インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■学年別タッグトーナメント(3)

学年別タッグトーナメントで忙しかった日々は嵐のように過ぎ去り、既にカレンダーは七月を指していた。

 

「今日は通常授業の日だったな。IS学園生とはいえ、お前たちも扱いは高校生だ。赤点など取ってくれるなよ」

 

授業自体は少ないが、IS学園でも一般教科は普通に履修する。

中間テストは無いが期末テストはもちろん存在している。

その際、赤点を取ってしまえば夏休みは連日補習に明け暮れることになるため、生徒たちは死に物狂いで勉強していたのであった。

 

「それと、来週からはじまる校外特別実習期間だが、全員忘れ物などするなよ。三日間だが学園を離れることになる。自由時間では羽目を外しすぎないように」

 

そしてIS学園には期末テストだけでなく、七月頭に校外実習、すなわち臨海学校も行事として存在していたのである。

三日間の日程の内、初日は丸々自由時間。

もちろんそこは海なので生徒全員は先週からずっとテンションが上がりっぱなしなのである。

 

「ではショートホームルームを終わる。各人、今日もしっかりと勉学に励めよ」

 

 

つい先ほど勉学に励めと言われたにも関わらず、俺は授業を全て聞き流し、シオンとの会話に集中していた。

 

(そうか、宇宙船の空気供給機の稼働テストも問題ないか)

(現在まで一か月ほど継続稼働していますが、宇宙船内の空気濃度は正常です。酸素、二酸化炭素、窒素など何れも地球基準と変わりません。もし紫電がこちらに乗船しても、宇宙服無しで十分活動することが可能です)

(水の浄化装置も動作は問題ないな?)

(こちらは既存の技術を少し改良しただけで済みました。どんなに汚染された水でも飲料水まで浄化可能です)

(狙いとしては宇宙資源として入手した水や氷を飲料水化することだが、それも問題ないか?)

(可能です。氷であろうと浄化可能です)

(上出来!さて残りは食糧問題だが、さっそく農業用ロボットであるピート君を稼働させようじゃないか!)

(あの妙なロボットですか。しかし、宇宙空間で農業をするロボットを作るとは、紫電も難しいことに挑戦しますね)

(酸素と水と二酸化炭素とそれなりの土があればまあ植物を育てることはできるだろう。ピート君なら素晴らしい野菜を育ててくれるだろうよ)

 

ここ最近俺が開発していたのは農業を行うロボットだった。

流石にIS開発と宇宙船開発を行っている俺たちに食糧の調達まで行う余裕はない。

そこで、宇宙船内で俺たちの代わりに農作業をしてくれるロボットを開発したのだった。

俺が開発した農業ロボット、通称ピート君は種の交配から収穫まで全てを行ってくれる万能型二足歩行型ロボットである。

ちなみに人口AIを搭載しており、喋ることもできる。

 

(さて、農作業はピート君に任せるとして、残りの問題は――重力と輸送手段か)

 

地球にいる人間たちにとっては普段全く意識することが無いであろう重力も、宇宙空間では必ず意識しなくてはならない。

無重力下に長期間滞在した人間への影響などは多数の論文が出ており、無重力下での生存とは極めて難しいという結論が出ている。

また、当たり前の話だが宇宙というものは非常に遠い場所である。

ISの量子変換による輸送は武装を含めた金属類しか輸送することができないため、人や植物のようなものを迅速に輸送する手段がないのである。

 

そのため俺は重力と輸送手段を求めていたのだが、その両方はISの単一仕様能力によって疑似的な重力と簡易的な輸送手段を得ることができていた。

通常、単一仕様能力は二次移行してから目覚めるものらしいが、これはきっと一夏の零落白夜のような特殊なケースだったんだろう。

ISコアにはまだまだ謎が多い。

 

ISコアナンバー009、最初に手に入れたこのコアは微弱な重力を発生させて操る単一仕様能力「重力操作(グラビティ・コントロール)」を覚醒させている。

最初の内こそ微弱な力しか発生させることはできなかったが、日々自身に重力をかけ、トレーニングの一環として使用しているうちにだいぶ強力な重力を操作することもできるようになった。

これが現に暴走したシュヴァルツェア・レーゲンの動きを止めるのに役に立ったわけである。

 

そしてもう一つ、ISコアナンバー008、こちらは小さい物であれば指定の座標位置へと物を送り届けることができる空間転移のような単一仕様能力「座標操作(コーディネート・コントロール)」が覚醒していた。

