インフィニット・ストラトス -Supernova- 作:朝市 央
オータム撃退後、俺は逃亡したオータムを追っている途中でラウラとセシリアに合流していた。
二人は逃亡したオータムを確保しようとしたが、敵の援軍が来て逃げられてしまったらしい。
「何、ブルー・ティアーズの二号機が現れてオータムを助けていった?アメリカだけじゃなくイギリスも機体を強奪されてんのかよ。もうちょっと防犯意識ってやつを持ってほしいところだぜ……」
……実は新星重工もISコア盗まれてました。
しかも俺が取り返しました、なんて絶対言えねーけどな。
「それについてはわたくしも知りませんでしたわ。ブルー・ティアーズ二号機の『サイレント・ゼフィルス』はてっきり本国で動作テスト中だと思っていましたもの」
「それにあのパイロット、ビームの偏光制御射撃を行っていた。おそらくセシリア以上の腕前だと推測できる。だから追撃は諦めたのだ」
「偏光制御射撃ってあのビームを曲げるっていうやつか?ふーん……」
正直なところ、俺はビームを曲げることにさほど興味はなかった。
ビームを曲げて攻撃を回避させにくくするよりも弾速を上げて回避しにくくさせるほうが手っ取り早いからである。
現に俺の機体コンセプトを現すアサルトライフル「アレキサンドライト」とマークスマンライフル「エメラルド」は極限まで弾速を上げていた。
その結果が今までの無敗記録である。
「ま、何にせよラウラとセシリアが無事で良かった。次は俺を呼ぶといい。可能な限り全速力で駆けつけてやる」
「……そうだな、そうさせてもらおう」
「……」
さっぱりとしたラウラの表情とは反対に、セシリアは複雑そうな表情だった。
……無理もないか。
自国の機体が盗まれたと判明した挙句、本来自分の専売特許である偏光制御射撃までやられたんだ。
セシリアのプライドが傷つかない訳がない。
しかしアラクネだけでなくサイレント・ゼフィルスまで盗まれているとはな。
実はISの盗難は結構色々な所で起きているのではないだろうか。
また、亡国機業は一体いくつのISを奪取したのだろうか。
俺は頭の中で一連のIS盗難の件について考えながらすっかり夏も終わりとなった空を見上げ、オータムたちが逃げ帰ったであろう方向を見つめていた。
◇
「みなさん、先日の学園祭はお疲れ様でした。それではこれより投票結果の発表をはじめます」
結局、昨日のテロリスト襲撃などなかったかのように朝の集会は始められた。
……俺の園芸同好会は1位になってないよな?
砲丸ピーチとドームメロンのジュースは完売してしまったし、正直なところ少しどきどきしている。
「1位は、生徒会主催の観客参加型劇『シンデレラ』です!」
ぽかん、と全校生徒が口を開く。
え、あの一夏を全員でおっかけてたとかいうやつ?まじで?
「なんで生徒会なのよ!おかしいわよ!」
「私たちもがんばったのに!」
ぶーぶーと苦情が会場全体から飛び交う。
それに対して生徒会長である楯無先輩は言葉を続けた。
「劇の参加条件は『生徒会に投票すること』よ?でも私たちは別に参加を強制させたわけではないのだから、立派に民意と言えるわね」
なるほど、まるで詐欺のような手口だな。
やはり生徒達は楯無先輩の説明に納得できず、ブーイングが続いている。
「はいはい、落ち着いて。生徒会メンバーになった織斑君は適宜各部活動に派遣します。男子なので大会は出れないけど、マネージャーや庶務をやらせてあげてください。それらの申請書は生徒会に提出するようにお願いします」
「ま、まあそれなら……」
「それなら納得できるわ」
「うちの部、勝ち目無かったしこれはついてるわ!」
周囲では様々な意見が飛び交っている。
こりゃ今後も大変だな、一夏。
「一夏、グッドラック。まあ部活に所属してなかったツケが回ってきたんだろうよ」
「まじかよ……どっか入っておけばよかったかなぁ……?」
「いや、どっか一つの部活に入っても結局のところ苦情は来るだろうよ。俺みたいに個人活動してない限りはな」
「俺にとってはお前が園芸同好会なんてやってること事態が不思議でならないぞ!?」
「ま、生徒会就任おめでとさん」
一夏はがっくりと肩を落としてうなだれている。
あの生徒会長は中々癖が強くて一緒にいると胃がもたれそうだ。
楯無先輩の相手はお前に任せるぞ、一夏?
◇
朝の集会が終わった後はいつも通り授業が進められ、いつも通り俺はシオンと会話をしていた。
(……そうか、アラクネもサイレント・ゼフィルスもパイロット情報は無いのか)
(残念ですが、どこの国のデータにも該当情報がありませんでした。亡国機業についての情報もろくな情報は見つかりませんね。流石は秘密結社、といったところでしょうか)
(犯罪者リストにも載っていないとなると、よほどの実力者らしいな。これは警戒しなくては俺たちの計画の邪魔にもなってきそうだな)
(そうですね。ひょっとしたら紫電のフォーティチュードも狙ってくるかもしれません)
(その時は返り討ち、だが今の装備では物足りなくなってきたな。現状の装備だと距離を詰められたときにスイッチブレードしか対処方法が無いからな……。早く近接用ブレードを開発完了したいが、そっちの進捗はどうだ?)
(想定より時間がかかっていますね。いかんせん刃の切れ味と強度が期待値まで到達しません。少し完成予定は遅れそうです)
(そうか、それじゃ仕方ないな。それまで打鉄の近接用ブレードでも使って特訓しておくか……)
俺が最も気にしているのは亡国機業のことだった。
つい昨日撃退したオータムとかいうヤツは明らかに下っ端だ。
あんな短気な性格の奴が幹部クラスだったら秘密結社としてやっていけないから間違いない。
ただ、ISの操縦技術だけはそれなりにあった。
弾幕をかいくぐった次の瞬間には俺の頭上まで移動してエネルギー・ワイヤーを放ってくるなど、少なくとも同学年の専用機持ちたちよりも実力は上のように感じた。
下っ端のあいつであの実力ということは、亡国機業の幹部クラスはどれほどの実力者なのだろうか。
多少の危機感を感じながらも、俺は内心で強敵の出現を喜んでいた。
(オータム、か。三下の割には楽しませてくれたやつだったな)
(現状のところですと、オータムとまともに勝負できる生徒は更識楯無くらいではないでしょうか。オータムは好戦的な性格も含め、それなりの判断力も持ち合わせているようです)
(……ああ、1年生のメンバーではまだあいつと一対一で勝負できそうなのは俺くらいしかいないだろうな)
俺はオータムと戦っていた自分の姿を思い出していた。
見たことの無い人物、見たことの無い機体、見たことの無い戦法――
オータムという初めて戦う強敵を前に、間違いなく俺の心は昂ぶっていた。
もしかしたらその壁はIS学園ではなく、亡国機業の方に存在するのかもしれない。
俺はまだ見ぬ強敵を想定してはその対策を考えるのであった――