インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■宇宙農家の目覚め

騒がしかった臨海学校も無事終わり、更には七月末の期末試験も無事終了を迎えようとしていた。

 

「よっしゃあ!なんとかぎりぎりで赤点回避できたぜ!」

「なんで英語の試験で紫電さんがトップなんですの!?ありえませんわ!」

「おいおい、そういうなよセシリア。一夏なんて国語の試験がシャルやラウラ以下なんだぞ。そういうことだってあるだろ」

「うっ……そこ突っ込むのかよ!?」

「っていうよりも紫電、全教科満点てどうやって取ったの?」

「ん?普通に勉強してりゃ満点だって取れるだろう。それよりシャルが全教科満点じゃないのが俺は不思議だが」

「うーん、確かに勉強は得意だけど日本史とかは難しいよ。っていうより、普通全教科満点取る人なんていないよ!?」

 

そういや中学の時も俺に張り合ってくるやつらは何人かいたが、結局俺に並ぶことができずに悔しがっていたような気がする。

全教科満点ってそんなに難しいか?

 

「まあなんにせよこれで夏休みを迎えられるってわけだ。楽しみだな!」

「紫電は夏休みにどこかに行く予定あるの?」

「ああ、ちょっと旅行にでも行こうかと思ってね」

「へえ、旅行か。気分転換には確かにぴったりだな。で、どこに行くんだ?」

「ふふふ、行先は秘密だ。完全なプライベート旅行ってやつだ」

 

そう、行先は念願の宇宙である。

シオンと宇宙船を開発して早十年、ようやく宇宙船に到達するまでの目途が立ったのである。

経緯としてはピート君と座標操作で農作物のやりとりをしているうちに、だんだんとピート君の送ってくる野菜の大きさが大きくなってきたことが原因である。

最初は両手で持てる程度だったカブも今では俺の身長と同じくらいの大きさのカブになってしまっていた。

そのうち家ほどもあるような大きさにでもなるんじゃないかな。

つまりは俺ほどの大きさであれば宇宙空間まで転移することができるようになったということである。

そしてその座標操作を使って俺を宇宙船へと送り込む、という訳だ。

 

「じゃあシャル、そろそろデュノア社でイグニッション・プラン用のISの開発が開始されるはずだから、そっちは任せたよ?」

「うん、分かった。何かあった時はプライベート・チャネルで連絡すればいいんだよね?」

「ああ、それじゃ早速俺は旅行に出かけるとする」

「夏休み初日から行くのかよ、って早いな!?」

 

夏休み初日前日、修了式が終わるやいなや、千道紫電の姿は地球上から消え去った。

 

 

「おお、これが俺の宇宙船……!」

 

全長およそ120メートル、俺が提案し、シオンが組み立てた世界史上初の宇宙建造した宇宙船である。

外観イメージは宇宙船というよりもステルス戦闘機に外見が似ているが、実際のところは光学迷彩により一切視認することはできない。

そりゃ地球上で観測している人たちにもし見つかったら大ごとになるからね。

 

念のためステルスモードにしてフォーティチュードを展開し、宇宙船に乗り込んだ俺は早速窓から見えるその光景に驚嘆していた。

本来、指定区域外でのISの機動は校則、国際条約違反だが、この宇宙で俺がISを起動しているなんて気付ける奴はこの世に存在しないから気にする必要などないのだ。

俺は新たな歴史へと踏み出しているんだ、規則や条約などに縛られる俺ではない。

しかし、地球は青かったというが、まさかこんなに早く地球をこの目で見れるとは!

暗い宇宙の中で一際明るく、青い惑星、地球。

普段地球上で暮らしている人々にとってはあまり気にすることは無いだろうが、この惑星はやはり美しい。

 

(今までこの光景を見たのは何人いるんだろうな、シオン)

(宇宙飛行士の関係者以外ではまず不可能でしょう。百人もいないのではありませんか?)

