インフィニット・ストラトス -Supernova- 作:朝市 央
「紫電っ!大丈夫!?」
「おう、見ての通り、俺もフォーティチュードも無事さ!」
「おお、流石はムッシュ・センドウ。あなたの実力は丁度今シャルロットから聞いていましたよ」
「あー……すいませんデュノア社長。想像以上にテロリストが強くて逃げられてしまいました。おまけに工場内も滅茶苦茶になってしまって申し訳ない」
「ムッシュ・センドウ、謝る必要はありませんよ。テロリストを追い払ってくれただけでも我が社としては十分すぎるほど助かりました。なにせ『エクレール』はまだ一次移行も済ませておりません。そんな状態ではテロリストに勝負を挑むことすらできなかったでしょう。工場などまた直せばよいのです」
「そう言っていただけると幸いです」
「しかし、エクレールの完成と同時にテロリストが強奪しにくるとは、情報はどこから漏れたのだろうか……。我が社にスパイでも紛れ込んでいるのだろうか?」
「まあ、デュノア社のことについてはデュノア社長にお任せします。ところでISトレーニング用の場所は工場とは別にあるんですよね?」
「ええ、工場の裏側にアリーナを一つ建てています。そこで稼働実験が可能ですよ」
「よっし、んじゃこのままエクレールの稼働実験といくか、シャル!」
「うん、でも本当に大丈夫なの?紫電」
「ああ、例によって例のごとく、今回も一切被弾してねえよ」
「……本当に器用だね……」
シャルが半ば諦めたように溜息をついたのも気にせず、俺はアリーナに向かって歩いて行った。
◇
「おお、IS学園に負けない立派なアリーナですね」
「ここは開発した製品を来賓者に披露する際にも使用していますからね。それなりに立派なものを作らないといけないのですよ」
デュノア社長の解説が入る。
なるほど、アリーナの見た目は会社の品格にも関わってくるわけか。
まあ新星重工は買収した際に本社も売却してしまったのでもう品格も何もないが。
「よし、シャル。まずはエクレールの性能と武装を解説するぞ。まず始めに言っておくが、エクレールはラファール・リヴァイヴと同じくあらゆる状況に対応することを目的とした万能型機体だ。当然だが、俺が設計したから機動力はラファール・リヴァイヴとは比較にならん。さっきちょっとだけ飛行したと思うが、早速アリーナの天井まで移動してみてくれ」
「わかった!」
ビュウンッとラファール・リヴァイヴの頃とは比較にならない初速でシャルは飛んで行った。
「わわわっ!……分かったよ、紫電。ラファール・リヴァイヴとの大きな違いはこの加速力だね?トップスピードへ加速する能力が全然違うんだね」
「そう、その通り。エクレールの通常加速はラファール・リヴァイヴの瞬時加速と同等の速度が出ているはずだ。次は瞬時加速をやってみてくれ」
「わかった、いくよ!」
――フォウンッ
小さなブースター音と共にエクレールは凄まじい速度で飛び出していった。
「……っ、は、速い!」
「気を抜くなシャル、エクレールはその機体特性故に瞬時加速したまま方向転換することも可能だぞ!今度は瞬時加速中に方向転換だ、やってみろ!」
「う、うん!」
――フォウフォウンッ
「くっ、体が振り回されそうだ……でもまだまだっ!」
シャルは俺が言わずとも瞬時加速中の方向転換を繰り返す。
段々と慣れてきたのか、その姿はかなり滑らかな動きになってきていた。
(……俺が見込んだだけはある。やはりシャルはISパイロットとして優秀だ)
(エクレールの速さに早くも慣れ始めていますね)
(ああ、そろそろ次のステップに移ってもいいだろう)
「上出来だ、シャル。次は武装の確認に移るぞ!まずは左腕のシールドを見てみろ」
「シールド?……あ、これって今まで試作品として使わせてくれてたパイルバンカー?」
左腕に装着された大型のシールドの先端には見覚えのある杭。
実は今までシャルのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡに搭載していた試作品の完成版だ。
「ご明察。シャルがラファール・リヴァイヴに乗っていた時、一番印象的だった武装が
パイルバンカーは俺もフォーティチュードを設計していた際に、搭載を検討した武装の一つだった。
理由としては単純な威力の高さと盾による防御能力向上、そしてロマン性である。
「ブラスト・パイルはグレー・スケールとは違って射程距離が長い。最大で1メートル離れていても杭を当てることが可能だ。もちろん密接した状態でも撃てるぞ。主に近接戦闘時に使ってくれ」
「試作品のときはそんなに射程は無かったけど、完成版になるとそんなに射程が伸びるんだ……。じゃあ、早速使ってみるよ!」
俺はアリーナのコンソールを操作し、空中にターゲットを浮かべる。
「はあああああっ!」
ドシュッと力強い炸裂音がアリーナ内に響くと、浮かんでいたターゲットは見事に粉砕されていた。
「……!すごい、パイルの射出距離が長くなったおかげで前より当てやすくなったよ!」
「前と同じく連射することも可能だが、反動には気を付けろよ!」
「分かってる!この反動はむしろ前より小さいくらいだよ!」
そう言いながらもシャルはブラスト・パイルで次々とターゲットを破壊していく。
大分エクレールの高速機動にも慣れてきたようだ。
「よし、ブラスト・パイルの確認はそんなものでいいだろう。次は拡張領域に格納してある武器を右手で取りだせ!」
「拡張領域……?これって……
「そうだ、それがエクレールの近接用ブレード『エペ・ラピエル』だ。それこそまさに第3世代のイメージ・インタフェースを前面に押し出した最新鋭の武装だ」
