機械人形は救済の夢を見る   作:御供のキツネ

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パスカルは優しい。



ch-16 パスカルの村

バンカーでの用事を済ませた三人は人類会議の協議結果が出るまでの間、地上での調査を行う為に転送装置を用いて地上へと戻って来た。

 

「で、何処の調査に向かうんだ?」

 

「……パスカルって機械生命のこと、知ってるよね?」

 

「知ってる。その名前が出るってことは、二人ともあの村には行ったんだな?」

 

「ええ、その村でパスカルから7Sの名前を聞きました」

 

「そうか。ならパスカルの村に行ってみるか」

 

一人納得したように頷いてから7Sはそう言うと、パスカルの村へと向けて歩を進め始めた。

2Bと9Sもその後ろをついて行く。

 

「それにしても、どうしてパスカルの村に行ったんだ?あそこは簡単には行けないようにされてたはずだけど」

 

「私たちが調査に行った遊園地廃墟に暴走した機械生命体がいたんですよ」

 

「それを私たちが破壊して、戻ろうとしたときに白旗を挙げた機械生命体が私たちについて来て欲しいって言うから、罠の可能性を考慮しながらついて行ったらそこがパスカルの村だった」

 

「最初は驚きましたし、機械生命体の村ってことで二人で警戒してたんですけど、パスカルが7Sの名前を出したんです。それで話を聞いてみれば、7Sは頻繁にあの村を訪れていることがわかったんですよ」

 

「私たちには言ってない、本来なら報告なり共有なりしておいた方が良いことを隠してないか確認するためにパスカルの名前を出したけど……惚けなかったから、特に隠してるってわけじゃなかったんだね」

 

「パスカルのことはいずれ教えるつもりだった。けど、機械生命体の知り合いがいるとか、機械生命体が村を作ってるとか、いきなり言われても信じられないだろうし、あまり良い感情を持たれないと思ったからな……」

 

隠していたのではなく、伝えるタイミングを見計らっていたという7S。それを聞いて2Bと9Sは嘘を言っている様子は無いと思い、その言葉が本当であると思った。

2Bは薄々と感じていたことで、9Sは最近気づいたことだが、7Sには秘密が多い。

そしてその秘密は、ヨルハ部隊のアンドロイドとしては見過ごしがたいことが多いような気がする。

 

「パスカルとは俺がこの辺りで旧世界の文献を集めるようになってからすぐに出会ったんだ。

 いや、出会ったってよりも見つけたって方が正しいのかもしれないけど」

 

「見つけた?」

 

「文献集めをしてる最中に、見慣れない機械生命体を見つけた。それがパスカルだ。

 ほら、パスカルの見た目って今までに見たことなかっただろ?」

 

「確かに、あの型は初めて見た。それにこの辺りでも見かけない」

 

「もしかするとパスカルは別の地区から流れて来たのかもしれないし、元々はあの型が沢山いたけどアンドロイドとの戦いでパスカルしか残らなかったのかもしれない。

 まぁ、そうした考察は今は関係ないから置いておくとして……そんなパスカルだから目に付いて、観察してたんだ」

 

「まぁ……7Sなら確かにそうしますよね」

 

7Sは見慣れない物や新しい物を見つけた場合はまず観察することから始める。

下手に接触するのは危険であり、ある程度の安全性が確保出来るまでは遠くから観察を続けるのが7Sのやり方だ。

それでも工場跡地の地下で出会ったA2のように、観察する暇が無い場合があるのだが。

 

「そうして暫く観察した結果、敵性反応はないし理性的で知的な個体だってのがわかった。しかもアネモネとも接触してるみたいで、お互いに取引もしてる。

 それなら危険性はあまりない、って判断して接触することにしたのが初顔合わせって感じか」

 

「7Sから見て、パスカルはどんな機械生命体だと思う?」

 

「パスカルの村、あそこの住人のことを家族のように思ってるみたいだな。本人にその気があるのかどうかは置いておくとして。

 それと機械生命体とアンドロイドが手を取り合って平和に生きていく。そんな理想を持ってるけどその理想がどれだけ厳しいかを理解してるし、理知的で知識に対して意外と貪欲な一面もある。オレとしては、嫌いじゃないしどちらかと言えば好ましいかな」

 

「理想、ですか……そんなこと、7Sは出来ると思いますか?」

 

「難しいだろうな。機械生命体を憎んでるアンドロイドがいて、アンドロイドを憎んでる機械生命体がいる。それなのにみんな仲良く手を取り合って生きていきましょう。そんなことを言われてもはいそうですか。って手を取り合えるわけがない。

 それはパスカルもわかってるんだけど……まぁ、機械生命体もアンドロイドも時間だけは沢山あるからな……

 もしかしたら、いつかパスカルの理想通りの世界になってるかもしれない、ってのも思ったりするかな」

 

楽しげに笑う7Sは、本当にそんな世界が訪れる可能性を信じているように見えた。

 

「と、そんなところだな。パスカルについて、ってのは実際にパスカルと話をして理解していく方が良いと思うぞ?