(……本当ならこの宇宙船で宇宙に飛び出すのはもっと後の予定だった。それがISの単一仕様能力のおかげでここまで一瞬でこれた!篠ノ之博士はあまり好きに慣れそうにないが、ISにだけは感謝しようじゃないか!)

(ISに感謝するのもいいですが、この宇宙船を開発したのは結局のところ、紫電と私です。感謝すべきは自分達にするのが正しいと考えます)

(ハハハ、中々手厳しいなシオン)

 

ISの展開を解除して深呼吸をする。

うん、宇宙にいるにもかかわらず、地球上となんら変わりなく呼吸ができる。

多少金属臭いような気もするが、それはご愛嬌というものだろう。

 

(今いる場所はコックピット兼管制室です。周囲の状況を確認し、この船の操縦をする場所ですね。現状では私が全コントロールを行っているので問題ありませんが、その気になれば紫電でも運転可能ですよ)

(さて、シオンが優秀だから俺が操縦する日は来るのかな?まあいつかは操縦してみたいかな)

 

俺はコックピットから見える風景を堪能すると、奥の扉を開いて隣の部屋へと移動した。

 

(隣の一番大きな部屋が開発ドックです。ここでフォーティチュードの全ての武装を開発していました。また、左右の入出ハッチから回収したスペースデブリの加工もここで行っています)

(うお、またでかいスペースデブリだな。これが新武装用の素材になるのか?)

(ええ、その通りです。ですが紫電、なぜ今更近接戦闘用ブレードなどを開発する気になったのですか?元々近接戦闘用ブレードを持たないためにスイッチブレードを作ったものだと認識していますが)

(ああ、それは対一夏用の為さ。一夏の零落白夜にはビーム兵器が効かねぇし、以前シュヴァルツェア・レーゲンが暴走したとき戦った織斑先生のコピー。あれにもスイッチブレードは相性が最悪だった。だからやむを得ず近接戦闘用のブレードを作るしかないのさ)

(要求スペックも大概ですけどね。エネルギー系武装と斬り合っても摩耗しないレベルの頑健さのブレードとは、開発するのはかなり大変なんですよ?)

(でも不可能じゃないんだろう?シオン、頼りにしてるぜ?)

(まあ、紫電の夏休みが明けてしばらくしたころには開発は完了するでしょう。楽しみにしててくださいね)

(了解っと。あ、もう一つやらなきゃいけないことができたんだ。フォーティチュードのカラーリングをしないとな。銀色のままでもかっこいいけど、ようやくプロトから卒業したんだ。ここらでプロトのイメージからも卒業させないとな。カスタム・ウイング「アメジスト」の粒子と同じ紫色ベースの機体にするのがいいと思うんだが、シオンはどう思う?)

(紫色は一年の専用機持ちたちとも色が被りませんし、良いと思います)

(おっし、んじゃ宇宙船内を一通り視察したらカラーリング作業に移るか!)

 

俺は頭の中でフォーティチュードのカラーイメージを考えながら開発ドックを後にした。

 

(こちらはメディカルルームですね。宇宙空間で体が鈍らないようにトレーニングするための機材を取り揃えています。また、液体窒素アイシングによる疲労回復装置なんかも置いてあります)

(おー、これ自室に置きたかったんだけどどうしても場所が取れなかったんだよなあ。本当に便利なんだけど)

(今後は座標操作の単一仕様能力を使っていつでも使いに来れますよ?)

(あんまりISの能力を無断で使ってるといつか織斑先生に怒られそうだからなー)

 

ちなみに重力操作の単一仕様能力を得られたため、実はこの宇宙船には地球と同等の重力が疑似的に発生している。

そのためトレーニング機材の重要性も減ってしまったのだがまあ良しとしよう。

俺は一通りのトレーニング装置の動作を確認すると、とりあえず隣の部屋への扉を開いた。

 

(ここは農業ルームです。紫電が開発したピート君が一人でせっせと野菜を作っていますね)

