インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■不滅の超新星

IS学園の専用機持ちたちがアメリカへ到着してから数時間――

織斑先生のもとには千道紫電を除いた専用機持ちたちが全員集まっていた。

全員のISは激戦を繰り広げた証としてボロボロになっているが、戦闘不能な状態に陥った者は一人もいない。

IS学園VS亡国機業の直接対決はIS学園側の辛勝、という結果を迎えていたのだった。

 

「よし、みんな無事に勝利したようだな。残るは宇宙船に向かった千道か……」

「そうだ、宇宙船はどうなったんだ!?」

「宇宙船なら向こうの方に――」

 

シャルロットが宇宙船の方向を指差そうとした瞬間、フロリダ一体に届いたのではないかというほどの轟音が響き渡る。

その音はさっきまでケネディ宇宙センターの近くを飛行していた宇宙船が近くの荒れ地へと墜落していた音だった。

 

「宇宙船が……墜落した!?」

「……千道でも宇宙船のコントロール奪還は不可能だったか。だが宇宙船を誰もいないところへ墜落させるとは、上出来だ」

「紫電様が宇宙船を止めたんですね!やっぱり紫電様ならやってくれると思っていました!」

「本当、やってくれたぜ!流石紫電だ!」

「……」

 

周りで浮かれる仲間たちの中でシャルロットは一人、この場に紫電がいないことに疑問を抱いていた。

 

(紫電なら宇宙船を墜落させた後、さっさとこっちに合流しに来てもおかしくないと思うんだけど考え過ぎかな……)

 

「織斑先生、宇宙船の様子を見に行ってもいいですか?紫電がまだ来ていないので」

「ふむ、そうだな。デュノア、すまないが様子を見に行ってくれ。私たちは亡国機業の連中をアメリカ政府に引き渡しにいってくる」

「あー!私も行きたいです!」

「駄目だ、お前も気絶した亡国機業の連中を運ぶのを手伝え」

「むぅー、仕方がありません……。シャルロットさん、紫電様を頼みましたよ!」

「うん、任せて」

 

そう言うとシャルロットはIS学園の仲間たちから離れ、墜落した宇宙船の方へと向かっていった。

 

 

墜落した宇宙船に近づくと、シャルロットは周囲の環境の酷さに驚愕を覚えた。

おそらくかなり勢いよく墜落したのだろう、特に船首は大きな岩に直撃して大きくひしゃげており、周囲に岩の欠片やら宇宙船の部品らしき物体が飛び散っている。

 

「……街中に墜落しなくて本当に良かった。でも紫電はどこにいるんだろう?まさかまだこの飛行機の中にいるってことはないよね……?」

 

さっきからずっと紫電にプライベート・チャネルの接続を試しているが、全く反応がない――

シャルロットは嫌な予感がしていた。

宇宙船は市街地をそれるようにこの荒れ地の方へと方向を変えている。

だとすると少なくとも紫電は操縦室にいて、この宇宙船を操縦していた可能性が高い。

そして操縦席というものは当然、船首の方にある場合がほとんどである。

 

「まさか、ね……。紫電がそんなことになってるわけないよね……」

 

シャルロットはゆっくりとひしゃげた船首に近づくが、もしこの中に居るとすればISの絶対防御が発動したとしても体が押しつぶされてしまうのではないかというような状態である。

 

「そうだ、ISコアの位置情報を確認すれば……!」

 

普段あまり使わない機能のため忘れがちだが、ISコアはその位置情報を簡単にサーチすることができる。

シャルロットはひとまず宇宙船近辺にあるISコアの情報をサーチし、紫電がいないか探すことにした。

 

(……あった、ISコアの反応!……でもこれは紫電のISコア情報とは違う……?)

 

一瞬紫電のISコアかと思ったが、よくよくISの情報を見るとそれは紫電のものとは別のものだった。

ただこうしていても埒が明かないと判断したシャルロットは、そのISコアの方へと向かう。

 

「……え、この人……何?サイボーグ、なのかな?」

 

宇宙船の近くで倒れていたのは金髪の女性だった。

ただ、左腕があったであろう場所からは血が流れる代わりにスパークが走り、金属が顔を出している。

 

(……この人が紫電と戦った亡国機業の人なのかな。ひとまず織斑先生に連絡しておこう)

 

シャルロットは倒れ伏すスコールのことを織斑先生に連絡すると、再び宇宙船の方へと戻り、再びISコアの情報をサーチしなおす。

 

(お願い、紫電!無事でいて……!)

 

しかしサーチの結果は変わらなかった。

再びプライベート・チャネルの接続を試みるが、やはり反応はない。

 

「まさか……嘘でしょ……?」

 

ひしゃげた宇宙船の船首を見つめながら、シャルロットは最悪のケースを頭に浮かべていた。

宇宙船すらひしゃげるほどの衝撃なら、ISコアが砕ける可能性もある。

プライベート・チャネルが繋がらないのも、ISコアの反応がないのも、まさか――

 

「……紫電、返事してよっ……!いつもみたいになんともなかったような顔して、ひょっこり出てきてくれるんでしょ……!?」

 

シャルロットはもう何度目かわからなくなったプライベート・チャネル接続を行うが、ついに紫電からの返事が来ることはなかった。

 

 

(……ここは、どこだ……)

 

 

(……体が動かねえ……目も開かねえ……)

 

 

(……俺は……死んだのか……?)

