機械人形は救済の夢を見る   作:御供のキツネ

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A2は感受性が豊か。



ch-11 機械の兄弟

ヘーゲルたちとほぼ同時に外へと出た7SとA2であったが、ミサイルの推進力が残っていたせいかヘーゲルたちを追い抜いて更に高くまで飛ぶこととなった。

それは察して、下から射撃されると考えてまだハッキングが途切れていない個体を使って少しでも防ごうと思いコンソールを操作しながら下を見ると、そこにヘーゲルたちの姿はなかった。

一体何処に消えたのかと警戒しながらもポッドを掴んだまま降下して工場跡地とは別の施設へと着地する。

周囲を見渡せば自分たちがいるのは工場跡地から橋で繋がっている別の施設の入り口であることがわかり、この橋を進めば帰ることが出来そうだった。

 

ミサイルのせいで可笑しくなったA2の手を放してヘーゲルたちを探すが、その姿は何処にもない。

何処かへと逃げたにしては早すぎることから7Sは一つの当たりを付ける。

 

「A2、あいつらは多分水の中だ」

 

「うぅ……怖かったぁ……って、違う!それは本当か?」

 

「……大丈夫か?」

 

「うるさい!それよりも本当に水の中にいるんだろうな!?」

 

「短時間で逃げられるとは思えないからな。それに水の中ならすぐに潜れるし、隠れて奇襲を仕掛けるにはもってこいだ。そうだろ、ポッド」

 

「報告:爽快」

 

「ポッド?」

 

「訂正:7Sの推測通り水中に機械生命体反応多数」

 

水中にヘーゲルたちがいないかポッドに確認を取ると、何故かミサイルの感想を報告するポッド。それに対してもう一度問いかけると今度は正しい報告がされた。

それによると7Sの予想通りにヘーゲルたちは水中に隠れているらしい。

7Sがハッキングの途切れていないコンソールを確認すると現在は連結状態で水中を移動しているようだった。

 

「隠れてるなら隠れてるで良いけど、そいつは悪手ってやつだな」

 

姿を現さず、攻撃を仕掛けてこないのならばと7Sはヘーゲルたち全員へとハッキングを開始する。

本来のスキャナーモデルでは複数を対象とした同時ハッキングは出来ない。だが7Sは特化型ということもあり、ほぼ同一の個体データを保有している機会生命体であるならば複数同時にハッキングをすることが可能となっている。

今回で言えばヘーゲルたちは複数から成る個体であるために、全員の個体データが同一のものとなっている。厳密に言えば多少は違ってくるのだがその程度であれば7Sにとっては問題ない。

 

形態変化による多彩な攻撃が厄介であるならばまずはそれを封じてしまえば良い。

ヘーゲルたちのシステムにある形態変化に関する項目を探し当て、連結の状態からの変化を禁止項目として設定。浮遊自体はどうにも移動手段のため禁止項目に変更は出来なかった。

尚、7Sが連結の状態を維持させているのは分離状態だと対象を取り囲んで内蔵されているEMP発生装置を用いたEMP攻撃を仕掛けて来るからだ。

次に攻撃手段に制限を掛けようと7Sが更にハッキングを続けるが、システムの異常を察知したのか防衛プログラムが活発に動き始めた。

 

「気づかれるとは思ったけど……この程度じゃまだまだ甘いな」

 

それでもそれは、ハッキングが得意なスキャナーモデルの更に特化型である7Sにとっては何の障害にもならなかった。労することなく防衛プログラムを掻い潜るとそのまま射撃システムを停止させにかかる。

同時に、水中からヘーゲルたちが連結した状態で飛び出てくると前面に展開された銃撃ユニットで7Sを攻撃しようとするがその直前にシステムを停止することに成功した。

銃撃ユニットから弾丸がばら撒かれることはなく、それならば言わんばかりにヘーゲルたちは7Sを押し潰そうと襲い掛かる。

コンソールを操作していた7Sは一瞬反応が遅れてしまい、避けることが出来ない。ヘーゲルたちの体当たりが直撃するかと思われた瞬間、A2が7Sを抱きかかえるとそのまま大きく跳ぶことで済んでのところで救出することに成功した。

