インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■VS白騎士

篠ノ之博士が姿を消してからすぐさま俺たちは一夏の後を追っていた。

 

(ちっ、随分と遠くまで飛んでったもんだな……!)

 

遥か遠くに見える白い光目がけて全力で飛ぶが、距離はまだかなりある。

ただ、よく見ると自分たち以外にも一夏たちに接近する金色の光が見えた。

 

(あれは確かキャノンボール・ファストのときに見た機体……確か黄金の夜明け(ゴールデン・ドーン)!?ということはスコールか!)

 

「シャル、ラウラ、まずいことに相手も援軍が近づいているようだ。すまないが先行させてもらう!」

「わかった。嫁を頼む」

「気を付けてね、紫電!」

 

俺はカスタム・ウイング「アメジスト」の出力を大幅に引き上げ、二人を置いて一夏たちを猛追した。

 

(せめてスコールより先にたどり着かなくては……!もうちょっとで追いつくから耐えろよ、一夏!)

 

凄まじい速度の中、俺は一夏の身を案じていた。

しかし、一夏に近づくにつれてその状況のおかしさに気付いた。

 

(……白式じゃないだと?あれは……『白騎士』か!?)

 

遠くに見える白い光は白式によるものではなかった。

騎士のような全身を覆うアーマーに大型のカスタム・ウイング。

そのフォルムは一夏の白式・雪羅とは全く違うものだった。

 

(それと対峙してるのは……篠ノ之博士が言ってた『黒騎士』か!?)

 

よくよく見ると黒騎士は既に大破しているようだった。

それでも黒騎士は白騎士に向かって必死に攻勢をかけている。

しかし、全身を覆っていたであろうアーマーは所々が崩壊し、パイロットの顔があらわになっていた。

 

(あいつ、確かエムとか言ったか。……なんか織斑先生にそっくりだな……)

 

「貴方に、力の資格は、ない」

「うるさい、だまれええええ!私が、私が織斑なのだ!私こそが完成された織斑マドカだ!」

「資格のない、者に、力は、不要」

 

ハイパーセンサーを通して聞こえる二人の会話は俺には意味がよく分からなかった。

思わず減速して二人の会話を分析する。

 

(あいつ、顔が織斑先生に似てるだけじゃなく、織斑マドカっていうのか?どういうことだ?おまけにあの白騎士もコアの情報からして一夏に違いねえんだが、資格ってなんのことだ?)

 

……ダメだ、情報不足すぎて現状ではなんとも理解しきれない。

分析は諦めてあらためて加速する。

すると、もう既に白騎士と黒騎士はすぐ近くにいた。

黒騎士は白騎士の大剣が直撃していたようでもう既に戦える状況ではない。

止めを刺すなら今かと思っていた矢先、黄金の機体もまたすぐそばまで迫っていたのだった。

 

「潮時よ、エム。黒騎士の戦闘データももう十分よ」

 

スコールのゴールデン・ドーンが黒騎士の腕を掴む。

もう片方の腕にはオータムが抱かれている。

 

(くっ、オータムも奪還されたのか。旅館の方は大丈夫だろうか……?)

 

「さようなら、織斑一夏君、千道紫電君。また会えるといいわね」

「離せ、スコール!私は、私はっ!」

「聞き分けのない子は嫌いよ。お仕置きは嫌でしょう?」

 

スコールは黒騎士の腕を掴んだまま、瞬時加速して空域を飛び去って行った。

後に残されたのは白騎士と化した一夏のみ。

それはこっちを振り向くと抑揚のない声でこう言った。

 

「力の、資格が、ある者よ、私に、挑め……」

「……資格があるとかないとかよくわからんが、とりあえずはお前を正気に戻さねえといけねーようだな」

 

俺は両手に「アレキサンドライト」と「エメラルド」を構え、一気に白騎士目がけて引き金を引いた。

しかし白騎士は弾丸の雨も気にせず、瞬時加速して一気にこちらへと迫ってきた。

 

「何ッ!?」

 

これには流石の俺も驚き、クロスレンジへの侵入を許してしまった。

白騎士が大型のプラズマブレードを振りかぶると、一気に俺へと斬りかかってくる。

 

(なんだこのバカでけえブレード!かなり距離を取らねーと避けきれねえッ!)

 

俺も後方へと一気にブーストして振り下ろしを回避する。

 

(……この白騎士もかなりの加速力を持ってやがる。厄介だな……ッ!)

 

「紫電、大丈夫!?」

「な、なによあれ……一夏、なの!?」

「どうなってる、の……?」

 

シャルとラウラだけでなく、ホテル強襲に向かっていた箒、セシリア、鈴、簪もこちらに追いついたようだ。

俺は右手の「エメラルド」を横に突出し、これ以上前に出るなと警告する。

 

「……悪いがお前たち。この戦いに手を出さないでくれ。これは俺と一夏の真剣勝負だッ!」

 

そう言うと俺は白騎士へと接近し、スイッチブレードで斬りかかる。

 

「「「……!」」」

 

後から追いついたメンバーは察してしまった。

これは自分たちが割り込める勝負ではない。

自分たちの中で誰よりも強く、誰よりも努力してきた千道紫電だからこそ白騎士と対決できるのだと。

 

「喰らえッ!」

「……」

 

大型プラズマブレードの振り終わった隙をみてはスイッチブレードによる攻撃を繰り返す。

最早それは神速の域に達していた。

シャルたちは固唾を飲んでその光景を見守っているしかなかった。

 

「……いい加減に目を覚ませっての、一夏!」

「……」

 

目の前の白騎士との打ち合いは既に数十回は超えている。

それにもかかわらず白騎士からの返事は無い。

度重なるスイッチブレードの一撃によって白騎士の装甲もボロボロになってきたが、こちらのエネルギーも残りわずかである。

 

(ちっ、エネルギー管理には自信あったんだがなー……。こいつのエネルギーは底なしか?あんなでけえプラズマブレード使いっぱなしだっていうのにどうなってんだよ……!)

