機械人形は救済の夢を見る   作:御供のキツネ

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7Sは少し黒い。



ch-10 複数から成る個体

A2と並んで歩く7Sは未だにコンソールを操作しており、A2のシステムチェックを続けているようだった。

これは7Sの仕事が遅いから。ということではなく長期間まったくそうしたシステムチェックだったりメンテナンスを行っていないA2に問題がある。具体的に言うならば全く問題が無い。という箇所がないくらい酷かった。

それを一箇所一箇所丁寧に直しているのだが、そんな7Sを見てA2は思うことがあった。

 

「なぁ……スキャナーモデルっていうのはそこまで出来るものなのか?」

 

「いや、スリープモードに入ってる相手のシステムチェックとかなら出来るけど、起動状態の相手のシステムチェックとかは普通やらないな。

 理由としてはハッキングを仕掛ける形になるから相手としては良い気分じゃないし、そうなるとシステム自体が常に動いてるからやりずらい。まぁ、オレはこういうのも慣れてるから平気だけど」

 

「そうか……お前、やっぱり変わってるな」

 

「良く言われる。でもこれくらい変わったアンドロイドがいても良いと思うんだけどなー」

 

自覚はあるのか、楽しげに笑いながら言う7Sについと言ったように小さく笑ってA2は前を見る。

それに続くように、システムチェックを終えた7Sがコンソールを消してから、そんなA2を少しだけ窺ってからふわりと目の前を横切ったポッドを両手で掴むと、そのまま掲げて歩く。

それを、何をしているのだろうか。と思いながら少しだけ見て、遠くから聞こえてくる声にA2が警戒する。

同じように7Sもその声が聞こえたようだが、どうにもそれは機械生命体の声のようだった。

 

「機械生命体の声……7S、私の後ろをついて来い」

 

「わかった。この辺りはEMP発生装置もあるから前には出過ぎないようにな」

 

「わかってる。援護は任せるけど、やれるか?」

 

「当然。スキャナーモデルとしては援護の方が得意だ」

 

簡単にお互いに確認してから走り出す。

そして声の正体である機械生命体たちを見つけて刀を構えるA2だったが、その機械生命体たちを見て動きを止めた。

後ろにいた7Sが何事かと窺い見るとそこには見覚えのある機械生命体たちがいた。

 

「ヒーロー ツヨイ」

 

「ヒーロー カッコイイ」

 

「ミンナデ ツヨクナル」

 

「ミンナデ ヒーローニ ナル」

 

「シュギョウダ」

 

「シュギョウ シュギョウ」

 

それは以前に7Sがヒーローに関する情報を間違えて入れてしまった機械生命体たちだった。

相変わらず楽しそうにワイワイと騒ぎながら、どうやら修行をしているらしい。具体的に言うと、敵性反応のある機械生命体が襲ってくるのを返り討ちにしている。

基本的に機械生命体は連携と言える連携を取らないため、正しく連携を取れればそう苦にはならない。それはこのヒーローに憧れる機械生命体たちにも当てはまるようで、見事な連携を取って戦っている。

ただ、その戦いはあくまでも修行の一環としているのに対して、襲ってきている機械生命体は本気である。温度差が違うが本人たちはそのことに気づいていない。

 

「ミンナ シュギョウニ ツキアッテクレル」

 

「キット ヒーローニ ナルコトヲ キタイサレテル」

 

「ヒーローニ ナラナキャ」

 

「ミンナノ ヒーロー」

 

「ボクラノ ヒーロー」

 

「オレガ オレタチガ ヒーローダ!」

 

「なんだ、これは……?」

 

そんなヒーローに憧れる機械生命体たちを見て、A2は困惑を露にする。

当然である。A2が今までに遭遇した機械生命体は、喋らないモノがほとんどで、喋るとしても殺すなどの敵意ある言葉を単調に繰り返すだけだった。

それが目の前のこれはどうだ。ヒーローになると言いながら連携を取り、次々に機械生命体を破壊している。

こんな光景を見れば困惑するのも当然だ。いや、A2の後ろからその様子を見ていた7Sは困惑するのではなく、単純に何で此処にいるんだろう。くらいの疑問を浮かべているのだが。

