インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■二つの白式

「ぐあっ!」

 

織斑春香が振るう雪片弐型を受け止めようとした一夏は倉庫の壁まで吹き飛ばされていた。

 

(おいおい、どんなパワーだよ!?)

 

「一夏、加勢するぞ!」

「ほう、やはり来ていたか、千道紫電。だがお前の戦闘データは解析済みだ。この私と白式・雪羅にかかれば貴様のフォーティチュード・セカンドであろうとも勝てる確率はないぞ」

「へっ、好きなだけ言ってろ。いくら俺のデータを分析しようとも俺はお前の一歩先を行く。相手が織斑先生の母親だろうと誰であろうとな」

 

そう言うと俺はオブシディアンで織斑春香に斬りかかる。

だが俺の振り下ろしは雪片弐型であっさりと受け止められると、そのまま跳ね上げられてしまい、やむを得ずそのまま天井付近まで飛び上がる。

 

「くっそ、滅茶苦茶なパワーだ……。織斑先生の母親ってのは本当みたいだな」

「紫電、気を付けろ!まともに斬り合うのは難しいかもしれない!」

雪片弐型(ブレード)がメインウェポンのお前がそう言うのか?それは勝ち目がないと言っているようなもんだぜ?」

「俺とお前が協力すれば勝てるだろ!それに紫電、お前まだ何か秘策を隠してるんだろ!?」

「人任せかよ!?ちょっとはお前もがんばれっての!」

「ふっ、仲間割れか?千道紫電、お前の遺伝子にも興味がある。なぜお前はISを起動できるんだ?私が解明してやろう」

「実験動物になるのはお断りだ!そして俺が負けることを前提とした話もまた気に入らねえなッ!」

 

今度はフィンガーショットでエメラルド弾を発射し、直撃を狙ったが雪片弐型の一振りでエメラルド弾を切断されてしまう。

 

「エメラルドまで弾くとはな……。これが強化人間の力ってやつなのか?」

「ふふふ、その通り。だが私は後付けで遺伝子操作を行っただけで、完璧な強化人間ではない。完璧な強化人間を生み出すには、文字通り生まれたときから遺伝子を操作する必要があるのだ。そうして生まれたのが千冬だ。最も一夏にも同じ施術をしているのだが、千冬ほどの才気は発揮されなかったようで残念だったがな」

「だとよ一夏。お前も世界最強(ブリュンヒルデ)と同じだけの才能はあるみたいだぜ。できれば今それを発揮してほしいんだが」

「無茶言うな!」

 

今度は一夏が織斑春香に向かって荷電粒子砲を発射する。

 

「ふん、そんな単純な攻撃ばかりでは私に当てることなど――」

「できないとでも言いたいのか?」

「っ!?」

 

俺は座標操作を使って織斑春香の背後に転移すると、そのままオブシディアンの薙ぎ払いを直撃させる。

そして無理やりバランスを崩すことで、一夏の放った荷電粒子砲を直撃させることにも成功した。

おそらくシールドエネルギーもごっそりと削れただろう。

 

「がっ……!貴様……!」

「やっぱりあんたは世界最強(ブリュンヒルデ)とは違うようだな。潜り抜けてきた戦いの経験が違う」

「……!」

「そうだ一夏。こいつは戦いについては素人同然のパワー馬鹿だ。何度も何度もひたすらトレーニングを続けてきた俺たちが負ける相手じゃないぜ」

「ふん……たまたま一度の不意打ちがうまくいっただけで調子に乗るとは。所詮IS学園の超新星(スーパーノヴァ)もその程度か」

「……やっぱり俺の言ってることが理解できてねえらしいな。その()()()()()()()が勝負の境目になるということをあんたはわかっていない」

「……っ!」

 

今度は織斑春香がこちらに向けて薙ぎ払いを放ってくる。

確かにパワーだけならこちらよりも上だろう、だがそれだけでは勝敗は決まらない。

俺は後方への急加速で雪片弐型の薙ぎ払いを回避すると、振り終わりを見計らってフィンガーショットで反撃を試みる。

 

「くっ、猪口才なっ!」

「どうした、ブレードに振り回されているぞッ!」

 

流石にブレードの振り終わり直後は誰であろうと隙になる。

俺の指先から放たれたエメラルドの弾丸は吸い込まれるように織斑春香に直撃した。

 

「どうだ一夏、相手の動きをよく見ればどうってことはないだろう?」

「……ああ!」

 

一夏も気付いたらしい。

相手は身体能力と機体こそ優秀なものの、動きに素人っぽい部分が見えている。

研究者とも言っていたし、盗んだデータから再現した白式・雪羅だって開発したばかりのはずだ。

ISを使用した訓練まではおそらく大して行っていなかったのだろう。

今度は一夏が織斑春香に飛び掛かる。

 

「うおおおおっ!」

「……!」

 

威勢の良い掛け声とともに一夏は雪片弐型を上段に構えて突撃する。

当然織斑春香は振り下ろしを警戒するが、一夏は振りかぶった瞬間、雪片弐型を左手一本に持ち替えて変則的な薙ぎ払いの形へと変形させる。

それは俺が一夏と模擬戦をした際に見せた技だった。

 

 

「だあーっ!白式・雪羅になってから全然勝てねえ!なあ紫電、何が悪いんだろう?」

「うーん、まず白式・雪羅は以前よりも高性能になった代わり、エネルギーの消費がさらに悪くなったところが問題だな。だからよりエネルギー管理には慎重にならないといけないな」

