インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■シャルロット・デイ(2)

「はあああああっ!」

「……甘いッ!」

 

シャルとホテルで一泊して翌日。

朝食を早々に済ませた俺たちは再びデュノア社のアリーナで稼働データ採取に勤しんでいた。

今回はターゲットの破壊ではなく、俺との実戦による戦闘データの採取が主だった。

 

「まだまだエクレールの稼働率は上げられるはずだ。それこそ全速力を出せれば俺に追いつくことも不可能ではないほどに」

「……えいっ!」

 

シャルはエペ・ラピエルを使った射撃で俺に向かって反撃してくる。

その射撃に合わせて距離を詰めると、一気にブラスト・パイルの射程距離内まで飛び込んできた。

 

「……!なるほど、いい動きだ!」

 

俺は天井近くまで飛翔し、シャルに対して高さを利用して距離を取ると、エペ・ラピエルから射出された弾丸を天井に直撃させる。

 

「ブラスト・パイルは一撃必殺の強力な武器だが、当てられなければ意味がないぞ、シャル!」

「わかりきってることだけど、やっぱり紫電は速いねっ……!このエクレールでもまだスピードが足りないなんて!」

 

エクレールのスペック上のスピードは紅椿と同程度である。

ただし加速力は紅椿をも若干上回っており、他国の第3世代ISよりもスピードにおいては勝っている。

しかし、俺のフォーティチュードは更に別次元のスピードを誇っている。

いかにエクレールの速度が速かろうとも、フォーティチュードに追いつくことはかなり厳しいのだ。

 

「そろそろこっちからも反撃させてもらうぞッ!」

「……!」

 

左手に持ったアサルトライフル「アレキサンドライト」をシャルに向け、一気に引き金を引く。

フルオートモードで発射された弾丸はラファール・リヴァイヴの頃はうまく回避しきれていなかったが、エクレールになってからシャルの動きは大分変わってきたようだ。

シャルは前後左右にゆるやかな機動を見せると、あっさりと弾幕を回避して見せてくれた。

 

「お見事。ならこっちはどうだ?」

 

俺は右手のマークスマンライフル「エメラルド」でシャル目がけて狙撃を開始した。

バシュッ、バシュッ、バシュッと続けざまに三連続で高速の弾丸が発射される。

 

「……っ!」

 

一発は肩のアーマー部分に被弾したものの、もう一発は左手の盾で防御し、残りの一発はなんと回避していた。

決して偶然ではない、シャルの目は確かに俺が撃った弾丸を見据えていたのだろう。

 

「お見事!エメラルドの三連射をまともに避けてきたのはシャルが初めてだな。対ISの稼働データ取得もこんなもんでいいだろう。シャル、休憩に入ろう」

「うん、わかった」

 

プライベート・チャネルを開き、シャルに休憩の旨を伝えると、シャルはこちらに向かってゆっくりと降りてきた。

 

「お疲れ、シャル。エクレールの稼働率も結構上がったようだな」

「紫電と勝負してると嫌でも全力以上の力を出さなきゃいけないからね。僕も結構がんばったんだ」

「ああ、それは勝負していてすぐわかったよ。本当に腕を上げたな。これならIS学園に戻っても自慢できるだろうよ」

「うん、きっとみんな驚くだろうなぁ。楽しみだよ!」

「稼働データの取得はこんなところにして、休憩に入ろう。さあシャル、約束通りどこへでも行こうか」

「……覚えててくれたんだ。じゃあ早速行こう!」

 

シャルは笑顔を見せると、アリーナの外へ向かって歩き出していた。

 

 

「へえ、ここが有名なシャンゼリゼ通りか」

「うん、そうだよ。紫電と来るならやっぱりここかなって思ったんだ」

「確かにフランスといえばここ、って感じがするな。街並みも綺麗だ。それと向こうに見えるのは有名なエトワール凱旋門か」

「そうだよ。あ、紫電こっちこっち。ここのカフェに来たかったんだ」

 

シャルが誘ってきたのはオープンテラスのカフェだった。

なるほど、いかにもフランス風なおしゃれ感満載のカフェだ。

 

「ここパリの中でも有名なお店なんだ。今まで来る機会がなかったんだけど今日は紫電と一緒だから、ね」

 

そういうとシャルはこちらに笑顔を向けてくる。

シャルは本当に楽しそうで見ているこちらも楽しくなってしまうな。

 

