インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■ドイツの黒い雨

翌日の朝、教室にシャルロットの陰は無かった。

その代わり――

 

「今日は、ですね……みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいると言いますか、ええと……」

「失礼します」

 

教室のドアがガラリと開く。そこに立っていたのはやはり――

 

「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」

 

ぺこりとスカート姿のシャルロットが礼をする。

俺以外のクラスメイトは全員ぽかんとしたまま礼を返す。

 

「ええと、デュノア君はデュノアさんでした。ということです。はぁぁ……また寮の部屋割を組み立て直す作業がはじまります……」

「え、デュノア君って女……?」

「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったわけね」

「って、織斑君、同室だから知らないってことは――」

「いや、知らないって!っていうか今知ったよ!」

 

……一夏は最後までシャルロットが女だと気付かなかったのか。

 

 

結局、ホテルでの会談の翌日、フランスのメディアだけでなく世界中のメディアは多いに沸いた。

経営不振に陥ったデュノア社の経営陣刷新、そしてデュノア社と新星重工の業務提携が締結。

イグニッション・プランにフランスからの新風が巻き起こるか!?などという見出しが飛び交った。

しかし、そこまでは予想通りであった。

俺が本当に欲しがっていたのはシオンが宇宙で回収してきたスペースデブリなどを加工した宇宙資源の販売ルート、これがどうしても欲しかったのだ。

 

俺がIS開発を始めてから数か月でフォーティチュード・プロトは完成してしまった。

残るカスタム・ウイングは希少金属の入手問題で開発が遅れているものの、完成のめどは既についている。

また、その間も宇宙船開発とスペースデブリの回収を行っていたものの、宇宙船開発はほぼ完了してしまったのである。

そこで残る食糧問題を解決するための研究資金を調達しようとしたが、その方法が問題だった。

現状で俺が売れるものはスペースデブリを加工した金属のみ。

しかし、スペースデブリを回収して加工し、売り払うなんて手法はシオンがいなかったら一体何年先の技術が必要になるのだろうか。

そんな出所の話すことができない金属の売り先がどうしても必要だったのである。

さらに次期社長をシャルロットにすれば資源の調達ルートについて聞いて来るやつも当分はいなくなるだろう、という筋書きだった。

 

(しかしこれでようやく資金調達の目途がついた。ようやく食料資源の生産に移れるぞ!)

(楽しそうですね、紫電)

(ああ、もう既に準備だけはできている。後は成果を出すだけだなっと、その前にイグニッション・プラン用のIS設計書も作成しないとな……)

(しかし、折角設計までしたあの武装をデュノア社に譲渡してしまって良かったのですか?)

(問題ないさ。フォーティチュードの武装はもう決まっているからあの武装は今の所必要ない)

 

などとシオンと話していると、既に午前中の授業は終わり、昼休みに移っていた。

 

「っとやべえ、昼飯昼飯っと――」

「ねえ、紫電!」

「お、シャルロットか。よかったな、これからは男装せずに振る舞えるじゃないか」

「も、もう!……そんなことより、これから昼食だよね?一緒に行ってもいいかな?」

「ああ、構わない。そうと決まれば、遅れずに行こう」

「ふふっ、善は急げってやつかな?」

「……へえ、また一つ賢くなったんじゃねーの」

 

そういうと俺はシャルロットを連れて食堂へと向かうのだった。

 

 

「紫電、本当にありがとう。君のおかげで私はIS学園に残ることができたんだ。重ねて言うけど、本当にありがとう!」

「おいおい、あくまであれは俺が俺のためにしたことであって、シャルロットに礼を言われるようなことはしてないぞ」

「それでも僕は紫電に助けられたんだ。そのことは忘れないでね。あと、僕のことはシャル、って呼んでほしいな」

「そうか、シャル。だがまだイグニッション・プランに向けたIS開発が完了した訳じゃねえんだ。気を抜くのは勘弁な。あとシャル、本当に言いたいのはそのことではないんだろう?」