 

「ヒーローノ ヒッサツワザ!」

 

「ソレハ ユイショタダシキ!」

 

「ガッタイワザ!」

 

「イクゾ ミンナ!」

 

「ココニ ボクラノ ユウジョウヲ!」

 

「デモ ワザメイハ キマッテナイノダ!」

 

楽しそうに叫んでから残りの敵を取り囲み、全員でロケット頭突きをするというある意味でシュールな光景が展開された。

そして、その敵が爆発する前に急いで全員が位置取りをして、爆発の瞬間に決めポーズを本人たち的には格好良く決める。

爆発が収まるとゆっくりと決めポーズをやめて、動かなくなった。

 

「カッコヨカッタ……!」

 

「ヒーローノ ヨウダッタ!」

 

「ヒーローニ イッポチカヅイタ!」

 

「ヤッパリ キメポーズガ タイセツ!」

 

「ボクトシテハ ヒッサツワザノ ナマエモヒツヨウ ダトオモウ!」

 

「ヒッサツノイチゲキ キメゼリフト キメポーズ!」

 

上手く決まったと感動しているようで、非常に楽しそうにワイワイと話を始める。

それを見ていたA2は更に困惑してしまう。こんな機械生命体が存在するとは思ったこともなかったからだ。

というかこれは本当に機械生命体なのだろうか。実は機械生命体のような見た目をした別の何かなのではないか。そんな考えさえ浮かんでくる。

 

「あぁ……あの子たちか……」

 

「知っているのか?」

 

「前にちょっとな。機械生命体を破壊する。って言う気持ちがあるのはわかるけど、あの子たちも破壊する?」

 

「いや……なんて言えば良いのか……関わりたくない……」

 

「なんでさ」

 

「あの奇妙な空気感の中には入っていきたくない」

 

嫌そうな顔でそう言ったA2は本気で関わりたくないと思っているらしい。

それならば無理にあの中に入るようなことはしなくても良いか。そう思った7Sであったがそうはいかない。

 

「アレハ シショウ!」

 

「ヒーローノ シショウ!」

 

「ヒーロート クミタイソウノ シショウ!」

 

「ツギハ ヒッサツワザヲ オシエテクダサイ!」

 

「ボクラニ サラナル ヒーローノ カッコヨサヲ!」

 

「カッコイイ ヒッサツワザノ セリフヲ オシエテクダサイ!」

 

「あ、ごめんA2。捕まった」

 

「…………こいつらは本当に機械生命体なのか……?」

 

7Sを見つけるなりそんなことを言いながら近寄って来る機械生命体たち。

それを見てそんな言葉を零すA2。

 

「チガウヨ!」

 

「キカイセイメイタイ ジャナイ!」

 

「ナゼナラ ヒーローダカラ!」

 

「ワルイキカイセイメイタイヲ ヤッツケル!」

 

「ボクラハ キカイレンジャー!」

 

「アンチョクナ ネーミングダネ!」

 

どうやら彼らは自分たちのことをキカイレンジャーと名づけているらしい。非常に戦隊物らしい名前だ。

ただ最後に喋っている機械生命体も言っているように、安直なネーミングである。

 

「……戦隊物ってことは、それぞれ色の担当ってあるのか?」

 

「ハッ!」

 

「ソウダ タシカニ ヒーローハ レッドトカ ヨバレテタ!」

 

「ソコニキヅクトハ ヤハリテンサイカ」

 

「ソレナラ イロヲ ツケナキャ」

 

「ボクハ ピンク!」

 

「オレハ カッコイイ ブラック!」

 

「それじゃ、順番にレッド、ブルー、イエロー、グリーン、ピンク、ブラックで良いんじゃない?」

 

