インフィニット・ストラトス -Supernova- 作:朝市 央
「えー、先週行われたキャノンボール・ファストは残念なことに中止となってしまいましたが、専用機を持っている皆さんには次の行事があります」
朝のショートホームルームでの山田先生の発言である。
え、また何か専用機持ちにやらせんの?IS学園はお祭り好きなの?
「キャノンボール・ファストの襲撃事件を踏まえて、各専用機持ちのレベルアップを図ります。なので、今月の中旬から全学年合同で行う専用機持ちたちのタッグマッチを行います!」
そう言う山田先生はノリノリである。
言うのはいいけど、実際行事に参加する身としては結構大変だということを認識してもらいたい。
「山田先生、全学年合同って言いましたけど、現在このIS学園にいる専用機持ちって確か1年生に八人、2年生に二人、3年生に一人でしたよね?一人余るんじゃないですか?」
「それについては問題ない。千道、お前はタッグを組まずに一人で戦え」
俺の質問に返答してくれたのは織斑先生だった。
「……実力的に3年生の一人ではなく、俺が一人ですか?」
「ああ、そうだ。全専用機持ちを含めて、私はお前の実力が一番上だと思っている。お前が一人でようやくバランスが取れるだろう。お前は一対複数の対戦経験を伸ばせ」
「そうですか。随分評価されてるみたいですね。ま、わかりました。気楽にやらせてもらいます」
クラス中からはガヤガヤと色々な意見が飛び交ってくる。
「専用機持ちってやっぱり大変なんだなー」
「3年生の先輩を差し置いて千道君が一人ってすごくない!?」
「いいなあ、専用機持ちって」
この慌ただしさを考えるとあまり良いものではないけどな。
さて、タッグパートナーのいないタッグマッチか……。
流石になんの作戦も立てずに勝てる勝負ではないだろう。
どうやって勝つとするかねー。
(既存の武装だけで専用機持ちのタッグを相手にするのは厳しいのではないですか、紫電?)
(まあそう簡単には勝てないだろうな。ただ、今から新しい装備を作る時間は無いな……。例の近接用ブレードはどうだ?)
(もう数日で完成といったところですね。ギリギリでタッグマッチまでには間に合うでしょう)
(そうか。それと並行してもう一個、念のために仕込みをしておくか……)
結局、俺とシオンの作戦会議は授業が終わるまで続いた。
◇
「で、お前らもう誰と組むのか決めたのか?」
昼休みになると1年1組の専用機持ちメンバーは一夏を除き、いつもの通り食堂で一堂に会していた。
「僕はラウラと組むことにしたよ。同じ部屋だし、頼れるからね」
「私もシャルロットのことは頼りにしている。パートナーとしては最高の人選だ」
「わたくしはまだ決めていませんわ。ところで箒さんは一夏さんと組んではいませんの?」
「私は本当は一夏と組みたかったのだが、会長がどうしてもというので、つい、な……」
「へえ……楯無先輩のパートナーは箒なのか。意外だな、てっきり妹のことを選ぶかと思ってたのに」
「妹?会長には妹がいるのか?」
「なんだ、知らなかったのか箒。4組の代表候補生、更識 簪は楯無会長の妹らしいぜ」
「ほう、4組の代表が会長の妹だったとはな。初耳だったぞ」
「……ひょっとして一夏はその妹さんとタッグでも組むつもりなのかねぇ」
「む、なぜそう思うのだ?紫電」
「今そこで鈴が怒った顔しながらこっち来てるからさ」
全員が振り向くと、そこには苛立ちを隠そうともしない様子の鈴が立っていた。
大方、一夏にタッグを断られたってところだろう。
「ちょっと、一夏が誰と組むか知ってる人いない!?」
「ほらな、少なくとも一夏のタッグパートナーは鈴じゃないってことだ。だとすると残りはその楯無先輩の妹しか残ってねえ。残りの2年3年の専用機持ちは仲がいいって話も聞いてるから、そこに割り込むような真似はしないだろうよ」
「一夏のやつ、あたしの誘いを断ってまで別の子に声かけてるわけ!?はー、むかつくわ!……ならいいわ、この中でまだパートナー決めてない人いる?」
「一夏さんが4組の方と組むとなると、残っているのはわたくしだけになりますわね」
「ちょうどよかったわ、セシリア!あたしとタッグ組んでちょうだい!一夏に痛い目見せてやるんだから!」
「わ、わかりましたわ。ですが鈴さん、もう少し落ち着いてくださるかしら?」
メラメラと闘志を燃やす鈴をセシリアがなだめる。
しかしこれでタッグは全て決まったってわけか。
……この中だとシャルとラウラのタッグが一番怖いな。
俺一人なんだからもしAICに掴まったらボコボコにされるじゃねーか。
やっぱもっとちゃんとした対策考えねえとなあ……。
二対一という圧倒的に不利な状況をどう打開するか。
俺はそんな難題を頭の中で浮かべつつ、目の前のパンを頬張るのだった。
◇
タッグパートナー無しのタッグマッチ対策を考えているうちに、気がつけば既に専用機限定タッグマッチの前日。
俺は第三アリーナにて機体の最終調整を行っていた。
(やべーな、結局使えそうな切り札、四つしか準備できなかったぜ)
(ちなみにタッグは全部で六組ありますがどのような形式で戦うのでしょうか?)