「う……なんでわかっちゃうかなぁ……。実は――」

「千道君、私とタッグ組んで!」

「私と組もう、千道君!」

 

気付けば俺の周りに人だかりができていた。

なんだこれ、入学式当日の食堂を思い出すな。

 

「タッグだの組もうだの、なんのことだ?」

「「「これ!」」」

 

「なになに……今月開催する学年別トーナメントでは、より実践的な模擬戦闘を行うため、二人組での参加を必須とする。なお、ペアが出来なかった者は抽選により選ばれた生徒同士で組むものとする。締め切りは――」

 

おや、今月末の学年別トーナメントはタッグマッチになったのか。

だからこうして俺の所にタッグを申し込みに来た、と。

 

「――紫電っ!今月末の学年別タッグトーナメントのパートナー、僕と組んでほしいんだけどダメかなっ!?」

 

シャルも負けじと言い返す。

なるほど、言いたかったことはこのことだったのか。

 

「ああ、みんなの気持ちはありがたいんだけど、俺はこっちのシャルとタッグを組まなくちゃいけないんだ。ニュースでも報道されたけど俺の所属する新星重工とシャルのデュノア社は業務提携しているからね」

「紫電……ありがとう!」

「ええーそんなぁー」

「仕方ない、織斑君のほうに行ってみよう!」

 

俺の周りは徐々にはけていった。

 

「しかし、タッグマッチとは随分突然だな」

「うん、去年までは個人戦だったけどより実践的な戦闘経験を積ませるためにツーマンセルになったって聞いてるよ」

「ほう、それはちょうど良かった。イグニッション・プランに向けて準備している武装の試作品をシャルのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡに搭載してこのトーナメントで動作テストしようじゃないか」

「え、もう試作品ができてるの!?っていうか武装の内容全く聞いてなかったんだけど……」

「何、すぐ慣れるさ。ほら、早く食べないと昼休み終わっちまうぞ」

「わわっ、そんな急かさないでよっ」

 

そうこうしている内に、慌ただしくも昼休みは過ぎ去っていった。

 

 

放課後、第三アリーナ。

今日はシャルのラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡで武装の試作品をテストしに来ていた時のことだった。

 

「「「「あ」」」」

 

俺とシャルが偶然にも出会ったのはセシリアと鈴だった。

 

「あら、奇遇ね。あたしはこれから月末の学年別トーナメントに向けて特訓するんだけど」

「奇遇ですわね。わたくしも全く同じですわ」

「俺たちは試作品のテストだ。学年別トーナメントへの特訓は後回しだな」

「そうなの?じゃセシリア。丁度いい機会だし、この前の実習のことも含めてどっちが上かはっきりさせとくってのも悪くないわね」

「あら、珍しく意見が一致しましたわ。どちらの方がより強く優雅であるか、この場ではっきりとさせましょうではありませんか」

 

二人はISを展開し、メインウェポンを構える。

 

「いい機会だから俺たちも二人の試合を見てみるか」

「うん、わかった」

 

俺とシャルロットはISを展開し、邪魔にならないように外周付近へと移動する。

 

「では――っ!?」

 

勝負を開始しようとした瞬間、二人の間に超音速の砲弾が飛来する。

砲弾が飛んできた方向を見ると、そこに存在していたのはドイツの第三世代型IS『シュヴァルツェア・レーゲン』だった。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒ……」

「……どういうつもり?いきなりぶっ放すなんていい度胸してるじゃない」

「中国の『甲龍』にイギリスの『ブルー・ティアーズ』か。……ふん、データで見たときの方がまだ強そうではあったな」

「……何?やる気?わざわざドイツくんだりからやってきてボコられたいなんて大したマゾっぷりね。それともジャガイモ農場じゃそういうのが流行ってんの?」

「あらあら鈴さん、こちらの方はどうも言語をお持ちでないようですから、あまりいじめるのはかわいそうですわよ?犬だってまだワンと言いますのに……」

「はっ……。二人がかりで量産機に負ける程度の力量しか持たぬものが専用機持ちとはな。よほど人材不足と見える。数くらいしか能の無い国と、古いだけが取り柄の国はな」

 