「おお、いいところに誘ってくれてありがとうな。ただシャル。流石の俺もフランス語まではマスターしてないんだ。悪いけどオーダーを頼めるか?メニューが読めなくてね」

「あ、良かった。実はフランス語までマスターしてるんだ、なんて言われたらどうしようかなって思ってた。オーダーなら任せてよ!」

「ああ、頼りにしてる」

 

シャルは慣れた雰囲気で店員と会話している。

普段IS学園では日本語しか喋っていないだけに、シャルがフランス人であることをはっきりと認識させられることになってしまった。

 

「お待たせ。紫電は嫌いなもの無かったよね?」

「ああ、たとえ蝸牛(エスカルゴ)が出たとしても食うよ」

「ふふっ、残念だけど今回エスカルゴは頼んでないよ。そんなに変わったものは頼んでないから安心してね」

 

しばらくシャルと談笑していると、注文していた料理が運ばれてきた。

 

「これはエスプレッソ・コーヒーか。フランスはどちらかというと紅茶よりもコーヒー派なんだっけか」

「そうだよ。フランスでコーヒーといえばエスプレッソ・コーヒーのことを指すんだ。大体はどこの店に行ってもコーヒーって頼むとこれが出てくるんだ」

「それとこっちは……クロック・ムッシュか」

 

目の前の皿に乗っているのはパンにハムとチーズ、ベシャルメソースを乗せたホットサンドである。

 

「ええ、知ってるの!?」

「料理が趣味だからな。メニューの文字は読めなくても料理が何かはわかるのさ」

「うーん、これは予想外だったなぁ。紫電がフランス料理にそこまで詳しいなんて……」

「なに、知っているのはほんの少しだけだ。あと料理が冷める前に食べることもマナーだってちゃんと知ってるぞ」

「それは多分フランスに限ったことではないんじゃないかな……?」

 

早速俺とシャルは目の前のクロック・ムッシュに舌鼓を打っていた。

 

「むう、本来簡単な料理のはずだが、本場で食べるとやはり雰囲気も合わさって更においしく感じるな」

「うん、本当においしいよ。このクロック・ムッシュ」

 

あまりのおいしさに俺とシャルがぺろりとクロック・ムッシュをたいらげた頃、次の皿が運ばれてきた。

 

「今度は……なるほど、鴨のローストだな」

「秋は狩猟解禁のシーズンだからね。鴨みたいなジビエ料理もフランスの醍醐味だよ」

「……なるほど。鴨は日本でもなじみ深いものだが、フランスだとまたこう感覚が違ってくるな」

 

またしてもあっさりと皿は綺麗になった。

やはりフランス料理は奥が深い。

IS学園に戻ったらまた料理も勉強しなおさないとな。

そんなことを考えているとデザートが運ばれてきた。

 

「これはクレーム・ブリュレか」

「えへへ、僕はこれがクレープ・シュゼットと同じくらい好きなんだ。昔お母さんがよく作ってくれたんだ。んー、柔らかくておいしい!」

「うん、確かにこの柔らかさ。そして甘すぎない丁度良い甘さ。本当においしいな」

「紫電は甘いもの好きなの?」

「ああ、実は割と甘党だ。フランス料理はお菓子類もたくさんあっていいよな」

 

シャルは本当に嬉しそうにクレーム・ブリュレを食べていた。

――IS学園に帰ったら作ってやるか。

そんなことを考えながらこっそりと支払いを済ませておくと、またしてもシャルから驚きの声があがるのだった。

 

 

「もう、フランス語喋れてるじゃん!会計まで僕がするつもりだったのに!」

会計お願いします(スィルヴプレ)くらいなら俺だって喋れるさ。それにデートの会計は男が支払うもんだ。シャルに払わせるわけにはいかねーな」

「で、デート!?……そ、そうだよね、デートだよね、これ!?」

 

むしろデートじゃなきゃなんなんだ、というのは心のうちに秘めておこう。

 

「さて、帰りの飛行機まで丁度いい時間だな。シャル、付き合ってくれてありがとうな」

「いい、いいよっ!紫電とならいつだって大丈夫だから!いつだって付き合うよっ!?」

「そう言ってもらえるとこちらとしてもありがたいね」

 

顔を真っ赤にしたシャルを連れて空港に向かうと、そのまま乗った飛行機は日本へ向かって飛び立つのだった。

 

 




UA50,000突破&お気に入り者数750突破?なん……だと……?
そんなに見てくれる人がいるとは……。
自己満小説ですが、引き続き評価&感想待ってます!


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