「エネルギー管理か。俺どうもエネルギー管理って苦手なんだよなぁ。ほら、相手と戦っている最中に他のことに意識を向けられないっていうかさ……」

「それなら自分のエネルギーが尽きる前に相手を倒すしかないな。零落白夜の攻撃を外すことなく全て当てれば余裕だろうしな」

「……それが当てられれば苦労はしないぜ」

「前々から何度か言っているが、お前の太刀筋は真っ直ぐすぎるんだ。おそらく剣道の型が身に沁みついてるんだろう。もっと搦め手を使っていくべきだな」

「搦め手って言われてもなぁ……」

「例えばさっきの模擬戦で俺がお前にやった技、思い出してみろ。上段からの振り下ろしと見せかけて薙ぎ払いに変化させたやつだ。お前面白いように引っかかってたろ」

「あー、あれか。確かにあの攻撃の変化は避けられなかったなぁ……」

 

 

織斑春香に一太刀浴びせることに成功した俺はふう、と一息をつく。

 

「……なるほど、確かに紫電の言うとおりみたいだ。俺はまだまだ戦い方が甘いらしい。だがお前よりは上だっ!」

「たかが一太刀浴びせた程度で調子に乗るな!ガキがっ!」

 

相手は相当激昂しているみたいだ。

だが怒りで我を見失っているときっていうのは動きが単調になりやすい――

これもまた紫電からの教えだった。

 

「ふうっ……!」

 

白式・雪羅の突撃に対し、細かく瞬時加速を使って相手の裏を取ると、そのまま相手の背に向けて荷電粒子砲を放つ。

 

「がっ……!」

「今度は正面もがら空きだぜ!」

「!?」

 

いつの間にか紫電が織斑春香の正面に現れてブレードによる一撃を与えていた。

戦闘中の紫電は一瞬でも目を離すとどこに行ったかわからなくなり、次に気付くときはダメージを受けたとき、というまさに神出鬼没と言わさんばかりの高速戦闘を行ってくれるのだ。

その恐ろしさはIS学園で何度も身を持って味わっている。

敵にすると滅茶苦茶恐ろしいが、味方につければこれほど頼れる存在はいない。

それが俺にとっての紫電という存在だった。

 

 

「くそっ、私が遺伝子強化もしていない劣等種ごときに負けるだと……?ありえん、なぜだ……!」

「どれだけ自分の肉体を強化しようとも、戦いは身体能力の高さだけでは決まらない。数多の戦いを乗り越えて人は進化していくんだ」

「……くっ」

 

度重なる俺と一夏の攻撃によって既に織斑春香の白式・雪羅はボロボロになっている。

零落白夜も何度か食らっているため、シールドエネルギーも残り僅かといったところだろう。

 

「もうそろそろ限界だろう。諦めて降参したらどうだ?」

「ふん、誰が降参などするものか!」

「そうか、だがもうゲームは終了しているぞ!重力操作・陥没(ぶっ潰れろ)!」

「……!なっ……!」

 

織斑春香が倉庫の床へと墜落していく。

俺の重力操作も段々と板についてきているようで、織斑春香は立っているのがギリギリというような有様だった。

 

「今だ一夏、お前の剣で決めて来い!」

「任せろ!うおおおおお!」

「ぐうっ、舐めるなっ!」

 

一夏は全力で織斑春香の方へと向かっていくと、居合のような中腰の構えからの振り抜きで織斑春香の雪片弐型を弾き飛ばす。

 

「これが千冬姉の一閃二断の構えだ!」

 

必殺の振り下ろしが織斑春香に命中し、大小の亀裂が白式・雪羅の全体に走っていく。

 

「ぐううっ!……私が、劣等種なんかに、負けて、たまるか!」

「!?」

 

織斑春香の白式・雪羅が強く輝き始めると同時に、強力なエネルギー反応を確認する。

 

「まずい、自爆するつもりだ!離れろ一夏ッ!」

「わ、わかった!でも箒は!?」

「箒は倉庫を飛び出した遠い位置で戦っているみたいだ!だから心配するのはこっちだけで大丈夫だ!」

「了解!」

 

俺はトタン製の天井をぶち抜いて穴を開けると、そのまま空へ向かって飛び出した。

丁度俺と一夏が倉庫を飛び出した瞬間、倉庫の中で白い閃光が炸裂し、大爆発を引き起こした。

 

「うわあっ!?」

「……ッ!」

 

爆風に押される形で俺と一夏は上空へと押し出されていく。

かなりの高さまで押し上げられたが、機体へのダメージは何とか免れることができたようだ。

足元を覗きこむと、ついさっきまで激戦が繰り広げられていた倉庫は瓦礫の山と化していた。

 

「……なあ紫電。あの人、本当に俺の母さんだったのかな……?」

「……さあどうだろうな。ひょっとしたら織斑千冬にあこがれた狂信者だったかもしれんがな」

「……」

 

おそらく織斑先生であればその答えを知っているだろうが、あとは織斑家の問題だ。

俺がとやかく口を出すべきではないだろう。

 

「一夏!紫電!無事か!?」

「……あ、ああ。箒か。見ての通り、大丈夫だぜ」

「そうか。こちらはあの黒いISを撃破できたと思ったんだが、見事にISコアだけ持ち逃げされてしまった」

「そうか。箒もお疲れさん……と言いたいところなんだが、楯無さんからIS学園襲撃の連絡が来ている。このままIS学園へ転移するぞ。先に一夏と箒、お前らをIS学園の俺の部屋に転移させるからな」

「おう!」

 

一夏の返事を最後に、その場から三人は姿を消す。

最後に残ったのは倉庫の残骸、ただそれだけだった。

 

 


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