ボーデヴィッヒの言い草にシャルが飛び出そうとするが、俺はそれを静止させた。

 

「紫電、何で止めるの?」

「シュヴァルツェア・レーゲンの……いや、ラウラ・ボーデヴィッヒの実力を見てみたい。あれだけ言うってことはそうとうな実力があると思っているんだろう。それに俺らが割り込んだとしても鈴とセシリアの怒りは収まらんよ。好きなようにさせた方がいい」

「ええ?そんなもんなのかなあ……?」

 

鈴とセシリアは既に装備の最終安全装置を外していた。

 

「わかった。わかったわよ。スクラップがお望みなわけね。――セシリア、どっちが先やるかジャンケンしよ」

「ええ、そうですわね。わたくしとしてはどちらでもいいのですが――」

「はっ!二人がかりで来たらどうだ?一足す一は所詮二にしかならん。貴様らのような雑魚にこの私が負けるものか、とっとと来い!」

「「上等(ですわ)!」」

 

二人はシュヴァルツェア・レーゲンに向かって飛びかかっていった。

 

「ところでシャル。あれ、どっちが勝つと思う?」

「いくらシュヴァルツェア・レーゲンといえど、セシリアと鈴の二人を同時に相手にするのは厳しいんじゃないかな……」

「そうか。俺はシュヴァルツェア・レーゲンがどんな機体かよく知らないけど、多分ボーデヴィッヒが勝つんじゃないかと思うね。自信たっぷりみたいだし」

「ええ?そんな理由で?」

「まあ見ていればわかるだろうよ。一旦武装のテストは中止だ」

 

俺とシャルはあらためて三人の戦いをのんびりと見学するのであった。

 

 

勝負は圧倒的だった。

多少のダメージはシュヴァルツェア・レーゲンに与えられたものの、それに対する鈴とセシリアのダメージはそうそうたるものだった。

機体は所々に損傷が見られ、ISアーマーの一部は完全に損壊してしまっている。

 

「っ!くらえっ!」

 

甲龍の両肩が開き、龍咆の最大出力攻撃が放たれる。

一方、その標的となっているボーデヴィッヒは回避すらしないで右手をただ突きだすだけだった。

 

「無駄だ。このシュヴァルツェア・レーゲンの停止結界の前ではな」

「くっ!まさかこうまで相性が悪いだなんて……!」

 

アクティブ・イナーシャル・キャンセラー、通称慣性停止結界。

腕部から放出されるそれは対象の周辺空間に慣性を停止させる領域を展開し、動きを封じる兵器である。

それがシュヴァルツェア・レーゲンの切り札であった。

 

「早々何度もさせるものですかっ!」

 

ビットを射出し鈴の援護射撃を行うセシリア。

しかし、シュヴァルツェア・レーゲンはそれをあっさりと回避して見せた。

 

「ふん……。理論値最大稼働のブルー・ティアーズならいざ知らず、この程度の仕上がりで第三世代型兵器とは笑わせる」

 

ボーデヴィッヒは再び腕を突きだすと、何かに掴まえられたかのようにビットの動きが停止させられていた。

 

「動きが止まりましたわね!」

「貴様もな」

 

セシリアから狙い澄ました狙撃が放たれるも、シュヴァルツェア・レーゲンの大型カノンによる砲撃で相殺されてしまう。

負けじとセシリアは連続射撃に入ろうとしたが、先ほどワイヤーで捕えた鈴をぶつけて阻害していた。

 

「きゃああっ!」

 

空中で二人が衝突し、体勢が崩れたところへボーデヴィッヒは突撃を仕掛けた。

それはまさに瞬時加速。

一夏の得意とする格闘特化の技術だった。

 

「このっ……!」

 