 

「悪い、助かる」

 

「もう少し警戒しておけ!」

 

「ごめんって。でも、流石に九体全員にハッキング仕掛けると反応が遅くなるな……」

 

「……お前、化物か……」

 

ハッキングなどしないA2にでもわかる。機械生命体に対してハッキングをするにしても、九体というのは同時に仕掛けられるものではない。

嘘をついていると考えることも出来たのだが、銃撃ユニットを展開しているというのに射撃を行ってくる様子もなく、時折ほんの少しだけ分離するのだが、次の瞬間にはまた連結した状態に戻っている。

その様子を見る限り、本当にハッキングを仕掛けることが出来ていることがわかる。

だからこそA2はそんな感想を持ったのだ。

 

「特化型を舐めるな、ってことだな。ほら、分離と射撃は封じたから幾らか戦い易くなったんじゃないか?

 でもビームとか体当たりはまだ生きてるから気をつけろよ」

 

「その二つをどうにか出来ないのか?」

 

「A2がオレを抱えて逃げ回ってくれるなら出来るけど、やる?」

 

「そんなことをするくらいなら大人しく斬るほうが性に合ってる」

 

「なら頑張って。オレはあいつらぶん殴るのに使えそうな物を探すから」

 

7Sを抱えたまま逃げ回るよりは斬る方が良いと断言したA2に戦うことを任せて、7Sは使えそうな物を探すと言う。

しかし、周囲をざっと確認したところで施設への入り口と橋があるだけで特には何も見当たらない。

それに先ほどから二人で走ってヘーゲルたちの体当たりやビームを避けているがどうやって探すと言うのだろうか。

 

「おい、何をどう探すつもりだ?」

 

「こうする。ポッド」

 

「了解。ミサイル、起動」

 

ポッドを掴んでから7Sがそう言うと今度は警告音が鳴り響くことなく天高く飛び立ってしまった。

そんな7Sを見ていたA2は先ほどの悪夢が蘇り、一瞬だけ泣きそうな表情になったような気がしたがすぐに気を取り直してヘーゲルたちへと向き直った。

流石にこのまま逃げ回るわけにもいかず、またポッドに捕まって飛び立った7Sが狙われでもしたら空中では逃げようがないと思ったからだ。

ただ此処で問題があるとすれば、大型の多脚型機械生命体であるヘーゲル九体と狭い橋の上で戦うということは少しどころか大分厳しい。

それぞれがビームを打ちながら連結した状態で迫ってくる。これがもっと広い場所であれば捌きようはあったのだが、工場跡地までの真っ直ぐな道のりは長くとも幅は特別広いわけではない。

ビームと体当たりを避けることは出来ても、反撃をする余裕はないのだ。

だからこそ結局のところA2はひたすらに攻撃を避け続けるしかないのだが、それでも目の前にいる敵を殺すという明確な意思の元、ヘーゲルたちはA2を攻撃し続ける。

それは7Sが狙われないようにと考えていたA2の思い通りになっているために、無理に距離を取るわけにもいかなくなっていた。

 

そんなことが行われている上空ではポッドに掴まった7Sが施設から工場跡地までの広い範囲をスキャンしていた。

そして目当ての物を見つけることが出来たようで、展開されたコンソールを操作している。

目当ての物というのは、2Bと9Sが破壊した大型兵器であり、現在起動していない物をハッキングしている。

 

「名前はエンゲルス型要塞破壊合体可変歩兵か。それと大型機械生命体マルクス。

 なるほど、マルクス一体がエンゲルスの片腕になるのか」

 

名前は当然のように天使文字ではあったが解読は容易で、その結果大型兵器の名前がエンゲルスであり、その両腕となっているのがマルクスという名の機械生命体であることが判明した。

 

「エンゲルスの起動は可能?」

 

「肯定:7Sのハッキング能力による隷属化、リモート操作であれば可能」

 