「紫電がそう言うってことはただのレイピアじゃないんだね?」
「その通り。もちろん物理的な剣としての刺突、斬撃も可能だがこのエペ・ラピエルは射撃攻撃も可能だ」
「剣から射撃攻撃……まるで箒の紅椿みたいだね」
「……まあこれもフォーティチュードに搭載するのを止めた装備で俺の方が先に設計してたんだけどな。フォーティチュードは両手共射撃武器を持つコンセプトにしちまったから、近接用ブレードを持つことができなくなってお蔵入りしてたんだよ」
「そんなに早くからこんな武装作ってたんだ……。それで、どうやって射撃するの?」
「簡単だ。剣先を照準にしてライフルを撃つイメージを思い浮かべるんだ。あとは刺突か斬撃か判断して自動的にそれに合わせたビーム弾が発射される」
「……うーん……えいっ!」
シャルがターゲットに向けてエペ・ラピエルを突き出すと、シュドッと鋭い音と共にオレンジ色のビームが発射された。
「……はっ!」
続けてシャルは薙ぎ払いを繰り出すと、再び剣先からビーム弾が飛び出し、ゆるやかな弧を描くとそのまま空中に浮かぶターゲットに直撃した。
「上出来だ、シャル。エペ・ラピエルから発射されるビーム弾は刺突、斬撃の速度に合わせて速くなるからうまく使い分けてくれ。それに発射したビーム弾はある程度の追尾性能も持っているから、うまく使い分けて相手を翻弄するんだ」
「なるほど……。でも紫電、これ連射はできないよね?左手もブラスト・パイルになっちゃったし、銃は無いの?」
「銃は全部フォーティチュードが使っているから渡せるものが無かったんだ。代わりにラファール・リヴァイヴと互換性を持たせているから、今まで使用してきた銃器は全て使用可能にしてある。銃器は全部そっから流用してくれ。銃器との武装切り替えについてはお前の特技である
「そっか、分かったよ。でもこの二つの装備だけでも十分すぎるほどすごいよ!」
シャルは楽しそうにターゲットを次々と破壊する。
そうこうしている内に一次移行も無事終了したようだ。
エクレールが光り輝くと、今までゴツゴツとしていたアーマー部分の突起が消え、ゆるやかな丸みを描いたアーマーラインとなっていた。
「お疲れさん、と言いたいところだが、最後に残った武装の確認だけさせてもらうぜ?」
「え?まだ武器があるの?どこに??」
「そのカスタム・ウイングだよ」
「……え?」
シャルが後ろを振り向く。
カスタム・ウイングは肩から背中の少し後ろにかけて伸びる六本の長方形型をしていた。
「これが武器?」
「そうだ。さっきシャルも気付いた通り、ブラスト・パイルとエペ・ラピエルだけでは遠距離攻撃の手段に欠けるんでな。だからカスタム・ウイングに小型のレーザーキャノン『
「えええええ!?」
シャルが改めて後ろを振り返ると、今度はカスタム・ウイングが砲台のように前方を向いた。
「これって、まさかこの砲台もイメージ・インターフェイスで起動するの!?」
「その通り。普段は加速制御に使用しているが、そのカスタム・ウイングは自分から見て前方に向けることもできるんだ。そのとき、カスタム・ウイングの先端の砲口からレーザーキャノンが発射されるようイメージするんだ。もちろん六門全てのウイングパーツから砲撃可能だ」
「……カスタム・ウイングからレーザーキャノンが発射されるイメージ……!」
シャルが目を閉じると、カスタム・ウイングの先端に光が集まる。
バシュッ、バシュッと音がすると、一番外側の両ウイングパーツからレーザーキャノンが射出され、見事にターゲットを破壊した。
「……うーん、六門全部から発射されるようにイメージしたんだけど、難しいね」
「まあ最初だから二門動かせれば上出来だろう。あとはひたすら練習あるのみだ」
俺はくるりと振り返ると、デュノア社長に向き合った。
「とまあ、エクレールの武装はこんなもんです。長所は武装全てとラファール・リヴァイヴの武装全てが使えること。短所は作るのに金がかかるってことくらいですかね。各パーツ、希少金属のオンパレードですから。……まあイグニッション・プランへの参加には一機あれば十分と聞いていますので、トライアルに選出されるには十分でしょう?」
「……なんと素晴らしい機体だ。これなら間違いなくイグニッション・プランに参加できる。それに我が社だけではこのような機体はきっと生まれなかっただろう」
「エクレールを開発したのはデュノア社ですよ。あくまで俺は開発に協力しただけです。そこの所、お忘れなく」
「あ、ああ、その点についてはもちろん理解しているよ。ただこれほどの機体とは私も予想していなかったんだ」
「……まあこの機体はシャルがいたからこその機体ですけどね」
そんなことを話している間にシャルがこちらに向かって降りてきた。
「お疲れ、シャル。どうだ、エクレールの調子は?」
「最高だよ!これなら誰にも負けないって思えるくらいだよ!」
「ほーう、それは俺にも負けないってことでいいんだな?」
「し、紫電はちょっと別かなー……?」
「まあそう謙遜するな。シャルの実力はみんながよく知っている。これからさらに強くなっていくだろうこともな」
「……うん、がんばるよ!」
「二人とも、今日は本当にありがとう。最高級のホテルを予約しているので、今日はそこでしっかりと休んでほしい。外にまたリムジンを待たせているので、行先も問題ないでしょう」
「わかりました。お気遣い、感謝します。それではまた明日」
デュノア社長に別れを告げると、俺とシャルはアリーナを出ていった。