インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■もう一つの戦場

ケープカナベラル空軍基地が襲撃されてから早数時間――

空には月が輝いており、幸いにも視界は良好だった。

そして、基地周辺一帯はISだったものや建物の残骸で埋め尽くされていた。

 

「うーん、やっぱりこの程度の攻撃じゃアメリカ軍だけで凌げちゃうかぁ」

 

篠ノ之束は自身が使用しているラボ「吾輩は猫である(名前はまだ無い)」の中で戦況を冷静に分析していた。

第一陣として強襲に向かわせた無人機は10機。

その内既に半数は撃墜されており、戦力としては役に立たない。

残りの機体も大半は満身創痍といったところで、撃墜されるのも時間の問題、といったところだ。

ただし、アメリカ軍側に与えた被害も甚大だった。

イーリス・コーリングやナターシャ・ファイルスといった専用機持ちは未だ問題なく動けているが、練度の低いメンバーから次々と戦闘不能な状況へと陥っており、専用機持ち二人を除くと残りは二人が傷だらけの状態で残っているという状況に陥っていた。

 

「ま、()()()ならこれだけやってくれれば十分かな。戦闘データも十分取れたし、メインの機体はこっちだし☆」

 

そう言うとラボの中で眠っていた新たな無人機たちに光が宿っていく。

その名も『ゴーレムⅤ』、どうやったら千道紫電に勝てるかということをコンセプトに開発された篠ノ之束にとってある意味究極の無人機だった。

 

「さ、ゴーレムⅤたち、出撃出撃ぃ~」

 

ぱっかりと開いた天井からゴーレムⅤが次々と飛び出していく。

その数、なんと先ほど出撃していったゴーレムⅣの二倍、20機。

 

「もうすぐヨーロッパ各地からの援軍も到着するし、これくらいで丁度いいでしょ。さて私の方は、お目当てのものを手に入れに行こうかな!」

 

そう言うと篠ノ之束のラボは崩れたケープカナベラル空軍基地を後にし、北西へと向かって進んでいくのだった。

 

 

一方、ヨーロッパからの援軍部隊は一同に集い、大西洋を越えてケープカナベラル空軍基地の近くまで到着していた。

大半のパイロットはラファール・リヴァイヴを装備しているが、そのメンバーの中には専用機持ちであり、ISパイロットランキング3位のドイツ代表リーゼロッテ・ヴェルナー、同じく6位のイギリス代表アンジェラ・ウィルクスの姿もあった。

 

「イーリス・コーリングにナターシャ・ファイルスですね。無事で良かったです」

「随分と派手に戦ったもんだね。これでまだ死者が一人もいないってことのほうが驚きだよ」

「ええ、相手の狙いはISや兵器だけのようです。逃走する人たちには目もくれません。そしてあれらの機体は全て無人機のようです」

「ああ、何体か撃墜したが、どいつもこいつも中身のない奴らばっかりだった」

 

そう答える二人は既に多少の傷を負っている。

他に残っているアメリカ軍の二人はまだ立っているものの、大分大きなダメージを受けているようだ

 

「まあアメリカ空軍だけでこれだけ倒したんなら大丈夫でしょ。残りは私たちに任せときなさい」

「そうですね、残りはほぼ半壊している機体ばかり――!」

 

アンジェラはそう言いかけてその続きを言うのを止めた。

ハイパーセンサーに新たなIS反応が現れたからだ。

おまけにその数はなんと20機にも及ぶ。

 

「……前言撤回ね。イーリスとナターシャにもまだ働いてもらう必要がありそうね」

「そうですね。ここにきて敵の援軍とは……!」

「大丈夫だ。まだ動けなくなるくらいボロボロにはなってねえよ」

「まだまだ戦えるわ。こんなところで朽ち果てるわけにはいかないの……!」

「言うじゃない、ナターシャ・ファイルス。それじゃ、早速出撃といきましょうか!」

 

そう言うとリーゼロッテは先陣を切って飛び出していった。

 

「さあ、リーゼロッテさんばかりに良い所を持って行かれるわけにはいきません。私たちも行きましょう!」

 

アンジェラもリーゼロッテに一歩遅れて飛び出していく。

すっかり戦場と化したケープカナベラル空軍基地上空にて、ヨーロッパからの援軍を含んだアメリカ空軍は篠ノ之束によって放たれたゴーレムたちと再び激戦の渦中に飛び込んでいくのだった。

 

 

翌朝、IS学園――

俺はテレビをつけて朝のニュースを見ていた。

何処のチャンネルに回しても報道しているのはアメリカ、ケープカナベラル空軍基地が襲撃を受けたことの一点張りだった。

しかし俺が気にしていたのは奇襲があったことではなく、そこで起こった戦闘の勝敗である。

やがてニュース番組が進んでいくにつれ、結論としてニュースキャスターやら専門家やらから告げられた戦闘の結果は。アメリカ及びヨーロッパ各地との連合軍が謎のIS集団に()()()()ということだった。

 

(やはり篠ノ之博士が勝ったか。おそらくヨーロッパからの援軍も既に考慮済みの上で無人機を用意していたのだろう。いくらリーズさんやアンジェラさんらが来たとしても勝てないほどの戦力を――)

 

そんなことを考えていると部屋のドアがドンドンと叩かれた。

俺はテレビを消し、ドアを開きに行くとそこに立っていたのは怒りの形相を浮かべた一夏が立っていた。

 

「大変だ紫電!鈴が誘拐された!」

「……何?」

「これだ、この封筒が俺の部屋のドアの下に挟まってたんだ」

 

俺は一夏から封筒を預かると中身を確認した。

中に入っているのは短い文の書かれた手紙一枚と一人分の飛行機のチケット、そして目隠しをされて椅子に縛り付けられた鈴の映っている写真だった。

 

