インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■選抜射手の一撃

京都タワー展望台は周囲360度全てが見渡せるおかげで状況把握が行いやすい。

俺が京都タワーに行こうとした理由はそのためだった。

もっとも、シャルが一緒についてきたのは完全に予想外でただのデートになってしまったが。

 

「シャル、見えるか?あれが有名な清水寺だ。清水の舞台がある場所だ。それとその手前に見えるのが三十三間堂だ。なんでも1000体近くの千手観音像が現存しているらしい」

「へえー、確かに高いところから遠くを見渡すってのもいいよね。いろんなところ見えるし、なんだか得した気持ちになるよね!」

「そうだな、高いところは確かに良い」

 

俺は早速不穏な予感を覚えはじめていた。

まさか、もう亡国機業は動き始めているのか?

そう思った俺は眼鏡型ディスプレイのスイッチを入れ、全員の居場所を確認する。

 

――これは!?

なんとなくだがディスプレイに表示された居場所に違和感を感じ取った俺は、関係者以外立ち入り禁止と書かれたドアを開くと、展望台から外へと通じる通用口へと飛び出していった。

 

「ちょ、ちょっと紫電!?どうしたのさ!?」

 

シャルが俺の後をついてくるが、俺はそんなことも気にせず全速力で展望台の上へと続く階段を駆け上がっていった。

展望台の上についた俺は再び眼鏡型ディスプレイを起動し、目標の位置を確認し直す。

その瞬間だった。

タンッ、と密かに展開していたハイパーセンサーを通じて微かに聞こえたその音は銃声だった。

 

「ちっ、亡国機業、もう動き始めたか!」

「ねえ紫電、危ないよ!?なんでこんなところに来たのさ!」

「誰かが狙撃されている!それも狙撃手はおそらく――!」

 

俺は右手にマークスマンライフル「エメラルド」を展開すると、眼鏡型ディスプレイで位置を確認した人物をスコープ越しに発見した。

 

「やはり……狙撃手はダリル・ケイシー!」

「ええっ!?」

「シャル、危ないから伏せてろ!」

 

俺は再度スコープを覗き、ダリルの持つスナイパーライフルに照準を合わせる。

距離はおよそ600メートルってところか。

通常のマークスマンライフルであれば射程圏外になる距離だが、このエメラルドはIS用の武装のため、それよりも射程距離は長い。

また、狙撃用に特化した狙撃(スナイプ)モードも仕込んであるため、これくらいの距離の狙撃はなんてことはない。

 

(……集中しろ、目標(ターゲット)はただ一つ、対象の武装を破壊する)

 

スコープ越しのダリルは二発目の弾丸を撃ちだそうと引き金を引くところだった。

 

(……今だッ!)

 

バシュッ、と緑色のマズルフラッシュと共に緑色の弾丸がエメラルドから放たれていった。

放たれた弾丸は見事にスナイパーライフルのスコープ部分を破壊し、ダリルの手からライフルが弾け飛ぶ。

スコープ越しに見えるダリルの顔は驚愕に染まっており、いったいどこから狙撃してきたんだ、とでも言っているようだ。

 

「……ふっ、狙撃の腕ならこっちのほうが上のようだな」

「ねえ、さっきからどういうこと!?本当に先輩が裏切ったの!?」

「ああ、どうやらダリル・ケイシーは一夏を狙撃しようとしたらしい。シャル、このままISを展開して一夏の様子を見てきてくれ!あいつのことだから弾丸には当たっていないだろうけど、状況確認が必要だ」

「わ、わかった。でも紫電はどうするの?」

「俺はこのままダリルを追跡する。一夏の状態が確認できたら他のメンバーにも連絡しておいてくれ!」

「……わ、わかった!」

 

俺は京都タワー屋上から勢いをつけて跳躍し、そのままフォーティチュードを展開すると、狙撃地点へと向かって全速力で飛び立っていった。

 

 

狙撃地点にたどり着いた俺は意外な機体を目にしていた。

ダリルの機体である『ヘル・ハウンド』はともかく、その隣にいるのはフォルテ・サファイアの『コールド・ブラッド』だった。

 

(なるほど、ダリル・ケイシーだけでなくフォルテ・サファイアも裏切ったか。しかし――)

 

俺はその二機と対峙している機体が想定外だった。

その機体の名は『(テンペスタ)』という。

イタリア代表であり、第二回モンド・グロッソ覇者であるアリーシャ・ジョセフターフの愛機だった。

 

「あなたは……アリーシャ・ジョセフターフ!?なぜここに!?」

「おや、私のことを知ってくれているのサ?千道紫電君」

「……!なるほど、楯無先輩が言っていた情報提供者とはあなたのことですね」

「察しが良くて助かるのサ。早速あのクソガキどもを教育してあげるのサ!」

「教育ですか。存外優しいのですね、アリーシャさんは。では俺は――その片腕でも持って帰りましょうかッ!」

 

俺は再びマークスマンライフル「エメラルド」を構えると、ヘル・ハウンド目がけて狙撃する。

 

(ちっ、流石に市街戦で弾幕を張る訳にもいかねえ。余計な犠牲者を出すわけにもいかねえし、結構戦いにくいな)

 

「そっちは射撃メインの機体のようなのサね。ならこのアーリィにお任せなのサ!」

 

アリーシャさんは両手を広げると、だんだん風が集まりテンペスタとそっくりな像を作りだした。

 

(なるほど、実体のある分身。これがテンペスタの単一仕様能力、疾駆する嵐(アーリィ・テンペスト)か!)

