俺の名は。   作:a0o

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 原作とは違う形で・・・



分岐点

 

 四ツ谷の神社近くで夕日を見ながら三葉は頭を落としうな垂れている。

 

「ああ~、瀧くん。早く来て、お腹すいたし疲れたよ」

 

 そのまま待つこと数十分、体感では数時間待たされている気分に更に消沈していく。

 

「迷子の迷子の宮水三葉、居たら返事してくれ!」

 

 石段の下からの(恥ずかしい)声にバッと顔を上げて慌てて駆け下りる。

 そこにはコンビニパンを片手に洒落た服に身を包んだ立花瀧が居た。

 

「・・・・・・・・・」

 

 文句を言おうとしたが、そのパンに目が行ってしまい思わずゴクリと唾を飲んでしまう。

 一方、瀧も見慣れない私服姿の三葉に(呆れながら)ぶっきら棒に声を掛ける。

 

「腹減ってるなら食うか?」

 

「いらんよ、そんな食べかけなんて!」

 

 そのまま互いの顔を見て無言になり、程なくして互いに肩を震わしていく。

 

「「ふっ、ふふふふふ、アハハハハハ!!」」

 

 感動とは程遠い始めての対面に互いに可笑しくなり、大声で笑いあい近づいて行く。

 

「お前さあ、突然会いにくるなよ。それともサプライズのつもりか?」

 

「文句なら例によって若茶さんに言って。それよりデートどうだった?」

 

「ハッキリ言って失敗した。最悪だった・・・俺の人生初デートをどうしてくれる?」

 

「もう・・・・この男は!

 やっぱり私がデートすれば、あと一回の入れ替わり、どうせなら今日起こって欲しかったなぁ」

 

「そう言えば、若茶さん昨日の晩も様子が変だったみたいだけど、どうしたんだ?」

 

「それが分からんからこっちに来たんよ。瀧くんの方こそ会わんかったん?」

 

「いや全く、兎に角此処で話してても埒が明かないから、直接聞きに行こう―――――ただ、その前にどっかで晩飯食ってこう」

 

 そう言って手を引いて歩き出す瀧の顔はデートの時より遥かに活き活きしており、三葉の方も恥ずかしながらも、その気遣いに嬉しそうな顔をして歩いて行った。

 

 

***

 

 

 薄暗い部屋の中、若茶流は何度も何度も集めたデータと計算した式を書き記したノートを確認し、間違いや見落としがないかを探していた。

 

「頼む・・・・ただの思い過ごし出会ってくれ・・・・・俺が間違っているのが一番いいんだ・・・・・・」

 

 その目には隈が出来ているばかりか充血して血走っており、一睡もしていないのがありありと伝わって来る。無意識下のストレスも高まり、神経も高ぶっている状態であり、そんな中で呑気なチャイムの音が壮絶に耳障りであり、不機嫌な顔と足取りで玄関に向いドアを開ける。

 

「どなたですか?!今取り込んでるから、大した用件じゃないなら・・・・・なんで君達が?」

 

 無作法な対応にドン引きしている立花瀧と宮水三葉を視界に映し、僅かに冷静さを取り戻す。

 

「なんではこっちの台詞ですよ。凄く酷い顔してますよ」

 

「大体、あんな風に出て行って気にならない訳ないでしょ」

 

 普段はフォローしている子達に心配され、高ぶった神経を収めていき静かに返す。

 

「ああ、悪かった。でも言った通り取り込んでるから今度また―――――」

 

「そうはいきません。誰の目から見たって若茶さん寝てないでしょ、帰れません」

 

「瀧くんの言う通り、と言うかご飯も食べてないんじゃ?」

 

 ドアを閉めようとするも瀧が強引に割って入り、三葉も続くように部屋に入って来る。そのまま流の作業部屋に行き、資料が散乱しているも足場や作業スペースやキッチリ確保している様に複雑な視線を向ける。

 

「・・・まずは空気を入れ替えましょう」

 

「あ、私ご飯の支度するね」

 

 家主をそっちのけでそれぞれ作業していく姿を見ていると怒りより和やかな気になり、昨夜からの疲れもあってか事前と黙って大人しくしていた。

 

「冷蔵庫も空っぽじゃないけど、余り中が入ってないなぁ」

 

「なんか、朝飯みたいだな」

 