「リモート操作を現状でやるのは難しいな。エンゲルスは万が一の為に起動、マルクス二体を隷属化してヘーゲルを叩くぞ。マルクスはハッキング可能範囲外だ。拡大してくれ」

 

「周囲の電波強度及び通信強度の強化、完了。及びにハッキング可能範囲の拡大、完了」

 

ポッドの支援が正常に起動していることを確認した7Sはまずエンゲルスの隷属化を開始する。

起動していない状態であり、システム及びにコアが非常に無防備な状態だ。これならば7Sにとっては機械生命体と直接戦闘をするよりも容易く隷属化が出来る。

ポッドに掴まったまま片手でコンソールを操作していた7Sはエンゲルスの隷属化に成功すると、次はマルクスのハッキングを開始する。

此方は起動しているのだがシステムの防衛プログラムがヘーゲルよりも脆弱で、また隷属化しようとしている数は二体とヘーゲルたちよりも難易度は格段に落ちる。

だが二体をハッキングするということでポッドから手を放した7Sは重力に引かれるままに橋へと向かって落ちていく。

そんな状態でありながらも7Sは焦る様子はなく、淡々とハッキングを進めていく。

 

「なっ!?あいつは何をやっているんだ!!」

 

地上から7Sを窺い見たA2は驚愕する。7Sが真っ逆さまに落ちてきている。

それを見て何かの手違いで落下してしまい、このままでは地面に叩きつけられて死んでしまう。そう考えたA2はアタッカーモデルの自分であれば、無傷とは言わないが7Sを助けることが出来るかもしれない。

急いで落下地点に向かおうとするA2であったが、ヘーゲルたちの激しい攻撃によって回避するだけで精一杯だった。

 

「7S!!」

 

もはや助けに向かうことは出来ず、このままでは7Sが死んでしまう。

そう思ったとき、工場跡地方面から何かが凄まじいスピードで向かってきた。

それは橋の両端のレールを移動して来るマルクスであり、7Sは逆さまの状態から空中で器用にくるりと反転すると足からマルクスへと着地した。

その際に凄まじい音がしており、マルクスの装甲が一部大きく凹んでしまう。だというのに7Sは機能障害や損傷など一切なく平然と立ち、コンソールを尚も操作している。

着地した足や全身に強烈な負荷が掛かったように思われたが、どうやら強化プログラムと防御システムの強化によって見た目ほどの負荷は掛かっていないらしい。

だがそんなことは見ただけのA2にわかるはずもなく、A2には7Sが強引に落下死を免れたことと、新たな機械生命体が現れた程度にしか見えなかった。

 

「A2!こいつらは隷属化してあるから安心してくれ!」

 

「そいつらよりもお前は大丈夫なのか!?」

 

「問題ない!マルクス、ヘーゲルたちをぶっ壊せ!!」

 

7Sの心配をするA2に返事をしてから、マルクスたちへと命令を下してから飛び降りる。

するとマルクスたちはヘーゲルたちの傍まで移動すると先端の巨大な掘削用のバケットホイールを高速回転させながらヘーゲルたちへと振り下ろした。

ヘーゲルたちはそれを回避しようとするが二体のマルクスの攻撃を完全に避けることは出来ずに、一体がバケットホイールを受けることとなった。

その一撃は触れた建造物を容易く破壊するほどの破壊力を秘めており、まともに受けたヘーゲルはばらばらに引き裂かれてしまった。

 

「……思ってたよりも、マルクスってやばいのか?」

 

「回答:エンゲルスの主要攻撃として使われる両腕になることから、その破壊力はただの大型機械生命体では耐えることは不可能」

 

「それもそうか……でもエンゲルスもマルクスもまだまだいるんだよな……」

 

「推奨:起動前にハッキングを行い、隷属化もしくは破壊」

 

「それが最善かもしれないけど……今はヘーゲルだ」

 

7Sとポッドがそんな会話をしている間にもマルクスは逃げ回るヘーゲルを捕らえてはばらばらに引き裂いてしまう。その様子を離れた場所で見ていた7Sの隣には何時の間にかA2が来ていた。

