機械人形は救済の夢を見る   作:御供のキツネ

12 / 21
7Sは無茶をする。


ch-12 エイリアン・アラート

7SがA2と別れてから工場跡地に到着すると、バンカーから通信が入った。

随分とタイミングが良いな、と思った7Sであったが地面が揺れている感覚を覚えて周囲を見渡すが何も見当たらない。

いぶかしみながらも通信を開くと、相手はホワイトだった。

 

「7S!聞こえるか!」

 

「聞こえています。司令官、何かありましたか?」

 

「廃墟都市に大型兵器が出現した。どうやらレジスタンスキャンプに向かっているようで、このまま放っておけばレジスタンスが壊滅してしまう。現在、現地の全ヨルハ部隊員には大型兵器の破壊命令が下されている。

 お前にも向かってもらうことになるが……やれるか?」

 

「命令に逆らうようなことはしません。今から向かいます。

 それと、状況が終了次第今回の調査報告をバンカーへと送ります」

 

「わかった。よろしく頼むぞ、7S。それと―――」

 

「無茶はしません」

 

「……あぁ、そうしてくれ。では、健闘を祈る」

 

そうして通信が切れる。

先ほどから感じている揺れは廃墟都市にいるエンゲルスが原因だったらしい。

此処からはすぐに廃墟都市へと戻ることが出来るが、起動してしまったエンゲルスのハッキングは脆弱性のある箇所へのものでなければ難しい。

そうなるとはっきりと言ってしまえば7Sに出来ることはそうした脆弱性のある箇所をハッキングして動きを阻害するくらいしかない。

だが今回は少し話が違う。

 

「エンゲルス、起動」

 

コンソールを操作してエンゲルスを起動すると、水中にいたエンゲルスが立ち上がる。

システムを確認すると隷属化はちゃんと出来ており、何処にも異常は見当たらず今すぐにでも戦闘を開始出来る状態であった。

 

「ポッド、廃墟都市方面のビルに何かいる?」

 

「報告:アンドロイド、機械生命体、共に反応は検知されず」

 

「よし。仕方ないからビルを破壊して真っ直ぐ進むぞ」

 

エンゲルスにビルを破壊しながら進むように指示を出そうとしたところでポッドが警告音を発した。

 

「警告:後方よりエンゲルス型要塞破壊合体可変歩兵の反応、及びに敵性反応を検知。

 推測:廃墟都市へ向かい、レジスタンス及びにヨルハ部隊の襲撃を行おうとしている。

 推奨:破壊」

 

その報告を聞いて振り返れば、離れた場所に新たなエンゲルスが立ち上がっているのを見つけた。

一歩一歩歩み寄ってくる姿を見て、ポッドの言うように廃墟都市へと向かっていることがわかる。

そして、7Sが隷属化したエンゲルスには何の反応も示さずにただひたすらに前進している。

 

「……廃墟都市のエンゲルスは一体だけか?」

 

 

「肯定:廃墟都市内にて検知される反応は一つ」

 

「ならあれを止めないと被害が拡大しそうだな。予定変更、此処であのエンゲルスを破壊するぞ」

 

廃墟都市へと進むように指示を出そうとしていた7Sだが、状況を考えて新たなエンゲルスを破壊するために命令を変更する。

命令を受けたエンゲルス―――仮称エンゲルスAは歩み続けているエンゲルス―――仮称エンゲルスBの方へと方向転換をしてから歩き始めた。

エンゲルスAとエンゲルスBが対峙する前に7Sはハッキングを開始する。同じ兵器同士が戦うことになるので確実に勝てるようにと動きを阻害しようとしているのだ。

脆弱性のある箇所はそれぞれ個体によって差があるので、まずはそれが何処なのかを見つけなければならない。

 

「報告:周囲に敵性反応のある機械生命体多数」

 

「悟られて狙われた、ってところか……あっちはエンゲルスに任せてオレたちは集まってきてる機械生命体を処理するしかないな」

 

刀を取り出して構える7Sといつでも射撃が出来るようにと準備をするポッド。

程なくして瓦礫の影や工場跡地の中からぞろぞろと機械生命体たちが姿を現した。

 

「思ってたよりも数が多いんだけど……」

 

「推奨:マルクスの起動」

 

「ひとまずそれで工場跡地から出てくるのは多少潰せるか?」

 

「肯定:全てではないが半数の足止めは可能」

 

その言葉を聞くとコンソールを手早く操作して停止していたマルクスを起動する。

マルクスは橋を移動して工場跡地前まで進んで来ていることを確認してからコンソールを消して近づいてきていた機械生命体に対して、7Sはその刀を投擲するようにして攻撃を加える。