 結局、オレがどう思うかなんてのはオレの主観でしかないこともあるし、自分で考えるのが大事だからな」

 

「それもそうですね……わかりました、廃墟都市周辺の調査をしていれば何度か訪れることになりますし、その時にでも色々話をしてみます」

 

「私も……7Sの言うように自分で考えてみるよ」

 

「うん、そうして欲しいもんだな」

 

2Bと9Sの言葉を聞いて上機嫌そうに笑う7Sは立ち止まってから二人が追いつくと、並んで歩き始めた。

それを受けて2Bは何も言わずに少しだけ笑って7Sを見た。そして9Sを7Sと挟むように少しだけ動いた。

9Sとしてはどうして二人が良く自分を挟むようにして歩くのかわかっていなかったが、それでも一緒に居て楽しい二人が両隣にいるという状況は嬉しかったりする。

だから9Sも何も言わずに二人と同じ速さで歩いて、三人仲良くパスカルの村へと歩いていく。

 

 

 

 

パスカルの村。

パスカルと同じく平和主義の機械生命体たちによって作られた村である。

機械生命体にとって不必要な暖房設備や換気設備を備えた人類を模倣するような建築様式で作られた村には、家族という概念を持つ機械生命体が多く存在する。

ただ、どういった定義で他の機械生命体を家族と定めているのかは不明となっている。その定義については製造番号であったり製造された工場が関係あるのではないか、という考えもある。

 

そんなパスカルの村に着いた三人はまずはパスカルに挨拶することにした。

村の中心に生える巨木を生かした階層構造の上にパスカルがいるので、梯子を上らなければならないのだがその際に9Sは思うことがあった。

2Bが何も気にしていないように先に梯子を上るので、もう少し恥じらいというか、気にして欲しいということである。本来アンドロイドであり、感情を持つことを禁止されているヨルハ部隊ではあるが、9Sは非常に感情が豊かだ。

別に見えたからどうということはないのだが、こういう場合は女性であれば恥らうものだ。という知識があるので居心地が悪いというか、目のやり場に困るというか。

 

「あのー、2B?」

 

「どうかしたの?」

 

「えっと、ですね……もう少しこう……恥じらいとか、そういうのを持った方が良いんじゃないかなー、なんて思いまして……」

 

「何を言いたいのか、良くわからない」

 

「え、えーっと……7S!」

 

「ごめん、オレも何が言いたいのかよくわからないんだけど」

 

「えぇ!?」

 

言葉にして伝えるのが恥ずかしいとは思うが、それでもちゃんと伝えて注意した方が良いと判断した9Sであったが、何が言いたいのかわからないと言われては困ってしまう。

だからこういう時は7Sならちゃんと言ってくれると思い、助けを求めたのだがまさかの7Sも2Bと同様の反応を示した。

 

「9S、どうして今その恥じらいを持った方が、って話をしたの?」

 

「いきなりだったからオレも意味がわからなかったけど、どうしてだ?」

 

「あ、あー……それは、そのー……あ!ほら!パスカルがいますよ!挨拶しないと!!」

 

二人にどういうことかと聞かれても、恥ずかしかったのか、そういうのを意識しているように思われるのが嫌だったのかはわからないが9Sはパスカルに挨拶をしなければならないと話を逸らした。

二人は揃って首を傾げながらも、その言葉には一理あると思ったのかそれ以上は言及せずにパスカルの下へと向かった。

パスカルは村の子供たちに色々と話をしていたようだが、それも丁度終わるようだった。

 

「パスカル」

 

7Sが名前を呼ぶとパスカルは振り返り、7Sとその後ろにいる二人の姿を確認すると声を上げた。

 

「こんにちわ、7Sさん、2Bさん、9Sさん。

 その様子だと、無事だったようですね」

 

「色々あったけど何とか。それで、そっちに変わったことは?」

 

