インフィニット・ストラトス -Supernova- 作:朝市 央
「間もなく目的地です、後部ハッチ開きます!」
後部ハッチの前で待機していた俺たちの耳に輸送機の操縦士からの大声が届くと、ゴゴゴと音を出しながらハッチが開いていく。
「よし、私が先陣を切る。全員ついてこい、遅れるなよ?」
そういうと織斑先生が一番にハッチから飛び出していった。
「二番手は俺がもらうぞ。早くお相手さんと戦いたいんでね」
俺は織斑先生の後を追うように後部ハッチから空へと飛び出す。
スカイダイビングは初めてだが、いつもISを使って飛行しているので特に思うことはない。
フォーティチュード・セカンドを展開して上空を見上げると、他のメンバーたちも丁度ハッチを飛び出しているところだった。
「千道、先に言っておく。私は最も早く宇宙船に辿りつくのはおそらくお前だと思っている。宇宙船に辿りついたらどんな手段を使ってでも宇宙船のコントロールを奪え。最悪破壊してもかまわない」
「流石に宇宙船を破壊できるほどの武装はありませんが……。まあ、なんとか中に入って動力源でも破壊しますよ」
「ああ、頼んだ」
織斑先生と会話している間に全員がISを展開して集まって来ていた。
目標である宇宙船とはまだかなり距離が離れているが、十分目視できる距離だ。
それにISコアの位置情報を見るところ、ヨーロッパ組もこちらに向かってきている。
ただ、こちらに向かってきているのはヨーロッパ組だけではないようだった。
「……早速亡国機業がしかけてきたか。各自、亡国機業を迎撃しつつ宇宙船を目指して前進するぞ!」
真っ先に見えたその機体は俺もよく覚えている。
――グストーイ・トゥマン・モスクヴェだ。
「あら、イリーナ・シェフテルが早速お出ましとはついてるわね。私はあの機体を相手するから簪ちゃん、援護お願い!」
「う、うん、わかった!」
楯無先輩と簪はグストーイ・トゥマン・モスクヴェをターゲットにしたようだ。
(楯無先輩は何かイリーナ・シェフテルと因縁でもあるようだったが……。まあ楯無先輩なら大丈夫だろう。簪も援護についていることだし、負けはしないだろう)
内心は俺もイリーナ・シェフテルとは再度勝負したかったところだが、織斑先生から期待も寄せられているようだし、ここは宇宙船の奪還を最優先にすべきだろう。
そんなことを考えているとこちらに向けて炎の塊と氷の柱が飛んできた。
あれは――ヘル・ハウンドとコールド・ブラッドか。
「悪いが、こっから先は通させないぜ!」
「……イージスコンビか。そう言えばあんたたちと戦ったことはなかったな。丁度いい、相手を――」
相手をしよう、そう言いかけたところで今度は相手に向かって風の槍とオレンジ色のレーザーが飛んでいった。
「紫電!紫電はこんなところで立ち止まってちゃだめだよ!」
「その通りです!こんなクレイジーレズなんて紫電様が相手する必要はありません!シャルロットさん、私たちで紫電様の進む道を切り開きましょう!」
「シャルにエリーか。今まで戦ったことのない相手と戦うのは最近の俺の楽しみだったんだが、今回だけは譲っておこう。……負けるなよ?お前らは俺が認める実力者だ。こんなところで負けは認めないからな」
「わかってる、紫電が作ってくれたこのエクレールで負けるわけにはいかないよ!」
「紫電様、私が勝ったら何かご褒美をください!」
流石エリー、相手に攻撃されているこの状況でもぶれない。
こうして話している最中もヘル・ハウンドとコールド・ブラッドはエクレールとテンペスタⅡを狙って射撃攻撃を繰り返している。
しかし二人とも高速機動を売りにした機体だけあって、攻撃を軽々と避けていた。
「……流石に結婚は無理だがキスまでなら考えてもいい」
「……!絶対に勝ちます!」
「あっ!紫電、エリーだけに約束するのはずるいよ!僕もご褒美もらうからね!」
「わかった、わかった。だから今は目の前の相手に集中してくれ!」
「くそっ、あいつら余裕かましやがって……!」
「流石に両方とも最新鋭の機体っスねぇ。回避能力高すぎっス」
どうやら相手の二人もシャルとエリーにターゲットを定めたようだ。
今のうちに宇宙船へと近づくとしよう。……負けるなよ、二人とも。
◇
「ようやく見つけたぜぇ、フォーティチュード!」
「ん?何だ、いつぞやの三下か。少しは強くなったか?」
「誰が三下だ!オータム様だっつってんだろうが!」
下方から声がしたと思いきや、そこにいたのはアラクネを展開している三下、もといオータムだった。
「てめえが一番スコールの邪魔になるってことはわかってるんだ。大人しくここでくたばりやがれっ!」