集まってきているのは小型と中型の機械生命体であり、大型の機械生命体はざっと周囲を見る限りはいないらしい。

それでも数は多く、7Sだけではまず捌ききれそうになかった。当然、ポッドの射撃を考慮しても、だ。

 

「……うん、これはヤバイな」

 

「推奨:退避」

 

「ならやることは一つだな」

 

ポッドに退避することを勧められた7Sはそう言うとポッドを掴む。

そして、ミサイルを起動して一気に天高く飛び上がった。

そしてそのまま工場跡地の近くのビルまで退避してから下を確認すると、機械生命体たちは飛び跳ねたり走ったりとしながら7Sが逃げたビルの中へと入って来るのが見えた。

逃がす気はないと悟った7Sだが、すぐに周囲をスキャンして機械生命体が別のビルや屋上にいないかを確認する。

するとわかったことは、この辺りにいるのは今いるビルに入ってきた機械生命体たちだけということだ。

 

「それなら……」

 

そのことがわかると7Sはコンソールを忙しなく操作して何かを始める。

本人としては機械生命体たちを一網打尽に出来る妙案ではあるが、もしそれを2Bや9S、そしてA2が聞いた場合は絶対に否定するというか、そんな作戦を実行はさせなかっただろう。

だが此処にいるのは妙案だと思っている7Sと7Sの悪影響を受けたのか奇妙な思考をするポッドだけだ。止める人は誰もいない。

暫くコンソールを操作し続けていると屋上のドアが音を立てて吹き飛び、そのまま屋上から落下して行った。どうやら律儀に昇ってきた機械生命体によって破壊されたらしい。

それを一瞥してからコンソールを閉じる7Sはエンゲルスが戦っている方へと目を向ける。どうやらエンゲルスAの方が優勢らしく、エンゲルスBの腕を引き裂いて破壊し、反対の腕も破壊しようとその腕を振るっている。

そんなエンゲルスAが多数のミサイルを発射しているのを確認してから7Sは刀をビルから出てきた機械生命体の先頭へと叩き込む。

その機械生命体が転倒したのを確認してから刀を回収するとポッドに掴まってビルから飛び降りた。

 

「着弾まで5……4……3……2……1……着弾」

 

ポッドが着弾と宣言した瞬間、エンゲルスAから放たれたミサイルは全弾先ほどまで7Sがいたビルに着弾し、倒壊させていく。

当然、あのビルに集まっていた機械生命体たちはミサイルの爆発であったり、倒壊するビルの瓦礫によって破壊されていく。

その余波を受けながら着地した7Sがビルを振りすぐに機械生命体反応を探すが、ビルに乗り込んだものは全て破壊出来たようで反応は検知されなかった。

 

「よし、やっぱりこの手に限るな」

 

「肯定:建造物の破壊による機械生命体の殲滅は場合によっては効率も良く、推奨される。

 否定:旧世界の情報を得ることが出来る特殊、または重要な建造物の破壊は推奨されない。

 総括:特殊、或いは重要な建造物でなければ破壊し、機械生命体を殲滅することは問題ない」

 

「調査、探索の終わったビルくらいなら多分問題ないし、今回のは大丈夫だろ。

 エンゲルスは……相打ちしそうだな……」

 

エンゲルスAの状態を確認すると見えていなかっただけで片腕はなくなっており、お互いに損傷が酷くなってきている。

本来ならハッキングによる援護も考えていたが、今からではあまり意味がなさそうだった。

 

「エンゲルスには悪いけど、相打ちで壊れてもらおう。元々動かないように、くらいに思ってたから破壊されて動かなくなるのも、起動されなくて動かないのも同じだな」

 

そしてエンゲルスAとエンゲルスBが相打ちとなり、動かなくなるのを見届けていると周囲にアンドロイドの反応を検知する。

その反応は7Sにとっては馴染み深い相手であり、本人としてはやっぱり生きてたか。くらいの感想しか浮かばなかった。

 

「7S、何をしているのですか」

 

「あれの観戦。両方壊れるだろうから、見届けてから任務に戻ろうかと思ってる。

 それで、生きてるならバンカーに報告くらい入れておくべきじゃないのか、7E」

 

「報告の必要はありません。私は降下作戦時に撃墜され、死亡したことになっていますから。

 何が悲しくてあんな場所に戻る必要があるのですか?」

 

「ないな。それで、7Eはこれからどうするつもりなんだ?」

 

「他の7シリーズと同じく姿を消します。そのついでに7Sも誘おうかと思って来ましたが……どうやら必要ないようですね」

 

「あぁ……必要ない」

 

「ええ、そうでしょうね。

 ではそれは置いておくとして少しお訊ねしてもよろしいでしょうか」

 

「……他の7シリーズの行方?」

 