「ソレダ!」

 

「ダッタラ ソノイロヲツカッテ ペイント シナキャ」

 

「ゼンシンヲ ヌルノハ イヤダナ」

 

「ソレナラ ソノイロデ マークヲ カコウ!」

 

「キカイレンジャーノ エンブレムダネ!」

 

「カッコイイマークハ オレニマカセロー!」

 

それだけ言うと機械生命体たち改め、キカイレンジャーの面々はガッシャンガッシャンと音を立てて飛び跳ねながら何処かへと消えていく。

どうやら自分たちのエンブレムを描くための塗料を探しに行くらしい。

何と言えば良いのか、影響を与えた7Sのせいなのかもしれないが非常に自由だった。

そんなキカイレンジャーを見送ることになったA2は、隣で手を振っている7Sを見て確信する。この男は変わっているだとか、そんなレベルではないと。

 

「なぁ、7Sはバンカーではどう呼ばれてるんだ?変人とかか?」

 

「問題児」

 

「……あぁ、それも納得だな……」

 

司令官を信用してないと断言したり、機械生命体と何故か親しげにしていたり、あのキカイレンジャーとかいう奇妙な集団の師匠だったり、変人且つ問題児でもなければそんな風にはならないか。

そう納得して、それでも特に嫌いになるというわけではなく、面白い同行人だ。と思う辺りでA2も変わっているのかもしれない。

もしくは久々に誰かと共に行動するのが楽しくなってきている。ということなのだろうか。

 

そんな様子のA2を見て7Sは思うこともあったがそれは口にせずに、自分たちが進むべき道を見る。

キカイレンジャーに見つかるというハプニングはあったが、本来の任務である機械生命体の調査をすることを優先しなければならない。

もしかすると、その機械生命体を発見した際にA2が破壊すると言って斬りかかるようなことになるかもしれない。という不安を抱えながらも、それならばそれで援護くらいはしよう。そう思いながら7Sは歩き始める。

すぐにそれに気づいたA2が隣に来るが、その横顔は何処か楽しげに見えて、それでもそれを指摘するようなことがあれば否定するのだろうな。と安易に想像が出来る。

 

「そういえばA2」

 

「どうした?」

 

「A2はどうして此処に来てたんだ?」

 

「……見慣れない機械生命体を見つけたからそれを追ってきた。

 元々この辺りにいる機械生命体を破壊していたが、その時に少しだけ姿が見えたんだ」

 

「もしかして……」

 

「あぁ、多分7Sが追っているのと同じ機械生命体だと思う」

 

これは見つけたら壊そうとすることは確定か。そう思って調査のついでに戦闘データも取れそうだ。

そんなことを考える7Sには、それでも少し嫌な予感がした。

 

「見つけたら破壊する。とか言うんだろうけど……そいつって大型?小型?」

 

「大型の球状の機械生命体だったな……それが複数体いたが……」

 

「複数体!?何だよそれ聞いてないぞ!?」

 

「推奨:司令部への確認」

 

「EMP発生装置のせいでお前はバンカーに繋げられないだろ!」

 

「推奨:通信可能領域への移動。もしくはEMP発生装置の破壊」

 

大型の機械生命体が複数いると聞いて驚きの声を上げる7Sに対してポッドはそう提案した。

だが言ったようにEMP発生装置があるからか、バンカーへの通信は現状不可能だ。

 

「EMP発生装置の破壊って言っても……色々見てるのに見つからないんだよな……」

 

「もしかすると……その大型の機械生命体がEMP発生装置を内蔵しているんじゃないか?さっきは小型の機械生命体がそうしていたから、可能性がないわけじゃないだろうからな」

 

「……それってつまり、その機械生命体がEMP攻撃を仕掛けてくるってことだよな?」

 

「最悪そうなるな……」

 