「何かあったとしたら、2Bさんと9Sさんが遊園地廃墟の暴走してしまった機械生命体を破壊してくれたくらいでしょうか」

 

「暴走したって……ボーヴォワールを?2B、9S、大丈夫だったのか?」

 

「問題は無い」

 

「ええ、レジスタンスのアンドロイドは助けられませんでしたけど、僕たちは大丈夫ですよ」

 

暴走した機械生命体を破壊したということは戦闘を行ったということになる。

それ故に7Sは二人に無事だったか問うが、無事でなければこうして話をしてはいないと思われるのだが。

 

「なら良かった。もしかして、二人が暴走した機械生命体を破壊したから村に招待した、とかか?」

 

「それもありますが、お二人が7Sさんと一緒に行動しているのを見かけたことがありまして……

 だから、村に招待してもいきなり斬りかかるようなことはないと考えて招待させて頂きました。

 最初は警戒されましたが7Sさんのことを話すとお二人とも何かを納得したようで、私たちに敵意がないことを理解してくれました」

 

「そうか。だったらオレが何かを言う必要はないな」

 

パスカルの言葉を信じるのならば一切の問題はなかったことになる。その言葉を裏付けるように2Bと9Sは異論を唱える様子は無い。

であるならば、本当に問題はなかったのだろう。

ただ、そんな話をした後に9Sが何となしに下を見るとリボンを着けた機械生命体が一体、何かを叫んでいた。

 

「2B、7S、あれは何でしょう?」

 

「機械生命体が何か叫んでる?」

 

「あれは……妹がいないな」

 

「妹?」

 

妹がいないと呟いてからの7Sの行動は早かった。

一切の躊躇いなく飛び降りてポッドを掴んで減速、地面に着地してその機械生命体と話を始めた。

 

「早いのはわかりますけど、何で飛び降りるんですか……2Bも可笑しいと思いますよね?」

 

躊躇いなく飛び降りた7Sはやはり可笑しい。そう思って9Sが2Bに同意を求めるがそこに2Bの姿はなかった。

 

「って、2Bもですか!?」

 

姿がなかった理由は7Sに続いて2Bも飛び降りていたからだ。

それに驚くというか、呆れながらも9Sは二人の後を追って同じく飛び降りた。

二人に対して驚いたり呆れたりしているが、結局同じ行動をしている辺り9Sも二人とそう変わらないという事実に気づかないまま。

 

9Sが着地する頃には7Sが話を聞き終わっていたらしく説明を始めた。

 

「どうにもこの子の妹が迷子になってるらしい。

 最近調子が悪くて、それを直すために必要なパーツがあるらしいんだけど、多分それを取りに行ってるんじゃないかって話」

 

「なるほど……でも、機械生命体に姉妹って概念があるなんて……」

 

「あの変態、じゃなくてアダムとイブも兄弟みたいだった」

 

「兄弟姉妹どころか普通に家族って概念があるからな。この村を見て回ったならわかってると思うけど?」

 

「……家族として振る舞っているのを見ましたが、それでもすんなりと信じられなかったんですよ」

 

「私たちは家族っていうのは良くわからない。仲間や友人ならわかるけど……」

 

「あ、でも7Sと11Oさんは姉と弟って感じですよね。11Oさんの中では」

 

「…………一応、オレの中でもあの人は姉なんだけど……

 いや、それよりも迷子になったっていうこの子の妹を探さないと」

 

自身と11Oの関係について言ってから、優先すべきは迷子を捜すことだと意識を切り替える。

 

「お願いしマス!あの子を捜してださい!」

 

「わかってる。何処に行ったか、わかる?」

 

「それは……はっきりとはわかりマセンが、もしかすると砂漠地帯に行ったのかもしれません。

 必要なパーツは、砂漠地帯で見つケルことが出来たはずですカラ……」

 

「砂漠地帯ですか……敵性反応を持った機械生命体は減らしましたから大丈夫だとは思いますけど……」

 

「ネットワークに繋がった機械生命体は繋がっていない機械生命体を破壊しようとする。だから数を減らしているとしても急いだ方が良いだろうな」

 

「なら行こう。話を聞いた以上、放っておくのはあまり気分が良くない」

 

「よし、なら砂漠地帯を目指そう。厄介な機械生命体は出て来ないと思うけど……警戒は怠らないように。良いな?」

 

「ええ、勿論わかってますよ」

 

7Sの言葉を聞いてから二人は頷き、砂漠地帯へと向かうためにパスカルの村を出ようとした。

するとその話を上で聞いていたパスカルが降りてきた。

 