 

「おい、どうなってるんだ?」

 

「あのバケットホイールが付いてる機械生命体の名前はマルクス。今はさっきも言ったように隷属化してあるからヘーゲルを攻撃するように命令してある」

 

「ハッキングしたからか……便利だな。

 いや、それよりもお前、何で真っ逆さまに落ちたのに普通に着地なんて出来たんだ?」

 

「強化プログラムと防御プログラムを強化しておいたおかげ。普段から防御プログラムには手を加えてあるし、あのくらいの高さなら何とかなるんだ」

 

「…………変人とか問題児とか、そういうのよりもそんな話を聞くと規格外って感じだな……」

 

7Sに対して感心しているのか呆れているのか微妙な反応を返してからA2はヘーゲルとマルクスを見る。

連結状態で逃げようとするヘーゲルに対してマルクスの攻撃は橋の上ならばほぼ全てをカバー出来ているためにヘーゲルは一体一体引き裂かれている。

浮遊して逃げようとしても横にしたバケットホイールで上から押さえつけるようにしたり、二体の繋ぎ目となる場所に差し込んで引き摺り降ろしたりとマルクスは非常に器用かつ繊細な動きで浮遊させないようにして戦っている。

いや、戦っているというよりもほぼ一方的に虐殺している。という方が正しいのかもしれない。

ヘーゲルは体当たりで対抗しても引き裂かれてしまうためにビームを放って攻撃しているが、連結状態では片方を攻撃するので精一杯であり、狙われていないもう片方がビームを放つ個体を攻撃する。

そんな状態ではヘーゲルたちに勝機はない。

 

「さて、念の為に浮遊も封じたからもう放っておいても大丈夫か」

 

「酷いな……それにしても、これがお前の探していた物なんだな?」

 

「そういうこと。工場跡地の方にはこいつとエンゲルスってのがいるんだけど……もしかしたらこっちの施設にもいたかもな……」

 

「あんな機械生命体がまだいるって時点で最悪だ……」

 

その、あんな呼ばわりされたマルクスはヘーゲルの最後の一体を引き裂いたところでまだ残党がいないが探すようにうろうろしている。

7Sはそれを見てからコンソールを操作すると、マルクスは動きを止めた。

 

「お疲れ、マルクス。機能は停止したから俺が再起動しない限りは動かないし放っておいても問題ないだろ」

 

「破壊しないのか?」

 

「しなくても動かないならな。それよりA2はこれからどうするんだ?」

 

「……こっちの施設を調べる」

 

「そっか……オレは戻るけど、最後にもう一回システムチェックしておくぞ?」

 

「好きにしろ」

 

今度はA2に断りを入れてからシステムチェックを進めていく7S。A2には相変わらず何をしているのかわからないが、完全にではないがそれなりには信用しても問題ないと判断しているので特に何も言わない。

7Sも慣れた手つきでコンソールを操作し、宣言通りにシステムチェックなどを済ませていく。

 

「はい、終わり。さっきも言ったけど劣化したパーツとか多いから交換出来るなら交換しとけよ?」

 

「わかったわかった。それで、聞いておくが……」

 

「司令官には報告しない。そっちの施設にEMP発生装置があるみたいだから察知もされてないだろうし、今回は黙っておく」

 

「そうか……」

 

安心するような、納得しているような、そんな表情で頷いたA2は何かに気づいたように工場跡地まで伸びる橋の先を見る。

7Sも同じようにそちらに目を向けると何かが此方に向かってゆっくりと進んできていた。

 

「あれは……」

 

徐々に近づいてくるそれは、台車に乗せられた中型の機械生命体だった。

そして、それを押しているのは小型の機械生命体で、何かを言いながら進んでくる。

何事かと思い7Sがそれに近づいて行くと、その後ろをA2が文句を言いながらもついて行く。

 

「おい、少しは警戒しろ」

 

「あれは敵性反応がないから大丈夫。それよりも……」

 

「ニイチャン ニイチャン モウスグツクヨ キットニイチャンヲ ナオセルヨ」

 