既知のデータが存在しない機械生命体にはどうやらEMP発生装置が内蔵されている可能性が高いらしい。

そのことに気づいた7Sはつい頭を抱える。

当然だ。データのない相手だというのに、更には大型となると明らかに戦闘能力が高い個体となる。それがEMP攻撃を仕掛けてくる。なんだそれは反則じゃないのか。

そう考えて、それでも多分A2は引かないのだろうな。と思い質問する。

 

「それで、そんな相手を破壊しようって気は収まらない?」

 

「あぁ、相手が機械生命体である以上は破壊する。それに、厄介な相手なら早い段階で破壊しておかなければ後々面倒なことになるかもしれないからな」

 

厄介な相手と言うことがわかっても尚戦意は衰えることはなく、むしろより高まっているように思えた。

だが、後々厄介なことになるかもしれないという言葉には7Sも同意する。

もしあの変態のような個体と戦っているときに乱入でもされれば状況は一気に不利になる。であるならば、此処で破壊しておく方が良いだろう。

それに徐々にではあるが既知の機械生命体とは違う反応を複数検知することが出来るようになり、一箇所に留まっているそれらの反応しかないことから、今ならば他の機械生命体に邪魔されることなく戦うことが出来そうだ。

 

それでも、戦闘能力の低い自分とアタッカーモデルであり、射撃の出来ないA2では微妙に戦力不足感が否めなかった。

なので7Sは周囲を見ながら歩き続ける。もしかすると何か使える物があるかもしれないも思っているからだ。

起動していないから反応を検知出来ていないだけで、大型の機械生命体がいるならば隷属化しても良いし、リモート操作で戦うのも手段としては存在する。

とりあえず、使える物は使って戦わなければならないのが現状だ。もしかしたら、という程度ではあるが7Sには使えそうな物に心当たりはあるので、もしそれが見つかれば御の字だ。

 

「それで、さっきから何を探しているんだ?」

 

「使えそうな物がないかな。って思ってあれこれ見てるけど、現状使えそうな物がないな。

 これが外なら簡単に見つかりそうなんだけど……」

 

「外?」

 

「いや、ないならないでそれで良いんだ。というか、あったらあったでヤバイ」

 

「……よくわからないが、お前がそれで良いなら私は何も言わないが……」

 

「そうしてもらえると助かる。ってほどじゃないけど、説明しなくて言い分楽かな」

 

言いながら7Sはコンソールを操作する。どうやら周囲をスキャンしているらしい。

そんな7Sに少しだけ首を傾げながらも、何も言わないと言ったために黙っていることにした。

だがコンソールを操作していた7Sがふとこんなことを言う。

 

「それにしても……この工場って広すぎるよな。外は勿論だけど、下にも相当広がってるし……」

 

「確かにな……全部回ったわけじゃないが、それでも外は広かった上に違う施設に繋がる橋もあった。もしかすると私たちが思っているよりももっと広いんじゃないか?」

 

「となると……まだ起動してないだけでヤバイ大型機械生命体とか眠ってる可能性もあるのか……」

 

「そうだな。今回見つけたのだって最近まで動いていなかったのが動き始めたから見つけた。とかかもしれないな……」

 

「最悪目的の機械生命体を見つけたと思ったら追加で新しい機械生命体が出てくるとか?」

 

「…………考えたくもないな……」

 

言われてから、絶対にありえないとは言えないことからA2は苦虫を噛み潰したような表情でそう答えた。

そうこうしている内に一つの扉の前に到着する。中からは何か大きな物がぶつかるような音がしていることから、もしかするとこの中に目的の機械生命体がいるのかもしれない。

そう考えた7Sがポッドを見る。

 

「報告:扉の先の広い空間に目標と思しき機械生命体反応あり」

 

「数は?」

 

「九体分の反応を検出」

 

「複数って二三体じゃないのかよ……」

 

「私が見たのは三体ほどだったが……」

 

「……やれるか?」

 

「やるしかないだろ」

 

