インフィニット・ストラトス -Supernova-   作:朝市 央

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初投稿です。
至らない点多数あると思いますが、気になった点等は感想としてご指摘頂けるとありがたいです。



■プロローグ

「えー、今日は男子諸君にISの適性検査を受けてもらうことになった。名前を呼ばれた者は体育館へ行くように」

教壇に立つ初老の男性教師の言葉に教室がざわめき出す。

それから間もなく一人の男子生徒の名前が呼ばれ、教室を出て行った。

 

 

インフィニット・ストラトス、通称ISが世界中に知れ渡ったのは今から約10年前になる。

日本を射程圏内とするミサイルが配備された全ての軍事基地のコンピュータが一斉にハッキングされ、2341発ものミサイルが日本へ向けて発射された。

IS『白騎士』はその半数を迎撃した挙句、各国から送り込まれた戦闘機などの軍事兵器までをも無力化し、その圧倒的な戦闘能力を見せつけた。

 

この事件は『白騎士事件』と呼ばれ、世界情勢を大きく変えるきっかけとなった。

攻撃力、防御力、機動力とあらゆる面で高い性能を誇るISは既存の軍事兵器を過去の遺物へと変え、各国の抑止力の要はISへと移っていく。

また、ISは女性しか動かせないということが男女のパワーバランスを崩壊させ、世界中に女尊男卑の風潮を高めていった。

しかし受験戦争真っ只中の2月のある日、ISは女性しか動かせないという常識は覆されることになる。

 

――世界で初めてISを起動させた少年、現れる。

 

テレビ、新聞、インターネット。

あらゆるメディアがこぞって報道したその少年の名は織斑一夏。

世界最強のISパイロットとして名を馳せる織斑千冬の弟である。

そして、織斑一夏がISを起動したという事実は世界中の男たちに小さな希望の光を灯した。

もしかしたら他にもISを使うことができる男が存在するのではないか、と――

 

 

(やべーな、ひょっとしたら俺もIS起動できるんじゃねーか!?)

(早く呼んでくれないかな、どうせISなんて起動できんのだし、さっさと終わらせたい)

(ISのことなんかどうでもいいから受験早く終わってくれないかな……)

(腹減ったなぁ)

 

IS適性試験の実施について男子生徒達の考えは多種多様だった。

ここ先迅中学校は県内トップの進学校であるせいか、IS適性の有無よりも受験戦争に必死な男子の方が多いようだった。

 

「あぁ君たち、今は授業中だ。受験も終わっていないんだから気を緩めないようにな。それにISを動かす男なんてどうせ現れんだろう。メディアに踊らされてはいかんぞ」

 

教師がそう諭すと教室はしん、と静まり返る。

静寂に満足したかのように教師は微笑むと、黒板を向きいつも通りに授業を始めた。

 

チョークが黒板上で削れる音、教科書のページを捲る音、ペンがノートの上を走る音。

静寂を取り戻した教室にはいつも通りの音が響いていたが、一部の男子生徒には心臓の音が普段よりも大きく聞こえていた。

もしかしたら、ひょっとしたら、自分も織斑一夏と同じようにISを動かせるのではないか――

男子生徒達は淡い思いを胸に抱き、自分の名前が呼ばれるのを待った。

 

 

やがてガラリと教室の扉が開き、最初に教室を出て行った少年が戻ってくると教室中の皆の視線が一点に集中する。

戻ってきた少年は何事もなかったかのように自分の席に着くと、皆の視線も黒板へと戻っていく。

そんな光景が幾度か繰り返される内に、やはり男にISは動かせないのだ、織斑一夏が特別なのだということが皆の脳裏をよぎったのか、男子生徒達がうるさく感じていた心臓の音も収束しつつあった。

 

(もうすぐ俺の番か。まあ、なんとかなるだろう――)

 

この俺、千道(せんどう)紫電(しでん)もIS適性試験対象の一人だった。

端正な顔立ちに高身長、落ち着いた性格に全生徒達の中でトップを走る頭の良さも併せ持つ完璧超人である彼も、表面上は冷静を装っていたが内面では胸の高鳴りを隠せずにいた。

 

(俺はISを動かせるのだろうか……)

 

授業の内容などは既に頭の中に入っているせいか、教師の言葉などには一切聞く耳持たず、自身のIS適正試験のことばかりが脳裏に浮かんでいた。

 

「3年1組、千道紫電、体育館に来なさい」

校内放送用のスピーカーから次の生徒の名前が告げられる。

 

(――やっと俺の番か)

最後列窓際の席で頬杖をついていた少年は、ゆっくり立ち上がると体育館へと歩いて行った。

 

 

暖房が利いている教室と比べると廊下は冷える。

寒さの影響で少し早足となった紫電はすぐ体育館に着いてしまった。

体育館の扉を開いたその先、真っ先に紫電の眼に映ったのは黒いISの姿だった。

 

 

第2世代型IS『打鉄(うちがね)

防御力に優れた純日本国産の第2世代型ISであり、その安定性から訓練機としても人気が高い。

 

「はい、ぼーっとしてないでさっさと触る。まだ次の人がたくさんいるんだから」

 

政府の関係者であろう女性は紫電を見るなり、面倒臭そうに告げる。

ISを動かせる女性からしてみれば退屈な仕事なのだろう。

そんな女性のことなど気にすることもなく、紫電は打鉄に手を伸ばした。

 

「はい、それじゃ次――」

 

女性の口からその先の言葉は出てこなかった。

目の前の少年、紫電は打鉄を装着して立っていたのである。

 

「へぇ、これが『打鉄』か。……結構軽いもんなんだな」

「……あっ、IS適正あり……!?」

「あぁ、そうみたいですね。それで俺のIS適正値は何ですか?」

「え、えぇ、判定は……A判定!?」

「A判定……そうですか」

 

驚愕する女性とは反対に、紫電は落ち着いていた。

まるで自身がISを動かせると確信していたかのように――

 

「……それで、俺は今後どうなるんですか?」

「えぇと……まずは政府に連絡した後でどうなるか決まるわ。ただ、前例の織斑一夏君のことを考えるとIS学園に通うことになるんじゃないかしらね」

「IS学園、ですか」

「えぇ、IS適性のある男性はあなたが2人目だし、きっとあなたも世界中から狙われることになるわ。そんな重要人物を守れる場所はIS学園しかない。それにあなた、IS適正A判定なんだからISパイロットとして鍛えられるのは間違いないわ」

「……そうですか」

 

(まずは計画通りIS学園に入学することはできそうだな。俺の受験戦争も終わりか)

 

慌てて政府への連絡を入れる女性を尻目に心の中でそう呟くと、今後のことを考え始めた。

 

(IS学園はどんな所なんだろうな……)

 

計算高く常に下調べを欠かさない彼にとっても、ほぼ男子禁制のIS学園とは未知の場所であった。

 

(しかし、これでようやく俺の計画が本格的に始められる……!)

 

この日、世界で再びISを起動させた少年が発見された。

織斑一夏に続いてISを起動させた第二の男、その名は千道紫電。

彼の名前が世界中に報道されたのは織斑一夏がISを起動させてからわずか数日のことだった。

 

 


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