しかし近接格闘ならば鈴にも心得があった。

ボーデヴィッヒの両手首から出力されたプラズマ刃を甲龍の誇る青竜刀、双天牙月でうまくいなしていた。

しかし、そこにシュヴァルツェア・レーゲンのワイヤーブレードが再度襲い掛かってくると今度は対応しきれず、押される一方になってしまう。

 

「くっ!」

 

鈴はなんとか体勢を立て直し、龍咆の砲弾エネルギーを集中させる。

 

「甘いな。この状況でウェイトのある兵器を使うとは」

 

ボーデヴィッヒの宣告通り、龍咆のエネルギーが溜まる前にシュヴァルツェア・レーゲンの砲撃によって爆散させられてしまった。

 

「もらった!」

「……!」

「させませんわ!」

 

鈴に対して一気に距離を詰めたボーデヴィッヒの間に、スターライトmkⅢを割り込ませて盾にすると辛うじて必殺の一撃を反らすことに成功した。

そしてそれと同時に弾道型ビットをボーデヴィッヒに向けて射出していたのであった。

 

「無茶するわね、あんた……」

「苦情は後で。けれど、これなら確実にダメージが――」

「……終わりか?ならば――私の番だ」

 

爆炎が晴れると、さほどダメージは無かったかのようにシュヴァルツェア・レーゲンが佇んでいた。

そして言うと同時に瞬時加速で距離を詰めると、鈴を蹴り飛ばし、セシリアに近距離からの砲撃を直撃させた。

 

「あああっ!」

 

二人のシールドエネルギーは0になっていた。

それでもなお攻撃を加えようとするボーデヴィッヒを見かねた俺は横槍を入れることにした。

 

「……ぐはっ!?」

 

シュヴァルツェア・レーゲンの周囲に赤い閃光が飛び散る。

セシリアと鈴にばかり集中していたせいか、俺の肩部レーザーキャノン「ルビー」からの砲撃に気付けなかったようだ。

 

「あー邪魔して悪いね。でももう決着はついてるだろう。そこいらにしておいてやれ」

「貴様……っ!確かISを動かした第二の男だったか。私を攻撃するとはいい度胸をしているな?」

「横槍入れないとそっちの二人が完全崩壊しちまいそうだったんでな。悪いな?」

「……っ!」

 

ボーデヴィッヒが俺に向かって腕を突きだす。

悪いけど、それはもう見飽きた光景なんだ。

俺は瞬時加速も使わず、一瞬でボーデヴィッヒの背後へと回り込んでいた。

 

「……!?」

「ああ、その停止結界だっけ?対象を視界に捉えて集中しないと発動できないみたいだな?そんな鈍い攻撃じゃ俺に当てることなんてできないぜ」

「くっ!」

 

再びボーデヴィッヒはこちらを向き、ワイヤーブレードと共に停止結界の発動を狙ってきた。

――でもその攻撃では遅すぎる。

俺は一瞬でボーデヴィッヒの頭上を取っていた。

伸びきったワイヤーブレードをスイッチブレードで切断すると、そのままボーデヴィッヒの背後に立ち、アサルトライフル「アレキサンドライト」を突きつける。

 

「なっ!?」

「だから言っただろう、遅すぎると。俺はこれからセシリアと鈴を医務室まで連れて行く。ま、今日の所はノーゲームってことでよろしく頼む」

「待てっ、貴様っ!」

 

ラウラが振り返った頃にはすでに紫電だけでなく、セシリアや鈴たちの姿も消え去っていた。

 

「なるほど、第二の男、千道紫電。少しは骨があるようではないか……!」

 

誰もいなくなったアリーナ内を見渡すと、ラウラは一人ピットへ向かって歩いていくのであった。

 

 




祝20話目!祝UA8,000突破!

実は今のところ50話近くまで書いてるんですけど来月発売と言われている原作の11巻分をどうしようか悩んでます。
10巻分までは基本的に原作沿いなんですが11巻分以降は無視して完全オリジナルストーリーを進めてしまおうかと考えていますが、原作の11巻分について意見ありましたらぜひお願いします。
評価・感想もお待ちしております。


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