「はい。7Bやどうやって地上に降りたのかわかりませんが7O、また7Hに関しても私は消息を知りません。

 ですがこういったことに強い7Sであれば何か知っているのではないか、そう思い工場跡地に潜伏していました」

 

7Eは本来ヨルハ部隊員が知るべきではない真実を知ろうとしたり、脱走や裏切りを企てている場合にそれを処理するのが役目である。

だがどうやら7Eは自らがヨルハ部隊から脱走し、姿を消す計画を企てているようだった。

そしてその口ぶりから、7シリーズの多くが同じように脱走しており、消息を掴めない状態となっているらしい。

 

「何処に行ったんだろうな……」

 

「おや、7Sでもわかりませんか」

 

「そう簡単にわかるような場所には行ってない。それくらいならわかるけどな」

 

「そうですか……それは残念です。ですが、それならば私は急いで離れます。

 これ以上此処に留まったところで、意味などありませんから。

 あぁ、それと……」

 

「司令部には報告しない。する必要はないから」

 

「そうですか。それならば良いのです」

 

それだけ言うと7Sに背を向けて去っていく7E。

その姿を一瞥してから7Sはコンソールを展開し、操作する。

7Eの姿が7Sから見えなくなる頃に、エンゲルスが互いを破壊し停止する。それを見てから7Sはコンソールを消すともう一度だけ7Eが去って行った方を見る。

そして廃墟都市へと2Bや9Sの援護の為に走り始めた。

7Sと7Eの姿が消えて、工場跡地に残されたのは完全に機能を停止したエンゲルス、マルクス、無数の機械生命体の残骸だけだった。

 

 

 

 

2Bと9Sは飛行ユニットに搭乗し、エンゲルスと交戦していた。

高度を上げれば対空迎撃の出来る機械生命体に攻撃されてしまうために低空でエンゲルスに近づき、射撃を基本とした戦闘を行っている。

以前に得た戦闘データを元にエンゲルスとの戦闘においてはヨルハ開発部によって改良された飛行ユニットを用いているので特に問題はない。

ないのだが、二人にはどうしても気がかりなことがあった。

 

「7Sは無事でしょうか……」

 

「心配な気持ちもわかるけど、今は目の前のことに集中して」

 

「はい……」

 

現在工場跡地にて既存のデータと一致しない新型と思しき機械生命体の調査に向かっている7Sのことだ。

本来戦闘型ではなく、調査に向いているとはいえ、新型の機械生命体の調査というのはどうしてもただの調査よりも危険度が高く、戦闘力の乏しい7Sが無茶をしていないか。

遊園地廃墟へと向かっているときからそれが心配だった二人は、レジスタンスの捜索が終わり次第応援に向かおうと思っていたところをパスカルの村へと招かれ、その最中にエンゲルスの襲来が起こった。

また7S本人からの通信はなく、司令部からは7Sもエンゲルスの撃退任務に就いたと知らされている。

だがそれと同時に、7Sには飛行ユニットは割り当てられておらず、地上戦もしくはハッキングによる支援を行うことになっているという。

 

「7Sなら大人しくハッキングを選ぶ。地上戦なんて無茶はしない」

 

「わかってますよ。でも、それ以前に調査の方は無事に終わったのかも気になりますし……」

 

「……これが終わったら、7Sを探さないといけない。だから早く終わらせよう」

 

「そう、ですね……」

 

心配だからこそ早く終わらせて探し出す。

そう思って2Bはエンゲルスを見る。改良された飛行ユニットの効力は絶大で確実にダメージを蓄積させていくことが出来ている。

流石ヨルハ開発部、これならばエンゲルス一体であればそう労することもないだろう。

 

暫くそうして戦いを続けている突如として巨大な地震のような揺れが発生した。

飛行ユニットに乗っている2Bと9Sには直接影響はないにしても、エンゲルスと周囲のビルなどが激しく揺れているのが見て取れた。

 

「なっ……!?」

 

「何が起こっているの!?」

 

その現象に戸惑う二人だがその間にも揺れは大きくなっていく。

 

「報告:大型兵器の行動によって生じた振動と地殻が共鳴を起こしている」

 

「共鳴って……そんなことことが起こるものなの?」

 

「否定:通常であれば共鳴など起こらない。

 推測:地下に広い空洞があり、それが共鳴の原因となっている」

 

「地下に空洞?そんなの聞いたこともありません……」

 