「そうはさせん!」
「……っ!」
俺の方へと向かってくるアラクネの進行を遮ったのはレールカノンによる砲撃だった。
「この砲撃……ラウラか」
「紫電、すまないがこいつは私に譲ってくれないか?嫁から聞いたが、こいつは第2回モンド・グロッソでの誘拐事件にかかわっているのでな。嫁の敵討ち、というわけだ」
「ラウラ、オータムの相手なら俺が……!」
「一夏、あんたの相手はあっちで待ってるわよ。悪いけどあたし
「鈴!?俺の相手って……!」
鈴が指差す方向を見ると、そこには仁王立ちでこちらを睨みつけている黒騎士の姿があった。
「あれは黒騎士か……!」
「織斑一夏……!今度こそ決着をつけさせてもらう!」
(一夏一人で黒騎士の相手をするのはきついか……?俺が援護に――)
援護に行くべきか、そんなことを考えていると俺のすぐ横に箒が来ていた。
「紫電、一夏のことを気にしているのならその心配は不要だ。一夏は私が援護するから姉さんの作った宇宙船を奪い返してくれ!」
「……そうか。それじゃ任せたぜ、箒。一夏は一人にしておくとどうも不安なんでな」
一番厄介な黒騎士は一夏への執着心がえらく強いようだが、箒も一緒ならおそらく勝てるだろう。
だが今宇宙船を目指しているのは俺と織斑先生だけになってしまったか。
「千道、残るは私とお前だけだが私は
「……どうやら俺も一直線に宇宙船に向かうのは厳しそうですけどね」
目標の宇宙船はもう目の前というところまで近づけたが、宇宙船の甲板部分にISを展開して立つ二人の姿が見えた。
片方はテンペスタを展開したアリーシャ・ジョセフターフ。
そしてもう片方はゴールデン・ドーン……ということはスコールか。
テンペスタの方はすでに織斑先生を見つけたためか、こちらに向かってきている。
「やっと重い腰を上げたのサ、
「たかがそれだけの為に亡国機業に降った馬鹿者が……。いいだろう、ここで決着をつけてやる」
「その言葉を待っていたのサ!」
織斑先生は気を利かせてくれたのか、宇宙船から離れていく。
アリーシャ・ジョセフターフも俺への興味はないようで、こちらを一瞬だけ確認するとそのまま無視して織斑先生の後を追っていった。
一方、ゴールデン・ドーンは甲板から動く気配が無い。
最後の砦として俺が来るのを待っている、ということなのだろうか。
(まあなんにせよ宇宙船奪還のためにはあのゴールデン・ドーンを倒す以外ないか――)
俺はゆっくりと甲板に着陸することにした。
その間もゴールデン・ドーンからの攻撃はなかった。
「……こうして顔を合わせるのは初めてか。千道紫電、フォーティチュード・セカンドだ」
「そうね。何度か会ってはいたけど一応初めまして、と言っておきましょうか。スコール・ミューゼル、ゴールデン・ドーンよ」
「出会って早速で悪いんだが、この宇宙船は返してもらう。ようやく篠ノ之博士が宇宙への道を進もうとしているんだ。その道を邪魔させるわけにはいかない」
「宇宙船?なるほど、この船は宇宙にも行けるってことなのね。それじゃあ尚更返すわけにはいかなくなったわね」
「用途も知らずに強奪したのか?それじゃ技術の無駄遣いってもんだな。やはりこの船はお前たちには相応しくない」
「……一つ聞かせてもらおうかしら。なぜあなたはそこまで束博士の発明品にこだわるのかしら?同じ開発者としてこの宇宙船に興味があるから?それとも束博士のことが気になるからかしら?」
「……俺と同じく宇宙を目指す人に敬意を示した、それだけだ」
「宇宙を目指す……?ふふふ、あなた本気で言ってるの?」
「本気だ。人類が初めて宇宙に出てからどれだけ経ったと思っている?ようやくISができて宇宙への道が近づいたと思いきや、いつまで経っても人類は宇宙へと歩みを見せる気配を見せず、ISを兵器として運用してばかり。……一体いつになったら人類は宇宙へ行けるというんだ?お前らのように宇宙への道を妨害する奴が人類を宇宙から遠ざけるんだろう!」
そう言って俺はオブシディアンの切っ先をスコールへと向ける。
向こうも宇宙船を強奪した以上、共に歩むという選択肢は既にない。
ならば全力でぶつかり合い、どちらの意見が正しいのか押し通すのみだ――!
「……そう、残念ね。まあ、あなたのことは最初から仲間にできるなんて思ってなかったわ。あなたは少し亡国機業に被害を出し過ぎたわ」
俺の動きにつられてゴールデン・ドーンも戦闘態勢に入る。
「さっさと倒して宇宙船は奪還させてもらうぞ!」
「こちらもオリジンの命令なのよ。そう簡単には渡せないわ」
宇宙船をかけた戦いは最後の戦いに入ろうとしていた。