「今は時間の感覚、分からないから別にいいさ」

 

 三葉が作った軽食を見て、瀧のあっさりした感想を聞き、流は苦笑しながらも箸を取る。

 そして、食べ終わるのを待って瀧と三葉が真剣な顔で聞いてくる。

 

「若茶さん、一体何があったんですか?」

 

「様子がおかしいなんてもんやないよ。ちゃんと話して」

 

 流は溜息を一つつき、いつも通りの余裕のある態度で淡々と口を開く。

 

「まさか、君たちに心配される事になるとはな」

 

「茶化さないで下さい」

 

「そんなつもりは無いよ。ただ結構ハードな内容だよ、心の準備は出来てる?」

 

 流の表情は真剣を通り越し深刻と言え、瀧と三葉は改めて気を引き締めながら肯く。

 

「じゃあ、順を追って話そう。

 まず昨日、ご神体近くの窪地のデータと来週近づいて来る彗星のデータを照合してナーマズの足がかりになるデータの洗い出しをしていたんだ。だが、その中で気になる数値が目に入ってね、突き詰めて検証してみたんだ」

 

 三葉は流の昨晩の異様な様子が浮かび息を呑み、瀧は黙って続きを待つ。

 

「前にも言ったが糸守湖は昔、ティアマト彗星と同質の隕石が落ちて出来上がった物だ。その影響は殆ど沈静化しているが皆無じゃない。君たちの身に起こってしまった要因の一つでもある。そして、それは彗星にも別の形で及ぶ可能性が出てきたんだ」

 

「彗星にも?」

 

「どういう事?」

 

 瀧と三葉は話しが呑み込めず怪訝な顔になる。

 

「糸守に残っているナーマズの不安定化の影響と彗星が放つ波動は限りなく近く、糸守から彗星を視認できる距離になると共鳴現象を引き起こす」

 

「するとどうなるんですか?」

 

「彗星の軌道が変わり一部が分裂、53.8%の確率で糸守に隕石の破片が落下する。その際の被害は間違いなく町が壊滅するだろう」

 

「町が無くなる!」

 

「53.8って豪く半端な確率で・・・」

 

 三葉の顔は驚愕に変わり、瀧は呑み込みきれないのか間抜けな声で声を出す。

 

「起動が僅か0.1度、分裂が0.1秒ずれただけで全く違うところに隕石は落ちる。予想できる範囲は日本の何処かだと思うが、正直分からない」

 

「でも隕石が落ちるのは100%なんでしょ?」

 

「それは断言できる。ついさっきまで計算しまくってたからな」

 

 流は見慣れない式が書き込まれた資料を手に取り、その姿に瀧は興奮して叫ぶ。

 

「それが分かってるのに、どうしてこんな所でのんびり話しなんかしてるんですか!!」

 

「早くみんなに伝えないと・・・・」

 

 瀧の怒鳴り声に三葉が慌てながらも同調する。

 

「糸守に落ちるか、46.2%の確率で何処に落ちるかどうかも分からない隕石に備えろと?それでなくてもこんな話し誰も信じてくれないよ。これはナーマズを研究していた俺だから突き止められたんだから」

 

 流の普通のことしか言わない姿に瀧は掴みかかる。

 

「だったら、前に言ってた然るべき機関ってのに認知させて――――――」

 

「あと一週間で?」

 

「ま・・町が・・・みんなが・・・・・」

 

 流の冷徹で容赦ない言葉に三葉は追い詰められていき、瀧は流から手を放して三葉の肩に手を置き呼びかける。

 

「しっかりしろ、三葉」

 

「そうだ。現実逃避したって何も変わらんぞ」

 

「あんたが言うな!!」

 

 睨み付ける瀧の目と唖然としている三葉の姿を見て、流は完全に我を取り戻す。

 

「君たちね、俺を誰だと思ってるんだ?対策が何も無いまま益体の無い事言う野次馬じゃないぞ」

 

 自分達の知っている余裕のある流の姿に二人も落ち着きを取り戻していく。

 

「え、それじゃあ・・・」

 

「何とか出来るの?」

 

 二人にストラップの鉱石をかざして口を開く。

 

「確実とは言えないけどな。さっきも言ったが隕石の正確な落下地点が分からない以上は非難計画なんて建てようがないし、まともな手段で対応する事は不可能だ」

 