 

「さて、これで四対二なのサ」

「……いくぞッ!」

 

俺は周囲への影響を考慮して武装をスイッチブレード一本に絞ると、アリーシャさんと共に猛攻を加えていった。

 

(流石は織斑先生と対等に渡り合える数少ない人物。なかなかの攻撃を見せてくれるッ!)

(おやおや、こっちの子は一夏君と違って随分と強いようなののサ。反応速度が尋常じゃないのサ!)

 

一方、数の利もあって流石のダリルとフォルテは終始反撃に踏み出せず、防戦に徹していた。

 

「ちぃっ!なんて猛攻だ……っ!シールドエネルギーがガリガリ削られやがる……っ!」

「まずいっスよ、氷の防壁が持たないっス!」

「しかたねぇ、フォルテ!()()をやるぞ!」

「あ、アレっスか!?そ、それはちょっとは、ハズいっス……」

「言ってる場合か!やるぞアレを!」

「ああもう!ほんとうにやるっスね!?」

「いくぞ!凍てつく炎(アイス・イン・ザ・ファイア)!!」

 

二人がキスをすると二人の体は炎を内蔵した氷のアーマーに包まれていった。

 

「私の風はその程度の防壁、突破するのサ!」

「……!待った、アリーシャさん!あの防壁――」

 

俺の静止にもかかわらず、アリーシャは対戦車ライフルをも凌駕する風の拳を突き出す。

 

「かかったな、色ボケババア!」

 

氷の防壁は衝撃を吸収し、内部から巨大な炎が噴出する。

そのときに生じた爆発の反発力を使い、ダリルとフォルテはさらに距離を取ると、そのまま全速力で逃げていった。

 

「……追わないんですか?アリーシャさん」

「どうせまた会えるのサ。ここは一旦引いて皆と合流サ」

「そうですか。では俺もその意見に従いましょう」

 

俺とアリーシャさんは地上に降りてISを展開解除すると、ゆっくりと歩いて行った。

 

 

旅館の大部屋でみんなと合流した俺は珍しい人物を見つけていた。

 

「おや、あの時の三下じゃねーか、ついに捕えられたのか。あー、たしか……ウィンターだっけ?」

「オータム様だ!」

「うるさいぞ」

 

ラウラは容赦なくオータムのみぞおちに蹴りを入れる。

 

「紫電、無事だったの!?」

「ああ、シャル。こっちは問題ない。予想外の助っ人のおかげでね」

「……?そっちの人は?」

「私の名はアリーシャ。『テンペスタ』のアーリィといえば、一応知ってくれているのサ?」

「あなたが『テンペスタ』の……あの、失礼ですがその腕と目は……?」

「ああ、これは『テンペスタⅡ』の機動実験でちょいとやらかしてね。あいにく不在なのサ」

「……」

 

一同に重い空気がのしかかり、その場を沈黙が支配する。

 

「……さて、こちらは戦力が二人減ったが敵一人減った。だがこちらにはさらにアーリィが加わりプラス1。しかし相手にも戦力がプラス2されたことを忘れるな」

 

沈黙を破ったのは織斑先生だった。

さらにはどこからともなく楯無先輩もあらわれていた。

 

「ともかく先手は打たれちゃったけど、今度はこちらから攻める番よ。敵の潜伏先は二つに絞られたわ。一つはここから遠くない市内のホテル。もう一つは空港の倉庫よ。……まさか堂々と一般客として宿泊してるなんてね」

「へっ、今まで気付かずにいたんだろうが、マヌケ!」

「「うるさいぞ」」

 

今度は織斑先生とラウラの師弟コンビの蹴りがオータムを襲う。

……二人とも容赦ねえな。

 

「それじゃあ私たちは部隊を二つに分けましょうか。まずはアーリィ様率いるホテル強襲部隊。これには箒ちゃん、鈴ちゃんがアタッカー、セシリアちゃん、簪ちゃんがサポートね」

「了解した」

「任せなさいよね」

「後衛ならわたくしの独壇場ですわ」

「足を引っ張らないよう、頑張る……」

 

「残る一夏君と紫電君、シャルロットちゃん、ラウラちゃんは倉庫に潜入ね。ラウラちゃんがエスコートしてあげてね。あと、何かトラブルが発生した際は、紫電君の判断に任せるわ」

「無論だ。潜入任務は任せておけ」

「みんな、がんばろうね」

「俺も気合い入れていくぜ!」

「……まあなんとかなるでしょう」

 

「織斑先生と山田先生、そして私はこの本部で待つわ。何かあったら駆けつけるからね。それでは、作戦開始!」

 

バッと開かれた扇子には出陣、と刻まれていた。

 

(……さて、本日二度目の嫌な予感だ。それも今までとは比べものにならないくらいついていない日になりそうだぜ)

 

こういうときに限って察してしまう嫌な予感は今まで見事に的中していた。

俺は心の中に黒いもやもやを抱えながらも倉庫に向かうのだった。

 

 


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