。
そしてパレードの一団にも敵の攻撃が届くようになって来た。
「タタカウのはイヤです!!」
「アイが必要です!!」
「ヒイイッ!助けてください!助けてください!!」
「助けてエエエエエ!」
「いやだあああああ!!」
悲鳴を挙げるパレードの一団は、それでも逃げ出すことはなく前進を続けていた。
必ずパレードを成功させなければならないと思っているからこそなのかどうかはわからなかったが、それでもパレードを続けるのなら7Sたちは護衛を続けなければならない。
「この状況でもまだ続けるのか!ポッド、プログラムを起動して処理してくれ!」
「レーザー、ハンマー、スピアー、ボム、ヴォルト起動」
「大盤振る舞いだな。それでも全然減らないし……」
「2B!7S!これ以上増えると僕たちも危険です!」
「でも、護衛するって約束したから……!」
「オレたちがって以前に、パレードのメンバーがヤバイんだけどな!」
「ああもうっ!7Sは何かこうバーっと倒せるようなものないんですか!?」
「あったらもう使ってるっての!」
三人は状況が悪いことを理解していて、どうにかならないかと話をするが解決策は見出せないでいた。
このままではパレードの一団が全滅し、自分たちもそうなる未来が見えてくる。
だからこそ三人とも焦りが見えているのだが、それは突如として終わりを迎えた。
「助ケヲ求メル声ガスル!」
「救イヲ求メル声ガスル!」
「ナラバ救ッテミセヨウ!」
「悪ヲ挫イテ救ッテミセヨウ!」
「ボクタチハ正義ノ味方!」
「愛ト勇気ト友情ヲコノ胸ニ!」
「「「「「「キカイレンジャー、参上!!」」」」」」
口上と共に現れた少し流暢に喋られるようになったキカイレンジャーが現れ、敵機械生命体の増援を次々と破壊していく。
その間もパレードは続いているのだが、7Sたち三人はそれを呆然と眺めていることしか出来なかった。
助けが来るのは悪いことではないのだが、どうして世界観が違うと思っていた相手が丁度良いタイミングで助けにきたのだろうか。
そして増援をあっという間に破壊し尽くすと、パレードは無事終了することが出来た。
それから未だに呆然としている三人にパレードを終えた一団のリーダー、最初に護衛を依頼してきた機械生命体がお礼を言って来た。
「ありがとうございました。おかげでパレードが全滅することなく無事に終えることが出来ました」
「え、いや……オレたちってよりも、キカイレンジャーのおかげって感じだけど……」
「いえ、皆さんが始めに護衛してくれなければあの方たちが来る前に全滅していたでしょう。
そして、今回もヨロコビを伝えることに成功しました!今度、また別の場所でパレードを行う予定なんです。その時はまたよろしくお願いします!」
「その時はって言われても……」
「僕たちがそこにいるかどうかわかりませんよね……」
お礼を言われても、困惑したままの三人に、その機械生命体は更に言葉を続けた。
「あの……私たちのことを愚か者だと思いますか?」
「師匠、師匠ハドウ思イマスカ?」
「師匠、答エテアゲテクダサイ!」
「何でオレに振るんだよ。まぁ、答えるけど……」
不安そうに問いかけた機械生命体の質問に対する答えをキカイレンジャーから求められ、何故自分に答えさせるのか、と疑問に思いながらも7Sが口を開く。
「愚かだとは思う。けどそれでも良いんじゃないのか?
誰かが行動しなきゃ世界は変わらない、ってのが定番だし……それに、自分でやるって決めたなら最後まで遣り通してみせろよ。
それに本当に愚か者かどうかなんて今の自分たちで決めるんじゃなくて、結果が出ればわかることだしな。途中で挫折して何も出来なきゃ愚か者で、最後までやり遂げて結果を残せれば愚か者なんかじゃなくなる。
まぁ、要するに愚か者かどうかなんて考えずに、今はただ自分の決めたことをやり遂げてみせろってことだ」
「7S、割と投げやりな答えですね」
「……7Sらしいと言えばらしいと思うよ」
7Sの言葉を聞いてその機械生命体は何かを考えるように黙り込み、2Bも思うことがあったのか少しばかり思案しているようだった。
「…………ありがとうございます。
そうですよね、私たちはパレードを通じて愛と友好を伝えていこうと思います。今回は、本当にありがとうございました」
不安そうな声ではなく、力のある声でそう答えた。
それを聞いていたキカイレンジャーが口を開いた。
「コレガ、愛」
「本来ハ敵ノ筈ノ機械生命体ニモ手ヲ差シ伸ベル愛」
「ミスターゴールドニ敵ワナカッタ私タチニ未ダ不十分ダッタモノ」
「工場跡地デ師匠ガアノ機械生命体ノ兄弟ニ手ヲ差シ伸ベル姿ヲ見テ理解シタ気ニナッテイタ愛」
「ボクタチハ、彼ラノ護衛ヲシマス!」
「ソシテ、愛ヲヨリ深ク理解シテミセル!」
「何時カ来ル、ミスターゴールドタチトノ決戦ニ向ケテ!」
「正義ト友情、更ニ愛サエアレバ負ケルコトハナイ!」
「待ッテイロ!ミスターゴールド!」
口を開いたというか、非常に本人たちで盛り上がっていた。
その様子を見て7Sは少し頭を抱えていたが、それは2Bと9Sも同じだった。
世界観が違うというか、単純に住む世界が違うというか。それでもとりあえず、パレードの一団の護衛を自ら買って出ていたので、とりあえず任せることにした。
「私たちは次の場所に移動します。キカイレンジャーの方と共に愛と友好を伝えるパレードを続けていきます。
またいつか、会いましょう、皆さん」
「護衛ハ任セテクダサイ!愛ヲ理解シテカラ戻ッテキマス!」
それだけを伝えて去っていくパレードの一団とキカイレンジャーを見送ってから三人はため息をついた。
「なんだか、凄く疲れました……」
「本当にね……」
「護衛よりも、キカイレンジャーに関わった方が疲れるんだけど……」
「そのキカイレンジャーは7Sがきっかけですけどね。とりあえず、これで終わりならパスカルの村に向かいましょう。
今度は普通に向かうことが出来ると良いんですけどね……」
「9S、不安になるようなことを言わないで」
「それはフラグって奴だからなぁ……」
疲れたように三人は話をしてから今度こそはとパスカルの村へと向かった。
襲ってくる機械生命体を排除し、進む三人だがその途中で7Sが何かに気づいたように足を止めた。
「7S、どうかしたの?」
「え、いや……今、そこに人が……」
「そこって……誰もいませんよ」
「どんな人だったの?」
「白い服を着た女の子だったけど……」
「きっと7Sの気のせいですよ、ほら早く行きましょう」
「気のせいじゃないと思うんだけどなぁ……」
9Sに促されるままに歩き始めた7Sだったが確かに人がいたのを見たはずだった。
ただ、最近全体的に白い人は幽霊だったという経験があったのであれもきっとそうだったのだろうと一人納得して、もしそうなら今度面と向かって話をすることがあるだろうと思った。
そして、それを楽しみだと思っている自身には気づくことなく2Bと9Sの後を追うのであった。
このクエストで最後、消息を絶って結局死んだんだろうな、ってのがわかって辛い。愛とか馬鹿馬鹿しいって挫折した機械生命体を見るのも辛い。
でも大丈夫、キカイレンジャーが護衛についてくれたからね!
白い女の子とか一人しかいないじゃないですかやだー。
推奨:パスカルの村で、迷子とその姉の様子の確認。