「あの中型の機械生命体、ほとんど壊れてるな……」

 

「……兄ちゃん?機械生命体に兄弟の概念なんてものがあるのか……?」

 

「むしろ機械生命体の方がオレたちアンドロイドよりも家族の概念が強い傾向にあるな」

 

「そうなのか……?」

 

「アンドロイド アブナイ ニイチャン マモラナキャ」

 

二人が話をしていると小型の機械生命体が台車の前に、中型の機械生命体を守るように立ち塞がった。

 

「ニイチャン ウゴカナイ ダカラ マモラナキャ」

 

「なんだ、これは……?」

 

「ニイチャン アンシンシテ! ゼッタイニ マモルカラ!」

 

「なんで、機械生命体が他の機械生命体を守ろうとしているんだ!?」

 

その姿にA2は酷く動揺してしまう。

先ほど見たキカイレンジャーの際は困惑の方が大きくてあまり気にしなかったが、どうして心や感情のない機械生命体が家族の概念を有し、まるで自分たちが仲間を守るときと同じように立ち塞がっている。

こんなことは今までに一度としてなかった。そしてこれからもないと思っていた。

 

「家族だから、だろ。もうほとんど壊れて動かないとしても、あの子にとっては大切な家族なんだ。当然、守るに決まってる」

 

「お前はどうしてそう言い切れるんだ!?機械生命体に、心も感情もありはしないのに!!」

 

「あるんだよ。オレたちアンドロイドと機械生命体はルーツは違っても、同じように心があって、感情があって、誰かを大切に思う気持ちを持ってる。

 それは全部の機械生命体がそうだとは言えないけど、ああやって確かに心や感情を持っている個体はいるんだ」

 

言いながら7Sは立ち塞がる機械生命体へと近づいていく。

 

「ヨワクテモ マモルカラ! ニイチャンヲ マモルカラ! ダカラ オキテヨニイチャン!」

 

A2はその言葉を聞いてただ立ち竦むことしか出来なかった。

機械生命体がどうしてあんなにも悲痛な声を上げているんだ。心が張り裂けそうなほどの声を。

そう思うと同時に、A2は自身の胸に突き刺さるような痛みを覚える。

あの機械生命体が抱えているものは、大切な誰かを守りたいという気持ち。その誰かを失う痛み。そして、起き上がって欲しいという悲痛な願い。

そのどれもが過去に自分が抱いたものと全く同じだと、A2は気づいてしまったからだ。

アンドロイドと、機械生命体。敵同士だというのに、そこにいる機械生命体の姿は過去の自分と酷く重なってしまう。

 

「安心して。コアは生きてるからシステム面で異常を取り除いて正常な状態に戻せば動くはずだから」

 

「ニイチャンハ マタウゴクノ?」

 

「あぁ。欠損や破損してるパーツは換装しないといけないけど、また動くようになるよ」

 

「ホントウニ ホントウニ ニイチャンハ ウゴクノ?」

 

「大丈夫だって。こういうのは得意だから任せとけって」

 

言いながら7Sはコンソールを展開し、中型の機械生命体のシステムに介入する。

システムのエラーやバグを取り除き、正常に動くようにしていくその姿を小型の機械生命体は心配そうに見つめている。

いや、表情を窺うことは出来ないのだが、心配そうにしていると何故かA2には理解が出来た。

 

「……システムオールグリーン。コア、正常に起動。ほら、もう起きるよ」

 

コンソールを消した7Sがそう言ってから一歩下がると、中型の機械生命体の目に光が宿る。

そして身体を起き上がらせると周囲を確認するように見渡して、小型の機械生命体の姿を見つけると喋り始めた。

 

「ココハ ドコダ? ワタシハ ドウシテウゴイテイル?」

 

「ニイチャン! ウゴイタ!」

 

それを見て小型の機械生命体は嬉しそうに近寄ると、何度も何度も声を掛けている。

起き上がったことを喜ぶように、生きていることを喜ぶように。

7Sはそんな二体を見てから、何も言わずにA2の隣へと戻る。

そうしてA2が何も言わないことを疑問に思い、A2を見るとただ静かに涙を流していた。

 

