インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■兄妹

俺とシオンが出会ってから早数日。

大分シオンのことも理解できてきた。

外見は隕石の欠片そのものだが、普通の人間と同様に意思があり、自分の考えを持って発言することができる。

ただ、シオンは俺以外に話しかけることはできないらしい。

シオンは音ではなく、感覚を同調させることで自分の考えを対象に伝えることしかできないらしく、その対象になるのは俺しかいないようだった。

 

試しに親父をはじめ、様々な人に同調させようとしたが何れも反応はなし。

そもそもシオンが光っているように見えないらしく、俺のことは買ってもらった隕石を見せびらかしに来た子供としか認識してもらえなかった。

 

(……どうなってるんだろうなぁ)

(感覚同調が成功したのは紫電が初めてです。他の人との同調は難しいと考えます)

(それはなんで?)

(紫電に語りかけるずっと前からすれ違う人達に同調は行ってきましたが、誰とも同調することはできなかったからです。それに私が光っていると認識できたのも紫電だけです)

(確かにあの国際宇宙センターの来場者数はかなり多いみたいだし、その中に一人もいなかったとなると、他には誰も同調できないのかなぁ)

(おそらくは)

(……もうこれからのことは俺とシオンの秘密にしておこう。頭がおかしい奴だと思われても困るしなぁ)

(了解です。そもそも紫電以外と話すことができませんが)

(他にシオンみたいな喋る隕石に心当たりは無い?)

(ありません)

(……うーん、別の話題にしよう。シオンがどこから来たのかについてだ)

(どこから、と言われても答えようがありません。全く記憶が無いのですから)

(少なくとも隕石として売られてたんだし、宇宙から来たんじゃないかな)

(宇宙ですか)

(うん、きっと宇宙から来たんだ、そうに違いない!)

(宇宙から来たと断言できる理由はなんでしょうか?)

(だって地球上に光って喋る石なんて無いし!)

 

我ながら滅茶苦茶な理論だったが実際そうとしか言いようも無く、俺はシオンが宇宙から来たと決めつけていた。

 

(きっと宇宙のどこかにシオンの仲間もいるんじゃないかな!?)

(……そうでしょうか)

(よし、俺が大きくなったら一緒に宇宙に行ってシオンの仲間を探してやるよ!親はいないって言ってたけど、きっとどこかに同じような仲間は存在するはずさ!)

(私の仲間、ですか)

(ずっと一人ぼっちじゃ寂しいからな!じゃあまずは俺がシオンの仲間……いや、兄だ!)

(兄、ですか?)

(おう、俺がシオンの兄になってやるよ、シオンは妹な!)

(私と紫電が兄妹……わかりました、よろしくお願いします)

 

俺は今までずっと一人っ子だった。

親父に連れられて外出する度、仲良さそうに歩く兄妹を見ては羨ましく思っていた。

俺にも妹か弟がいればもっと楽しいだろうな、と常日頃思っていた。

だからこそシオンを妹のように扱いたかったのだろう。

人の形こそしていないが、シオンを妹にしたときは本当に妹ができたみたいですごく嬉しかったことをはっきり覚えている。

 

(じゃあ早速宇宙に行くための準備をしていこう)

(何か具体的な案があるのですか?)

(まず宇宙船が必要だし、空気に水に食糧も準備しないとね)

(分かりました。それらは私が準備しましょう)

(……え?)

 

俺が言ったのは夢見がちで、到底実現不可能な案のはずだった。

しかし、シオンからの回答は想定を上回るものだった。

 

(……本当に準備できるの?)

(可能です。ただし時間がかかるので今から準備を始めましょう)

 

シオンの発言直後、ピシッと乾いた音が響くとシオンの体は真っ二つに割れてしまった。

綺麗なダイヤモンド型をしていた隕石は二つの三角錐に分かれている。

 

(ちょっと、大丈夫!?)

(問題ありません。こうしないと準備ができないので)

 

そう言うと半分に割れたシオンの片割れがふわりと宙に浮かぶ。

ふわふわと紫電の部屋の中を飛び回った後、開いた窓からどこかへ飛んで行ってしまった。

 

(おまけに半分どっか飛んで行ったけど、本当に大丈夫なの!?)

