最初に言いましたが私には科学的知識は皆無です・・・
流は目を閉じてゆったりと思い出すように口を開く。
「あれは俺が中学の時、父が他界してな・・・その葬儀にある男(?)が訪ねてきたのが発端だ。
名前は知らない、ソイツは名乗りもせず記帳にも何も書かずに、父のファンだと言って
俺にコイツを渡した」
流は携帯に付いていたスティック形のストラップとUSBメモリを取り出し、ストラップに嵌っていた小さな鉱石を指で触ると緑の鮮やかな光が灯り幻想的な空間が出来た。
「これって、あの時の光?」
『もしかして・・・その石の所為であんな事に?』
「話しが早くて助かる。この光は現代では解明できない未知の電気物質で、この石はそれに反応して必要に応じて制御できる代物なんだ」
流は指を離すと光が消え、静寂な空気が場を支配した。
「・・・・なんか・・すごく胸がドキドキしたのが・・・えーと・・・・・」
『・・・ああ、俺も同じような気分だ・・・』
三葉と瀧の反応に笑みを浮かべながら、流は説明を続ける。
「この電気物質とは生物の〝魂〟と呼べる物を構成する物で『ナーマズ』と命名されていた」
「
『人間の霊魂はプラズマだとか、なんかとか言うような・・・SFか何かの話?』
素っ頓狂な反応に肯きながら自らの思いを言う。
「あ~、分かるぞ。俺も最初に読んだときには同じ様な反応したからな。
確かに人間の魂を科学的に解釈する仮説は色々あるが、これはそれを実証したものだ」
『読んだ?』
「そう、これに全部書いてあった・・・と言うか、コイツは取扱説明書と言った方が分かり易いかな」
流はメモリを見せるように手に取り、三葉と瀧は凝視する。
「この中には、この
「あ、もしかして昨日の騒動の時にもそれを使って?」
三葉の感想に肯きながら答える。
「俺みたいな若造のハッタリなんかで、あんなにスンナリ上手く訳がないだろう。アレはナーマズを刺激して気持ちを高ぶらせて、無意識を追い詰めた状態にしたの」
『魔法使いみたいだな』
「気持ちは分かるが、これは歴とした科学の類だよ。まぁ、俺が出来るのは精々、書いてある事の裏付けぐらいで、それでもかなりの時間と労力を割いたけど・・・・」
『それでも世紀の大発見じゃん。なんで発表とかしないの?』
瀧の指摘に三葉も同意見だと言わん視線を向けてくる。
「何処の誰かも分からない奴から貰った技術で魂が解明できましたって・・・まず取り合ってくれないよ。仮に然るべき機関に認知させたとしても、これは俺にしか使えない・・俺自身にもコイツにも面倒な制限が掛けられるのは好ましくない」
スティックをかざす流の言い分に尤もだと肯く二人に更に続ける。
「それに使おうが使うまいが、コイツはあと三年で機能を失う。だから、ごく自然な形での発見と糸口を用意して研究対象にしようと計画を建てた」
「それってどんな?」
『・・・・・・』
興味津々と乗り出してくる三葉に、何となく話しが見えてきて沈黙する瀧、そんな二人に『ティアマト彗星』の記事を見せる。
「この彗星が放つ波動は、この
だから昨日、より詳細なデータが取れるように俺自身のナーマズを彗星に飛ばす・・俗に言う幽体離脱の実験をしようとしたが失敗し・・・・・」
『上の階に居た俺と・・・・・』
「私の意識が入れ替わる事態になってしまったと・・・・」
殆どSFの世界の話だが、昨日自分達に起きた事実に認めるしかなく、されど納得しきれない目で流を見る。
「改めて、すまなかった。俺の都合で巻き込んでしまって」
『・・・・俺は分かったけど、なんで三葉は?』
「それに糸守の事も知ってたみたいなのは?」
誠意を込めて謝る姿に二人は何も言う気が起こらず、まだ解せない疑問を口にする。
「ああ、この町ある湖『糸守湖』は隕石が落ちて出来たもので、その近くに神社を構える宮水家のこと少し調べていたんだ。その隕石の影響をもろに受けて生きているなら、何かしら起こってるんじゃないかと思ってな」
「じゃ、糸守湖の隕石も・・・」
「ああ、ティアマト彗星と同様の物、だから君たちの家系にはナーマズが不安定になっているみたいだな。君のお祖母さんとの話してみて確信が持てた」
「え、お祖母ちゃんの!」
「ひょっとしたら、お母さんや妹さんにも起こっていたかもしれないな・・・君ほど確り憶えてはいないと思うが」
『それがさっき言ってた例外ってヤツね』
事情を把握し理解が追いついてきた三葉と瀧に流は座りなおして話を続ける。
「俺はこれから糸守湖の近くのナーマズを不安定化させる事象について調査し、彗星による影響を観測できる準備を整える予定だ。それは宮水の家系に起きる不思議現象の終止符に繋がるからな・・・傍で見てたら面白いが当人達にとっては大事だろうし・・・・」
つい昨日、実体験したばかりの二人は大きく肯き、そんな二人に提案を持ちかける。
「でさ・・・乗りかかった船って言うのはおこがましいが・・・・二人にも協力を頼みたいんだ」
『協力って?』
「・・・・危ない目に遭ったりはするのは・・」
「セーフティがあるから命の危険は無い。もし何かあったとしても、ちゃんと責任は取るし謝礼も用意してる」
