インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■イタリアからの来訪者

やたら忙しかった十月も過ぎ、俺はようやくIS学園へと戻って来ていた。

そんな十一月の初日、俺はいつもと違ったメンバーと遭遇していた。

 

「ん、鈴に簪か。なぜ1組に?」

「あ、紫電。久しぶり―。なんか専用機持ちは全員1組に集めることになったらしいよ?」

「……ふーん、それでお前らがここにいるわけか。ま、確かに今年は専用機持ちの入学、転入が多かったし、IS学園としてもひとまとめにしておいたほうが楽ってことなんだろうな」

 

誰も予想していなかったクラス替えに周囲はざわめき立っている。

しかしそんなざわめきも、織斑先生と山田先生が教室に入ってくると一瞬で収まっていた。

 

「山田先生、説明を頼む」

「はい。このたび1年生の専用機持ちは全て1組に集めることにしました。理由は今までのIS学園への奇襲、襲撃の数々のことを考え、緊急時に向けた専用機持ちたちの戦力向上のためです」

「事実上クラス対抗戦はできなくなってしまったわけだが、専用機持ちの訓練は特別メニューが組まれることになるから安心しろ」

 

織斑先生の容赦ない言葉に俺以外のメンバーはげんなりとしている。

……ところがその隙をついて一夏の隣の席を狙っている鈴がいた。

 

「ちょっと鈴さん、なにを勝手に席を決めていますの!」

「そうだぞ、嫁の隣は私とて希望したいところだ」

「おい、くっつきすぎだ!」

 

セシリア、ラウラ、箒が騒ぎ出す。もてる男はつらいな、一夏よ。

そんな俺の隣の席はちゃっかりとシャルに占領されていた。いつの間に。

 

「席の話なら後にしろ。今日はもう一つ重要な話がある」

「はい。時期外れですが、転校生がいますので、静かにしてくださいね」

「失礼します!」

 

……はて、どこかで聞いたことのある声だ。

それも最近、日本以外のどこかで聞いたような気がする。

ガラリと教室のドアを開けて入ってきたのはやはりエリーだった。

 

「エレオノーラ・マルディーニです。イタリアから来ました。趣味は紫電様を観察すること、夢は紫電様との結婚です!よろしくおねがいします!」

 

やたら元気の良いその自己紹介の内容は周囲を凍りつかせた。

 

「え、紫電と結婚が夢って……どういうこと?」

 

俺の隣でシャルが固まっている。

 

「あー、エレオノーラさんも千道君狙いかぁ。私も狙ってるんだけどなー」

「千道君と結婚、その気持ちは分かるなぁ」

「エレオノーラさんかわいいし、千道君とも結構お似合いかも……」

 

周囲からの反応も様々である。

しかしそんなことも気にせず、エリーは俺の近くへとことこと歩いてきた。

 

「あー、紫電様の隣空いてないんですか?すいません、そこの金髪の人、代わってくれませんか?」

「え、僕のこと?」

 

現在俺の席は窓際最後列のため、隣の席は一つしかない。

そしてその席にはさきほどシャルがちゃっかりと座ってしまったため、俺の隣は空いていないのだ。

 

「……悪いんだけど、紫電の隣を譲る気はないよ」

「そんなこといわずに!隣の席じゃないと授業中に紫電様の顔が見れないじゃないですか!」

「いや、授業中は俺のことなんて見てないで授業に集中しろよ。エリー、俺の前の席が空いてるからそっちに座れ」

「うー……紫電様がそういうのでしたら……」

 

渋々といった感じでエリーは俺の前の席に着席した。

それを見ながらシャルはじとっとこちらを見つめてくる。

 

「紫電、随分エレオノーラさんと仲がいいみたいだね?愛称で呼ぶなんて。こないだイタリアに行ったときに知り合ったの?」

「ああ。だがシャル、気を付けろ。あいつは見た目こそあんな感じだが、テンペスタⅡのパイロットに選ばれたスーパーエリートだ。そしてアリーシャが不在となった今となってはイタリアの国家代表だ。実際に戦ったが、かなり強かったぞ」

「ええ!?紫電がそこまで言うなんて……」

 

流石のシャルも驚いている。

俺もあのどこか気の抜けたやんわりとした雰囲気に騙されたものだ。

戦い方はその見た目とは打って変わって質実剛健としており、風を纏ったガントレットを使ってインファイトもアウトファイトもこなす万能型ファイター、という器用っぷりだ。

 

「……」

 

その後、授業が始まったにもかかわらずシャルはエリーのことを時折凝視しているようだった。

 

 

「お昼休みですね、紫電様!私お弁当を作ってきましたので一緒に食べましょう!」

「っ!し、紫電!僕も今日お弁当を作って来たんだ!一緒に食べよう!」

「……今日は俺も珍しく弁当持参なんだが、まあいい。屋上行ってみんなで食べるとするか」

 

1年の専用機持ちは基本的にみんなで集まって食事することが多いが、今回は俺、シャル、エリーの三人だけで屋上へと来ていた。

ちなみに食堂では一夏を巡っていつものメンバーが喧騒しているが、それについてはこちらの知ったことではない。

 

「紫電様、私はチーズクリームのフェットチーネを作ってきました!さあどうぞ!」

「むぅ……紫電、僕はコルドン・ブルー(ハムとチーズを挟んだカツレツ)を作って来たよ!食べさせてあげるね!」

「……俺の口は一つしかないんだが。まあ両方いただこうか」

 

ひとまず先にエリーが差しだしてきたフェットチーネを食べる。

 