「話は聞きましたよ。迷子を捜してくださるそうですね。

 私からもお願いします。どうか、早くて見つけてやってください。あれは、姉思いの良い子なんです。

 あの子の姉から聞いていると思いますが必要としているパーツは砂漠地帯にあるので、きっとあの子も砂漠地帯にいると思います。ですが当てもなく捜すのは非常に困難かと思いますので、あの子の個体識別番号を教えておきます」

 

「助かる。これで大体の位置がわかるようになるから、見つけ易くなる」

 

「はい、ですから早くお願いします。あの子は怖がりですから、一人で泣いているかもしれません」

 

「大丈夫。私たちに任せて」

 

「迷子捜しなんて初めてですけど……個体識別番号もわかってますから難しくはありませんね」

 

「ならさくっと見つけて連れ戻そう。パスカル、姉の方は任せるぞ」

 

「ええ、あの子の傍には私がいますから、7Sさんたちもお気をつけて」

 

四人で言葉を交わしてから、パスカルは機械生命体の姉の方へ向かい、7Sたちは砂漠地帯へと向かって行った。

 

 

 

 

砂漠地帯に到着すると9Sはマップを確認する。

そして個体識別番号を登録した機械生命体の妹の居場所を探る。

 

「少し離れてますけど、そう時間は掛かりそうにありませんね」

 

「道中に機械生命体が出てこなければ、ね」

 

「出てきても大型でなければどうにかなるだろ。いや、数が多いってなると困るんだけどさ」

 

「前に減らしたから大丈夫」

 

「そうですよ。それに三人なら何とかなるんじゃないですか?」

 

「んー……オレは役に立たないけど、二人がいるから大丈夫か」

 

「そこで自分を除外するのやめましょうよ。7Sだって戦えるのに」

 

「戦えることと強いことは別。頼りにしてるぞ、二人とも」

 

二人にそう言うと7Sは歩き始めた。

そんな7Sに呆れたような視線を投げかけてから二人もその後に続いた。

マップにマークされた場所に行く道中では機械生命体が出てくることはなく、安全に進むことが出来た。

そして暫く砂漠を歩き、目的の地点が見えてくるとリボンを着けた中型の機械生命体を見つけた。

 

「あれが今回捜してる妹さんだな」

 

「周囲には他の機械生命体はいないみたい」

 

「良かった……それじゃ、早速声を掛けましょうか」

 

無事なのを遠目で確認してから三人が近寄ると機械生命体の妹は泣いているようだった。

 

「あぁ……おうちにかえりたいヨゥ……おねえサン……」

 

機械生命体なので涙を流すことはないが、その声を聞くと確かに泣いていると理解が出来た。

そんな彼女に7Sは声を掛ける。

 

「こんなところにいたのか。お姉さんに捜して来て欲しいってお願いされて来たんだけど……大丈夫か?」

 

「あ、7Sおにいちゃん……」

 

「無事みたいだな。それじゃ、一緒に村まで戻ろうか」

 

「う……うわアああァん!こわかったアァ。こわかったよオォ!」

 

村に戻ろうと7Sが言うと、怖かったと言って大泣きする機械生命体の妹。

その様子を見ながら、損傷などがないか見て確認した9Sは大丈夫そうだと、同じように気にしていた2Bに対して小さく頷いた。

 

「見つけたから、あとはこの子をパスカルの村まで連れて行くだけ……」

 

「そうですね。ところで、肝心のパーツは見つかったの?」

 

「うん……おねえサン、よろこぶカナ?」

 

少しは安心したようだが、次に姉が喜んでくれるかどうかを心配しているようだった。

姉を思ってパーツを探す為に一人で砂漠地帯まで来たのだから、喜んで欲しいと思っているのだろう。

 

「そうだね。けど、君が無事に戻ったら、もっと喜ぶと思うよ」

 

9Sの言葉を聞いて機械生命体の妹は嬉しそうに頷いた。




パスカル可愛い!パスカル可愛い!
声とか可愛いのに自分のことおじちゃんとか言ってるの可愛い!
救われろ!パスカル本当に救われろ!幸せになってください!

このサブクエスト一番好き。
妹ちゃんと9Sの遣り取り、助けを求める9Sと助けられないって言う2B、本当に好き。
あ、このサブクエストは次回に続きます。
そのせいか今回ちょっと短め。

推奨:パスカルの村への帰還。

お知らせ。
投稿速度落とします。
ストックが切れたので、仕方ないね。

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