インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■宇宙農家の矜持

俺とシャルがフランスから帰って翌日。

いつも通り教室に向かった先では一夏がぐったりとした様子で机に突っ伏していた。

 

「よう、帰って来たぜ……ってなんだ一夏、随分疲れてるみたいじゃねーか。何かあったのか?」

「……ああ、紫電か。実はお前らがいない間にIS学園に襲撃があったんだ。なんとかテロリストは撃退したんだけど、楯無さんが怪我を負ってしまって……」

「なんとまあ、ついてねーな。こっちもフランスでテロリストに襲われたが、シャルとデートできた分まだましだな」

「何っ、デートだと!?」

「それは本当ですの!?」

「シャルロットよ、それは本当か!?」

 

箒、セシリア、ラウラがシャルに食い気味に質問する。

一方のシャルは顔を赤らめている。

 

「え、えへへ……デートだなんてそんな……」

「教えてくれ!どんなことをしたんだ!?」

「ずるいですわ!シャルロットさん!」

「頼む!シャルロットよ!嫁との今後の参考にさせてくれ!」

 

デートといってもあんまり大したことはできなかったんだが……。

まあシャルが良ければ俺もそれでいいか。

 

(それにしてもIS学園が襲撃されるとは。おまけに学園最強とも言われる楯無先輩も怪我とは、この学園のセキュリティはとことん信用できないようだな……)

(そのようですね。最新鋭の技術に各国の要人がいる割に警備は脆いようです。自分の身は自分で守るしかないようですね)

(……やれやれ、なんのためにIS学園に入学したんだか……)

 

そうこうしているうちに織斑先生と山田先生が教室にやってきた。

ちょうど朝のショートホームルームの時間だが、二人ともお疲れ気味のようだ。

織斑先生のほうはさほど疲れた様子は見せていないが、山田先生は目の下に少々くまができている。

 

(……しかしIS学園防衛の要である織斑先生たちと楯無先輩の体調が思わしくないというのは非常に危険だな。ここいらで俺がちょっとしたテコ入れを行うとするか)

(紫電、何をするつもりですか?)

(いやいや、ちょっと新作野菜の味見をね?)

 

教壇では山田先生が疲れた顔を必死に隠しながら話しているが、俺はほとんどその話も聞かずにピート君から送ってもらう野菜の選別をしていた。

 

 

その日の放課後、俺は織斑先生、山田先生、楯無先輩、一夏を1年生寮の食堂へと呼び出していた。

 

「なあ、紫電。言われた通りの皆を連れてきたけど、何をするつもりなんだ?」

「食堂に呼ぶってことは何をしたいか分かるだろう?園芸同好会で収穫した野菜を使って作った料理をみんなに食べてもらうんだよ」

「……なぜ私がお前の作った料理を食べなくてはいかんのだ?」

「一夏から聞きましたよ。先日襲撃があったってこと。それでみなさん疲労が溜まっているようなので俺の野菜料理で体力を回復してもらおうと思いましてね」

「えっと、千道君から見て私たちってそんなに疲れているように見えましたか……?」

「一夏と山田先生は一目見てわかりましたよ。楯無先輩に至っては怪我したとまで聞いてますし、織斑先生も気付いてないかもしれませんが、今日はいつもより眉間を押さえる回数が多かったですよ」

「……なるほど、よく見ているようだな」

「あら、おねーさんのことも心配してくれてるの?紫電君がそんなに私のこと考えてくれるなんて、嬉しいわね」

「……まあ楯無先輩についてはさほど心配していません。それだけの無駄口が叩けるようであればね」

「……やっぱり冷たいのねぇ」

 

バッと開かれた扇子には冷酷、と書かれている。

 

「ま、俺自身は冷たいかもしれんが料理は温かいから安心してください。それじゃ、もう盛り付けまで済んでいますんで、冷めないうちにどうぞ召し上がってください」

 

俺がそういうと各自食堂の席に着く。

 

「ほう、和食か。見た目は中々良くできているな」

 

綺麗に並べられた御膳はそれぞれご飯もの、汁物、漬物、そして主食とバランスの良い配膳がされている。

 

「あ、あの、千道君。このご飯ってひょっとしてですが、松茸ご飯ではありませんか?」

 

山田先生が手にしたお椀にはデカデカとしたマツタケらしきものが乗っていた。

 

「ええ、その通り。最近松茸の栽培に成功したので、松茸ご飯にしてみました」

「こ、この芳しい香り……!それにこの大きさ!……本当に良いんですか?千道君」

「ええ、先生たちの為に作ったんですから冷める前にぜひ」

「そ、それではいただきますね……んっ!?」

 

松茸ご飯を口にした真耶の目の前には宇宙が広がっていた。

暗い宇宙の中で弾けるようなビッグバン。

思わず真耶は自分の服が吹き飛んだような錯覚に襲われていた。

 

「はあぁっ……!なんて香りと食感……!松茸ってこんなすごいものだったんですね……!」

 

山田先生の目が光り輝いているのを他のメンバーは驚愕の表情で見つめていた。

 