流は荷物から小さな封筒を取り出し、二人は乗り気ではなかった二人の心に一石を投じる。
『・・・・・まぁ、バイトがもう一つ増えたと思えば』
「瀧くん・・・現金だとは言わないけど、もう少し悩んだ方が」
『なんだよ。三葉は要らねぇのか?それに若茶さん、へんじ・・・変わってるとは思うけど悪い人じゃ――――』
「今、変人って言おうとしたでしょ。まぁ、取りあえず内容次第かな」
些か無礼が混じった遣り取りも気にせず、流は説明する。
「それじゃ、実は二人のナーマズの不安定化は、まだこの一、二ヶ月続くと思うんだ・・・・大体、週に二、三度ほどの割合で・・・・」
『・・・・その謝礼って、実は迷惑料って言ったりしますか?』
「・・・・また、あんな事に?」
刺す様な視線を浴びせてくる二人に悪びれる様子もなく続ける。
「それでだ、その際にナーマズの状態をデータに取らせて貰いたいんだ。具体的には渡したタブレットを起動させて持っているだけでいいから・・・勿論、その際のフォローも可能な限りする。ナーマズをより自然に公にするには詳細なデータはあるに越した事は無いんだ。俺個人の都合・・・いや我侭なのは充分に承知している、その上で頼む」
媚びずにあくまで腹を見せる態度で頭を下げる流に、圧倒され気味になり沈黙が訪れる。
『(まぁ、話を聞く限り受けても受けなくても、またなるみたいだし・・・・それなら)』
(思う所はあるけど、また東京に・・・・)
昨日を振り返り、冗談じゃないと言う思いと若さゆえの好奇心がせめぎあっており、実感できる利益を提示され二人の迷いは傾きつつある。
『う~ん、正直・・俺、若茶さんのこと其処まで知らないし簡単に信じるって言えないけど・・・・・俺みたいな高校生や家を嵌める利点なんか思いつかないし、まぁ、どちらかと言えば知らないところで失敗やらかす女子高生がネックで』
「ちょっと、それはこっちの台詞!知らない間に何されるか」
『じゃあ、今から言うルール守れるか?俺の生活を守る為の』
「そっちこそ、私のプライバシーを侵害するような事しないって、誓える?」
そのまま、流の存在をそっちのけで
(なんだろう・・・どちらも真面目に守る姿が想像できない。つーか、浅はかな思慮で上手くいかないというか・・・ややこしくなる予感しかしないな)
「若茶さん、取りあえず試験期間ってことで手を打ちます」
『ホントにフォローお願いしますよ』
若者の青春とは言えない遣り取りの末に了承を得て、苦笑しながらも誠意を持って答える。
「勿論だ。何度かは東京に帰るし、問題が起きたら投げ出さないで最善を尽くす」
そんな流を見て瀧と三葉は同じ感想を抱いた。
((キャラがブレないな・・・この男))
年上を気にして格好つけているのか、目的の為のポーズか、本心が分からない流に安心以上に警戒も必要だと自身に言い聞かせる。
その二人の表情から信用されてないのを悟りながら、それも当たり前だと言う思いで心の中で肯く。
(ちゃんと教育が行き届いているようで結構なことだ。後は、それがどの程度だということだな・・・)
感心しながらも先々に起こりそうな面倒を想像して、その日はお開きになった。
***
そして、流の説明どおり週に二、三度の割合で入れ代わりが起き、その度に周囲の反応に困惑しながらも暇が出来たら画面越しで喧嘩し、その後で〝諸悪の根源〟に愚痴を入れる。
やれ三葉からは、
バスケで活躍などキャラじゃない、男子の視線とくにスカート注意は基本、知らない女子からラブレターを貰った。
入れ替わりの際にはバイトばかりで遊びに行けない。奥寺先輩といい感じになっているのに文句を言われるだの・・・・・
一方瀧からは、
ケーキのドカ喰い等で無駄使いが絶えない。学校では司とベタベタする所為で誤解がされそう。迷ったり口調が訛ったりした事で変な心配され、バイトでも人間関係に茶々入れられた。
流が東京に帰っている時に入れ替わってしまい、婆ちゃんとの組紐作りに四苦八苦した。スペックの活かしているのに文句を言われるだの・・・・・
その度に三葉には豊穣祭の巫女服や舞はとても美しく素敵だったなど、なるべく羞恥心(口噛み酒)に触れないで褒め称えて、嗜みも大事だが卑屈にならないようにと相手を建てながらの口調で不満を緩和させ、喧嘩っ早い瀧の気性を引き合いに出しながら、それが間違った方向に行かないよう一緒にフォローしていこうと気さくに話し合う。
瀧の方には三葉が無駄遣いした分は立て替え、東京に帰っている間の事は自分の落ち度であると詫びて、プライドを刺激しないようにしながら、時には奥寺も交えて話をして周囲(正確には瀧の内心)へのフォローに努めながら、三葉の都会特に東京への憧れを語り、はしゃぐ心に更に大きな心で持って当たろうと背を叩きながら笑いあう。
そして流自身の内心は、(出来れば当たって欲しくなかった)予想通りの展開に〝どっちもどっちだ〟と辟易しながら話をして、それが終わって相手に対して『しょうがないなぁ』と言う瀧と三葉に半ば呆れながら〝俺はもう知らんと言いたい〟と見えない所で溜息をついていた。
・・・ので『ナーマズ』とかも適当に考えた造語です。