「A2?泣いてるようだけど、大丈夫か?」

 

「あっ……いや……何でもない……」

 

7Sに声をかけられてA2は自身が涙を流していることに気づき、乱暴にそれを拭った。

A2は目の前の機械生命体と自身が重なって見えたために、兄と呼んでいた機械生命体が起き上がったことを喜ぶ姿を見て、本来ならありえないが心の底から良かったと、そう思ってしまった。

そして、それを我がことのように感じてしまった為に気づけば静かに涙を流していた。

 

「そっか……何でもないなら俺は何も言わない」

 

「…………なぁ、7S」

 

「どうかした?」

 

「こんなことを言うのは可笑しいとわかっている。でも……ありがとう」

 

「何に対してかわからないけど……どういたしまして」

 

A2がどんな心境にあるのか、7Sにはわからないがその感謝の言葉はきっと目の前の光景に関係があるのだろうと当たりをつける。

2Bと9Sにも言っていたことだが、色んな事を見て、感じて、考える。その重要性を理解している7Sは、きっとこの光景を見てA2にも何か感じ入るような物があったのだと、確信する。

 

「A2、オレはもう行くよ」

 

「ん、そうか……」

 

「それで、悪いんだけどさ」

 

「何だ?」

 

「もし良かったらあの中型の機械生命体に使えるパーツを探すの、手伝ってあげてくれない?」

 

つい先ほどまでなら確実に断られる頼みごとを口にした7Sだが、今のA2ならきっと引き受けてくれると、そう考えている。

 

「…………そうだな、お前には世話になったからそれくらいの頼みは聞いてやる」

 

果たしてその考えは正しかったようで、A2は小さく笑いながら引き受けてた。

 

「ありがとう。それじゃ、よろしく」

 

言ってから7Sは工場跡地へと向けて歩き始める。

A2の過去や今の光景を見て何を考えたか。そんなことは7Sにはわからない。

それでも、今回のことはきっとA2に対して良い変化をもたらしてくれる。そんな風に思えていた。

だからこそこんな頼みごとをしたのだ。

 

「なぁ……7S」

 

A2が声をかけると、7Sは立ち止まって振り返った。

 

「また……また、何処かで会えると良いな」

 

「会えると思うぞ?どうせ暫くはこの辺りの調査をしてるからな」

 

「そうか。ならまた会おう」

 

「その時までには、少しくらい劣化したパーツを交換しとけよー」

 

最後に何処か茶化すように言ってまた歩き始めた7Sは、ほんの一瞬ではあったがA2が嬉しそうに笑っているのを見ることが出来た。

面倒な任務を言い渡されたと思っていた7Sだが、意外にも良い出会いがあったものだとそのままA2から離れて工場跡地へと向かって行く。

そんな7Sの背を見送ってからA2は、目の前の機械生命体へと声をかけた。

 

「なぁ、お前の兄に使えるパーツ。私が一緒に探してやろうか?」

 

そう言ったA2が優しく微笑んでいるのを見て、小型の機械生命体は元気良く返事をした。

その声は遠ざかっていた7Sにも聞こえており、7Sは楽しそうに、それでいて嬉しそうに笑ってからただただ歩くのだった。




実は救われて欲しい子の中には2週目の最初に出てきた機械生命体もいたり……
救われてよ!あれ見て泣きそうになったんだよ!
というわけで地味に救えてると良いなぁ……

あと、過去に色々あったA2ならあの子を見て何か感じることがあるんじゃないかな。というほぼ願望でこんな話に。
深い意味はきっとない。

今回の被害者はヘーゲルくんです!
まともに活躍することなく退場しましたー。
うん、ぶっちゃけると大型機械生命体VS超大型兵器の主武装とか、どう考えても、ねぇ?

報告:廃墟都市にて超大型兵器の反応を検出。
報告:司令部より廃墟都市に出現した超大型兵器破壊の命令。

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