 

 

(……情けねえな、まだ約束、果たしてねえじゃねえか……)

 

 

(……ようやく、宇宙への道を切り拓いたところだってのにな……)

 

 

(……ッ……)

 

 

(……こんなところで、くたばっていられるか……!)

 

 

(……俺は千道紫電、諦めの悪い男だろう……!)

 

 

(……こんな中途半端な結果じゃ……満足できねえッ……!)

 

 

(……お前もそうだろう、シオン!)

 

 

(ええ、その通りです。オリジンを黙らせるのに少し時間がかかってしまいましたが、私たちはこんなところで終わるわけにはいかない、でしょう?)

 

 

IS学園メンバーが亡国機業に勝利してから翌日――

紫電を除いた全員はIS学園へと戻って来ており、専用機持ちたちは任務報告のため生徒会室へと集められていた。

 

「昨日の亡国機業との戦いは御苦労だった。亡国機業の主要メンバーはアメリカ政府への引き渡しが完了した。……だがみんなも知っている通り、千道が消息不明となっている。今アメリカ政府が宇宙船の撤去作業を行っているが……千道が見つかるかは何とも言えない状況だ」

「そんな……」

「嘘だろ……?」

「紫電様……」

 

生徒会室に重苦しい空気が流れる。

 

(紫電……)

 

その中でもシャルロットの落ち込み具合は顕著だった。

あれほどの実力を持った紫電が消息不明、ということがどうしても受け入れられなかったのだった。

 

「シャルロット、辛いのはわかるがいつまでも引き摺られていてはだめだ。目の下に隈ができているぞ。今日はもう休んだほうが良い」

 

シャルロットは精神的に疲弊していると判断したラウラは即座に休息を取ることを提案する。

 

「……うん、そうだね……」

 

生徒会室を後にするシャルロットの足取りは重かった。

しかしそんなシャルロットの足が向かう先は自室ではなく、紫電の個室だった。

 

「紫電、いる?」

 

わかってはいたことだが、当然返事は無い。

シャルロットは鍵のかかっていない扉を開いて部屋に入ると、誰もいないことを確認して溜息をつく。

ベッドに腰掛けてもシャルロットの気がまぎれることはなかった。

 

「……ううっ……紫電……」

 

そのままベッドに倒れたシャルロットの目からは涙が溢れていた。

 

 

――動くな、シャルル・デュノア。貴様、何故性別を偽ってこの学園に入り込んだ?

 

――デュノア社の次期社長になってもらう。

 

――さあ、食べてみてくれ、このイチゴブドウのクレープ・シュゼットを。

 

――シャル、付き合ってくれてありがとうな。

 

――なあシャル、ようやくそれっぽいデートができたな。

 

「……ん……」

 

気付けばベッドで寝てしまっていたようだ。

既に窓からは夕日が差し込んでいる。

 

(……夢、か……)

 

シャルロットは先ほど見ていた夢の内容を思い出していた。

思えばシャルロットの人生は紫電による影響があまりにも大きい。

この喪失感はそれだけ紫電の存在が大きかったのだ、ということを如実に表していた。

 

「……紫電……」

 

――どうした、シャル。

 

(……?今のって……)

 

シャルロットが見ていた窓の反対側、扉側には紫電がよく紅茶を飲んでいる小さなテーブルと椅子がある。

そして寝ぼけ眼をこすってよく見ると、誰かが椅子に腰かけて紅茶を飲んでいる。

 

「昨日の戦いで疲れたか?」

「……!」

 

その声、その姿は、まぎれもない千道紫電そのものだった。

 

「……し、紫電……!?」

「ああ、今さっき地獄の底から戻ってきたぜ」

 

(……本当は宇宙船が墜落した瞬間、シオンが意識を取り戻したおかげでISの絶対防御が発動しただけなんだがな。おかげで昏睡状態になって出遅れちまった)

(本当にギリギリでした。私が昏睡状態になった紫電を座標操作で私たちの宇宙船に転移させていなければ、そのまま潰れていました。絶対防御と言えど、ISコアが壊れてしまえば無効ですからね)

(それが俺の悪運ってやつなんだろうよ。俺はまだこんなところで死ぬやつじゃないってことさ)

 

そして昏睡状態から目が覚め、座標操作で自分の部屋に戻ってきたらなぜかシャルが俺のベッドで寝ているのだった。

俺も正直疲れていたものの、流石に寝ているシャルを起こすのは気が引けたので、のんびりと紅茶を飲んで待っていたというわけだ。

 

「嘘じゃないよね……?本物の紫電だよね……!?」

「もちろん、正真正銘の千道紫電だ。触ってみるか?」

「……っ!」

「おっと」

 

飲みかけの紅茶をこぼさないようにカップをテーブルに置くと、俺はそのまま飛びついてきたシャルを抱きしめた。

 

 




最後は随分とあっさりしたものになりましたが、これにて完結です。
本当はもう少し書きたいものがあったんですが、
リアルのほうが多忙になってきたのでカットせざるを得なくなってしまいました。
特に50話過ぎた辺りから文章が雑になりがちでしたが、エタる前に完結できて良かったです。
評価・感想くださった皆さん、どうもありがとうございました!


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