(問題ありません。宇宙に行っただけです)

(宇宙って……)

 

思わず俺は絶句してしまった。

いきなり半分に割れたかと思いきや、割れたばかりの片割れは宇宙へ行ったという。

 

(距離が遠すぎると紫電と感覚同調ができなくなるので半分だけで宇宙に向かいました)

(……あぁ、飛ぶこともできるの……!?)

(宇宙に到着したら宇宙船の材料になりそうなものを探します)

(宇宙船の材料になりそうなもの……スペースデブリや流星物質のこと?)

(その通りです)

 

以前、宇宙開発に関する本で読んだことがあった。

地球の衛星軌道上には機能を停止した人工衛星やロケット打ち上げに使用された部品などの宇宙ゴミこと、スペースデブリが大量にあるのだと。

また地球上へ降ってくる流星の中には、極稀に希少な金属が含まれることも確認されており、資源として流星物質への注目も高まっていると。

 

(確かに宇宙船の材料になりそうなものはあるかもしれないけど、加工できないんじゃない?)

(心配ありません。それについては実際に見てもらった方が早いですね)

 

そう言うと近くに置いてあったリングノートがずるずるとシオンの近くへと引き摺られていく。

俺はあっけにとられながらその光景を眺めていると、シオンが鉄製のリングに触れた瞬間、リングはドロドロと溶け出してしまった。

ほんの僅かな時間でリングノートからはリングが溶け、溶けたリングは鉄製15センチ定規のような長方形になってしまった。

一方、紙のノート部分には一切変化は見られない。

鉄が溶けるほどの高温が発せられたのならノートが焼け焦げてもおかしくない。

そもそも俺が熱さを感じるだろうが、そんなことも全くなかった。

俺はまたしても絶句してその光景を見ていることしかできなかった。

 

(……今、何したの?)

(私の内部にあるエネルギーを使用して手近にあった金属を引き付け、加工しました)

(リングノートの鉄を引き付けた挙句、長方形に加工したと。もはやなんと言えばいいんだか……)

(これくらい小規模の加工であれば容易に実行可能です)

(……あぁ、ひょっとして宇宙に行った片割れはその力を使ってスペースデブリやら流星物質を材料に宇宙船を造るつもり!?)

(その通りです。また、宇宙船内に空気清浄器や浄水装置を設置すれば、地球から空気と水を入手することで長期的な宇宙活動が可能になるでしょう)

(空気と水さえ手に入れば食糧自給も不可能ではないってこと?……もう少し時間はかかりそうだけどすごいじゃん、シオン!)

(ただ、私のエネルギーも無制限に使えるわけではありません。ある程度消費したら時間をおいてエネルギーの回復を待つ必要があります)

(自然回復する太陽電池みたいなもの?まあ気楽にやっていこうよ)

(紫電の期待に応えられる宇宙船を造って見せますのでご安心を)

(期待して待ってるよ。それと地球側でも準備をしていかないとね)

(そうですね。宇宙空間で人間が生きていくには相当な訓練が必要なようです)

(あぁ、それも本で読んだことあるなぁ。宇宙飛行士ってすごく頭が良くて、過酷なトレーニングをこなしたうえのほんの一握りの人間しかなれないんだって)

(紫電も宇宙へ行くならば今の内から鍛えておくべきです)

(宇宙飛行士になれるくらいの身体能力と知力の準備だね。うん、頑張るよ!)

 

俺は運動も勉強も苦手ではない。

親父からスポーツ、学問、芸術など様々なものに触れさせられては何でもそつなくこなしてきた。

何でもそつなくこなせてしまうが故か、ただ何にも興味が湧かなかったのだ。

しかしシオンと共に宇宙に行くという目標ができてからは、どんなことにでも集中して努力していかなければならないと改めて認識することができた。

俺がシオンと出会ってから僅か1ヵ月足らず、こうして俺とシオンの秘密の宇宙船開発プロジェクトは始まったのだった。

 

一方でこの直後、世界は白騎士事件によってマルチフォーム・スーツ、ISの存在を知ることになる。

 

 

 


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