インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■天災との邂逅

大阪府某所、空港倉庫。

闇夜に紛れて俺たちは亡国機業への手がかりがあると言われる倉庫へとやって来ていた。

 

「……様子がおかしい。なぜこうも静かなのだ」

 

先頭を歩くラウラの足が止まる。

確かに倉庫の近くには見張りも警備員でさえも見当たらなかった。

――嫌な予感の正体はこれか!?

 

「みんな!ISを展開しろッ!」

 

俺がそう叫ぶと同時に倉庫が爆発し、大きな火の手が上がる。

それと同時にこちらに突っ込んでくる一つの機体が見えた。

 

「……!サイレント・ゼフィルスか!」

 

俺はスイッチブレードを両手から出力させ、目の前で振るわれた銃剣(バヨネット)をブロックしていた。

 

「貴様、邪魔をするなっ!私の狙いは織斑一夏!貴様だけだっ!」

「……だとよ一夏!どうも俺に用は無いらしい!」

 

銃剣をブロックしたままサイレント・ゼフィルスを蹴り飛ばして間合いを取ると、一夏が瞬時加速を使って果敢に斬りかかっていった。

 

「てめえ!いきなり何しやがる!」

「ふん、少しは成長しているようだな」

「ああ、おかげさまでな!」

 

二人は派手に火花を散らしながら上空へと駆け上がっていった。

まずいな、一夏を援護しに行くべきか――

そんなことを考えた矢先、俺の目には意外な人物が映っていた。

 

「にゃーん。せっかくの『黒騎士』のお披露目の邪魔はさせないよ☆」

 

その姿は夏の臨海学校で一度だけ見ていた。

――間違いない、篠ノ之束博士だ。

 

「きらきら☆ぽーん!」

 

右手のステッキをくるくると回し、ラウラたちに向けると、突然二人のISが地に這いつくばった。

 

「なぁっ!?」

「う、うごけない……!これは……重力?」

「にひっ。束さんの最新作、空間圧作用兵器試作八号こと玉座の謁見(キングス・フィールド)はいかがかな……ってあれ?なんで君には効いていないのかな?」

「……」

 

どうやらあのステッキがこの周辺に強力な疑似重力を発生させているらしい。

俺は自身の単一仕様能力である重力操作(グラビティ・コントロール)を使って自身にかかる重力を制御しているため、外部からの重力操作にもうまく対応したらしい。

どうやら俺の単一仕様能力は篠ノ之博士をも上回るようだな。

 

「無理やり人を地べたに這いつくばらせておいて玉座の謁見とは。まるで暴君ですね、篠ノ之博士」

「……ははーん、お前、二人目の男性操縦者ってやつだねぇ。ついでに言うといくつかのISコアからの情報送信を止めたのもお前かぁ」

「人聞きの悪い。ISコアにくっついていた余計な機能を削除しただけですよ」

 

篠ノ之束は目の前の男を目にすると、今まで無い以上に憤りを感じていた。

自身の愛するいっくんこと織斑一夏以外にも唯一ISを起動できる男。

そしてこいつが保有しているISコアからは一切情報がこちらに送られてこない。

おまけにISパイロットとしての腕が異常に高く、玉座の謁見すらもなぜか効いていない。

それら全てが篠ノ之束が憤りを感じる原因だった。

 

「お前……なんなんだよ、そんなに束さんの邪魔をしたいのかよ」

「邪魔をしているのはあなたのほうでしょう、篠ノ之博士。ISは宇宙空間での活動を想定した発明ではなかったんですか?」

「……!」

 

篠ノ之束は驚愕していた。

確かにISは自身が公言したとおり、宇宙空間用のマルチフォーム・スーツである。

そのことをこの場で指摘されるとは思ってもいなかったのだ。

 

「俺はガキの頃から、今もずっと宇宙を目指している。ISなんてまだ発表もされていなかった頃からずっとだ。それがたまたまISという便利な()()()が開発されたおかげで俺の計画は一気に進行した。だから俺は篠ノ之博士、あなたには感謝してるし、尊敬だってしている。宇宙へ出るという強固な信念が無ければISなんてものは生まれなかったはずだ。それがあなたはなぜ今こんなことをしているんだ!?宇宙への夢は、宇宙への意志はどこへ消えた!」