「そ、そんなに美味いのか、この松茸ご飯……」

「なんだか逆に食べるのが怖くなってきたわ……私はこのお味噌汁をいただこうかしら」

 

楯無先輩は味噌汁椀を手に取ると、ゆっくりと口を付けた。

 

「……!?」

 

楯無先輩の目が見開かれる。

「これは……深いわね。このお味噌汁、昆布出汁を使っているようだけど何なの、この味わい深さ……!」

 

楯無先輩もなかなか鋭い。

この味噌汁に使った出汁は通称月面コンブと呼ばれる代物だ。

意外なことに、ピート君が宇宙では海水なしでコンブやワカメを育てることができたので、月面ワカメと共に味噌汁に仕立てたのだ。

最初はもっと具を入れるべきかと思ったが、月面ワカメの味の濃さと歯ごたえの良さがあったため、具を一つに絞ったのもうまい具合に出汁の良さを引き出せたと思う。

 

「おっ、このコロッケとうもろこし入りか!それにこの赤みがかった色と匂いはカボチャだな!」

「その通り、そいつは火星カボチャとロウソクコーンのコロッケだ」

「火星カボチャにロウソクコーンて……また変わった品種名だな」

「なんとなく見た目がそんな感じだったんだよ。まあ品種名はともかくそのコロッケはかなりの栄養バランスを誇る一品だ」

「どれどれ……おお、程よい甘さにサクサクの衣がいい感じだ。それにカボチャの匂いも油に負けていないな!ところでもう一つ無いか?」

 

一夏はあっさりとコロッケを平らげると、おかわりを要求してきた。

もちろん用意してあるとも。

 

「……ふむ、漬物はナスの一本漬けか。なかなかよく漬けられている。酒が欲しくなるな」

 

織斑先生は土星ナスの一本漬けを楽しんでいるようだ。

その証拠に目元と口元が緩んでいる。

 

「あー、うまかった。本当に紫電は料理上手だなぁ。俺も負けてらんないな!」

「本当においしかったですねぇ。疲れが吹き飛んだようです」

「……さてみなさん、食事を楽しんでいただけたところで最後のデザートを食べていただきましょうか」

「あら、デザートまで用意してくれてるなんて、気が利くじゃない」

「こちらが本日最後の一品、アイスクリームです」

 

テーブルに着く四人の前に白いアイスクリームを置いていく。

 

「このアイスは……バニラか?」

「確かに色はバニラのようですが匂いが少し違うような気がしますね。この匂い、とても良い香りですが嗅いだことの無い香りです」

「まあ味は気にせず、一口どうぞ。溶けてしまうので」

 

そういうと四人は目の前に置かれたアイスクリームを一掬いし、口の中へと含んだ。

 

「「「「……っ!?」」」」

 

四人は一気に目を見開くと一斉に立ち上がった。

 

「なっ、なんだこの味!?すげえうまいぞ!?」

「確かにすっごく甘くてとろけそうな食感なんだけど……!」

「くっ、冷たいアイスを食べたはずなのに体中が熱い!千道、どうなっている!」

「織斑先生、そういいながらも全部食べちゃってますよ!?」

 

そう、これこそ本日とっておきのデザート、銀河ドリアンのアイスクリームである。

一見は普通のバニラアイスだが、その味付けの正体はドリアンである。

ドリアンは果物の王様と呼ばれるほどすばらしい味と栄養価を誇る果物だ。

ただし、その匂いは強烈な臭さを持つため、日本ではなかなか流通していない。

それを改良し、ひたすら良い匂いと驚異的な栄養価を誇る果物へと品種改良したのがこの銀河ドリアンである。

もはや一口食べれば体力全快、一つ食べれば奇跡の秘薬とも言えそうなほどの代物を食べやすいアイスクリームにすることで俺はこの四人の疲労回復を狙ったのだった。

 

「皆さん完食したようですね。満足してもらえたようで何よりです。少しは疲れが取れましたかね?」

「疲れが取れたどころか体中に力が漲ってくるみたいだぜ……どうなってんだ、このアイス!?」

「熱さを感じている内に怪我の痛みが無くなったみたいね……」

「体中がすっごく熱いです!眠気も吹き飛びました!」

「……食べて熱くなるアイスなど最早アイスとは呼べんな」

 

みんなの言うとおり、このアイスはあまりの栄養価の高さ故に食べると体中の代謝が良くなり、体中が熱くなってしまうのだ。

織斑先生の言うとおり、もはやアイスとは言えないアイスのような何かというほうが正しいのかもしれないな。

 

(今回の野菜もうまく調理できたようですね)

(ああ、素材の良さを引き出すためには料理が必要だ……。まだまだ研鑽しなければな)

 

俺はみんなの食べた皿を片付けながら、そんなことを考えるのであった。

 

 




☆本日のメニュー☆

・冥王マツタケごはん
・月面コンブと真空ワカメの味噌汁
・土星ナスの一本漬け
・火星カボチャとロウソクコーンのコロッケ
・銀河ドリアンのアイスクリーム

以上、お粗末ッ!


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