 否定的な言葉なれども諦めの色は無く、妙な期待感がこもる。

 

「だからまともじゃない方法を取る。その手段としてこの鉱石をフルに使い、分裂した隕石に向かい更なる共鳴を起こし、無害になる大きさまで粉々に砕く。これが検証と同時に考えていた俺のプランだ」

 

「出来るんですか?!」

 

「それじゃ、みんな助かるん?」

 

 瀧と三葉は身を乗り出してくるが、返ってきた言葉は辛辣だった。

 

「神のみぞ知るだな。あくまで一つの案であって成功する確率は未知数、失敗したらどうなるか・・・・・・考えただけでゾッとする。そしてこればかりは責任なんて取れないし、取り様も無い」

 

「そんな・・・」

 

「・・・・けど、他に方法ないですよね?」

 

 再び唖然とする三葉の手を握り瀧が訊ねる。

 

「少なくとも俺にはな、寧ろもっと確実な方法があるなら教えて欲しいくらいだ」

 

「なんだか初めて若茶さんが人間だと思えました」

 

「・・・・・・俺にどう言う印象を持っていたか知らんが、そう言うのは最後まで口にしないで欲しいな」

 

 若干ウンザリするような仕草により、人間だと言う印象が確かになり心を決める。

 

「若茶さん、俺にも何か出来る事ありませんか?」

 

「瀧く・・ん・・・」

 

 三葉は唖然とした表情のまま瀧を見る。

 

「正直、俺もこの一ヶ月の事がなきゃ信じられない話しです。でも・・・だからこそ若茶さんが一人で抱え込まなきゃいけない事も無いと思うんです。俺だって分かってて何もしないなんて・・・ジッとしてるなんて出来ません!だから」

 

 

「熱く語ってるところ水刺すけど、俺は抱え込む気なんてないよ・・・・協力は当てにしてる、勿論命に関わらない事をね」

 

「で、でも町が・・無くなるかも知れないのに・・・・」

 

 不安がる三葉を制して努めて落ち着いて話す。

 

「不安で焦る気持ちは解るが、そもそもに置いて命懸けでやらなきゃいけないことが無いんだよ。その状況になるのは糸守から彗星を視認した時からだ」

 

 流は日本地図を出し飛騨付近に大雑把な円を描く。

 

「糸守以外の隕石の落下予測範囲だ。二人にはこの範囲の指定したポイントに赴いて、ナーマズの共鳴波を中継器送信できる場所のデータを割り出す手伝いをして貰いたい」

 

「分かりました」

 

「私も、じゃあ今直ぐに行きましょう」

 

 揃って立ち上がり玄関に向おうとするも服を掴んで引き止める。

 

「だから焦るなって、現場に行くまでの路線やかかる費用、その間の二人周りでのアリバイ作りと準備をちゃんと整えてからじゃないと」

 

「何を悠長な!俺たちの事なんて後で考えれば」

 

「そうだよ!若茶さんだって時間は有限と言うとったやん」

 

「言ったよ。だからこそ必要な事に時間を割かないと、じゃないと足元を掬われて取り返しのつかない事態になりかねん」

 

 流の正論に押し黙り再び座りなおす。

 

「俺はこれから新幹線で糸守に戻る。今のままじゃ事故を起こしそうな気がするからな、移動中は寝てるから乗り換えのときなんかは、手荒でもいいから起こしてくれ」

 

「あ、はい」

 

 三葉が肯き、地図に目を落とす。

 

(行きは東海、帰りは北陸に乗って色んな景色をってのは、また今度かな)

 

 不謹慎かなと思いながらも考える余裕が出来て、落ち着こうとしながらも急ぎながら荷物をまとめる流の手伝いに回った。

 

「いいか、繰り返し言うが準備が整うまで浅はかな行動は慎むように。今夜は無理やりにでも寝て備えろ、と言いたいがどうしても駄目なら、指定した場所に最短でいけるルートを調べてイメージしろ、考えるなら振り返るなら前向きになって欲しい方向にイメージしろ、いいな」

 

 支度を整えて宣言する流は一見いつも通りの様だが、落ち着きを取り戻した瀧と三葉には無理しているのを察し、ついさっきまでの余裕も僅かしか続かなかった事実に改めて事の重大さを認識した。

 

 

 




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