俺はこれを利用して宇宙船へと種を輸送し、宇宙船内の農業スペースでピート君に作物を育成させる計画を立てていた。

そして宇宙で育った野菜はシオンがこちらへ送ってくれる。

あとは俺もこの単一仕様能力で宇宙船へと輸送できれば文句なしなのだが、悲しいことに俺の体は大きすぎるようである。

 

ちなみに最後のISコアナンバー010についてはまだ単一仕様能力が覚醒していないようだった。

何らかの単一仕様能力が覚醒してくれることが待ち遠しい。

 

 

「おーい紫電、昼飯行こうぜ……ってお前のノート真っ白じゃねーか!まさか寝てたのか?」

「ん?ああ、ノートなんか取る意味ないだろ。書く時間が無駄だ。それに後で見直す必要もないんだから書く必要なんてないだろう」

「い、言ってる意味がよくわからん……。いや、普通授業でやったことをノートにまとめるのは常識だとおもうんだが?」

「それは凡人のやり方だ。聞いたこと、読んだこと、一発で頭の中にぶち込めばもう見直しも必要ない。それにテストに出そうな部分も大体目途はついてる」

「まじかよ……。そんな理論初めて聞いたぜ」

「まあ慣れれば誰にだってできるさ。それより昼飯に行くんじゃなかったのか?」

「あ、ああ、行こうか」

 

相変わらず昼時の食堂は混雑している。

俺は煮魚定食を持って空いてる席へと座った。

 

「にしても散々だったな。学年別タッグトーナメントは」

「ああ。あのあとラウラが部屋に押し入ってきたりとまた別の意味で大変になったぜ……」

「へえ、ラウラも意外と積極的なんだな。……そういえば4組の代表候補生って一夏知ってるか?」

「いや、全然知らないけどなんかあったのか?」

「学年別タッグトーナメントは中止になったけど一回戦だけは全試合行うって話あっただろ?今日の放課後、俺とシャルの相手がどうもその4組の代表候補生の子らしい」

「……へえ!確かシャルロットもフランス代表候補生だったよな?代表候補生同士の対戦になるのか!」

「だから少しでも情報収集できればと思って聞いてるんだが、その4組の代表候補生についてはあまりいい情報が無くてね……。日本代表候補生であるってことくらいしかわかってないんだよ」

「日本の代表候補生なのか。やっぱ強いのか?」

「全く情報が無くてよくわからん。……ま、ならしょうがないさ。実際に戦って実力を確かめるとするか」

 

俺は食べ終わった皿を片付けると、教室へと戻っていった。

 

 

放課後、第三アリーナにて、俺とシャルは対戦相手を待っていた。

 

(シオン、4組の代表候補生について何か情報は無いのか?)

(残念ですが、大した情報はありません。名前は更識簪、生徒会長である更識楯無の妹であり、専用機持ちということまでは分かっていますが、その専用機についてはほとんど情報がありません)

(専用機の情報は無しか。そこが一番知りたいんだがな……)

 

「シャル、お前も今日の対戦相手について何も情報なしか?」

「うん、4組の代表候補生って聞いてるけど。ゴメンね、他には何も知らない」

「いや、いい。情報が無いなら無いでしょうがないさ。作戦は……まあ互いに一対一を仕掛けていく程度でいいだろう」

「わかった。でも危ないときは援護してね?」

「ああ、わかった。……って何だ、緊急連絡?」

 

――本日予定されていた千道紫電、シャルロット・デュノアペアVS更識簪、布仏本音ペアの試合は更識簪の機体整備不良により、棄権となりました――

 

「機体整備不良により棄権だと?どういうことだ?」

「わかんないけど……専用機はデリケートなものも多いし、何かトラブルでもあったんじゃない?」

「……煮え切らねーな。折角シャルの新武装を試せるかと思ったのにまたお預けか。シャル、呪われてるんじゃないか?」

「ええっ、僕のせいなの!?」

 

俺はシャルをからかうと、不完全燃焼なまま第三アリーナを後にした。

近日中には臨海学校も始まるし、流石にそろそろ準備しないとな。

 

このとき俺が準備と言ったもの、それは着替えや水着なんかではなく、いまだに未完成のカスタム・ウイングのことだった。

――これが本当に役に立つとは、このときはまだ誰も思ってはいなかった。

 

 


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