「む、これはうまいな……!チーズの風味とフェットチーネの柔らかさがちょうどよくてすごく食べやすいな。だがエリーがまさか料理上手とは思わなかったぞ」

「旦那様のハートを射止めるのに料理が下手では話になりませんから!」

 

エリーはドヤァとでもいいたそうな顔でこちらを見ている。

 

「じゃあ次はシャルのコルドン・ブルーをいただこうか」

「う、うん……あ、あーん」

 

一口サイズに切り揃えられたコルドン・ブルーを口の中にいれる。

 

「こっちもうまいな!素晴らしい肉の柔らかさだ。味付けも俺好みだな」

「そ、そうかな?良かった、この料理には結構自信あったんだ」

 

シャルは顔を赤くして照れている。

 

「よし、二人からの料理もいただいたから今度は俺の番だな。といっても俺のは二人の料理ほど手が込んだものではないが……」

 

そういって俺が取り出したのはなんの変哲もないおにぎりである。

 

「これはひょっとして日本の伝統料理であるおにぎりですか?」

「……紫電のことだし、これ、ただのおにぎりじゃないよね?」

「いいや?ただのおにぎりだよ。()()()()()()()()()()()()()()()()だよ」

「日本のお米はあまり食べたことが無いのですが、おいしいとは聞いていますよ。それに紫電様が握ってくれたのですから、私食べます!」

「あっ、僕も食べるよ!」

 

そう言うと二人は俺が握ったおにぎりを口に入れた。

 

「……!?お米って……こんなにおいしいのですか!?」

「……!紫電、やっぱりこのお米って紫電が育てたんでしょ!」

「よくわかったな、シャル。その通り、この米は俺が園芸同好会で育てたものだ」

 

米を宇宙で栽培できないかとピート君に任せたところ、できあがったのがこのライスフラワーという品種の米である。

一見するとお茶碗に白米が盛られたかのような形で実のなるこの変わった米は、味も地球産のものとくらべて上等だった。

それをピート君と共に品種改良してできあがったのが、この最高峰のライスフラワーである。

炊けばふっくらと粒が広がり、噛みしめればほどよい甘さと歯ごたえが返ってくる最高の米だと俺は思っている。

このおにぎりはなんとそのライスフラワーを炊いて少しの塩をかけて握っただけである。

それだけでも十分すぎるほどのインパクトを舌に与えてくれるのだった。

 

「ほら二人とも、まだ肝心の具に到達していないぞ」

「具、ですか?あ、この茶色いものですね?」

「これって……メンマ?」

「そう、カブトタケノコのメンマだ。流石に具なしだと寂しいからな」

 

二人が米と一緒にカブトタケノコのメンマを口に入れる。

 

「……っ!」

「メ、メンマってこんなにおいしかったっけ……!?」

 

二人は驚愕の表情を浮かべている。

そうだろうそうだろう、これは宇宙一食感とも呼べるくらいまで品種改良した特製のカブトタケノコを使い、手間暇かけて作り上げた最高傑作のメンマなのだ。

その味付けももはや神がかり的なものに近い。

 

「お、おにぎり一つでここまで感動をもたらすなんて、流石紫電様です……!」

「僕もおにぎりがここまでおいしいと感じたことは今までで一度も無かったよ……」

「素材からこだわってるからな。料理で重要なのは根性と忍耐だぜ」

 

その後は仲良く三人で持参した弁当を分け合うのだった。

 

「ところでシャルロットさんはひょっとして紫電様とお付き合いされているのですか?」

「……えっ!?い、いきなりどうしてそんなこと聞くの!?」

「私は紫電様に結婚を申し込んだ身です。シャルロットさんが紫電様に好意を持っているなんてまるっとお見通しです!」

「え!?……って紫電に結婚を申し込んだってどういうこと!?」

「言葉通りの意味です。イタリアで私は勝負に勝ったら結婚してくださいと紫電様にお願いしました!結果は敗北してしまいましたが、私はまだ紫電様のことを諦めたわけではありません!そしてシャルロットさんも紫電様が好きであると、見ていてわかりました!」

「な、なぁっ……!」

 

シャルの顔がカーッと赤くなる。

エリーは本当にストレートにことを喋ってくるな……。

 

「図星のようですね。ならばシャルロットさん、どちらが紫電様にふさわしいか勝負です!」

「ええ、なんでそうなるのさ!?」

「決まっています!どちらが紫電様の婚約者にふさわしいかはっきりさせるためです!」

 

……滅茶苦茶な理由だ。というよりそもそも結婚するとも婚約するとも言ってないんだが。

 

「わ、わかったよ、その勝負、受けて立つよ!」

 

こっちも受けんのかよ、それでいいのか?シャルよ……。

 

「……どっちが勝っても俺はまだ結婚するつもりは無いからな?」

「「えっ!?」」

「えっ、じゃねーよ!」

 

こいつら勝負に勝ったら俺と結婚する気だったのか!?

言っておいて良かった……。

 

「まあ紫電様との結婚は後回しです!それでもシャルロットさんとはどちらが紫電様にふさわしいのか勝負するのは決定事項です!放課後、アリーナで待っていますよ!」

「僕だって負けるつもりは無いよ!」

 

……ってISで勝負するつもりなのか!

ならばちょうど良い、エクレールとテンペスタⅡの戦闘データ採取のために俺も見に行こう。

ちなみに昼休みが終わった後の授業では、なぜか二人ともものすごいやる気を出していた。

 

 




ライスフラワーはアストロノーカの続編的存在であるコスモぐらしで出てくる野菜です。
筆者もコスモぐらしはやったことないのですが、折角なので活用させてもらいました。
アストロノーカでも育てらればよかったのになぁ。


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