インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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■発見

それを発見したのはアメリカ某所にある国際宇宙センターだった。

このときの俺はまだ小学校にすら入っていなかったが、教育熱心な親父によって博物館や動物園など色々な所に連れ回されていた。

まだ小さかったから細かいことまでは覚えていないが、一つだけはっきりと覚えている場所がある。

アメリカ某所にある国際宇宙センター、その中にあるギフトショップ。

親父と奇妙な会話をしたのはそこだった。

 

「ほら紫電、これは隕石って言う宇宙から飛んできた大きな石の欠片なんだよ」

「……父さん、宇宙の石は光るの?」

「光る?何を言っているんだ紫電。隕石と言えども所詮は石だ。光ってなんかいないだろう?」

 

今でもはっきりと覚えている。我ながら奇妙な会話だと思う。

これは今から10年とちょっと前くらいに俺が親父とした会話だ。

隕石に光沢があるということならまだおかしくは無いが、隕石が電球のように光るのは明らかにおかしいだろう。

そのことを正直に話しただけなのだが、今になって冷静に考えると非常に滑稽である。

 

(……この石、光ってるけど誰も何も感じないの?)

 

宇宙でも使えるボールペン、携帯宇宙食、スペースシャトルの模型などの様々な土産物の中に、それは埋もれるように存在していた。

目の前にあるのは研究対象にもならない宇宙からの石、いわゆるお土産用クズ隕石の山。

その中にたった1つ、小さなダイヤモンド型の隕石が呼吸するかのように淡い光を放っていた。

他にもいくつか隕石があるが、光っているのはその一つだけだった。

 

(……誰も気にしないの?それとも光っているように見えているのは自分だけ――?)

 

隕石の欠片を掌に乗せるとほんのり暖かい。

そして暖かみと同時に言葉では言い表せない奇妙な感覚。

微弱な電流が体内を駆け巡るような奇妙な感覚が得られた。

それは決して不快な感覚ではなく、むしろ心地良ささえ感じるものだった。

 

 

「父さん、この石買って!」

「……うん?」

 

あのとき、親父は驚いていた。

今まで俺が欲しがったものといえば、参考書やら望遠鏡やら実用性の高い物ばかり。

希少価値の低い土産用の隕石の欠片を欲しがったのはきっと予想外だったのだろう。

結果的にあまり値段が高くないこともあり、隕石の欠片は無事買ってもらうことができた。

 

その後も色々な所を見て回ったが俺の頭の中は隕石のことで頭が一杯だった。

ただひたすら隕石を手の中に握りしめ、親父の後ろをついて歩くだけになっていた。

結局、宇宙センターを出て帰りの飛行機に乗っても光る隕石の欠片への興味が薄れることは無く、隕石を手の中で握り物思いにふけっていた。

 

(……この石は何かを俺に伝えたいのだろうか?)

 

このとき、俺が何故こう思ったのかは俺自身でもわからない。

ただ何となく、理由も無く感覚のみでそう思ったのだった。

しかし、その疑問に対する答えは意外な形で返ってくることになる。

 

(――聞こえていますか――)

 

突然声が聞こえたような気がした。

思わず立ち上がって周囲を見回したが、夜空を飛ぶ帰りの飛行機内は静寂に包まれている。

ほとんどの人は眠っていて、話しかけてきそうな人は一人も見当たらなかった。

 

(――私の声が聞こえていますか?)

 

再び声が聞こえると、今度は声の違和感に気付く。

この声は誰かが喋っているのではなく、頭の中に直接響いているという感覚が正しいようだ。

 

(聞こえてるけど、どこから話しかけているの?)

(あなたの手の中からです)

 

口に出さず頭の中で返事をしてみたが、どうやら通じたようだ。

しかし、俺の手の中ということは――

 

(隕石が喋った!?)

 

おそらく、隕石と会話をした人間は俺が世界初だろう。

少なくとも俺が今まで読んできた参考書では隕石と会話ができた人物などは記載されていなかった。

 

(初めまして、俺は紫電っていうんだ)

(あなたの名前は紫電。わかりました)

(君の名前は何て言うの?)

(私は、私の名前はありません)

(名前が無いの?親に名前を付けてもらわなかったの?)

(私に親は存在しません。故に名前もありません)

 

第一印象は良いに越したことはない、初対面の相手には挨拶をしなさい。

親父の教育のおかげか、相手は人間ではなく隕石であるにもかかわらず俺は冷静に自己紹介ができていた。

隕石からもしっかり返事が返ってきたが、自身に名前は無いということだった。

このときは流石に困ったので、俺が名前を付けることにした。

 

(名前が無いのなら、君のことはシオンと呼んでもいいか?)

(シオン、私の名前……。わかりました、シオンとお呼びください)

 

頭に響くこの声は女性のもののように感じたので、シオンと呼ぶことにした。

いつだか親父が言っていたが、俺が生まれる時に男の子だったら紫電、女の子だったら紫苑(しおん)と名付けようと決めていたらしいからだ。

 

(それでシオン、君は一体何なの?どこから来たの?)

(私が何か、どこから来たか、それは私にもわかりません)

(じゃあこの声はどうやって話しているの?)

(それは音ではなく、感覚の同調を行うことで紫電の聴覚に直接語りかけているのです)

(音ではなく聴覚に直接って、まるで意味が分からないなぁ……)

 

 

結局、日本に帰るまで俺はシオンと話し続けたがシオンの正体はよく分からなかった。

放つ光は俺にしか見えず、音を発さずに頭の中に直接感覚で語りかけ、どこから来たかも不明な隕石。

シオンという異質な存在はとても興味深く、まだ幼い俺から見ても非常に魅力的だった。

今思えば、このときから既に俺の運命は決まっていたのだろう。

この隕石、シオンと共に一生を過ごすことになるのだろうと――

 

 

 


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