(聞いたところによるとトーナメント形式らしい。でもって俺、そして2年生と3年生のペアがシード枠で準決勝からの参加になるんだとか。随分と俺も偉い立場にされたもんだぜ)
(なら紫電は最多でも二戦しかしないわけですから、四つも切り札があれば十分ではないですか?)
(一つは反則技だから使いたくても使えんのだよ。実質使える切り札は正しくは三つだ)
(それでも上等でしょう。相手が二人であろうと三人であろうと、紫電が戦う前からさじを投げるとは思えませんね)
(無論だ。俺の勝負に負けなんて不要だ、俺が勝つから楽しーんだ)
笑いながら目の前の射撃練習用ターゲットを撃ち抜く。
続いて背後にあるターゲットに振り向くことも無く射撃を行う。
背を向けたまま放たれた弾丸は見事にターゲットの中心を撃ち抜いていた。
(まあ背面、側面への射撃練習は十分すぎるほどした。これで挟み撃ちにされてもなんとかなるだろ)
(挟み撃ちは二対一での定石。複数方向からの攻撃は誰が相手であろうと行ってくるでしょうからね)
(だろうねッ!)
今度は左右同時に現れたターゲットを同時に撃ち抜く。
パリンッと音がすると、同じタイミングでターゲットが消失した。
(ま、あとは当日の楽しみってとこだな)
この日の俺は絶好調だった。
今日一日で狙撃したターゲットは全部で200体。
その全てが中心を撃ち抜かれ破壊されている。
確かな銃撃の手応えを感じながら俺はアリーナを後にすると、外は既に夕闇へと落ちていた。
◇
そして専用機限定タッグマッチ当日。
全学年の生徒達は一堂に集結し、生徒会長の言葉を待っていた。
「どうも、皆さん。今日は専用機持ちのタッグマッチトーナメントですが、試合内容は生徒の皆さんにとってとても勉強になると思います。しっかりと見ていてくださいね。まあ、それはそれとして!」
楯無会長が開いた扇子には博徒の二文字。
「今日は生徒全員に楽しんでもらうため、生徒会である企画を考えました。名付けて『優勝ペア予想応援・食券争奪戦』です!」
「賭けじゃねーか!」
わああっという歓声に交じって一夏がまともな突っ込みを入れる。
「織斑副会長、安心しなさい。根回しは既に終わっているから!」
確かに教師陣は誰も反対していない。
まさに生徒会長の手腕発揮といったところだろうか。
「それに賭けじゃありません、あくまで応援です。自分の食券を使ってそのレベルを示すだけです。そして見事優勝ペアを当てたら配当されるだけです。では、織斑君にも納得してもらったところで対戦表を発表します!」
「なんか勝手に納得したことにされてる!?」
一夏、諦めろ。IS学園の人間は本質的に賭博が好きなんだろうよ。
しかも第一試合は織斑一夏&更識簪VS篠ノ之箒&更識楯無って出てるぞ。
「良かったな一夏。またしても第一回戦だぞ。しかも相手は厄介そうなペアだ」
「げえっ、まじかよ!?初戦から箒と楯無さんとか、運なさすぎだろ」
「まあ優勝候補だな。がんばって倒してくれよ、一夏。そうすれば俺も楽できるかもしれん」
「さらっと俺たちのこと、弱いって馬鹿にしてないか!?」
「おや、自分たちは箒と楯無先輩のタッグより強いと思っているのか?」
「……思ってない」
「そういうことだ、運命は時に厳しい。だが一夏、それを事実として受け入れるのも先へ進むためには必要だぞ?」
「うぅ……」
「まあ、受け入れがたい結果かもしれないが、とりあえずは着替えに行こうぜ。でなきゃ何も始まらん」
そう言うと俺は一夏を連れて第四アリーナの更衣室に向かって歩いて行った。
また、廊下で配布されていたオッズ表を見る限り、俺は三番人気らしい。
一番はやはり箒&楯無先輩のタッグ、二番は2年生と3年生のタッグだった。
それを考えると、タッグではない俺が三番人気というのも悪くはないが。
(しかし俺が三番人気とはねぇ……。いいぜ、見せてやろうじゃねーか、本物の
俺の中にある負けず嫌いの精神が闘志を燃え上がらせる。
この後、再びイベント中止の事態が起きるとも知らずに――