「……っ!?」

 

篠ノ之博士が俺の気迫に怖気づいたのか、一歩後ろに下がる。

俺はISパイロットとして、IS開発者としてどうしても聞きたかった、いや、聞かなければならなかった。

ISを宇宙開発の道具ではなく、兵器としての方向性ばかりを広げていくことを――

 

「答えろッ!篠ノ之束!」

「……っ!」

 

篠ノ之博士からの返答は無い。

やがて篠ノ之博士はステッキを軽く振り下ろした。

すると突然煙が爆発的に広がり、マジシャンのように篠ノ之博士の姿は消えてしまっていた。

 

「待て!逃げるのか、篠ノ之博士!」

 

煙がゆっくりと晴れていくと、そこに篠ノ之博士の姿は無かった。

それに続いてシャルとラウラもゆっくりと立ち上がる。

やはり篠ノ之博士はどこかへ行ってしまったのだろう。

その証拠にあの強力な重力も消えたようだ。

 

(結局答えは聞けなかったか。しかし俺には篠ノ之博士に聞く権利があるはずだ。同じ宇宙を目指すものとして――)

 

って今はそんなことを考えている場合じゃねえ!

 

「シャル、ラウラ、立てるか!?すぐに一夏を援護しに行くぞ!」

「ああ、少し立ちくらみがするが問題ない」

「大丈夫、そんなにダメージは受けてないよ」

「よし、急ぐぞ!」

 

俺たちはサイレント・ゼフィルスと戦っているであろう一夏のほうへと飛び立っていった。

一方、その陰では織斑千冬がこっそりと様子を伺っていた。

 

(ふむ、束の気配を察知してこちらに来たが、心配は無用だったか。……千道、お前には助けられてばかりだな)

 

飛び立っていった三人を陰から見送ると、千冬は旅館の方へと戻っていくのだった。

 

 

(なんなんだよアイツ、束さんのこと何も知らないくせに……!)

 

あれから篠ノ之束は空港倉庫から自身のラボへと移動していた。

しかし頭の中に浮かぶのは例の二人目の男の言葉ばかりだった。

 

(宇宙への夢?宇宙への意志?それを捨てたのは私じゃない!捨てさせたのは世界のほうじゃないか!)

 

思わず束の脳裏にISを発表したときの光景が浮かぶ。

自分は画期的な発明をしたと思っていた。

自分の発明は世界に認められるはずだった。それなのに――

 

「話になりません、こんなもの所詮はおもちゃですな」

「君は宇宙のことを甘く見すぎではないかね?」

「こんなもので宇宙に行けるわけがないだろう」

 

自称専門家たちの意見はISを否定するものばかりだった。

その瞬間からおそらく私の心は壊れ始めていたんだろう。

それがどうだ、白騎士事件を起こした途端世界は掌を返したようにISを賞賛し始めたではないか。

 

――ああ、そうか。

世界が求めてるのは宇宙開発のためのISではなくて兵器としてのISだったのか――

 

そう思ってから私の発明したものといえば、自衛のためのものに『紅椿』に『黒騎士』……。

それらは「宇宙」からは遠くかけ離れた「兵器」ばかりだった。

しかしあの二人目の男の言葉を聞いて思い出してしまった。

 

(宇宙、か……。なんであのとき答えられなかったんだろう)

 

私は宇宙への夢を決して忘れてはいないし、諦めてもいないはずだ。

だがあのとき、私はそう言うことができなかった。

 

私があいつに畏怖していたから?

――否、その答えが頭の中から消えてしまっていたからだ。

 

(あの二人目の男、名前なんて言ったっけ……)

 

束としては珍しく、興味を持った男の名前を思い出そうとしていた。

そしてその口角は気付かぬ内にほのかに上がっていくのであった。

 

「束様、いつになくご機嫌なようですが何か良いことでもありましたか?」

「あ、くーちゃん。ちょっと昔のことを思い出してただけだよ。それと、ちょっと面白い奴がいてね……」

 

そう言うと束はいつも通りに振る舞うのだった。

 

 


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