どうやら予想以上の数が中にはいるらしい。それを聞いて7SはA2に勝てるかどうか聞くが、A2はやるしかないとだけ答えた。勝算はあまりないように思われるが、A2が言うようにやるしかないのだ。

 

「A2、準備は?」

 

「出来ている。お前はどうだ?」

 

「強化プログラムとかポッドプログラムとかの準備はOK。データがないから何とも言えないけど、やれるようならハッキングを仕掛けてみる」

 

「今の時点ではそれで上出来だな。行くぞ」

 

言ってからA2が扉を蹴り破った。

自動で開く扉だというのに、容赦なく蹴り破ったのだ。

凄まじいスピードで飛んだ扉は中にいた機械生命体の内の一体にぶつかり、轟音を立てる。一体どれだけの力で蹴ったのだろうか。

そんなこと出来事を見ていた7Sは場違いではあるがアタッカーモデルの出力の高さに若干引いてしまった。いや、こんな光景を見れば誰だってそうなるだろう。

 

中にいたのは球状の大型多脚機械生命体で、数はポッドの報告通りに九体。そのうちの一体にA2が蹴り飛ばした扉が突き刺さっていた。

それを一瞬だけ不憫な物を見るような目で見た7Sだったがすぐに切り替えて大型多脚機械生命体へとハッキングを仕掛ける。

その瞬間、扉が突き刺さっている個体以外が天井に向けて射撃を開始し、天井を破壊してしまった。そこからは光が差し込んでおり、どうやら最初にA2と7Sが遭遇した部屋と同じ作りになっているらしい。

そしてその破壊された天井に向けて高く跳び上がり、天井や壁に脚を掛けてそのまま外へと逃げ出してしまった。

唯一逃げ出さなかった、というか逃げ出せなかったのは扉が突き刺さり、A2に斬りかかられ、7Sによるハッキングを受けている個体であった。

 

「A2!逃げられるぞ!」

 

「わかっている!だがあいつらを追えばこいつを逃がすことになるだろ!」

 

A2の言うように、逃げて行った個体たちを追えばその間に目の前の個体が逃げ出すかもしれない。

であるならば目の前の個体に集中することで最低でも一体は破壊しておくべきだ。そう考えてA2は天井に目を向けることなく目の前の敵を斬り続ける。

 

「……ポッド!個体データを集めろ!」

 

「了解。個体データ収集を開始」

 

「A2!何をしてくるかわからないから調子に乗って斬り続けるとかやめろよ!」

 

「あぁ!そんなこと言われなくてもわかってる!」

 

叫んでから7Sはハッキングを続行する。

名前に関しては天使文字で書かれており、解読した結果ヘーゲルと言うらしい。そして、多数の大型多脚機械生命体が連結している個体とのことだが、現在はそのうちの一体だけがこの場に逃げ遅れている。

また、攻撃システムや防御システムを妨害しながら調べていくと本来は連結したそれぞれの個体から発生しているエネルギーを結集することで莫大なエネルギー出力を誇る非常に厄介な機械生命体であることもわかった。

その際には浮遊したり分離、連結といった形態変化による多彩な攻撃を行う。ざっと調べた限りではこれくらいだろうか。

最低限のデータは集められたと思いながら7Sが戦況を確認するとハッキングによる妨害もあってか一方的な戦闘が行われていた。

 

射撃は行えず、防御システムの展開も覚束ず、移動さえ出来ない。随分と酷い状況ではあるが一気に畳み掛けるには良い状態だ。

そう判断しているのか、A2は一切攻撃の手を緩めないが果たしてそう簡単に破壊出来るものなのだろうか。

ふとそんな疑問が脳裏を過ぎった7Sは何かに気づいたように上を見る。

そこには逃げていったはずのヘーゲルたちが連結した姿で降りてきていた。

またそれぞれの個体が前面から銃器ユニットを展開しており、今正に射撃を開始しようとしていた。

 