「……突っ込みどころがたくさんあるんだけどいいかな、ピート君」

「はい、なんでしょうダンナさま」

「この野菜何?俺確かジャガイモ、トマト、カブしか種送ってなかったよね?」

「はい、その三つの種を育てては交配し、あらたな作物を準備しておきました」

「ジャガイモに縞模様がついてやたら重くなってたのは百歩譲る。カブが俺より大きくなったのも百歩譲る。トマトにエイリアンの顔みたいな模様がついてたのも百歩譲ろう。大盤振る舞いだ。だがこの透明なキャベツみてーな野菜は何だ!?」

「ダンナさまのおっしゃったとおり、キャベツです」

「……俺の知ってるキャベツと違う。俺の知ってるキャベツはもっと葉っぱが丸くなったみたいなもんなんだけど、これ透明なボールが葉っぱに乗っかってるみたいじゃねーか!」

「まあそう言わずに。これはキャベツです。もう成熟していますので、食べてみてください」

「これ本当に食えるんだよな?キャベツなんだよな?……まあいいや、食うぞ!」

 

ピート君がスポッと透明なキャベツを引っこ抜く。

でもこれ一体どこを食うべきなんだろうか、透明なボールみたいな部分か?それともこの葉っぱの部分か?

ええい、この透明な部分に挑戦するぜ!

 

「……なん、だと……。キャベツだ、これ。しかも甘い!美味い!」

「喜んでもらえて嬉しいです、ダンナさま」

 

結局透明な部分と葉っぱの部分と両方食べてしまった。

味は確かにキャベツだったし、水分、甘み共に素晴らしいものだった。

 

「やべえな、キャベツだけでこんなに感動する日が来るとは思わなかった」

「光栄です、ダンナさま」

「キャベツはまあ分かったわ。んでこっちの電灯みたいなのは何だ?」

「これはキューリです、ダンナさま」

「……キューリ!?農業用の電灯かと思ったぞ……」

 

目の前にあるキューリらしき物体は淡く光を放っている。

これ、そもそも野菜なのか?

 

「ダンナさま、一本どうぞ」

「ええ?これ食えんの……?」

 

ええい、男は度胸だ、ここはチャレンジあるのみ!

 

「……う、うまい!確かにこれはキューリだ……!だがこの食感、今まで食ってきたキューリとはものが違う……!あまりの食感の良さに涙が出そうだ、感涙食感とはまさにこのことか!」

「喜んでいただけて感激です、ダンナさま」

「ピート君、畑を増やしてもいいかな?もっといろんな野菜を作って構わないぞ!」

「お任せください、ダンナさま」

 

(これはピート君を作って正解だった。俺とシオンだけじゃここまでの農作業はできないもんな)

(金属の加工なら得意なのですが、流石に私も農作業だけはできません。農作業においてはピート君に頼らざるを得ませんね)

(ピート君を地球で販売したら大半の食糧問題が解決しそうだが、それはまた危険すぎるから絶対販売できねーなこれは)

 

結局、この夏休みの最中、ほとんどの時間を俺は宇宙船内で過ごしていた。

宇宙船内の住み心地調査が本来の目的だったはずが、俺はピート君との農作業に没頭していた。

日頃ピート君が行っている農作業は中々大変なものだった。

種と種を混ぜ合わせ、よりよい品質の野菜を生み出したり、全く新しい品種の野菜を生み出したりと新しい発見ばかりだった。

気付けば野菜だけでなく、ドーム状のメロンやらひよこのようなレモンやら果物のようなものまで生み出していた。

 

(今度、一夏たちにもこの野菜をおすそ分けしてやるか。そろそろ食いきれなくなってきた……)

 

この夏休みの間、すっかり気分は宇宙農家になってしまった。

夏休み明けからはまた一学生としてがんばらないとな……。

 

 




宇宙開発の道もまずは農業から。ようやくアストロノーカ要素入ります。
といってもアストロノーカ要素は野菜部分くらいですが。
アストロノーカは名作なので未プレイの方は是非プレイすることをおすすめします。


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