――凰鈴音は預かった。返してほしければ一人でこのチケットを使って上海まで来い――

 

手紙にはそう書かれているだけだった。

裏面をひっくり返しても何も書いていない。

 

「……まさかISを持っている鈴を誘拐することができる奴がいるなんてね、驚きだ。それで織斑先生にこのことは話したのか?」

「いや、まだだ。先に寮にいる紫電の方にも話しておこうと思って……」

「……そうか。だがこれは俺一人ではどうしようもないな。とりあえず織斑先生と相談するとしよう。俺は箒と簪と楯無先輩を連れてくるから、一夏は先に織斑先生に事情を説明しておいてくれ」

「あ、ああ。わかった」

「じゃあ後で生徒会室に集合ってことで。そっちはよろしく頼んだぞ」

 

そう言って俺は自分の部屋を後にした。

 

(シオン、鈴のISコアの位置情報は?)

(上海にいますね。ISコアとリンクしている生体反応も凰鈴音と変わりません。そのためISは奪われていないと考えます)

(……最悪のパターンとして剥離剤(リムーバー)を使われて甲龍が奪われた挙句、鈴の命も既に無いってパターンまで考えてたがそれは大丈夫ってことか。全く、心臓に悪い写真だったぜ)

 

写真だけでは鈴が生きているのかどうかまでは判別不明だった。

とりあえずは織斑先生に相談して奪還作戦を考案するしかないか――

俺はそんなことを考えながら残っている専用機持ちたちの招集に走り回るのだった。

 

 

一夏が俺に手紙を見せてから1時間後――

生徒会室には織斑先生を始め、IS学園に残った専用機持ちたち全員が集められていた。

 

「一夏、鈴が誘拐されたというのは本当なのか!?」

「……ああ、箒。今回みんなを呼んだのはそのためだ」

「……信じられない」

「まさか鈴ちゃんが誘拐されるなんて……」

 

一夏は顔を伏せたままそう告げると、周囲に重い空気が流れる。

そんな中、重い空気を切り裂くような鋭い声を発したのは織斑先生だった。

 

「みんな理解していると思うが、これはれっきとした誘拐事件だ。IS学園の生徒を誘拐するなど決して許されることではない。凰は必ず助け出す。そのためにみんなの力を借りるぞ」

 

一同は織斑先生の言葉に静かに頷く。

 

(アメリカが奇襲されることは篠ノ之博士からの言葉があったおかげで予想はできていたが、こんなことまで起きるとは、予想外だったな)

(紫電も凰鈴音救出作戦には全面的に協力するつもりですか?)

(ああ、鈴も俺が高みへと登るために必要な人間の一人だ。それに友人の一人として助けない理由がない)

 

「まず一夏にはこの手紙通り上海へ行ってもらう。それからつい先ほど鈴のISコアの位置情報を確認したところ、ISコアはステルスモードにはされてないらしく、鈴が上海にいることは確認できた」

「俺が上海に着いたらその位置情報をもとに助けに行けばいいってわけだな」

「……だが相手は凰を誘拐するほどだ。ISを持っていることはほぼ間違いないだろう。それに一夏一人を上海に行かせるのは私としても不安だ。そこで千道、お前の力を借りたい」

「……!」

 

周囲の専用機持ちメンバーが一斉に俺の方を見る。

随分と期待されているようで何よりだな。

 

「……具体的に、俺に何をさせるつもりですか?」

「お前、ドイツから帰ってきたのは飛行機じゃなかっただろう?ISの単一仕様能力辺りか何かで一瞬で移動してきたとしか考えられん。その力で上海に移動することができるんじゃないか?」

「……可能ですよ。正確に言えば、俺のもう一つの単一仕様能力である座標操作は特定の座標に人や物を転移させる力です。なので一夏が鈴の下へたどり着いたらその座標に転移して、こちらから奇襲をかけることができるでしょう」

「って紫電君、君のフォーティチュードの単一仕様能力は重力操作じゃないの?……まさか単一仕様能力を二つも持ってるの!?」

「単一仕様能力が二つは初耳……」

「いやいや、新星重工はコアを三つ持ってるんですよ?そのうちのもう一つが座標操作の単一仕様能力を発現させたんですよ」

「それでも二つ単一仕様能力を持っているというのは十分凄いのだが……。ところでその力は何人まで上海へ転移させることができるんだ?」

「二人くらいなら同時に転移可能、ってとこだな。というよりも一度に二人が限度か」

「上出来だ。上海には千道と篠ノ之、お前たち二人が織斑の援護をしろ。織斑は凰のいる場所に到着したらプライベート・チャネルで千道に周囲の状況を見て転移するタイミングを伝えろ」

「了解です」

「わかりました」

「織斑先生、こちらからも何か情報が得られないかアプローチしてみます」

「ああ、頼んだぞ更識。織斑は上海の空港に着いたらまず私に連絡しろ。以上だ」

 

織斑先生がそう言うと一同は解散となった。

 

(……しかし大変なことになってしまったな。アメリカでは篠ノ之博士率いる無人機がケープカナベラル一帯を占拠し、IS学園では鈴が誘拐されてしまうとは。もし神さまってやつがいるのなら相当暇を持て余しているらしい)

(紫電が神について語ることのほうが私にとっては予想外です。そんなに信心深かったとは思っていませんでしたが)

(もちろん、俺に微笑む勝利の女神以外は信じるつもりは無い。今回もまあなんとかしてみせるさ)

 

俺は一人自室に戻ると、今回の作戦に備えてフォーティチュード・セカンドのメンテナンスを始めるのだった。

 

 




どうやってIS持ちの鈴を誘拐したかは後ほどわかります。


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