 

一瞬他のコアからのエネルギーを利用しようかと思ったが、すぐ近くではシャルたちがいるため、そういう訳にもいかない。

 

(……やむを得ないか。残りのエネルギーは一番威力のある「ルビー」に集中させて一撃で仕留めるしかねえ!)

 

あらためて目の前の白騎士の動きに集中する。

確かに相変わらず素早い機動を続けているが、流石に戦い始めた頃よりは衰えている。

もう一発、スイッチブレード以上に威力のある一撃で動きを止めるしかねえ!

 

(……今だッ!)

 

俺は大型プラズマブレードを振り下ろした直後の白騎士目がけて最後の一撃を放った。

同時に俺のフォーティチュードのエネルギーが尽き、機体から輝きが失われていく。

 

(……げっ、嘘だろッ!?)

 

俺の目の前に映ったのは大型プラズマブレードを今にも振り下ろさんとしている白騎士の姿だった。

馬鹿な、レーザー(ルビー)すら切ったっていうのか――!

目の前に白い大剣が迫ると、周囲は白い閃光に包まれた。

 

 

「紫電っ……!大変だ、助けなきゃ!」

「待てシャルロット!……様子がおかしいぞ」

 

はやるシャルロットをラウラが静止する。

白い閃光が収束すると、そこには紫電が大きな黒い刀を構えて白騎士の大型プラズマブレードを受け止めていた。

 

「紫電……?エネルギーが切れたんじゃ……」

「よく見ろ、シャルロット。紫電のフォーティチュードの形が変わっている。おそらくあれは――二次移行(セカンドシフト)だ!」

「「「!?」」」

 

ラウラの指摘を受けて全員がフォーティチュードの姿をよく見ると、今まで丸みがかっていたフォルムは鋭利な刺々しさを感じさせるシャープなフォルムへと変わっていた。

おまけにその手には今まで見たことの無い黒刀が握られている。

 

「紫電……良かった……っ!」

 

シャルの目からは涙が溢れだしていた。

 

 

俺は白騎士と鍔迫り合いの状態をあっさり押し返して距離を取る。

フォーティチュードは輝きを取り戻しており、機体が出せるパワーも前とは段違いになったようだ。

 

「……一夏、やはり俺を更なる高みへと登らせてくれるのはお前だったようだな。おかげで俺のフォーティチュードは次のステップへと進むことができた。これが、この機体が俺のフォーティチュード・セカンドだ」

 

(紫電、二次移行の完了と共に準備していた対零落白夜用の近接用ブレード「オブシディアン」を転送しました。また、単一仕様能力である「重力操作」も格段にパワーアップしています)

(……そうか、なら早速試させてもらおうか)

 

白騎士は再び距離を詰めて斬りかかってくる。

――だがもう既にその剣閃は見切っている!

 

俺は流れるように左へと移動し、白騎士の袈裟切りを回避すると左手を突き出した。

 

重力操作・陥没(ぶっ潰れろ)!」

 

すると突然白騎士が地面に向けて急降下を始めた。

しかしそれは急降下と言うよりももはや墜落に近い状態だった。

白騎士はなんとか両足で地面に着地したが、その体中は大きく震えており、立っているのもやっとというような有様になっていた。

 

「うおおおおおッ!」

 

俺は空中から勢いをつけると、白騎士目がけて渾身の振り下ろしを放った。

 

――バキン

 

まるで黒曜石のような黒い輝きを放つその刀は、白騎士の鎧を真っ二つに切断した。

切断された鎧がそのままゴトリと音を立てて倒れる。

中にいた一夏には傷の一つもできておらず、やがて鎧に続いて膝から崩れ落ちた。

 

「……やれやれ、手間かけさせてくれるなぁ、一夏よ。せめてお前が正気だったらもっといい勝負になったかもしれねえのにな」

 

そう言うと俺も地面にバタリと仰向けに倒れる。

今回ばかりは流石の俺もちょっぴり疲れた。

 

「紫電、一夏、大丈夫!?」

「おー、シャルか。俺のほうは見ての通りピンピンしてるぜ」

「……全然ピンピンしてるようには見えないんだけど」

「……ちょっとばっかし疲れただけだ。一夏の方はどうだ?」

「今箒たちが介抱してるけど、まだ目を覚ましてないよ」

「まったくしょうがねーやつだ。寝るなら旅館に戻ってからにしろっての」

 

俺はゆっくりと立ち上がると、一夏の方へ向かって歩いていく。

 

「おう箒。こんなところで寝かせといたら風邪ひいちまう。旅館まで連れて帰るぞ」

 

俺は一夏をひょいと背負い上げる。

 

「あ、ああ。だが紫電は疲れているのではないか?先ほどまで激戦を繰り広げていたではないか」

「女の子に一夏を背負わせるわけにもいかないだろ。それに俺はまだ元気さ、問題ねーよ」

「む、むう……」

「あー、そういや結局亡国機業には逃げられちまったのか。おまけに一夏はこんな状態だし、織斑先生になんて報告するかねー……」

 

そんなことを考えながら俺たちは旅館の方へと向かうのだった。

 

 


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