「A2逃げろ!」

 

それに気づけた7Sが叫ぶと、A2は上を確認することなく大きく飛び退く。すると先ほどまでA2が刀を振るっていた場所に夥しい数の銃弾が降り注いだ。

ヘーゲルたちは飛び退いたA2に追撃を仕掛けることなく、取り残されていた個体と連結すると再度天井を昇り始めた。

どうやらA2と7Sを破壊するために戻ってきたのではなく、取り残されていた個体を回収するために戻って来たようだった。

 

「クソッ!このままだと逃げられるぞ!」

 

「わかってる!A2は此処を昇る手段とかあるか?」

 

「ない。このまま逃げていくのを指を咥えて見ているしかないのか……!」

 

悔しそうというよりも、忌々しげにそう言うA2を見て、非常に言い難そうに7Sが口を開く。

 

「オレはあるにはあるけど……」

 

「あるのか!?」

 

「まぁ、一応……けど、本気でお勧めは出来ない」

 

「あいつらに逃げられるよりはマシだろう!?さっさと追うぞ!」

 

「……後悔するなよ?」

 

「誰が後悔なんてするか!!」

 

「はぁ……仕方ないか……」

 

使いたくないです。そんな雰囲気で7Sが言うがA2はもはやヘーゲルたちを破壊することしか考えていないようで、さっさとしろと言う。

それに対して大きなため息をついてから7SはA2に近寄り、手を差し出す。

 

「A2、掴まって」

 

「わかった。それで、どうやって追うんだ?」

 

「ポッド。プログラムのミサイルの使用制限解除」

 

言いながら7Sがポッドを掴むと、ポッドから警告音が鳴り響いた。

 

「さて、覚悟を決めるか……」

 

「おい、なんだこれは。なんでその妙な箱から警告音がしているんだ!?」

 

「黙って。舌噛むぞ」

 

「何を言って―――」

 

次の瞬間、7Sが掴んでいたポッドが恐ろしい速度で天井に空いた穴へと向かって飛び立った。

当然、ポッドを掴んでいる7Sと、7Sの手をしっかりと握っているA2もだ。

安全装置はないし、遊園地跡地にあるジェットコースターとは比べ物にならない速度で上昇するポッドを掴んでいる7Sは防御システムの一部を改良しているので、気分以外では対した問題はない。

しかしそんな改良が施されているわけでも、覚悟が出来ていたわけでもないA2は悲鳴を上げていた。

 

「きゃああああぁぁああぁぁぁっ!!

 何これ速い速い怖い!止めて!ねぇ止めてよぉっ!!」

 

「キャラ崩壊してますよー」

 

これってもしかして元々はこんな喋り方だったのかな。とか思いつつ、ミサイルをかっ飛ばしながらもその音声を録音しているであろうポッドに対して内心でため息を零す7S。

目をぎゅっと閉じて怖がっているA2は見ていないが、この速さならヘーゲルたちが外に出るのとほぼ同時に自分たちも外に出ることになりそうだ。

そう考えて、A2はすぐに戦闘に移れるのか、そしてアレは外にあるのか。そんなことを思いながら7Sはヘーゲルの一体をハッキングしている他にもコンソールを展開し、すぐにでも操作できるようにして戦闘に備えた。




砂漠で戦うはずのヘーゲルがこんなところに!
ところでヘーゲルって絶対にエミール真似してますよね。エミールの方がえげつないですけど。

A2の元々の性格を考えると普通に可愛いと思うんですけどどうでしょうか。
それで、今みたいな口調になってるけど予期せぬことが起こったら昔の口調に戻るとかどうでしょうか。というか戻ると可愛いと思うんだ。

警告:ポッドプログラムであるミサイルは広い場所、直線が続く場所以外での使用は7Sによって禁止されている。
報告:ポッドプログラムであるミサイルは通常時の使用も禁止されている。使用には7Sの使用制限の解除が必要。

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