ポッドの推測通りなら地下に広い空洞があるというが、レジスタンスキャンプでそんな話は聞いたことが無いし旧世界の地図にもそんなものがあるとはされていなかった。

それなのに何故地下にそんなものがあるのだろうか。そんな疑問を浮かべる9Sだったがそんな疑問は次に起こった現象によって吹き飛ばされることとなる。

ひときわ大きく周囲が揺れたと思った瞬間、エンゲルスの足元が崩れ始めたのだ。

当然その周囲のビルも倒壊していくがそれ以上に衝撃的だったのは、バンカーへと念のために繋いでいた通信からけたたましいアラートが聞こえてきたことだ。

そしてそのアラートはエイリアン・アラートと呼ばれるエイリアンの反応が検知された際に鳴り響くようになっているアラートだったのだ。

 

「これは……!」

 

「エイリアン・アラート!?どうして……長い間エイリアンたちは姿を現していなかったのに!?」

 

「推測;廃墟都市地下の空洞内にエイリアンが潜んでいる」

 

「推奨:司令部よりの指示を待ち、勝手な行動を控える」

 

「警告:倒壊する建造物に巻き込まれる可能性があるため、撤退するべき」

 

「警告:エイリアンの反応を検知。一時的撤退」

 

「推奨:7Sとの合流」

 

「推測:7Sであれば多少の情報を有している可能性がある」

 

戸惑う二人を差し置いてポッドたちは次々に言葉を並べていく。

総括すると一度離れて司令部の指示を待ちながら、7Sと合流して情報を求めるべきだ。ということだ。

確かにあの7Sであれば何かを知っているのかもしれない。そう考えた9Sはすぐさま行動に移った。

 

「2B!離れましょう!このままビルの倒壊に巻き込まれては堪ったものじゃありません!

 それにポッドの言うように7Sなら何かしら知っているか、知らないまでも何かしらの推測をしているか仮説があるかもしれません!」

 

「なら、早く7Sと合流しないと……」

 

「ええ、だから……一度工場跡地方面へ退避します。

 7Sとポッドなら多分離れていてもハッキングで支援出来るからそっちにいても可笑しくありません」

 

「わかった、なら行こう」

 

9Sの言葉を聞いて2Bは工場跡地方面へと退避を開始する。その後ろに続く9Sは最後に一度だと崩落していく地点を見ると、その奥に更に下に続いている空間を見つける。

どうやらあそこを調査する必要がありそうだ。そう思いながら退避と7Sとの合流を急ぐのだった。

 

 

 

 

同時刻。

工場跡地と廃墟都市を繋ぐ高架橋の上からエンゲルスをハッキングしようとしていた7Sは強い揺れに立っていることが出来ず、しゃがみ込むようにして成り行きを見守っていた。

 

「地下の空洞は知ってたけど……まさかこんなことになるなんてな……」

 

7Sは地下空洞に関しては知っていたようだが、まさか共鳴によって崩落するとは思っていなかったようだ。

 

「それに、エイリアン・アラートって……」

 

地下に機械生命体反応があることから空洞があることは予想出来ていたようだが、エイリアン反応が検知されるとは思ってもいなかった。

そして、今回のエイリアン・アラートで長い間変わることがなかった自身を取り巻く状況などが変化すると半ば確信染みた予想をしていると、そちらから何かが―――ヨルハ部隊の飛行ユニットが二機、飛んでくるのが見えた。

 

「報告:2B及びに9Sが搭乗する飛行ユニットが接近中」

 

「あぁ、無事だったんだ……良かった」

 

遊園地廃墟と今回のエンゲルスの襲来で無事かどうかわからなかった二人が、無事であることがわかり7Sは安堵する。

ただ、次はエイリアン・アラートの調査の為に地下に向かわなければならないだろうことを考えて少し憂鬱になってしまう。

あまり危険な場所にあの二人を向かわせたくは無いのだが、それでも現在この廃墟都市周辺の調査を命じられているのはあの二人だ。司令官はまず間違いなくあの二人へと調査へ向かうように命令するだろう。

自身もそれに同行するとはいえ、今まで以上に警戒し、準備を整えてからでなければ何かあったときに動くことが出来ない。

そのために何を用意しなければならないのか、それを考えながら飛んで来る二人を迎えるために立ち上がった。




割と無茶苦茶な方法で危機を脱する7S。そしてそこに現れた7E。
ゲームでは11Bが撃墜された次に撃墜されるのが7Eで、11Bは脱走計画を企てていた。ってなるとどう考えても7Eの仕事って11Bの処理だったんだろうな。
でもその後7Eは出て来ないけど、死んだのか脱走したのか……とか考えてこの世界では脱走したことにしました。もう出てきません。

エンゲルスの襲来はあっさりと終わらせて、いよいよ半裸兄弟に会いに行く準備が進みました。半裸ですよ、半裸。また7Sが叫ぶしかない。

推奨:エリイアン・アラートの調査に向かうため、事前に出来る限りの準備。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。